エリートな男
近年、続々と後輩が入社している。
中途採用で入社したエリートな後輩に今、仕事を教えている。
六月の、一番環境が悪い季節に入社した彼は、大会社の元管理職。
百人の部下を従えていたという。
まだ36歳。
その経歴を以てすれば、何の不思議もない事なのだが、
とにかく理解力と修復力が長けている。
二度、同じミスをしない。
二度、同じ質問はしない。
個性が強い先輩方に気に入られるのも時間はかからなかった。
先にも述べたが、そんな彼に俺が仕事を教えている。
数年後には上司になるだろう。
そう思っていた。
だがそこは、やはりこれだけの能力を持つ男。
周りが放っておく理由が無い。
どこかでそんな様な気はしていたが、
今日、俺だけに、まだ話してはいけない内容を教えてくれた。(ここには会社の人は来ないだろうし💦)
彼は間も無く退職をしてしまう。
前の会社から、再三お呼びが掛かっていたらしく、
条件を幾つか提示したら、それら全てを飲んででも帰って来て欲しいと返答されたのだとか。
道理で今週、元気が無かったわけだ。
ずっと一人で抱えていたんだそうだ。
管理職と今のヒラ職とでは、
給与面でも恐らく、相当の差があるだろう。
ただ、彼は、とても優しい人柄である故に、
偉ぶるのが性に合わず、過去の事も自らは語らなかった。
部下がこれだけいた事も今日初めて知った。
また、実母や祖母の将来を考えた上での転職だったと言っていた。
だから彼はずっと揺れていたそうだ。
決め手となったのは、奥様の一言だったらしい。
今日、彼は言っていた。
正直、管理職に戻るのは憂鬱だと。
そして、今の職場が大好きだと。
中でも、親身になって育ててくださったので、どうしても一番先に伝えたかったのだと。
昼休みに、神妙な面持ちで自分のところに来て、そんな話を聞いた。
課長も会社もまだ、誰も知らないそう。
当然会社側は君を全力で引き止めるだろう。
自分達も皆、君が去る事を拒むだろう。
だけど、自分の人生だし、家族は大事だから、
それは仕方が無い事だよと伝えた。
そして、既にもう君を頼って働いていた事実も伝えた。
ただの一ヒラ職の俺が言うのも生意気なのだけど、
育ててくださっただなんて言葉は、余りにも烏滸がましく、つい本音を話した。
その時は明るく振る舞ったけど、
帰宅してから涙が出て来た。
とても残念で、とても寂しい。
早ければ二十日付け。
長くても一月いっぱいまでになるだろう。
せっかく出会えたのだからと、
会社では滅多にしない連絡先の交換をした。
彼には本当に色々教わった。
教えた事の何倍も大切な事を。
まだ時間はあるが、
体だけは大切にして欲しい。

