「今日は付き合ってくれてありがとう。」
地下駐車場へと向かうエレベーターの中で、隣に立つミニョを見下ろしながらハン・テギョンがニッコリと笑う。
「いえ、お礼をしなきゃいけないのは私の方なのに、結局ごちそうになっちゃって・・・すみません。」
「いやー、一度ああいう店で思いっ切りケーキとか食べてみたかったんだ。今日は付き合ってくれただけで十分だよ。それに年上の僕がミニョちゃんにおごらせる訳にはいかないからね。」
後ろを気にしているのか時々振り返るミニョの姿を見つめながら、ハン・テギョンは行きと同じ様にミニョに助手席のドアを開けてやると、何かを探すようにキョロキョロと辺りを見回してから自分も車へと乗り込んだ。
「そう言えば何だか店の中が騒がしかったけど、芸能人が来てたみたいだね。」
ケーキをお腹一杯食べたハン・テギョンは上機嫌で車を運転しながらドアミラーを気にしているミニョへ話しかける。
「え?」
「あれ?気付かなかった?僕の後ろの方の席みたいだったから僕の所からはよく見えなかったし、ケーキを取りに行く時にチラッと見ただけだったからよく判んなかったけど、ミニョちゃんの所からは見えたんじゃない?」
確かに見えた。
バッチリと。
テギョンの不機嫌そうな顔が・・・
「ああいう人達って大変だよね。どこに行っても騒がれるし、勝手に写真撮られてネットに流されたりするし、きっと恋人とかいても事務所から秘密にしろとか言われて自由にデートも出来ないんだろうね。」
「そ、そうですね・・・」
アン社長に言われたことがミニョの頭をよぎる。
よくある話をしているだけなのだろうが、まさに自分達のことを言われているような気がして、ミニョはそれ以上言葉が出なかった。
少し暗くなりかけた街の中を走る車は、彼の性格なのかミニョを乗せているせいなのかとても丁寧な運転で、発進、停止時に身体にかかるGも少なく、全体的にゆっくりと揺られる感覚に、ケーキでお腹の満たされたミニョはいつしかうとうとと瞼が重くなっていった。
「ミニョちゃん?」
シートにもたれ、窓の方へ首を傾げるように目を瞑っているミニョに、ハン・テギョンは小さな声で呼びかける。
何の反応もないミニョに優しい眼差しを向け、バックミラーに映る後方の車の存在を確認すると、口をキュッと結び前方の赤信号を見てゆっくりとブレーキを踏んだ。
「ミニョちゃん。」
もう一度先程よりも少しだけ大きな声で呼んでみるが依然として何の反応も示さないミニョに、バックミラーをチラチラと気にしつつそろりと手を伸ばす。
バッグの上に置かれたミニョの手におずおずと指先でそっと触れてみると、ミニョの反応を見ながら、大きく開いた自分の手で包み込んだ。
自分の手の中にすっぽりと収まってしまう柔らかい手。
信号が赤から青へと変わる僅かな時間。
手の平に伝わる温もりに、どうかまだ彼女の目が覚めませんようにと祈りつつ、少しだけ手に力を入れてギュッと握った。
カーオーディオから流れるピアノの音。
二人きりの空間。
車内が妙に暑く感じられ、喉の渇きと速くなる鼓動に思いの外緊張している自分に気付くと、ハン・テギョンはゆっくりと大きく息を吸った。
ガクンという振動で目を覚ましたミニョは一瞬自分がどこにいるか判らずに、キョロキョロと辺りを見回した。
「ごめん、起こしちゃったね。」
ハンドルを握るハン・テギョンの姿。
「あ、ごめんなさい、私、寝ちゃってました?」
いつの間にか眠ってしまった自分が恥ずかしくて俯くミニョに、ハン・テギョンは優しく微笑んだ。
駐車場を出た時はまだ少し明るかった景色がすっかり闇に包まれている。
とっくにマンションに着いてもいい頃なのにまだ着きそうにない。
「お兄さんとは仲直りした?」
なかなかマンションへ着かないなとミニョが窓の外を気にしだした頃、ハン・テギョンはバックミラーに目を遣りながらミニョへと聞いた。
「え?」
お兄さんという言葉にミニョの身体がピクリと反応する。
「あの雨に濡れてた日、お兄さんの電話から出なかっただろ?喧嘩してたんじゃないのかと思って。」
「いえ、あの・・・」
お兄さん・・・
今日の目的の一つはハン・テギョンの誤解を解くこと。テギョンをミニョの兄だと思い込んでいるハン・テギョンに、二人の正しい関係をハッキリと伝える。
「あ、そうだごめんね、この間ミニョちゃんの携帯に出ちゃったよ。電話に出ないから心配して何度もかけてきたんじゃない?お兄さん。」
「あ、えーと・・・」
お兄さん・・・
「ずいぶん心配性なんだね、ミニョちゃんのお兄さん。」
「・・・・・・」
お兄さん・・・
ミニョが助手席のドアミラーで後ろを覗くとテギョンの車が見える。
店の中でテギョンが行動を起こし騒ぎになることはなかったが、一体どこで話をするつもりなのか知らないミニョは、今、自分が話した方がいいのではないかと考え始めた。
今までのパターンだと一方的にハン・テギョンが会話を終わらせていた為、ちゃんと誤解を解くことができなかったが、今なら途中で会話を終わらせられることもない。
「あ、あの、テギョンさん・・・違うんです・・・」
テギョンには二人きりの時には話すなと言われていたが、テギョンのことを何度もお兄さんと呼ばれ黙っているのが辛くなったミニョは、俯きながらためらいがちに口を開いた。
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遅くなってしまってごめんなさい。
久しぶりの本編です。
昨日は結婚記念日でした。(何にもしなかったけど)
ん~・・・19回目!
いつの間に・・・
そしてその丁度2週間後には誕生日。(何にもしないだろうけど)
ん~・・・・・・・・・何回目?
誕生日は憶えてるのに、歳は忘れてしまう。
なぜだろう・・・
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