『C』店ハンバーグ。
一年間続いた第一章は、予想外にあっさり終わってしまった。
わたしはこんなに簡単に終わってしまうことを、全く予想できなかった。
だから、ブログの出版の話がきたときに、オチをどうすればいいのかとても悩んだ。
ハッピーエンドも気持ち悪いし、そのまま同じ関係がずっとは続かないだろうということもわかっていた。
終わり方。
そう、終わらせ方が問題だと思っていた。
わたしはアホみたいに、ハンバーグとは一生は大げさだけど、長い友達になるのではないかと勝手に思っていた。
ハンバーグもそんなようなことを言っていた。
わたしたちの友情は、お金の関係が切れても何らかのつながりがある程度には、存在しているとわたしは妄想していた。
残念ながら妄想だった。
やっぱり金の切れ目が縁の切れ目なのだろうか。
この間、客とホストの友情についてチャーハンに聞いてみた。
ホストと客の綺麗な終わり方なんかない、と言ったチャーハンに。
「うーん。それはね、店とか客とか関係なくなって、たまにお茶とか食事とかしてね。それぞれの彼氏彼女の相談できるくらいの友達になるってことかなぁ」
それは、わたしがハンバーグとなるはずだった関係だ。
「チャーハンくん、そういう人いるの?」
「いない」
チャーハンは即答だった。
10年やったチャーハンにも、一人もいないのだ。
客からちゃんとした友達になった人が。
自分の世間知らずというか勘違いうか、恥ずかしい部分を書き綴ってきてしまったが、今更言っても始まらない。
わたしは、本当にハンバーグが好きだった。
顔も好みじゃないし、食べ物の趣味も合わないし、話も通じないと思っていたのに、好きだった。
求めていたのは擬似恋愛じゃなくて、お金と関係ない部分での人間関係だった。
そう思いながら、お金をたくさん使ったし、更に使おうと思っていた。
来月のハンバーグバースデーで、シャンパンタワーをしよう。
迷ってはいたが、■月の柏餅くんのバースデーの後に、わたしの気持ちはほぼ固まっていた。
ベリーちゃん、グレープフルーツちゃん。
わたしがこの世界に誘ってしまった二人がことごとく担当バースデーにタワーをし、そのイベントのゴール地点となった。
二人は担当と、お互いのリアルバースデーをともに過ごしていた。
二人の担当とのスタンスは違っていたし、ベリーちゃんには新たな担当が出現して、そこでもタワーをした。
わたしはハンバーグバースデーのゴールになりたかった。
気持ちは矛盾していた。
ほかの人にゴールを譲るのは嫌なのに、使用金額のエースになりたくなかった。
担当になって半年経ったころ、本当に好きになってしまった。
それから、病みながらお金を使い続けた。
フラフラに酔うまでャンパンをを空け続けた日もあった。
辛くなって、唯一可能性を残していた他店『H』に行った。
急に楽になった。
急にハンバーグのことがどうでもよくなった。
ハンバーグに使うお金が、もったいないと感じるようになった。
例えそれが最低料金だとしても。
『H』の担当はチャーハンという有名元カリスマホスト。
ホストの中のホスト。
プロ中のプロ。
そして『H』の経営者であり歌舞伎町過去最強のナンバー1。
チャーハンは上手にわたしを遊ばせた。
上手にお金を使わせた。
チャーハンを指名して使った金額は、ハンバーグの最近よりも多くなった。
それはチャーハンのプライドだったのだろう。
先月のプリン王子バースデーを境に、わたしは全く『C』に行かなくなった。
一度だけ、チャーハンの連れとして『C』の代表イベントに顔を出した。
そのことがきっかけで、ハンバーグとケンカした。
確かにわたしのしたことは《あてつけ》めいていた。
その件でケンカした後には、ハンバーグは勝手に通常営業に戻ったが、メールや電話での連絡がはっきりと減った。
返ってわたしには、それが好都合だった。
わたしからハンバーグに連絡するような用件は思いつかなくなっていたし、マメな返事を要求されていたらそれができない理由を話し合わなければならなかった。
ハンバーグはわたしが切れても仕方ないと思ったのだろう。
わたしは先月の前半までは揺れていた。
あきらかに、チャーハンとのやりとりの方が面白かった。
ホストとしての腕は、チャーハンの方がハンバーグの何倍もあった。
ただ、ハンバーグとの間には1年続いた情があった。
だから、チャーハンのところに通い始めた頃に、ハンバーグが何らかのアクションを起こせばわたしは簡単にハンバーグのところに戻った。
そのために、わたしたちの1周年を大げさに騒ぎ立てた。
そしてハンバーグは、わたしが
「今まで使ったお金がもったいなかったと思いたくない」
と言ったことと、
「一周年の記念に何か特別なことがしたい」
と言ったことを勝手にヘンな風に解釈していた。
「これだけお金使ったんだから、一緒に風呂ぐらい入れ」
というニュアンスに受け取ったらしい。
わたしが、若い男と一緒にお風呂に入ってもらいたくて金を積んだババァのように思われていた。
そうハンバーグが解釈していたことをついこの間知って、わたしは憤慨した。
《お風呂》は先にハンバーグが言い出したことだったし、求めていることが《モノより思い出》というニュアンスを面白く伝えようとしただけだったのに。
つくづく、大事な話は全て通じていなかったんじゃないかという疑問がわいた。
さて。
第一章は本当に終わってしまったのだろうか。
わたしはグランドフィナーレを期待しているわけではない。
未練もない。
でも、このまま終わるのは、ストーリーとしてつまらないとは思う。
はっきり言って今の段階でのチャーハンは、プロ過ぎてつまらない。
おもしろいことはおもしろいのだが、意外性がない。
これだけお金を使ってて言うことではないのだが、のめり込む対象ではない。
今更ホストにのめり込んでどうする?
と思いながら、わたしはチャーハンにどっぷり騙されたいと思っている。
アホだとわかっていながら、わたしはのめり込めないと楽しくないのだ。
でもチャーハンにはそのつもりはない。
彼の周囲にいない数少ない正常な人として、わたしを置いておきたいのだろうと思う。
もしかしたらわたしのような種類の人にのめり込まれたら、面倒なことを知っているのかも知れない。
のめり込ませない頃合のつかみ方が上手すぎて、わたしは逆に冷め始めている。
ただ何よりも楽なのは、今わたしは全く病んでいないこと。
でもこの調子だと、第二章は短く終わる。
第一章のエピローグは来月のハンバーグのバースデーイベントになるだろう。
わたしがさっきハンバーグからの電話に出ると、はじめて■月■日に来店促進された。
「すいかが来ないとはじまらんやろ~」
と笑って言われた。
「え?行った方がいいの?」
と聞いてしまった。
「この1年のオレからみんなへの感謝の気持ちやねんから」
ハンバーグはたぶん、本気でそう言っている。
《感謝の気持ち》の意味はあまり深く考えずに。