「どうしてあいつは一人で決めようとするんだ・・・チッ!」
すっかり怪我の治った足でドスドスと階段を上がりながら舌打ちをする。
「俺には何の相談もなしか?事後報告だけすればいいと思っているのか?相談してくれれば何も頭っから反対などしないものを・・・。俺はミニョにとって一体何なんだ?」
テギョンは自分の部屋へ戻るとドカッと椅子に座り、ソファーの上にちょこんと座るテジトッキを睨みつけた。
最初のアフリカ行きのことはテギョンと離れていた時のことだったので仕方ないと思った。
でも次は?
ボランティアの延長のことは手紙を遣り取りしていたにも拘らず、一言の相談もなくいきなり決められていた。
クラシックのこともそうだ。いくらA.N.JELLの為とはいえ、テギョンに何も言わずに進められていたことが今でも心に引っかかる。
そして今日のこと。
テギョン自身このままここにミニョを置いておくつもりはなかった。自分と一緒でなくてもミニョはここにはいない方がいいと思っていた。それはシヌやジェルミと一緒に生活するということへの懸念があるから。
特にシヌ・・・
ミニョが帰って来た次の朝、ジェルミはハグをしなかったが、シヌは今までも度々やっていたようにミニョの頭を撫でていた。あれがテギョンには気に入らない。ミニョの頭を撫でるシヌもだが、そうされて恥ずかしそうに笑うミニョも癇に障る。
そしてミニョ自身の体面のこと。
恋人のテギョンと兄のミナムはいいとして、全くの他人のシヌとジェルミが一緒に一つ屋根の下で暮らしているということ。男四人と同居していることが世間に知れれば、ある事ない事面白おかしく記事に書かれても不思議ではない。自分のことは何を書かれてもいいが、ミニョのことを悪く書かれるかもしれない。いや、その可能性の方が高いだろう。それがテギョンには耐えられない。
しかし合宿所を出て暮らすにしても、聖堂で生活するようになってしまっては思うように会えなくなるだろう。
ミニョに仕事をさせるつもりはなかったが、どうしてもというなら聖堂でシスター達の手伝いをするくらいならいいかとも思う。あとは住む場所・・・
テギョンの準備したマンションはセキュリティーもしっかりしており、女性の一人暮らしでも問題ないと思うのだが、やっぱりミニョ一人でとなるとテギョンの不安は尽きない。
どうしたらいいか・・・
テギョンは机の上の五線紙を一枚裏返し、尖った鉛筆を持つと表を書き始めた。
「合宿所を出るのは・・・○?聖堂で暮らすのは・・・×だ。あとは・・・」
テギョンはテジトッキを睨みつけ腕を組んで考えていた。
「どうしよう・・・怒っちゃったのかな・・・」
ピアノの椅子に座ったまま、ミニョはテギョンが姿を消した階段の方を見つめ、蓋をしたピアノの上にうつ伏せると大きなため息をついた。
ミニョだってテギョンに黙ったまま話を進めようと思った訳ではない。ただ何となく話し辛くて母親のような存在の院長様に相談してしまった。相談というよりただ自分の思っていることを聞いてもらいたかっただけなのだが、これからの生活のことを考えると、明洞聖堂でという院長様の話はとても有難いと思う。
それに生活費の問題もある。
ボランティアの費用でミニョの貯金はかなり減っていた。何か仕事をするにしても合宿所を出てどこか部屋を借りるとなると、それなりにお金がかかる。その点、聖堂の施設で子供達の世話をしながら生活すれば住む所は確保できる。そのことはとても魅力的に思えた。
ミナムは金なら出してやると言っていた。しかしすんなり「ありがとう」と援助してもらうつもりはない。
どうしようと考えているうちにテギョンに知られてしまった。
元々ミニョが合宿所を出ようと思ったのは、ミナムのフリをする必要が無くなった自分がいつまでも合宿所にいるのはおかしい、今のこの状態の生活がマスコミに知られたら皆に迷惑をかけるだろうという思いからだった。
それにシヌとジェルミのことも・・・
ミニョは二人が自分に好意を寄せていたことは知っている。今はどうなのだろうか?
もし今でも以前のような思いがあるのだとしたら、自分は随分ひどいことをしているんじゃないかと思う。
まだミニョがミナムのフリをしていた時、ミニョはテギョンとヘイのキスシーンを見て凄くショックを受けた。二人が一緒にいるところを見ただけで辛かった。二人は恋人同士だと思うと胸が苦しくて・・・。結局恋人のフリをしていただけだったが、本当のことが判るまではミニョはとても苦しんだ。
今の自分はその思いをシヌやジェルミにもさせているのではないかと思うと、自分がとてもひどい人間のように思える。
自分の好きな人が他の相手と仲良くしているのを見るのは辛い・・・。自分がテギョンを好きになって初めて気づいた想い。
合宿所で生活していれば毎日顔を合わせることになる。シヌとジェルミの今の気持ちが判らないミニョにとって、合宿所を出て行くのが一番いいと思えた。いつも優しい二人にいつまでも甘えている訳にはいかない。
「私だって色々考えてるのにな・・・もうちょっと落ち着いて話を聞いてくれてもいいのに・・・」
ミニョはピアノに伏せたままもう一度大きなため息をついた。
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