事務所へ着き車を降りると、待ってましたとばかりに寄ってくる記者達。
スタッフが掻き分ける中、無表情で通りすぎるテギョン。口元に微かに笑みを浮かべるシヌ。ニコニコと手を振るジェルミ。キャンディーの棒を動かしながら冷めた表情のミナム。
四人は「通して下さい」と声を張り上げるマ室長と共に何とか事務所のロビーまで辿り着いた。
テギョンが帰ってくれば何らかのコメントをもらえると思っていた記者達は無言で通り過ぎて行ったメンバー達に不満を抱き、ドアの外で警備員に止められながらも手ぶらで帰る訳にはいかないと、何とか中の様子を窺おうとしていた。
アン社長の待つ部屋へメンバー四人が入り、マ室長が出て行こうとするとその背中をアン社長に呼び止められた。
「ストーップ、マ室長にも聞きたいことがあるんだが。」
アン社長に睨まれ、遠慮しますと言いかけた口を閉じたマ室長は苦笑いを浮かべ、ドアを静かに閉めた。
テーブルの上にはノートパソコンが一台。今までアン社長が見ていたのか開いたままの状態で置かれている。
テギョンは画面を一瞥しただけでよく見ようとせず、代わりにシヌが手を伸ばした。
「ドラマの打ち上げの後、合宿所には帰らなかったのか?」
椅子に深く腰掛け、アン社長はため息をつきながらテギョンを見た。
「正確には一度帰りましたが、すぐにまた出掛けました。」
テギョンはありのままを静かに答えた。
「そこで・・・ミンジさんと会ってたのか?」
「は?」
当然アン社長の口からはミニョの名前が出ると思っていたテギョンは思いもかけない名前に眉根を寄せた。
「テギョン、これだ。」
シヌは動画を大きく映し出した。
少し離れた場所から撮られていて会話の内容ははっきりとは聞き取れない。
二人の男性ともめた後なのだろう、画面に映っているのは三人。
ミニョは後ろ姿で顔は時々チラリと映っている程度だが、テギョンの顔ははっきりと判る。座って泣き出したミンジも映っていて、車で走り去るところまでが映っていた。
「空港で記者が三角関係とか言ってたけど・・・これのこと?まあ、確かにそう見えないこともないけど。」
ミナムが何やら考えるような顔をしてもう一度動画を初めから見た。
『もうお前のことは何とも思っていないんだ。』
『そんな・・・酷い、あんなに愛し合ってたのに。身体だけの関係でもいいの、離れたくない。』
『こんなとこで泣き出すな、人目があるだろう・・・。チッ、仕方ない、今夜は二人まとめて相手してやるから車に乗れ。』
「テギョンヒョンはそう言うと二人の女を車に乗せその場から逃げる様に走り去って行った・・・・・・って感じ?」
「ミナム~、変なアフレコするなよ、そういう風に見えちゃうだろ。」
「じゃあこんなのは?」
『うわっ、こんなとこで鉢合わせかよ、ついてないな。』
『どういうこと、その女誰よ、こんな夜遅くに一緒にいるなんて。』
『おいおい、泣くことないだろ。とにかく落ち着いて車の中で話をしよう。』
「テギョンヒョンはそう言うと二人の女を車に乗せその場から逃げる様に走り去って行った・・・・・・どう?」
「う~ん、そっちの方がしっくりくるかも。」
ミナムの横でパソコンを覗き込んでいるジェルミが、うんうんと頷く。
「お前達・・・」
テギョンに睨まれ小さく舌を出すミナムと、素早くシヌの後ろに隠れるジェルミ。
シヌはクスクスと笑っている。
「おいおいシヌ、笑いごとじゃないぞ、まさにそれが騒ぎのもとなんだから。」
アン社長は大きく息を吐いた。
「会話が聞こえない分、皆どういう状況なのか余計に気になるんだろう。それに加え、テギョンの傍にはもう一人女性がいる。」
「三角関係・・・」
あながち間違いではないと思うが・・・という言葉を飲み込みシヌは小さく笑うとテギョンを見た。
「今までプライベートでミンジさんと一緒にいるところを撮られたことなんてないだろう?」
「当たり前だ、仕事以外で会ったことなどないんだから。」
「ドラマの共演で噂になった時ですら、こんなスクープはなかったからな。」
アン社長はテーブルに置かれた冷めたコーヒーを一気に飲むとテギョンへと顔を向けた。
「で、これを見るとテギョンがミンジさんと夜プライベートで一緒にいたことは否定のしようがないんだが・・・。どういうことか説明してくれないか?」
アン社長の問いにテギョンはあの日のことを話した。
「じゃあ、打ち上げの後で偶然会っただけなんだな。それならそのまま押し通せばいい、マネージャーが男に絡まれているミンジさんを偶然見つけ、テギョンが助けたと。」
「それってミニョが余計なことに首突っ込まなきゃ、その偶然すらなかったってことだよね。まったく、ホントお騒がせなヤツだよな。」
「ミナム、ミニョは人助けをしたんだよ、そういう言い方はないだろ。」
ミナムの言葉にジェルミは顔をしかめる。
「でも今回のそのお騒がせ・・・もっと凄い騒ぎになるかもね・・・」
ミナムはテギョンの表情から何かを感じ取ったのかニヤリと笑うと、窓へ行きブラインドに指を引っ掛け外の様子を窺った。
テギョンは腕組みをし眉間にしわを寄せじっと目を瞑っていたが、ミナムの言葉にフッと口の片端を上げた。
「確かにアン社長の言う通りです。でも一つだけ違う・・・ミニョはマネージャーではない。」
「テギョン、それは・・・」
「ミニョとのことを公表します。」
テギョンは真っ直ぐにアン社長の目を見る。
「映っているのがミンジだけだったら 『偶然会った』 だけで済ませます、実際にそうなんだから。でもミニョも映っている・・・ミニョのことも聞かれるでしょう。マネージャーだと嘘をつくのは嫌だ、俺の恋人だと・・・公表します。」
誰も何も言わなかった。
シヌはテギョンの方を見て一瞬驚いた表情をしたが、すぐにほんの少し口元に笑みを浮かべ、ミナムの隣に立ち窓の外を眺めた。
記者の数は減っておらず、誰かが出てくるのをじっと外で待っている。
アン社長は背もたれにもたれ目を瞑ると目頭を摘むように押さえ、ふぅ~っと長い息を吐いた。
暫くそのまま部屋の中は沈黙が続き、アン社長が再び目を開けると自分の方をじっと見ているテギョンと目が合った。
「ファンは大騒ぎだぞ。」
「今でも十分騒いでます。」
「しつこい記者もいるぞ。」
「いつだっていますよ。」
「ドラマは好評だったし、時期を早めてもいいと言ったのは俺だったな。」
アン社長はテギョンを見ながら今度は短く息を吐いた。
「何かある度に痛くもない腹を探られるよりはいいか・・・」
呟きながら立ち上がると、アン社長はマ室長を呼んだ。
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