頬撫で [出現地] 山梨県 他



「頬を撫でるそよ風」などと言うと何とも心地良さげだが、もしこれが妖怪の仕業だとしたら皆様はどうお思いになるだろうか。

頬撫では山梨県道志村大羽根に伝わる妖怪で、夜に人が谷間の道などを歩いていると青白い手で頬を撫でると言われている。
頭や体はなく「手」のみの妖怪のようだ。

夜露に濡れた枯れすすきが頬に触れたのを驚きのあまり妖怪の仕業だと騒ぎ立てたという説もあるが、頬撫でに遭遇した者は確かに青白い手を見たと語っている。


水木しげる先生の著書「日本妖怪大全」の中に、ある妖怪研究家(文化人類学者)の言葉として興味深い一節がある。

『見るということの中の四割に触覚が参加しており、純粋に見るというだけのことで見ているわけではない。見ることの中には温度なども大いに関係しており、まわりが特別の状態になった場合は、特別のものを見るわけだ。』

谷間あるいは山道などは平地に比べて気温が低い。
暗い夜道、そんな場所を歩いている時に突然ひんやりと冷たい風が頬を撫でる。
ヒャッと身震いした瞬間、月光に照されながら風に揺れるすすき達が暗闇に浮かぶ無数の手に見えた・・・

やはりこういう事なのだろうか。





しかし私は最近、ある噂を耳にした。
それはこんなお話である。


学校から帰る子供達が「おい!待て!」「うるさいぞ!」などという怒鳴り声を聞いた。
その声は自分達に向けられているようだが、辺りを見回しても人の姿はない。
不思議に思っていると子供達の中の一人が数メートル先の壁から何かが突き出ているのを見つけた。
よく見るとそれはしわ枯れた老人の腕だった。
「こっちに来い!」
その声は物凄い迫力で、泣き出してしまいそうなほど恐ろしいものだったという。


これは千葉県某所、片腕じじいと呼ばれる言わば都市伝説のような話であるが、谷間や山道ではなく、ましてや枯れすすきなどない閑静な住宅街で起きた出来事らしい。




さらに、頬撫での伝説は山梨県のみならず長野県や宮城県など各地に残っている。

我々の目の前に、背後に、突如として手が現れたとしても不思議な事ではないのかもしれない。

そう、

今これを読んでいる貴方の後ろにも・・・




記者 牧田龍彦