テギョンがシャワールームから出てくると、ミニョはバスローブのままでテジトッキを抱え椅子に座って俯いていた。
「ミニョ、まだ着替えてなかったのか。髪も濡れたままじゃないか、風邪ひくぞ。」
テギョンはドライヤーを持ってきて椅子に座ったままのミニョの髪に温風を当てる。
「もしかして寝てたのか?あのカクテルで酔うんだとすると、やっぱり今後飲むのは俺と二人きりの時にしないとな。」
ため息をつきながらも口に笑みを浮かべ、楽しそうにミニョの髪を乾かした。
「ほら着替えてこい。その恰好じゃ・・・寝れないだろう。」
ミニョはバスローブを着たまま。少し開いた胸元にテギョンはドキリとした。
「テギョンさん・・・私ってダメですね。」
テジトッキを抱いたままミニョがポツリと呟く。
「今まで周りの人たちに助けられてばかりだったから、少しでも誰かの役に立ちたいなんて思ってアフリカへ行って・・・結局また皆さんに助けてもらって。」
腕の中のテジトッキをギュッと抱きしめた。
「カトリーヌさんに助けてもらって、シヌさんやジェルミお兄ちゃんにも助けてもらって、テギョンさんにもいっぱい迷惑かけて・・・」
「・・・でも、ネルソンにとってはミニョの存在は何よりの救いだったと思うぞ。迷惑かけて助けてもらっても、周りにいる人達を幸せにしてるじゃないか。それに俺は迷惑だなんて思っていない。他人の髪を乾かすなんて初めてのことだが、相手がお前なら楽しいし、お前を抱き上げるのは俺の特権だと思っている。お前が嫌だと言っても他の奴に譲る気はないぞ。」
ニヤリと笑うテギョンにミニョはクスッと笑うと軽くため息をついた。
「テギョンさんの言葉は凄いですね、私に元気をくれます。・・・私も・・・」
ミニョはすうっと息を吸い立ち上がると、じっとテギョンの顔を見た。
「私ずっと前からテギョンさんに伝えたい・・・というか言いたいことがあって・・・大したことじゃないんですけど、何故か私にとっては凄く大したことみたいで・・・なかなか言えなくて・・・結局今日まで来てしまいました。」
テギョンの顔を見ながらも、目はキョロキョロと泳いでいるミニョ。
ミニョが何を言いたいのか全く判らないテギョンは首を傾げる。
ミニョは大きく息を吸うと意を決したように口を開いた。
「オッパ・・・」
頬を赤く染めたミニョに見つめられそう呼ばれたテギョンは、何故だか自分も顔が赤くなってしまったような気がしてコホンと一つ咳ばらいをした。
「私、初めてテギョンさんにミニョって名前を呼んでもらった時、凄く嬉しかったんです。テギョンさんはファンの女の子からいつもオッパって呼ばれてるから、今さら一人くらい増えても何ともないかもしれませんが、もしかしたら少しくらいは喜んでもらえるかなって。・・・変ですね、何故だか判らないんですが私には凄く大したことみたいで、なかなか呼べませんでした。」
顔を赤くし、俯きながら話すミニョを見てテギョンは軽くため息をついた。
「判ってないなお前は・・・何ともない訳ないじゃないか。百万人のファンに呼ばれるより、ミニョ一人にそう呼ばれた方が・・・俺は嬉しい。」
テギョンは照れたように横を向きながら口元に拳をあてている。
「クスッ、やっぱり言葉って大切ですね。たった一言でドキドキして嬉しくなって・・・きゃっ」
突然テギョンがミニョを抱き上げた。
「ミニョ、俺は嬉しい・・・が、実は今の俺は少し機嫌が悪い・・・判るか?」
ミニョはいつもと違う角度で見上げるテギョンの顔にドキドキしながら首を振る。
「どうしてまだバスローブなんだ、何故着替えていない?」
「え?あ、考え事してたんで、つい・・・」
「さっき屋上でシヌにしなだれかかったのを覚えてるか?」
「わ、私がですか?私そんなことしました?」
「・・・ミニョ、これからは酒を飲むのは俺の前だけにしろ。」
「また、俺の前だけ、ですか?」
テギョンはクスクス笑うミニョをそのままベッドまで運んで行き少し乱暴に降ろすと、自分の身体を被せるようにし、ミニョの顔を上から見下ろす。
「テ、テギョンさん!?」
急にベッドに横にされ、テギョンを見上げるミニョの鼓動は痛いくらいに速くなる。
「違うだろ?」
「あ・・・オッパ・・・」
「・・・オッパと呼ぶ可愛いお前が悪い・・・シヌにしなだれかかって俺に焼きもちを妬かせたお前が悪い・・・いつまでもそんな恰好で俺を誘っているようにしか見えないお前が悪い・・・」
テギョンは小さく呟きながらそっとミニョに唇を重ねる。
明日になればまたアフリカへ行ってしまうミニョ。
少しでも長く一緒にいたい。少しでも多く触れていたい・・・
このまま朝が来なければいいのに・・・
触れるだけのキス・・・啄むように・・・深く・・・角度を変え徐々に激しく・・・
唇を離すと、ミニョの上気した顔と潤んだ瞳が見える。
「その目も・・・俺の前だけにしろよ・・・」
耳元で囁きそのまま唇を首筋へと這わせると少し強めにキスをする。
「んっ・・・」
ピクンと動くミニョの身体。首筋に残る一つの赤い痕・・・
ミニョの心に自分がいるなら、ミニョの身体にも自分の存在を残したい・・・
テギョンはミニョのバスローブの胸元を少しだけ開くと、そこにも強めにキスをする。
ミニョの胸に輝く星を満足気に見ながら、ミニョの身体にいくつものテギョンの存在を刻み付ける。
「ミニョ・・・」
目をギュッと瞑り、頬を赤く染め、身体を微かに震わせているミニョの名前を優しく呼ぶ。
うっすらと開いたミニョの瞳に映る優しいテギョンの顔。
「・・・オッパ・・・」
「・・・ミニョ・・・サランヘ・・・」
言葉で伝えることの大切さを知った二人。でも今は・・・今だけは、二人の間に言葉はいらない・・・
テギョンはミニョの唇へ優しく口づけるとそのまま首筋へ顔を埋めた・・・
○ ○ ○
空港のロビー。サングラスをかけたカトリーヌはミニョの姿を見つけると手を振った。
「あら、テギョン君は一緒じゃないの?」
「はい、駐車場まで送ってもらいました。」
「確かに彼がこんなところまで来たら大騒ぎになるでしょうね。・・・ミニョ、何か首元苦しそうだけど。」
いつもはもう少し首回りのゆったりとした服を着ているミニョが、襟付きシャツのボタンを一番上まできっちり留めて着ていた。
「別に苦しくはありませんが、襟付きの服でボタンを上まで留めて着るようにってテギョ・・・オッパに言われたんです。」
「オッパ?・・・ああ、テギョン君のことね。」
カトリーヌはフフンと笑いちょっとごめんねと言いながらミニョの服の一番上のボタンを外し襟を摘むとひょいと首元を覗いてみる。
「・・・・・・」
言葉の出ないカトリーヌ。
カトリーヌの行動にミニョが首を傾げているとカトリーヌの携帯が鳴った。
『虫除けの効果が切れたらミニョのこと後は頼みます。・・・別にカトリーヌさんに付けて下さいって言ってる訳じゃありませんよ。』
テギョンからのメール。
「・・・テギョン君・・・あたり前じゃない・・・」
カトリーヌは額を押さえるとため息をついた。
「オッパからですか?」
「虫に気をつけてくれって。」
「虫?・・・ああ、マラリアですね。ホント気をつけないといけませんね。」
真剣な顔で頷いているミニョを横目で見ながらカトリーヌはクスクス笑う。
「さあ、行きましょう。」
「はい。」
ニッコリ笑うとミニョは服の上から胸の星を握りしめ、カトリーヌと共に再びアフリカへ向かった。
* * * * * * *
ここまで読んで下さった皆様、ありがとうございました。・・・終わり・・・じゃありませんが、一旦ここで区切らせてもらいます。
詳しくは後ほど、なかがきで・・・・・・
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