今いるこの世界にやってくる以前にいた場所を覚えている。
ただただ平和で穏やかで、暖かく明るい世界。
話せるようになる前から、その世界に戻りたくて仕方なかった。

ある時、親や親戚が集まって、あちらの世界に戻っていくことを「死」という名前でよび、怖れを抱いていることを知って衝撃を受けた。
私は、早くそこに戻りたくて仕方なかったから。

物心ついてからも、大人になってからもその気持ちは変わらなかった。
私のどこが悪くて、神様は私を呼び戻してくれないんだろう…と、神様を恨むことさえあった。

ああ、私はこのまま歳をとり、寿命になるまで生きていくんだな…と思うようになったのは40歳を過ぎてから。

私が人間になったのは、だから40歳を過ぎてから
なのかもしれない。

続く