【論点】組合脱退者等に対する規範的効力
協約締結組合を脱退・除名された者に労働協約の規範的効力は及ぶか。
この点,わが国は企業別組合が主流であり,かつ,複数組合主義がとられている。
そうすると,労働協約が共通の最低労働条件として定立されているとはいえない。
よって,協約締結組合を脱退・除名された時点から,協約の規範的効力は及ばないと考える。
【論点】組合による規範的部分の履行請求の可否
労働協約の規範的部分について,労働組合による履行請求が認められるか。
この点,労働協約の規範的部分は労働契約内容を直接規律するため,個々の労働者が履行請求すれば足るため,原則として組合には履行請求の訴えの利益が認められない。
しかし,個々の労働者による請求では規範的部分の実現が困難である場合には,例外的に組合による履行請求が認められると考える。
※組合による履行請求が認められる例
・職場環境の改善
・作業体制等の従業員の集団的取り扱い
【論点】一部解約『ソニー事件』(東高平6.10.24)『日本IBM事件』(東高平17.2.24)(え本32)(80 10-4)
1 まず,一方的な解約が認められるかが問題となる。
労働協約の法的性質は契約であるから,一方的な解約は許されないのが原則である。
しかし,労働協約締結後の事情変更により,労働協約の効力を維持することが信義則に反する場合には,一方的な解約は許されると考える。
2 一部解約は許されるか。
労働協約はギブ・アンド・テイクの関係にあるので,労働者・使用者に有利・不利な条項が一体となっているから,労働協約の一部解約は許されないのが原則である。
しかし
①当該部分が協約中独立性の高い一部であって
②協約締結後の事情変更により,労働協約の効力を維持できなくなり
③その合意解約のための十分な交渉を経ても相手方の同意を得られず
④協約全部の解約よりも労使関係上穏当な手段である場合
には,一部解約が許されると考える。
※期間の定めのない労働協約の場合
→ 90日前の書面による予告により,当事者の一方から協約の全体を解約することはできる(労組法15条3項・4項)
∵事情変更があった場合に,一切変更が認められないという不都合を回避するため
【論点】余後効 外部的規律説 『鈴蘭交通事件』(札幌地平11.8.30)(80 10-1)
1 労働協約終了後も労働協約の効力が存続するか。余後効が認められるかが問題となる。
2 この点,労働協約の法的性質は契約であるから,労働協約の規範的効力は,労組法16条が特に付与した効力であって労働契約を外部から規
律するものと考える。
よって,余後効は認められず,労働協約が終了すれば労働契約の内容は空白となる。
3 もっとも,労働関係の継続のためには,空白となった労働契約の内容を補充する必要がある。
したがって、通常の当事者の合理的意思から,新たな労働協約の成立や就業規則の合理的変更等の特段の事情がない限り,従来妥当してきた労働協約の内容が存続すると考える。
【論点】労働協約の債務的効力 解雇協議条項 『洋書センター事件』(東京高裁昭和61、5、29)
1 労働協約上の解雇協議条項に違反した解雇は有効か。
解雇協議条項に規範的効力(労組法16条)が認められるかが問題となる。
2 この点,解雇協議約款は,労働者の待遇に関する手続であって,「基準」(労組法16条)ではない。
また,仮に,解雇協議約款を「基準」に含めると,一般的拘束力(労組法17条)が生ずる場合,非組合員にも組合による協議が必要という不都合な結果が生ずる。
よって,解雇協議条項は,「基準」に含まれず,規範的効力は認められないと考える。
3 もっとも,解雇協議条項は債務的効力しか有しないとしても,解雇権濫用法理(労契法16条)の規制を受ける。
そして,解雇協議約款違反の解雇は重要な手続を履践しなかったものとして客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当と是認できないか
ら無効となる(労契法16条)と考える。
【論点】相対的平和義務の根拠 信義則説 (80 11-2)
相対的平和義務とは,労働協約の当事者が,その協約の有効期間中に協約で定められた事項について争議行為を行わない義務をいう。
この義務は,労働協約が労使間の平和協定たる意義を持つこと,契約の期間中当事者が合意を尊重すべきことはすべての契約について信義則上認められることから,協約に明示されていなくても当然に生じると考える。
【論点】労働協約の債務的効力 相対的平和義務排除条項の効力
1 (相対的平和義務の根拠)
2 相対的平和義務を労働協約で排除することができるか。
この点,我が国は,企業別協約が支配的であり,労働協約は客観的規範たる性格に乏しい。
そうすると,労働協約は当事者間の意思によってその成立や解釈を左右されうるから,労働協約の性質は契約であり,上記義務を排除できるとも思える。
もっとも,相対的平和義務は労使関係の安定,正常化という労働協約の機能を担保する重要な意義を有するものである。
3 よって,当事者の合意によって排除することを認めるべきではないと考える。
【論点】労働協約の債務的効力 絶対的平和義務の効力
絶対的平和条項は有効か。一切の争議行為を禁止しているため争議権の侵害とならないか。
この点,絶対的平和条項も協約有効期間を過ぎれば消滅し,争議権を永久に奪うものではない。
また,自主的団体の合意した権利の自己制限を無効とするのは,かえって団体自治を否定することになる。
よって,絶対的平和条項は有効であると考える。
【論点】平和義務違反の効果 損害賠償の範囲(80 11-2)
労働組合が平和義務に違反して争議行為を行った場合,使用者は労働組合に対してどのような損害について損害賠償を請求することができるか。
この点,我が国は,企業別協約が支配的であり,労働協約は客観的規範たる性格に乏しく,労働協約は当事者間の意思によってその成立や解釈を左右されうるから,労働協約は契約であると考える。
そして,平和義務は,労働協約という契約から信義則上発生するものであると考えるべきであるので,平和義務違反は債務不履行(民法415条)を構成することになる。
よって,債務不履行法理により,相当因果関係の範囲内にある全損害を請求できると考える。
【論点】平和義務違反の効果 差止請求 肯定説(80 11-2)
労働組合が平和義務に違反して争議行為を行った場合,使用者はその争議行為を差し止めることができるか。
この点,相対的平和義務は労使関係の安定,正常化という労働協約の機能を担保するという重大な意義を有するものであるから,平和義務違反行為について差止請求を認める必要がある。
よって,差止請求できると考える。
【論点】平和義務違反の効果 懲戒処分 否定説 『弘南バス事件』(最判昭43.12.24)(80 11-2)
平和義務違反の争議行為に対して懲戒処分を行うことができるか。
この点,懲戒処分は企業秩序侵犯に対する特別の制裁罰であるから,懲戒事由は企業秩序の侵犯となるものでなければならない。
ここで,平和義務は,労働協約という契約によって信義則上発生するものであるので,平和義務に違反する争議行為は単なる契約上の債務不履行であって,企業秩序の違反にあたるということはできない。
よって,平和義務違反の争議行為に対して懲戒処分を行うことはできないと考える。
【論点】一般的拘束力 有利原則『朝日火災海上(高田)事件』(最判平8・3・26)(80 10-8)(え本28)
平成23年 新司法試験 第2問
1 非組合員の労働条件が有利な場合にも一般的拘束力が及ぶか。
この点,労組法17条の趣旨は,事業場の労働条件を統一し,労働組合の団結権の維持強化及び当該事業場における公正妥当な労働条件の実
現を図ることにある。
そうすると,未組織の同種労働者の労働条件が有利であっても労働協約の規範的効力を及ぼす必要がある。
また,労組法17条は,その文言上,労働協約の規範的効力が同種労働者に及ぶ範囲について何らの限定もしていない。
よって,非組合員の労働条件が労働協約よりも有利な場合でも,原則として一般的拘束力が及ぶと考える。
2 もっとも,未組織労働者は,労働組合の意思決定に関与する立場になく,逆に,労働組合は未組織労働者を擁護する立場にない。
そこで,拡張適用することが著しく不合理であると認められる特段の事情があるときは,一般的拘束力は労働者に及ばないと考える。
その判断は
①特定の未組織労働者にもたらされる不利益の程度・内容
②労働協約が締結されるに至った経緯
③当該労働者が労働組合の組合員資格を認められているかどうか
を考慮して行う。
【要件】一般的拘束力 プレテスト第2問
1 「一の工場事業場」
当該工場事業場
2 「常時使用される」
期間の定めのない労働者だけでなく,期間の定めがあっても反復して更新され,実質上常時使用されている者も含む
3 「同種の労働者」
(1)臨時社員やパート社員を含むか。
この点,一般的拘束力の趣旨は,事業場における労働条件の統一にある。
そうすると,臨時社員やパート社員にも拡張適用する必要がある。
そこで
①勤務内容
②勤務形態
③人事処遇の体系等
を実質的に検討して判断すべきである。
(2)管理監督者(労組法2条ただし書1号)
「管理監督者」については,労組法上労働協約の適用が予定されていないので,「同種の労働者」にはあたらない。
管理監督者(労組法2条ただし書1号)の該当性判断基準
この点,労組法2条ただし書1号の趣旨は,労働組合の自主性を阻害する危険の高い使用者側の人員が組合に参加するのを防止すること
にある。
そこで,「管理監督者」は,組合の自主性阻害の危険が特に大きい使用者側の人員かどうかで判断すべきである。
(判断要素は上に同じ)
4 「4分の3以上の多数による労働者が一の労働協約の適用を受けるに至ったとき」
「一の労働協約の適用を受ける」者に算入されるのは,本来的に当該労働協約の適用対象者となる者のみである。
【論点】一般的拘束力 少数労働組合を結成している場合『ネスレ日本事件』(東地平12.12.20)(80 10-3)(え本28)
プレテスト第2問 平成19年 23年 新司法試験第2問
4分の1以下の少数労働者が労働組合を結成している場合にも労働協約の一般的拘束力が及ぶか。
たしかに,労組法17条は,明文で少数労働者が組合を結成している場合を除外しているわけではない。
しかし,少数労働組合員への一般的拘束力を認めると,少数組合の独自の団体交渉権を侵害することになる。
また,少数労働組合は多数労働組合の協約の成果を利用しながら団体交渉ができ,少数労働組合を過度に優遇することになる。
よって,少数労働者が組合を結成している場合には,労働協約の一般的拘束力が及ばないと考える。
【論点】分裂『名古屋ダイハツ事件』(最判昭49.9.30)(80 9-7)(え本26)
1 1つの労組が2つ以上の別個の労組に決裂してしまった場合,元の労組が有していた財産の分割をいかに処理すべきか。
(労組の財産は,法人であれば共有,権利能力なき社団の場合には総有に帰属するため)組合員は財産の持分権を有さず,脱退や除名に際して財産の分割請求権を有しないため,「分裂」概念を導入して財産の分割を認めるべきかが問題となる。
2 たしかに,安易に「分裂」概念を導入すると,組合民主主義を害する。
しかし,分裂を否定すると,少数派が故意に労組の運営を阻害して多数派を脱退させることで,組合財産を独占することを認める結果となる。
3 そこで
①旧組合の内部対立によりその統一的な存続・活動が極めて高度かつ永続的に困難となり
②旧組合員の集団的離脱及びそれに続く新組合の結成という事態が生じた場合
には,組合の分裂を認めるべきである。
そして,分裂が認められた場合には,財産の分割割合・持分は分裂時の人数割合によって処理されると考える。
3 争議行為
【論点】争議行為の正当性一般論 平成20年 21年 新司法試験第2問
争議行為とは,ストライキおよびこれを維持強化するためになされる行為,具体的には,ストライキ・怠業・ピケッティング等にとどまると考える。
よって,正当性の判断で重要な点は,「団交のための圧力行為」といえるかにある。
具体的には,主体,目的,手続,態様の4つの点から検討される。
1 主体
争議行為が「団交のための圧力行為」といえるためには,団体交渉の当事者となりうる者が主体となって行うものでなければならない。
※ 山猫ストは正当性なし
2 目的
争議行為の目的は,義務的団交事項に限定される。
よって
①労働条件その他の労働者の待遇,および
②労使関係の運営に関する事項であって
③使用者に決定権限があるもの
について要求を貫徹するために行う争議行為であれば,目的の正当性は認められる。
※ 政治スト,同情ストは正当性なし
※ 非組合員である期間従業員の再雇用
→雇用期間が長い等の事情があれば,このような業務に精通した従業員がいなくなることで,正社員の仕事内容や賃金に影響が生じるた
め,労働条件に関連するといえる
3 手続
「団交のための圧力行為」といえるためには,いったん団交を開始した上で争議行為を行うことが必要となる。
※団交を経ない場合,予告を経ない場合,平和条項違反は論点
4 態様
消極的行為(ストライキ,スローダウン)
積極的行為
ピケ 平和的説得論
→ 暴行,脅迫,威力を伴う場合には違法となる
職場占拠 狭い合法論
∵ストの実効性と使用者の施設管理権の調和
使用者の占有を排除しない「滞留」にとどまる限り正当
※部分ストは業務阻害による損害を軽減させようとしたものと評価できる
【論点】争議行為の法的保護
1 争議行為
刑事免責(刑法35条,労組法1条2項)
民事免責(労組法8条)
不利益取扱からの保護(労組法7条1号,民法90条)
2 組合活動
刑事免責(刑法35条,労組法1条2項)
民事免責(憲法28条)
不利益取扱からの保護(労組法7条1号,民法90条)
【論点】争議行為の概念 限定説 菅野説 (80 11-1)
争議権保障の目的は,団体交渉行き詰まりの打開策としての圧力行動を保障することにある。
そして,団体交渉における労働者の基本的圧力手段は労働力の集団的不提供であることから,争議権は,ストライキ権の保障を中心とする権利であると考える。
よって,争議行為とは,ストライキおよびこれを維持強化するためになされる行為,具体的には,ストライキ・怠業・ピケッティング等にとどまると考える。
【短文】
争議行為とは,ストライキおよびこれを維持強化するためになされる行為,具体的には,ストライキ・怠業・ピケッティング等にとどまると考える。
主体について
【論点】非公認スト
1 非公認ストとは,下部組合が上部組合の承認を得ないで行うストのことである。
この非公認ストは,正当な争議行為として法的保護(1条2項・7条1号・8条)を受けるか。
2 争議権保障の目的は,団体交渉行き詰まりの打開策としての圧力行動を保障することにあり,その基本的手段は労働力の集団的不提供である。
そこで,争議行為とは,ストライキおよびこれを維持強化するためになされる行為をいい,正当性が認められるためには,主体が団体交渉に
おける主体となりえるものである必要がある。
3 よって,非公認ストは団体交渉の主体となりうる下部組合が行っているものであるから,原則として正当性が認められる。
ただし,その団体交渉権が上部組合の統制下にあるから,上部組合の団体交渉を阻害した場合には,正当性を認めることはできないと考える。
【論点】山猫スト
1 山猫ストとは,組合員の一部集団が組合所定の機関の承認を得ないで行うストのことである。
この山猫ストは,正当な争議行為として法的保護(1条2項・7条1号・8条)を受けるか。
2 争議権保障の目的は,団体交渉行き詰まりの打開策としての圧力行動を保障することにあり,その基本的手段は労働力の集団的不提供である。
そこで,争議行為とは,ストライキおよびこれを維持強化するためになされる行為をいい,正当性が認められるためには,主体が団体交渉における主体となりえるものである必要がある。
3 よって,山猫ストは団体交渉の主体たりえない組合員の一部集団によって行われるものであることから,正当性は認められないと考える。
目的について
【論点】政治スト 『三菱重工長崎造船所事件』(最判平4.9.25)『東京中郵事件』(最判昭41.10.26)(80 9-5)
1 政治ストとは,国または地方公共団体の機関を直接の名宛人として,労働者の特定の政治的主張の示威または貫徹を目的として行うストライキのことである。
政治ストは,正当な争議行為として法的保護(1条2項・7条1号・8条)を受けるか。
2 争議権保障の目的は,団体交渉行き詰まりの打開策としての圧力行動を保障することにあり,その基本的手段は労働力の集団的不提供である。
そこで,争議行為とは,ストライキおよびこれを維持強化するためになされる行為をいい,正当性が認められるためには,その目的が団体交
渉によって解決できる事項でなければならない。
3 よって,純粋政治スト,経済的政治ストを問わず,団体交渉を通じて解決不可能な事項の実現を目的とするものであるから,正当性は認めら
れないと考える。
【論点】同情スト
1 同情ストとは,当該企業における労使紛争の解決を目的とせず,他事業における労働争議の支援を目的として行われるストのことをいう。
同情ストは,正当な争議行為として法的保護(1条2項・7条1号・8条)を受けるか。
2 争議権保障の目的は,団体交渉行き詰まりの打開策としての圧力行動を保障することにあり,その基本的手段は労働力の集団的不提供である。
そこで,争議行為とは,ストライキおよびこれを維持強化するためになされる行為をいい,正当性が認められるためには,その目的が団体交渉によって解決できる事項でなければならない。
3 よって,同情ストについては,我が国は企業別組合を通常としており,団体交渉を通じて解決不可能な事項の実現を目的とするものであるか
ら,正当性は認められない。
手続について
【論点】団体交渉を経ない争議行為
1 団体交渉を経ない争議行為は,正当な争議行為として法的保護(1条2項・7条1号・8条)を受けるか。
2 争議権保障の目的は,団体交渉行き詰まりの打開策としての圧力行動を保障することにある。
そこで,正当な争議行為といえるためには,使用者が団体交渉を拒否したか,団体交渉で要求を拒否したことが必要であると考える。
3 よって,要求事項に対して使用者の回答しない間に行われた争議行為は正当とはいえないと考える。
ただし,団交のどの段階で争議行為を行うかは,組合の戦術次第である。
したがって,争議行為は必ずしも最後の手段として行われることを要するものではないと考える。