今日は田舎の片隅にある古い小さな聖堂で歌っているミニョ。
ソウルにある明洞聖堂とは違い観光客が訪れることなどない聖堂では、神に祈りを捧げる人々が静かにミニョの歌声に耳を傾けていた。
明洞聖堂では外の広場で歌うことが多いミニョも、地方の小さな聖堂では室内で歌うことが多かった。
いつものように胸元の星を握りしめ呼吸を整え優しく歌い出すと、柔らかく温かで艶のある声が聖堂内に響き渡った。
歌い終わったミニョは着替えを済ませると裏口に停まっていた青い車に乗り込んだ。
「お仕事大丈夫なんですか?」
「ああ、明日の朝は早いけどな。」
テギョンはハンドルを握ると車を走らせた。
田畑の並ぶのどかな田園風景の中をその場に似つかわしくない青い車が走り抜ける。
「行きたい場所ってどこですか?」
「ちょっとな・・・ここからならそれ程遠くないから。」
周りの景色が田畑から木々が多く見られるようになってくる。
そのまま暫く走り続けると助手席の窓から外を眺めていたミニョがあることに気付いた。
「オッパ・・・ここは・・・」
「ソウルからだと時間がかかるが、あの聖堂からだと結構近いんだ。」
車が草の生い茂る坂道を上って行き、これ以上車での移動は困難だと思われる場所まで来ると静かに車を停め、ドアを開けた。
「さあ、着いたぞ。」
「オッパ・・・」
「今日は挨拶と報告に来たんだ。・・・行こう。」
テギョンは柔らかく微笑むとミニョへと手を差し出す。
自分へと向けられた大きな手にミニョはそっと手を重ねた。
テギョンはミニョの手をしっかりと包み込むように握ると二人で緑の草の生えた坂道をゆっくりと上って行った。
無言で歩き続けるテギョンの顔を少し後ろから見つめながらミニョも黙って歩き続ける。
目的の場所へ着くとミニョと二人で横に並んで立ち、テギョンは一度大きく深呼吸をするとミニョの手を握り直し、目の前の墓石に頭を下げた。
「ご挨拶が遅れて申し訳ありません。初めまして、ファン・テギョンといいます。既にご存じだとは思いますが、俺の母親は・・・モ・ファランです。」
ミニョの父、コ・ジェヒョンの墓の前でためらいがちに母親の名を口にしたテギョンの声は少し緊張しているように聞こえた。
「俺の母親のしたことを思うと、俺がこうしてミニョさんの隣にいることを不快に思われるかもしれません。いや、そう思われても仕方がないと思ってます。それに母親だけでなく、そのことで誤解した俺はミニョさんを深く傷つけてしまいました。自分のつまらない嫉妬から彼女の心を傷つけてしまったこともあります。」
アフリカから一時帰国したミニョ。ネルソンのことだけでも十分傷ついているのに、自分には内緒でカトリーヌと何かをしようとしていたことに腹を立て、更に深く傷つけてしまった・・・
あの日のことを思い出すと、テギョンは顔を歪め唇を噛んだ。
「でも・・・すみません、俺はミニョを手放せない・・・。俺にとってミニョは最早かけがえのない存在なんです。ミニョの隣にいるのは常に俺でありたい。楽しい時も辛い時も、どんな時でもミニョの横に他の男がいるのは許せない。ただの俺の我儘かも知れない・・・それでも、ミニョ、俺はこの手を放す気はないからな。」
墓石に向けられていたテギョンの言葉はいつしかミニョへと向けられていた。
テギョンは隣に立つミニョの手をしっかりと握りしめると自分を見上げる大きな黒い瞳を見つめ再び視線を戻した。
「今日はお嬢さんを俺に下さいとお願いに来た訳ではありません。ダメだと言われても、もう手放せませんから。秋には結婚しますとご報告にあがりました。ミニョは必ず俺が幸せにしてみせます。」
墓石に向かって真剣な表情で頭を下げるテギョン。
ミニョは繋いでいた手を軽く引っ張った。
「オッパ、それでは何だか今の私が幸せじゃないみたいです、私は今でも十分幸せなのに。それに今の言い方だと私だけが幸せになるみたいで嫌です。私はオッパにも幸せになって欲しいです。」
軽く頬を膨らませるミニョにテギョンは小さく頷いた。
「そうだな・・・だったら二人で一緒に、もっともっと幸せになろう。」
「はい、その方が絶対に楽しいし、嬉しいです。」
ミニョの笑顔にテギョンも笑顔になる。
「お父さん、安心して下さい。私は今とても幸せです。でもこれからオッパと一緒にもっともっと幸せになります。」
二人は互いに相手の顔を見つめると笑みを浮かべ、墓石に向かって頭を下げた。
「ああ、やっぱり彼女の父親と話をするというのは緊張するものだな。」
下りの坂道を手を繫いだまま歩いているテギョンはネクタイを緩めると大きく息を吐いた。
「もしかして行きに何もしゃべらなかったのは、緊張してたからですか?」
「・・・悪いか?」
意外な言葉にミニョはクスッと笑いを漏らした。
「それなのにお父さんに 『お願い』 じゃなくて 『報告』 に来ただなんて、ずいぶんと強気ですね。」
可笑しそうにクスクスと笑うミニョにテギョンは顔を逸らし口を尖らす。
「仕方ないだろう、本当のことだ。俺はミニョを手放すことができないんだから。」
放さないという言葉を態度で示すようにテギョンは繋いだ手をミニョに見せると口の端に笑みを浮かべた。
「そう言えばお墓の周り、草が刈ってあって綺麗になってましたけど・・・オッパですか?」
「いや、俺じゃない。本当は都合をつけて俺がやろうと思っていたんだが。今日ここに来ることをミジャおばさんに伝えたら、「心配はいらないからリーダーはリーダーの仕事をしなさい」と言われた。多分おばさんがやってくれたんだろう。」
以前ミニョがミナムとして墓参りに来た時に泊まった家に着くと、テギョンは車から大きな紙袋を取り出した。
「その荷物は何ですか?」
「ミジャおばさんの言う 『リーダーの仕事』 らしい。」
ミニョが紙袋の中身を覗くと中には大量のサイン色紙が・・・
「これ、ミジャおばさんに頼まれたんですか?・・・おばさん、しっかりしてますね。」
「いいや、ああいうのはちゃっかりしてると言うんだ。」
半ば感心しているようなミニョの声に、テギョンは口元を歪ませた。
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