ミニョの後ろ姿を目で追いながらテギョンは首を傾げベッドの端に腰を下ろす。
カトリーヌはテギョンの話に良い返事をくれるだろうか?
ミニョと二人で住むつもりで用意しておいたマンションの部屋。自分が合宿所を出ることができない今は、ミニョが一人で住むことになってしまう。
アフリカでミニョが倒れたとカトリーヌが言っていたことを思い出した。そして自分の子供の頃のことを・・・
母親と呼べる人は家にはおらず、父親も海外にいることが多い。小さなテギョンの身の回りの世話してくれる人はいたが、それは昼間だけのこと、夜はいつも一人だった。
夜中に具合が悪くなっても手を差し伸べてくれる人はいない。小さなテギョンは時計を見ながら、ただひたすら早く朝が来ることを祈ることしかできなかった。
病気になった時に一人でいるのは辛い・・・
テギョンが子供の頃に経験したことがふと頭をよぎったのか、ミニョが一人で住むと思ったら不安になった。
小さな子供ではないし、具合が悪ければ自分で病院に行けばいい、電話だってできる。そうは思ってもミナムのフリをしていた時、高い熱を出してもじっと耐えていたミニョを思い出すと一人にするのが不安だった。
そしてミニョ一人で・・・という点で心配していたテギョンの目の前に好都合な人物が現れた。カトリーヌ・・・彼女ならテギョンも信頼しているし、ミニョとも仲が良い。そして半年という期限。
その半年の間にテギョンは今まで断っていたような仕事を引き受けてでも、社長を説得するつもりでいた。そして半年後には自分がミニョと二人で・・・
もちろん今の段階でテギョンの考えにミニョが反対することなど全く頭にない。
ミニョと話をする前にカトリーヌにマンションのことを持ち出してしまったことはマズかったかもしれないが、目の前の彼女を見て咄嗟にこれが最善なのではと思ってしまった。
そろそろテギョンも合宿所以外での仕事を再開する。メンバー全員揃っての仕事ばかりではない。当然テギョンがいない間にシヌやジェルミが合宿所でミニョと二人きりになることもあるだろう。出来るだけそれは避けたい。その思いがテギョンに焦りを感じさせていた。
たとえミニョが仕事をしたとしても、マンションに住んでいれば仕事が休みの時や夜なら会うことができるだろう。
たとえ一緒のベッドで眠れなくても、思うように連絡の取れなかったアフリカにいた時のことを思えば、いつでも連絡の取れる、いつでも会える距離にいると思うだけで安心できる。何よりシヌもジェルミもいない・・・
半年・・・
半年後には一緒に住む・・・
ふとテギョンの頭に結婚という二文字が浮かぶ。今までの自分の人生の中で全く縁のなかった言葉。
一緒に住むということはいずれは結婚するということだろうか?結婚するから一緒に住むのだろうか?
「そもそも俺にとって結婚って何だ?」
カトリーヌにミニョと一緒にマンションに住んでもらうという話が、何故か自分の結婚のことに考えが及んでしまっていることに気づかないまま、テギョンは腕組みをして首を捻っていた。
「オッパ?」
ベッドの端に座り腕を組んで考え込んでいるテギョンの顔をミニョが下から覗き込む。
「うわぁっ!」
「きゃぁっ!」
結婚とは?というおよそ今まで自分の頭の中に全くなかったことについて考えていたテギョンは、急に目の前に現れたミニョの顔に驚き大声を上げた。その声にミニョも驚く。
さっきとはまるっきり逆の立場になった二人が同じことをしているということが何だかおかしくて、どちらからともなくクスクスと笑いが込み上げてきた。
「遅かったじゃないか。」
「はい、下に行ったらシヌさんがお茶を淹れて下さったんで、一緒に飲んでました。」
ミニョの答えにテギョンの口が尖り出す。
やっぱりシヌは油断できない・・・
沖縄の教会でシヌがミニョを抱きしめていた時のことを思い出す。あの時のシヌの顔・・・
ミニョを自分の腕の中に収め、じっとテギョンを見ていた。
今のシヌがミニョのことをどう思っているのかは判らない。だがシヌのミニョに対する行動を見ているとテギョンは不安になる。
これから自分は休んでいた分、今まで以上に忙しくなるだろう。他のメンバーよりも確実に仕事の量は多い筈だ。シヌやジェルミがミニョと二人きりになることを懸念していたが、よく考えたら自分がミニョと二人きりになる時間が果たしてあるのだろうか。
寂しがるミニョをシヌとジェルミが慰めるという形でミニョに接触するだろうということは容易に想像できた。
やはりなるべく早くミニョを合宿所から出すべきだ・・・
「オッパ?」
急に口を尖らせたまま黙り込んでしまったテギョンにミニョは首を傾げるとテギョンの隣にちょこんと腰を下ろした。
「オッパ・・・お話があるんですけど。」
「ああ・・・俺も話がある。」
二人は互いの顔をじっと見た。
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