
うわん [出現地] 青森県
今回は、取り上げるほとでもないが放っておいたら忘れ去られてしまいそうな妖怪、うわんについて書こうと思う。
青森県に次のような伝説が残っている。
『ある男が金を貯め一軒の古屋敷を買った。
女房と一緒に屋敷を掃除し、何とか住めるぐらいに片付いたので夫婦はそこに移り住んだが、その夜寝ようとすると「うわん!」という声が屋敷中に響き、二人とも怖くて眠ることが出来なかった。
翌朝近所の人達に昨晩の出来事を話すと、誰もそんな声は聞いていないという。
それどころか、一晩中抱き合っていたから眠れなかったんだろうなどと冷やかされる始末。
しかしその話を聞いた古老は、「古屋敷にはうわんという妖怪がいるものだ。お前さん達が聞いた声はそのうわんの声だよ。」と語った。』
おわかり頂けただろうか。
妖怪うわんの能力、それは
うわん!と叫ぶ。
のみ。
嘲笑と共に片付けられてしまいそうな話だし、現実的に正体を探れば風の音や犬の鳴き声、あるいは誰かのイタズラという辺りで決着が着いてしまうのだろう。
しかし昔の人達はそんなつまらない事はせず、古老の話を信じ、これを妖怪の仕業として後世に語り継いだ。
これは非常に素晴らしい事だと私は思う。
ダイオウイカやパンダもかつては未知なる存在、未確認生物UMAとして扱われていた。
ところが現在はどうだろう。
ヨーロッパに伝わる怪物クラーケンの伝説は本当の話だったのだと思わせてくれるし、そんなのいないだろうと思われていたマンガみたいなクマは今や動物園で大人気だ。
いないと言ってしまったら、いない。
決めつけてしまえば生まれるはずがない。
明日ネッシーが湖からひょっこり顔を出すかもしれないし、山登りをしていたら「暑いよね~」とか言いながら天狗がうちわで扇いでくれるかもしれない。
貴方の家で「うわん!」と声がしたら、どこかに妖怪が隠れているかもしれないのだ。
一見取り上げるほとでもない妖怪うわん。
その伝説を語り継ぐ事は、ロマンや可能性を明日に繋ぐことになる。
それはきっと私達の世界をどこまでも広げてくれる。
うわんの「うわん!」には、そんな素敵な力があると感じてならない。
記者 牧田龍彦