- 前ページ
- 次ページ
早速で申し訳ないですが、藍フクロウはリアルが多忙のため二週間じゃ書き切れませんでした。
という事で、まあ、延期のお知らせです。
それと、藍フクロウとは誰も 連絡が取れていませんので、更新がいつになるかもわかっていません。
まあ、藍フクロウの次の更新にご期待ください。
しかばね
という事で、まあ、延期のお知らせです。
それと、藍フクロウとは誰も 連絡が取れていませんので、更新がいつになるかもわかっていません。
まあ、藍フクロウの次の更新にご期待ください。
しかばね
という訳で、3人目の藍フクロウですw
中には「お久しぶり!」な方もおられるかも知れないですね(汗
とにかく、3人1チームでリレー小説をやることとなりました。
何故かオカルト方面に手が出てしまう困った野郎ですが、よろしゅうです^^
ではでは
バンッ
扉が乱暴に開かれ、中から少女が飛び出してきた。その勢いのままドタッとその場に倒れこむ。どうやら、追い出されたようだ。
「ちゃ、ちゃんと話を聞いてください! 確かに父は――」
「あぁ、だから言っているだろう、お譲さん。そんなやつ、ここには来ていない」
女の子の前には、一人の男が立っている。その身体は遠い昔によく見た黒のスーツに包まれている上にサングラスまでかけているので、どこのエージェントかと思うような風貌だ。
「そんな! 私の父は、確かに六日前に村を出発したんです! 政府に依頼を持って!」
「クラーケン退治、だったかな? ……そんな依頼を持ってきたやつは、ここには来ていない。帰れ」
そういって、男は少女に背を向けて、建物の中へ入っていった。
「待ってください! じゃあ、お父さんは――」
バタン
少女の声も空しく、扉は音を立てて閉まった。
「そんな…… じゃ、じゃあ、お父さんは本当に……」
段々と顔が青ざめていく少女。目は見開かれ、愕然とした表情が浮かんでいる。
そして、そのままその場にバタッと倒れて気絶してしまった。
☆ ☆ ☆
次に少女が目覚めたのは、布団の中だった。身体を起こして辺りを見回すと、どうやらここはどこかの部屋の中らしい。
薄暗い部屋の中、様々な家具が見える。座卓、座布団、本棚、畳……とりあえず、和室のようだ。本棚には大量の古書が入っていて、独特の匂いがそこから漂ってきていた。
ふと、少女は「何故、こんなところにいるのだろう」と考える。
――もしかして、誘拐された?
少女の歳は、見たところ年頃十五、六といったところだろうか。そういう少女が道端に倒れていて、よからぬことを考えた輩がそのまま部屋に連れ込むという状況は、決してありえない話ではない。
そう考えると居ても立ってもいられなくなったのか、少女は立ち上がり、出口らしき襖まで慌てて駆け出し、ぱっと開けた。
しかし、少女は逃げ出すことができなかった。
襖の向こうには、真っ黒な毛に身を包んだ大きな狼が立っていたからである。
「――?!」
一瞬、何が何だか分からなくなる少女。驚きのあまり腰が抜けてしまったのか、狼に背を向け四つん這いで元の部屋に戻ろうとする。
そのとき、狼の口がパックリと裂けた。
「目が覚めたのか。何があったかは知らんが、ご苦労なこった」
――狼が、しゃべった。
予想もしていないことが起こり、ますます訳が分からなくなる少女。後ろを振り返っても、少女に話しかけたと思われる人物はいない。そこには、一匹の狼が立っているだけだった。
立っている? そう、狼は人間であるかのように二本足で立っていた。犬がよたよたと立つような立ち方ではなく、しっかりと足を踏みしめた立ち方である。
「あぁ、驚かせちまったな。悪い。こんな格好だが、一応人間なんだ。――見てろよ?」
そういって、目を閉じる狼。すると、全身を包んでいた真っ黒な毛は見る見るうちに見えなくなり、だんだん褐色の肌が見えてきた。
まもなくして、元々狼が立っていた場所に、上半身裸のガッシリとした体格の男が現れた。
「――俺は、人狼のアルフィってんだ。アルって呼んでくれ」
パクパク
凄まじい勢いで、座卓の上に置かれた大量の白くて丸い食べ物が、少女の口の中へと消えていく。一体、どれほどの間食事を取っていなかったのだろうか。
「うまいか?」
口をモグモグとせわしなく動かして、アルフィの問いかけにコクコクと頷く少女。どうやら、その食べ物はお気に召したようだ。
座卓の上に白い皿だけが残った頃、少女は湯飲みに注がれた緑茶をゴクゴクと飲んで、ふぅ、と一息ついてようやく話し出した。
「……こんなに甘くておいしいものを食べたのは久しぶりです。ありがとうございます」
「礼を言うなら、アズミに言うんだな。……政府のビルの前で倒れていたお前を拾ったやつだ」
「あなたが助けてくれたのではないのですか?」
「違う。俺はお前を運んだだけだ」
そういってアルフィは顔を背けた。
「では、そのアズミさんは今どこに?」
キョロキョロと辺りを見回す少女。しかし、アルフィ以外に人の気配はない。
「今は出かけている。政府の緊急招集だ」
その言葉に、はっと息を呑む少女。数時間前の出来事が頭をよぎる。酷く冷たい声で「帰れ」と告げた黒スーツの男、行方不明の父、消えた大金――
「そういえば、何でお前、あんなところに倒れていたんだ?」
そう尋ねるのも最もである。政府の人間でもない余所者が、政府の建物の前に倒れていたのだ。当然、疑問にも思うだろう。
しかし、少女は迷った。
――この人に話してもいいのだろうか。確かに、命の恩人ではあるけれど、この人は政府の人。こんな話をすべきではない。
そのまま少女は口をつぐんでしまった。二人の間に沈黙が流れる。
その沈黙を破ったのは、アルフィのため息だった。
「ま、いいさ。話せない事情ってのは、誰にだってあることだ。ただ、困っているなら、手伝ってやりたかっただけだ」
その言葉を聞き、少女はちらりとアルフィの顔を見た。……とても真摯な顔をしている。
そんなアルフィを見て、少女はようやく決心をした。
「いえ、話します。愉快な話ではありませんが……」
そうして、少女は語り始めた。
六日前、父は、村の代表として政府に依頼を持っていく役目を負ったそうです。それを聞いて、私は父を誇りに思いました。だって、村の代表だなんて、凄いじゃないですか。
『三日で戻るよ。頼もしい人々を連れてな』
そうして、政府に渡す依頼料の金貨銀貨を持って村を出発しました。村人達は、父の道中の安全を願い、最後まで見送っていました。
ところが、ある疑惑が浮上しました。
父が出発した次の日、政府がある町へ商売に行っていた村の商人が、馬車に乗って帰ってきたんです。村人達は、『あいつとすれ違ったんなら、その自慢の馬車で送ってやればよかったのに』と言って笑いあいました。
しかし、商人の言葉は思いもよらないものだったのです。
『本当にあいつは政府に行ったのか? 俺は誰とも道をすれ違ったりしていない』
それを聞いて、村人達は大慌て。なぜなら、依頼料の金貨銀貨は、村人全員から集めたものだったからです。
村人達は、すぐに村長に報告しに行きました。しかし、村長は『商人が気付かなかっただけに違いない。それに、他の道を行ったのかも知れん』と言うだけで、全く疑うことはありませんでした。
でも、村人達は冷たかった!
『他の道って、政府へ安全に行く道はあの一本しかないよな』
『他の道には野獣がいっぱい潜んでいる。もしかして、そっちを通って襲われたのかも』
『バ~カ、あいつがそんなヘマをする訳がない。あいつは、逃げたんだよ』
『そうだ! きっとあいつは大金を持って逃げたに違いない! あいつは泥棒だ!』
『返してよ、私達の大事なお金! あの大泥棒の代わりに、あなた達が払いなさいよ!』
村人達はこぞって父を泥棒扱いして、家族である私達から、金目のものはもちろん、何もかもを奪っていったわ! 私が『もしかしたら、本当に商人が気付かなかったのかも』と言っても、聞かなかったの!
父が帰ってくると言った三日後。私は、からっぽの家の中で家族と一緒に父の帰りを待っていたわ。でも、父は帰ってこなかった。
お母さんは嘆き悲しんだ。『何であんな男と結婚なんかしたんだろう』って。私は、もういても立ってもいられなくなって、家を飛び出したの!
大人の足なら、政府までの道のりを往復するのに、ちょうど三日かかるわ。でも、私のような子供の足なら、片道で二日。それでも、私は父を探しにここにやってきた。
でも、実際に政府にやってきて父のことを聞くと、政府の人達は皆驚いたような顔になって『そんな男はここには来ていない』の一点張りで、私が反論をしても『帰れ』というだけだった! じゃあ、本当に父は泥棒だったっていうの?!
私は、そんなこと信じない! 父は盗みを働くような人じゃない! あの時の政府の対応は明らかに変だったわ。きっと政府は、何かを隠しているのよ! 父は政府に消されたに違いない! だから私は――
ハッと気がつき、少女はアルフィを見た。アルフィは目を丸くして、少女をぽかんと見ている。
「ご、ごめんなさい! やっぱり、政府であるあなたにこんなことを言うなんて……」
その言葉で、我に返ったような顔つきになるアルフィ。そして、そのままうつむいてしまった。
二人の間に、気まずい沈黙が流れる。
ふいに、アルフィの手がスッと少女に伸ばされた。少女はビクッとして体を縮こませる。
しかし、その手は優しく少女の頭に乗せられ、そのまま撫でていた。
「悪かったな、そんなことがあったなんて。……うちも、政府とかいっといて、たいしたことをやってねーんだなぁ、本当に。……すまない」
そういって、頭を垂れるアルフィ。その姿に、少女は驚きを隠せなかった。政府の人間は、例の黒スーツの男のように、冷たい人間しかいないと思っていたからだ。
「あ、あなたのせいではないです! だから、顔を上げてください。むしろ、こちらこそすみません、声を荒げてあんなことを……」
「いや、これは俺達政府の問題だ。だから謝る。すまない」
「いえいえ、元はと言えばうちの父が……」
「いや、政府が……」
「いえ、」
「いや、」
第一次謝罪対戦、勃発。両者間で繰り返される謝罪の応酬。そしてついに――
「あっはっはっはっはっは!」
「あはははははは!」
二人は耐え切れなくなって笑い出した。
「お前、結構強情なやつだなぁ!」
ヒイヒイ言って、畳に仰向けになりながらアルフィは言った。
「あなたもね、変な狼さん!」
「おっ、言うようになったじゃねえか、えーっと……名前、なんつったっけ?」
「そういえば、教えていませんでしたね。私の名前はサラと言います」
「そうか、サラか。ところで、サラ」
「はい、何ですか?」
「その……父親探すの、手伝ってもいいか?」
頬をかきながら恥ずかしそうに言うアルフィ。それを聞いて、サラは顔をパッと輝かせた。
「今、俺達は休暇期間に入っているんだ。だから、それを手伝うことぐらい容易い」
「い、いいんですか? ……ありがとうございます!」
「ただし、アズミがどういうかは分からねぇ。だから、アズミに聞いてからだ」
「そういえば、そのアズミさんって――」
ガラッ
その時引き戸が開き、やや小柄の女性が静かに入ってきた。
「おぉ、帰ったか、アズミ。何だったんだ結局」
「最初はテロリストの鎮圧だけだったんだけど、それが終わってから指令が下されたわ。まぁ、たいしたことじゃないから大丈夫よ。それより、あの子は……」
「おぉ、この通りピンピンしてるぜ。お前のお手製の大福もたっぷり食べたしな」
「そう。……あなた、名前は?」
突然話を振られて目を白黒させるサラ。それでもきちんとアズミに向き直り、問いに答える。
「え、えぇと、サラと言います。あ、あの、道端に倒れていたところを助けていただき、ありがとうございました!」
勢いよく頭を下げるサラ。勢い余って畳にでこをぶつけてしまうほどであった。
「いいのよ、別に。……私はアズミ。本名は、大滝雅澄よ。よろしくね。ところで、サラ。何であんなところに倒れていたの?」
「おっと、それについては俺が説明しよう」
サラが口を開こうとしたとたん、アルフィが割り込んできた。きっと、さっきの取り乱したサラの姿を考えたに違いない。サラはアルフィに任せることにした。
数分後。
「そう……つまり、あなたはその行方不明のお父さんを探してここに来たのね?」
「はい」
アルフィの話はうまい具合に要点がまとめられており、とても分かりやすくなっていた。もちろん、サラが取り乱した部分は除かれていた。……見た目に合わず、賢いのかもしれない。
「なぁ、アズミ。その……サラの父親探しさ、手伝ってやらねぇか? 今は休暇期間だし、問題ないだろ? だから……」
それを聞いてため息をつく雅澄。もの凄く何か言いたげな顔だ。
「あのねぇ……さっき聞いたでしょ? 指令が入ったのよ。いつの間にあなたは馬になったのかしら?」
「何ぃ?! ちょっと忘れてただけにもかかわらず酷い言い様だな!」
けんか腰で噛み付くアルフィ。しかし雅澄はそっぽを向いて再びため息をつく。かまう気は全く無いようである。
「お前、ちゃんと人の話を――」
「いいわよ、別に」
「……は?」
一瞬何を言われたのか分からず、目が点になるアルフィ。そんなアルフィにかまわず、雅澄はサラに話を振った。
「一応、仕事は入っているわ。でも大した事じゃないから、後回しにしても問題が無いの。だから、アルの言うとおり、あなたのお父さん探しを手伝うことにするわ。という訳で、よろしくね、サラ」
サラは話しがまとまったという事をやっと理解し、次の瞬間、笑顔をパッと咲かせた。
「ありがとうございます、アズミさん! こちらこそよろしくお願いします」
「ふふっ、いいわよそれくらい。容易い事だし。そうねぇ、明日の朝、早速出発してもいいかしら? ――あなたのお父さんがいる場所へ」
まるで必ずそこにサラの父親がいるとでも言うような口ぶりである。
「そ、そんなことが本当に分かるんですか?」
驚いているものの、やや疑いの気持ちを含んだ声を出すサラ。しかし、雅澄は微笑してサラリと答えた。
「分かるわよ? だって、私のは〝千里眼〟の魔法が使えるもの」
それを聞いて、サラは今度こそ純粋に驚いた表情を見せた。しかし、アルフィの顔つきはギョッとしたものに変わった。
「おい、アズミ。お前は魔法使いじゃモガァッ!」
言葉が途切れ、宙を舞うアルフィ。そのまま仰向けに畳の上に倒れこむ。まるで、透明人間に突然アッパーを喰らわされたかのような動きであった。
しかし、そんなアルフィには見向きもせず、彼女達は話し続ける。
「とにかく、明日は早いし、ゆっくり休んでね」
「はい。本当に、ありがとうございます」
最後にサラが深々と雅澄に礼をし、話は終わった。
もうすぐ夕暮れに差し掛かろうとしていた。
☆ ☆ ☆
その夜。
サラが最初に寝かされていた部屋に戻り、早々に眠りについた頃、雅澄とアルフィは座卓を挟んで向かい合って座っていた。しかし、お互いに話しかけようともせず、黙りこくったままである。二人を沈黙が包んでいた。
その沈黙を破ったのは、アルフィの方だった。
「どういうことだ」
その言葉はナイフのように冷たく鋭く尖っている。その調子で、アルフィは淡々と話を続ける。
「お前は、異能者ではあるが、魔法使いではない。お前が間違ってサラに言ったものかと思って正そうとしたら、お前は〝力〟を使って俺を黙らせたな? ……何故だ? 何故、サラを騙してまであいつの父親を探そうとする? 千里眼なんぞ持っていないのに」
異能者とは、魔力とは異なる力を操る者のことだ。例えば、この人狼のアルフィもその一人である。自在に人間の姿と狼の姿とを変化し分けるというのが、アルフィの〝力〟である。もちろん、これは狼男とは違う。狼男は〝満月の夜にしか完全な変化が出来ない〟ので、野獣に分類されるが、アルフィはそんなことに関係なく完全な変化が出来るので、異能者に分類される。もし、そのような条件があったとすれば、人語がしゃべれる野獣ということにされ、政府の研究所へ送られ、研究対象として毎日を過ごすことになっていただろう。
魔法使いではないし、千里眼も持っていない――確かにアルフィはそう言った。もしそれが本当であるなら、雅澄はサラを騙しているということになる。
しかし、雅澄の口から否定の言葉が飛び出ることは無かった。
長い沈黙の後、雅澄はようやく口を開いた。
「政府の人間しか知りえない情報が漏れたわ。『クラーケン排除及び周辺湖の凍結処理』という計画よ」
「クラーケン? どこかで聞いた話だな」
少し考えるアルフィ。確かにそういう話をつい最近聞いたはずだ。しかし、いつ、どこで、誰から聞いたんだ?
雅澄は話を続ける。
「それが分かったのは今日よ。……おそらく、漏れていたのは一週間以前のはずだわ。彼女の証言が正しいのならだけど」
「彼女?」
「そう。……ある少女が、今日政府にやって来て、こう尋ねたんだって。『父が六日前にクラーケン退治の依頼を持ってやって来たはずだ』ってね。それを聞いた職員は皆慌てたそうよ。一般人には知らせずに極秘でやってきたものを、民間の少女が知っていたのだから、当然よね。上は、スパイがいると考えたわ」
「おい、待てよ。もしかして、その少女って……」
心当たりにようやく見当がつき、アルフィの背中に冷たい汗が流れる。
そんな、いや、まさか――
「少女の名前は、サラっていうの」
「――――!」
アルフィは血の気が引いていく音を聞いたような気がした。道端に倒れていて助けた少女の父親が、自分達政府のスパイ――敵である可能性がある……すぐには信じられない話だ。
しかし、それを知っていても、アズミはサラに協力すると言った。と言う事は――
「政府の上層部は、私達に指令を下したわ。明日クラーケンがいる湖に派遣するグループに同行して、スパイ、もしくはその関係者を探し出せ、ということよ」
それを聞いて、アルフィの考えは確信に至った。
「つまり、アズミ。お前は、サラを利用してスパイを捕まえるつもり、なんだな?」
「ええ、そうよ」
ガキィンッ!
アズミの言葉を最後まで聞くこと無く、アルフィは立ち上がり、狼へと変化して殴りにかかった。変化した時の力は、普通の人間の約七十倍……まともに喰らえば即死である。
しかし、そんなアルフィの渾身の一撃も、雅澄には効かなかった。――雅澄の〝力〟に阻まれ、アルフィの拳は雅澄の顔の十センチ前のところで止まっている。
「――お前は、あいつの、サラの父親を思う気持ちを、そんな風に利用しちまうような奴だったんだな!」
鬼のような形相で、怒り狂った声で吠えるアルフィ。しかし、そんなアルフィとは対照的に、雅澄は冷ややかな目で暴れ狼を見ていた。
「落ち着きなさい、アル。大丈夫、彼女のお父さんは、スパイではないわ。本職のスパイなら、娘に極秘の情報を漏らすなんていうヘマはやらないし、ましてや家族から逃げ出す必要も無いもの」
それを聞いて、アルフィは残った理性で考える。
確かに、アズミの言う事はもっともだ。もし本当にスパイであるなら、そんなヘマをおかすはずが無い。少なくとも、そんな奴は、政府にはいない。
さらに雅澄は話を続ける。
「おそらく、サラの父親は、政府ではなくギルドに依頼に行ったのよ。本来なら、一端政府に依頼が来てからギルドに回すという方法をとっているのだけれど、最近、政府の信用も落ちてきているから、直接ギルドに向かったんだわ。でも、これは本当はやってはいけないことだから、娘や家族には嘘をついた。それが、今回の事の発端なのよ」
「…………」
「サラの話を思い返してみなさい。私達は極秘にやってきたから、『村人はクラーケンの存在に気づいていない』と思っていたけれど、サラの話では、村人は皆クラーケンの存在を知っているということになるわ」
確かにその通りだ。もし村人がクラーケンの存在を知らないのであれば、訳も分からずに金貨銀貨を集められたということになる。それはおそらくないだろう。つまり、村人はクラーケンの存在には気づいていたのだ。
「でも、おかしいわね……どうやって気づいたのかしら。まぁ、それは置いといて。とにかく、サラのお父さんはスパイでは無いわ。私がサラに協力すると言ったのは、サラのお父さんへの疑いを晴らすためよ。……政府の命令には反するけどね」
悪びれた様子も無く、アッサリと言い切る雅澄。そこには、人の気持ちを利用するような悪党はいない。いつも通りの雅澄が座っているだけだった。
高ぶった気持ちを静め、変化を解くアルフィ。その顔は申し訳ないという気持ちでいっぱいである。そして、
「……すまなかった」
そのまま深々と座卓にでこがつくぐらいまで頭を下げた。
「はぁ……いいわよ、別に。こっちも言い方が悪かったわ。……ごめんなさい」
そして雅澄も軽く頭を下げてアルフィに謝罪の言葉を述べる。
どうやら、無事和解したようだった。
「それにしても、酷いじゃない、アル。うちの子達こんなことをして……おいで」
雅澄がそう言った途端、アルフィの拳が止まったところ辺りから、わらわらと黄色いウナギの様なものが湧いて出てきて、雅澄の体にまとわりつく。
よく見ると、頭と思われる部分から、獣のような三角の耳が二つ、にょっきりと生えているのが分かる。――管狐だ。
管狐とは、遠い昔〝ニホン〟という国に存在したといわれる神獣の一種だ。体がウナギの様に細いので、笹の筒の中など、細いものの中に入れて持ち運ぶことが出来る。また、周囲の環境によって、様々な異なった能力を備えた子狐――亜種が生まれることもある。
そう。雅澄は、管狐つかい、通称「くだもち」なのである。
「全く……とっさにこの子達を硬質化させたから、私もこの子達も無事だけど……やめてくれない? 本当に」
「……すまなかった」
主人に怒られた犬のような顔をして謝るアルフィ。しかし、雅澄の姿があったところには、黄色のモコモコが出来ているだけで、本人の姿は見えない。……苦しくないのだろうか?
「まぁ、いいわよ。この子達も大して怒っていないようだし」
雅澄の言葉で一斉にざわめくモコモコ。どうやら頷いている様だ。
「あぁ、本当に可愛いわ、この子達」
モコモコの中から幸せそうな声が漏れてくる。機嫌がかなりよさそうである。
――今なら、もう一つ気になっていたことも聞けるかもしれない。
そう思い、アルフィは雅澄に話しかけた。
「なぁ、アズミ。最後に一つ聞いていいか?」
「……一つだけよ? ウフフフ……」
モコモコの中から、雅澄の顔がにょきっと生えた。その顔は少し赤くなっていて、にやけている。大好きな狐達に囲まれて、機嫌は最高潮のようだ。
「何で政府は、そこまでクラーケンの排除に慎重に動いているんだ? ただの少し危険な大イカじゃねえか」
クラーケンは『外海の王』と呼ばれ、危険度がやや高めの野獣だ。ギルドに任せるには少々荷が重いと聞く。排除する程度なら、政府の人間一人二人に任せれば、一日で終わることであるはずだ。しかし、今回の作戦では、注意深く『周辺湖の凍結処理』まで入っている。……ただ事ではない。
「アズミは、政府の中ではやや上の人間だから、何か知ってんだろ?」
雅澄は口をつぐんだ。答えにあまり応じたくない――そう言いたげである。
しかし、すぐに諦めたような顔になって、口を開く。
「……一つだけ答えるって言ったものね。いいわよ、答えても。……今回のターゲットのクラーケンは、民間にばれるとちょっと厄介な子なのよ。簡単に言えば、失敗作かしら」
「失敗作? おい、それはどういう――」
「さてと、〝一つだけ〟答えたし、もう寝るわ。明日も早いし。そうそう、同行するって言ったけど、具体的には、一足早く先に湖に着いて、待ち伏せるっていうことだから。じゃあ、お休み、アル」
そういって、またモコモコの中に潜っていく雅澄。というか、あの中で寝るつもりなのだろうか?
こうなってしまうと、雅澄は朝まで起きない。アルフィはすることが無くなり、自分の部屋に戻って布団に潜り込んだ。
「やっぱり、アズミはそんな卑劣な奴じゃないよな」
そうしてアルフィは安堵したような声を呟き、眠りについたのだった。
☆ ☆ ☆
翌朝。雅澄達一行は村に向けて〝飛んでいた。〟
彼女らが乗っているのは、大人五人ほどが余裕で乗れるほど大きな管狐である。これは運送に適した管狐で、普段はこのように乗り物として雅澄などを乗せて飛び回っている。
「うわぁ! すごいですね、この子! アズミさんが操っているんですよね?」
「えぇ、そうよ。私のもう一つの能力なの」
「へぇ~、野獣を操るなんて、凄いです!」
「いや、この子は神獣なんだけどね……」
やれやれ、朝から元気なこった、あとアルフィは欠伸を漏らしながら思う。
湖まであと小一時間。
ザザン……
湖は、本当に野獣が潜んでいるのかを疑うほど静かだった。普段は活気があるのだろうと思われる村も、ひっそりと静まり返っている。人々は家の中へ引き篭もっているようだ。
「ここに、私のお父さんが……?」
「え、えぇ、そうよ。きっとここに現れるわ」
「でも、ここは私の村ですよ?」
「だ、大丈夫よ! 信じなさい!」
若干無理やり気味に答える雅澄。もしこれで現れなかったら、どう言い訳をするつもりなのだろう?
アルフィはサラを見た。その顔は若干曇っている。……村人達に酷い目にあわされたことを思い返しているのだろうか。
「……大丈夫だ、サラ。今は俺たちがいる。だから、安心しろ」
一瞬何を言われたのか分からず、キョトンとするサラ。しかし、すぐに納得したような表情になって頷く。
「……ありがとう、アル」
その時、雅澄がいきなり二人の手を取って、岩陰の方へ走り出した。
「おい、アズミ、いったいどうした――」
「誰かがこっちに来る。魔法使いのようだけど……政府が来るには早すぎる」
冷たい声で雅澄は答えた。こうなった雅澄は仕事モードに完全に切り替わり、うかうかと私語もできない。
ザッ――
砂が舞う音がして、雅澄達が元々いた場所に三人の人間が現れた。
「! お、お父さ――」
ガバッ
素早くサラの口を塞ぐ雅澄。サラはびっくりして体を縮こませる。
(静かに! 今すぐ出ていくわけにはいかないわ)
(で、でも……)
(安心して、ちゃんと会わせてあげるから)
そうして、岩陰から三人を覗き込む雅澄。まるでこちら側がスパイのようである。
見たところ、サラの父親と一緒にいる男女の二人組みは、ギルドのようである。
――アズミの予感、的中じゃねえか。
アルフィは感嘆の声を漏らす。
突然、ギルドの男性の方が、サラの父親を抱えて湖と反対方向へ走り出した。
ん? 一体何が――
バチバチバチバチッ!!
湖に電撃が走った。
(あっ、あいつ、何てことを!)
雅澄は苦虫を噛み潰したような顔になって女のギルドを睨みつけていた。
そんな雅澄の気も知らず、湖の前でガッツポーズを決める女のギルド。そして、湖から慟哭が響き、例のクラーケンが姿を現した。
雅澄が二人の方を見て、口早にそれぞれに指示を出す。
「サラっ、ここを動かないで! アル、行くわよ!」
「何ぃ?! 作戦が違――」
「かまわないわ! あのクラーケンがギルドに倒されることの方が政府にとってはマズいことなの!」
そういって、雅澄は岩陰から飛び出していった。
「……やれやれだな、本当によぉ!!」
続けて岩陰から飛び出していくアルフィ。
――戦闘が始まった。
中には「お久しぶり!」な方もおられるかも知れないですね(汗
とにかく、3人1チームでリレー小説をやることとなりました。
何故かオカルト方面に手が出てしまう困った野郎ですが、よろしゅうです^^
ではでは
バンッ
扉が乱暴に開かれ、中から少女が飛び出してきた。その勢いのままドタッとその場に倒れこむ。どうやら、追い出されたようだ。
「ちゃ、ちゃんと話を聞いてください! 確かに父は――」
「あぁ、だから言っているだろう、お譲さん。そんなやつ、ここには来ていない」
女の子の前には、一人の男が立っている。その身体は遠い昔によく見た黒のスーツに包まれている上にサングラスまでかけているので、どこのエージェントかと思うような風貌だ。
「そんな! 私の父は、確かに六日前に村を出発したんです! 政府に依頼を持って!」
「クラーケン退治、だったかな? ……そんな依頼を持ってきたやつは、ここには来ていない。帰れ」
そういって、男は少女に背を向けて、建物の中へ入っていった。
「待ってください! じゃあ、お父さんは――」
バタン
少女の声も空しく、扉は音を立てて閉まった。
「そんな…… じゃ、じゃあ、お父さんは本当に……」
段々と顔が青ざめていく少女。目は見開かれ、愕然とした表情が浮かんでいる。
そして、そのままその場にバタッと倒れて気絶してしまった。
☆ ☆ ☆
次に少女が目覚めたのは、布団の中だった。身体を起こして辺りを見回すと、どうやらここはどこかの部屋の中らしい。
薄暗い部屋の中、様々な家具が見える。座卓、座布団、本棚、畳……とりあえず、和室のようだ。本棚には大量の古書が入っていて、独特の匂いがそこから漂ってきていた。
ふと、少女は「何故、こんなところにいるのだろう」と考える。
――もしかして、誘拐された?
少女の歳は、見たところ年頃十五、六といったところだろうか。そういう少女が道端に倒れていて、よからぬことを考えた輩がそのまま部屋に連れ込むという状況は、決してありえない話ではない。
そう考えると居ても立ってもいられなくなったのか、少女は立ち上がり、出口らしき襖まで慌てて駆け出し、ぱっと開けた。
しかし、少女は逃げ出すことができなかった。
襖の向こうには、真っ黒な毛に身を包んだ大きな狼が立っていたからである。
「――?!」
一瞬、何が何だか分からなくなる少女。驚きのあまり腰が抜けてしまったのか、狼に背を向け四つん這いで元の部屋に戻ろうとする。
そのとき、狼の口がパックリと裂けた。
「目が覚めたのか。何があったかは知らんが、ご苦労なこった」
――狼が、しゃべった。
予想もしていないことが起こり、ますます訳が分からなくなる少女。後ろを振り返っても、少女に話しかけたと思われる人物はいない。そこには、一匹の狼が立っているだけだった。
立っている? そう、狼は人間であるかのように二本足で立っていた。犬がよたよたと立つような立ち方ではなく、しっかりと足を踏みしめた立ち方である。
「あぁ、驚かせちまったな。悪い。こんな格好だが、一応人間なんだ。――見てろよ?」
そういって、目を閉じる狼。すると、全身を包んでいた真っ黒な毛は見る見るうちに見えなくなり、だんだん褐色の肌が見えてきた。
まもなくして、元々狼が立っていた場所に、上半身裸のガッシリとした体格の男が現れた。
「――俺は、人狼のアルフィってんだ。アルって呼んでくれ」
パクパク
凄まじい勢いで、座卓の上に置かれた大量の白くて丸い食べ物が、少女の口の中へと消えていく。一体、どれほどの間食事を取っていなかったのだろうか。
「うまいか?」
口をモグモグとせわしなく動かして、アルフィの問いかけにコクコクと頷く少女。どうやら、その食べ物はお気に召したようだ。
座卓の上に白い皿だけが残った頃、少女は湯飲みに注がれた緑茶をゴクゴクと飲んで、ふぅ、と一息ついてようやく話し出した。
「……こんなに甘くておいしいものを食べたのは久しぶりです。ありがとうございます」
「礼を言うなら、アズミに言うんだな。……政府のビルの前で倒れていたお前を拾ったやつだ」
「あなたが助けてくれたのではないのですか?」
「違う。俺はお前を運んだだけだ」
そういってアルフィは顔を背けた。
「では、そのアズミさんは今どこに?」
キョロキョロと辺りを見回す少女。しかし、アルフィ以外に人の気配はない。
「今は出かけている。政府の緊急招集だ」
その言葉に、はっと息を呑む少女。数時間前の出来事が頭をよぎる。酷く冷たい声で「帰れ」と告げた黒スーツの男、行方不明の父、消えた大金――
「そういえば、何でお前、あんなところに倒れていたんだ?」
そう尋ねるのも最もである。政府の人間でもない余所者が、政府の建物の前に倒れていたのだ。当然、疑問にも思うだろう。
しかし、少女は迷った。
――この人に話してもいいのだろうか。確かに、命の恩人ではあるけれど、この人は政府の人。こんな話をすべきではない。
そのまま少女は口をつぐんでしまった。二人の間に沈黙が流れる。
その沈黙を破ったのは、アルフィのため息だった。
「ま、いいさ。話せない事情ってのは、誰にだってあることだ。ただ、困っているなら、手伝ってやりたかっただけだ」
その言葉を聞き、少女はちらりとアルフィの顔を見た。……とても真摯な顔をしている。
そんなアルフィを見て、少女はようやく決心をした。
「いえ、話します。愉快な話ではありませんが……」
そうして、少女は語り始めた。
六日前、父は、村の代表として政府に依頼を持っていく役目を負ったそうです。それを聞いて、私は父を誇りに思いました。だって、村の代表だなんて、凄いじゃないですか。
『三日で戻るよ。頼もしい人々を連れてな』
そうして、政府に渡す依頼料の金貨銀貨を持って村を出発しました。村人達は、父の道中の安全を願い、最後まで見送っていました。
ところが、ある疑惑が浮上しました。
父が出発した次の日、政府がある町へ商売に行っていた村の商人が、馬車に乗って帰ってきたんです。村人達は、『あいつとすれ違ったんなら、その自慢の馬車で送ってやればよかったのに』と言って笑いあいました。
しかし、商人の言葉は思いもよらないものだったのです。
『本当にあいつは政府に行ったのか? 俺は誰とも道をすれ違ったりしていない』
それを聞いて、村人達は大慌て。なぜなら、依頼料の金貨銀貨は、村人全員から集めたものだったからです。
村人達は、すぐに村長に報告しに行きました。しかし、村長は『商人が気付かなかっただけに違いない。それに、他の道を行ったのかも知れん』と言うだけで、全く疑うことはありませんでした。
でも、村人達は冷たかった!
『他の道って、政府へ安全に行く道はあの一本しかないよな』
『他の道には野獣がいっぱい潜んでいる。もしかして、そっちを通って襲われたのかも』
『バ~カ、あいつがそんなヘマをする訳がない。あいつは、逃げたんだよ』
『そうだ! きっとあいつは大金を持って逃げたに違いない! あいつは泥棒だ!』
『返してよ、私達の大事なお金! あの大泥棒の代わりに、あなた達が払いなさいよ!』
村人達はこぞって父を泥棒扱いして、家族である私達から、金目のものはもちろん、何もかもを奪っていったわ! 私が『もしかしたら、本当に商人が気付かなかったのかも』と言っても、聞かなかったの!
父が帰ってくると言った三日後。私は、からっぽの家の中で家族と一緒に父の帰りを待っていたわ。でも、父は帰ってこなかった。
お母さんは嘆き悲しんだ。『何であんな男と結婚なんかしたんだろう』って。私は、もういても立ってもいられなくなって、家を飛び出したの!
大人の足なら、政府までの道のりを往復するのに、ちょうど三日かかるわ。でも、私のような子供の足なら、片道で二日。それでも、私は父を探しにここにやってきた。
でも、実際に政府にやってきて父のことを聞くと、政府の人達は皆驚いたような顔になって『そんな男はここには来ていない』の一点張りで、私が反論をしても『帰れ』というだけだった! じゃあ、本当に父は泥棒だったっていうの?!
私は、そんなこと信じない! 父は盗みを働くような人じゃない! あの時の政府の対応は明らかに変だったわ。きっと政府は、何かを隠しているのよ! 父は政府に消されたに違いない! だから私は――
ハッと気がつき、少女はアルフィを見た。アルフィは目を丸くして、少女をぽかんと見ている。
「ご、ごめんなさい! やっぱり、政府であるあなたにこんなことを言うなんて……」
その言葉で、我に返ったような顔つきになるアルフィ。そして、そのままうつむいてしまった。
二人の間に、気まずい沈黙が流れる。
ふいに、アルフィの手がスッと少女に伸ばされた。少女はビクッとして体を縮こませる。
しかし、その手は優しく少女の頭に乗せられ、そのまま撫でていた。
「悪かったな、そんなことがあったなんて。……うちも、政府とかいっといて、たいしたことをやってねーんだなぁ、本当に。……すまない」
そういって、頭を垂れるアルフィ。その姿に、少女は驚きを隠せなかった。政府の人間は、例の黒スーツの男のように、冷たい人間しかいないと思っていたからだ。
「あ、あなたのせいではないです! だから、顔を上げてください。むしろ、こちらこそすみません、声を荒げてあんなことを……」
「いや、これは俺達政府の問題だ。だから謝る。すまない」
「いえいえ、元はと言えばうちの父が……」
「いや、政府が……」
「いえ、」
「いや、」
第一次謝罪対戦、勃発。両者間で繰り返される謝罪の応酬。そしてついに――
「あっはっはっはっはっは!」
「あはははははは!」
二人は耐え切れなくなって笑い出した。
「お前、結構強情なやつだなぁ!」
ヒイヒイ言って、畳に仰向けになりながらアルフィは言った。
「あなたもね、変な狼さん!」
「おっ、言うようになったじゃねえか、えーっと……名前、なんつったっけ?」
「そういえば、教えていませんでしたね。私の名前はサラと言います」
「そうか、サラか。ところで、サラ」
「はい、何ですか?」
「その……父親探すの、手伝ってもいいか?」
頬をかきながら恥ずかしそうに言うアルフィ。それを聞いて、サラは顔をパッと輝かせた。
「今、俺達は休暇期間に入っているんだ。だから、それを手伝うことぐらい容易い」
「い、いいんですか? ……ありがとうございます!」
「ただし、アズミがどういうかは分からねぇ。だから、アズミに聞いてからだ」
「そういえば、そのアズミさんって――」
ガラッ
その時引き戸が開き、やや小柄の女性が静かに入ってきた。
「おぉ、帰ったか、アズミ。何だったんだ結局」
「最初はテロリストの鎮圧だけだったんだけど、それが終わってから指令が下されたわ。まぁ、たいしたことじゃないから大丈夫よ。それより、あの子は……」
「おぉ、この通りピンピンしてるぜ。お前のお手製の大福もたっぷり食べたしな」
「そう。……あなた、名前は?」
突然話を振られて目を白黒させるサラ。それでもきちんとアズミに向き直り、問いに答える。
「え、えぇと、サラと言います。あ、あの、道端に倒れていたところを助けていただき、ありがとうございました!」
勢いよく頭を下げるサラ。勢い余って畳にでこをぶつけてしまうほどであった。
「いいのよ、別に。……私はアズミ。本名は、大滝雅澄よ。よろしくね。ところで、サラ。何であんなところに倒れていたの?」
「おっと、それについては俺が説明しよう」
サラが口を開こうとしたとたん、アルフィが割り込んできた。きっと、さっきの取り乱したサラの姿を考えたに違いない。サラはアルフィに任せることにした。
数分後。
「そう……つまり、あなたはその行方不明のお父さんを探してここに来たのね?」
「はい」
アルフィの話はうまい具合に要点がまとめられており、とても分かりやすくなっていた。もちろん、サラが取り乱した部分は除かれていた。……見た目に合わず、賢いのかもしれない。
「なぁ、アズミ。その……サラの父親探しさ、手伝ってやらねぇか? 今は休暇期間だし、問題ないだろ? だから……」
それを聞いてため息をつく雅澄。もの凄く何か言いたげな顔だ。
「あのねぇ……さっき聞いたでしょ? 指令が入ったのよ。いつの間にあなたは馬になったのかしら?」
「何ぃ?! ちょっと忘れてただけにもかかわらず酷い言い様だな!」
けんか腰で噛み付くアルフィ。しかし雅澄はそっぽを向いて再びため息をつく。かまう気は全く無いようである。
「お前、ちゃんと人の話を――」
「いいわよ、別に」
「……は?」
一瞬何を言われたのか分からず、目が点になるアルフィ。そんなアルフィにかまわず、雅澄はサラに話を振った。
「一応、仕事は入っているわ。でも大した事じゃないから、後回しにしても問題が無いの。だから、アルの言うとおり、あなたのお父さん探しを手伝うことにするわ。という訳で、よろしくね、サラ」
サラは話しがまとまったという事をやっと理解し、次の瞬間、笑顔をパッと咲かせた。
「ありがとうございます、アズミさん! こちらこそよろしくお願いします」
「ふふっ、いいわよそれくらい。容易い事だし。そうねぇ、明日の朝、早速出発してもいいかしら? ――あなたのお父さんがいる場所へ」
まるで必ずそこにサラの父親がいるとでも言うような口ぶりである。
「そ、そんなことが本当に分かるんですか?」
驚いているものの、やや疑いの気持ちを含んだ声を出すサラ。しかし、雅澄は微笑してサラリと答えた。
「分かるわよ? だって、私のは〝千里眼〟の魔法が使えるもの」
それを聞いて、サラは今度こそ純粋に驚いた表情を見せた。しかし、アルフィの顔つきはギョッとしたものに変わった。
「おい、アズミ。お前は魔法使いじゃモガァッ!」
言葉が途切れ、宙を舞うアルフィ。そのまま仰向けに畳の上に倒れこむ。まるで、透明人間に突然アッパーを喰らわされたかのような動きであった。
しかし、そんなアルフィには見向きもせず、彼女達は話し続ける。
「とにかく、明日は早いし、ゆっくり休んでね」
「はい。本当に、ありがとうございます」
最後にサラが深々と雅澄に礼をし、話は終わった。
もうすぐ夕暮れに差し掛かろうとしていた。
☆ ☆ ☆
その夜。
サラが最初に寝かされていた部屋に戻り、早々に眠りについた頃、雅澄とアルフィは座卓を挟んで向かい合って座っていた。しかし、お互いに話しかけようともせず、黙りこくったままである。二人を沈黙が包んでいた。
その沈黙を破ったのは、アルフィの方だった。
「どういうことだ」
その言葉はナイフのように冷たく鋭く尖っている。その調子で、アルフィは淡々と話を続ける。
「お前は、異能者ではあるが、魔法使いではない。お前が間違ってサラに言ったものかと思って正そうとしたら、お前は〝力〟を使って俺を黙らせたな? ……何故だ? 何故、サラを騙してまであいつの父親を探そうとする? 千里眼なんぞ持っていないのに」
異能者とは、魔力とは異なる力を操る者のことだ。例えば、この人狼のアルフィもその一人である。自在に人間の姿と狼の姿とを変化し分けるというのが、アルフィの〝力〟である。もちろん、これは狼男とは違う。狼男は〝満月の夜にしか完全な変化が出来ない〟ので、野獣に分類されるが、アルフィはそんなことに関係なく完全な変化が出来るので、異能者に分類される。もし、そのような条件があったとすれば、人語がしゃべれる野獣ということにされ、政府の研究所へ送られ、研究対象として毎日を過ごすことになっていただろう。
魔法使いではないし、千里眼も持っていない――確かにアルフィはそう言った。もしそれが本当であるなら、雅澄はサラを騙しているということになる。
しかし、雅澄の口から否定の言葉が飛び出ることは無かった。
長い沈黙の後、雅澄はようやく口を開いた。
「政府の人間しか知りえない情報が漏れたわ。『クラーケン排除及び周辺湖の凍結処理』という計画よ」
「クラーケン? どこかで聞いた話だな」
少し考えるアルフィ。確かにそういう話をつい最近聞いたはずだ。しかし、いつ、どこで、誰から聞いたんだ?
雅澄は話を続ける。
「それが分かったのは今日よ。……おそらく、漏れていたのは一週間以前のはずだわ。彼女の証言が正しいのならだけど」
「彼女?」
「そう。……ある少女が、今日政府にやって来て、こう尋ねたんだって。『父が六日前にクラーケン退治の依頼を持ってやって来たはずだ』ってね。それを聞いた職員は皆慌てたそうよ。一般人には知らせずに極秘でやってきたものを、民間の少女が知っていたのだから、当然よね。上は、スパイがいると考えたわ」
「おい、待てよ。もしかして、その少女って……」
心当たりにようやく見当がつき、アルフィの背中に冷たい汗が流れる。
そんな、いや、まさか――
「少女の名前は、サラっていうの」
「――――!」
アルフィは血の気が引いていく音を聞いたような気がした。道端に倒れていて助けた少女の父親が、自分達政府のスパイ――敵である可能性がある……すぐには信じられない話だ。
しかし、それを知っていても、アズミはサラに協力すると言った。と言う事は――
「政府の上層部は、私達に指令を下したわ。明日クラーケンがいる湖に派遣するグループに同行して、スパイ、もしくはその関係者を探し出せ、ということよ」
それを聞いて、アルフィの考えは確信に至った。
「つまり、アズミ。お前は、サラを利用してスパイを捕まえるつもり、なんだな?」
「ええ、そうよ」
ガキィンッ!
アズミの言葉を最後まで聞くこと無く、アルフィは立ち上がり、狼へと変化して殴りにかかった。変化した時の力は、普通の人間の約七十倍……まともに喰らえば即死である。
しかし、そんなアルフィの渾身の一撃も、雅澄には効かなかった。――雅澄の〝力〟に阻まれ、アルフィの拳は雅澄の顔の十センチ前のところで止まっている。
「――お前は、あいつの、サラの父親を思う気持ちを、そんな風に利用しちまうような奴だったんだな!」
鬼のような形相で、怒り狂った声で吠えるアルフィ。しかし、そんなアルフィとは対照的に、雅澄は冷ややかな目で暴れ狼を見ていた。
「落ち着きなさい、アル。大丈夫、彼女のお父さんは、スパイではないわ。本職のスパイなら、娘に極秘の情報を漏らすなんていうヘマはやらないし、ましてや家族から逃げ出す必要も無いもの」
それを聞いて、アルフィは残った理性で考える。
確かに、アズミの言う事はもっともだ。もし本当にスパイであるなら、そんなヘマをおかすはずが無い。少なくとも、そんな奴は、政府にはいない。
さらに雅澄は話を続ける。
「おそらく、サラの父親は、政府ではなくギルドに依頼に行ったのよ。本来なら、一端政府に依頼が来てからギルドに回すという方法をとっているのだけれど、最近、政府の信用も落ちてきているから、直接ギルドに向かったんだわ。でも、これは本当はやってはいけないことだから、娘や家族には嘘をついた。それが、今回の事の発端なのよ」
「…………」
「サラの話を思い返してみなさい。私達は極秘にやってきたから、『村人はクラーケンの存在に気づいていない』と思っていたけれど、サラの話では、村人は皆クラーケンの存在を知っているということになるわ」
確かにその通りだ。もし村人がクラーケンの存在を知らないのであれば、訳も分からずに金貨銀貨を集められたということになる。それはおそらくないだろう。つまり、村人はクラーケンの存在には気づいていたのだ。
「でも、おかしいわね……どうやって気づいたのかしら。まぁ、それは置いといて。とにかく、サラのお父さんはスパイでは無いわ。私がサラに協力すると言ったのは、サラのお父さんへの疑いを晴らすためよ。……政府の命令には反するけどね」
悪びれた様子も無く、アッサリと言い切る雅澄。そこには、人の気持ちを利用するような悪党はいない。いつも通りの雅澄が座っているだけだった。
高ぶった気持ちを静め、変化を解くアルフィ。その顔は申し訳ないという気持ちでいっぱいである。そして、
「……すまなかった」
そのまま深々と座卓にでこがつくぐらいまで頭を下げた。
「はぁ……いいわよ、別に。こっちも言い方が悪かったわ。……ごめんなさい」
そして雅澄も軽く頭を下げてアルフィに謝罪の言葉を述べる。
どうやら、無事和解したようだった。
「それにしても、酷いじゃない、アル。うちの子達こんなことをして……おいで」
雅澄がそう言った途端、アルフィの拳が止まったところ辺りから、わらわらと黄色いウナギの様なものが湧いて出てきて、雅澄の体にまとわりつく。
よく見ると、頭と思われる部分から、獣のような三角の耳が二つ、にょっきりと生えているのが分かる。――管狐だ。
管狐とは、遠い昔〝ニホン〟という国に存在したといわれる神獣の一種だ。体がウナギの様に細いので、笹の筒の中など、細いものの中に入れて持ち運ぶことが出来る。また、周囲の環境によって、様々な異なった能力を備えた子狐――亜種が生まれることもある。
そう。雅澄は、管狐つかい、通称「くだもち」なのである。
「全く……とっさにこの子達を硬質化させたから、私もこの子達も無事だけど……やめてくれない? 本当に」
「……すまなかった」
主人に怒られた犬のような顔をして謝るアルフィ。しかし、雅澄の姿があったところには、黄色のモコモコが出来ているだけで、本人の姿は見えない。……苦しくないのだろうか?
「まぁ、いいわよ。この子達も大して怒っていないようだし」
雅澄の言葉で一斉にざわめくモコモコ。どうやら頷いている様だ。
「あぁ、本当に可愛いわ、この子達」
モコモコの中から幸せそうな声が漏れてくる。機嫌がかなりよさそうである。
――今なら、もう一つ気になっていたことも聞けるかもしれない。
そう思い、アルフィは雅澄に話しかけた。
「なぁ、アズミ。最後に一つ聞いていいか?」
「……一つだけよ? ウフフフ……」
モコモコの中から、雅澄の顔がにょきっと生えた。その顔は少し赤くなっていて、にやけている。大好きな狐達に囲まれて、機嫌は最高潮のようだ。
「何で政府は、そこまでクラーケンの排除に慎重に動いているんだ? ただの少し危険な大イカじゃねえか」
クラーケンは『外海の王』と呼ばれ、危険度がやや高めの野獣だ。ギルドに任せるには少々荷が重いと聞く。排除する程度なら、政府の人間一人二人に任せれば、一日で終わることであるはずだ。しかし、今回の作戦では、注意深く『周辺湖の凍結処理』まで入っている。……ただ事ではない。
「アズミは、政府の中ではやや上の人間だから、何か知ってんだろ?」
雅澄は口をつぐんだ。答えにあまり応じたくない――そう言いたげである。
しかし、すぐに諦めたような顔になって、口を開く。
「……一つだけ答えるって言ったものね。いいわよ、答えても。……今回のターゲットのクラーケンは、民間にばれるとちょっと厄介な子なのよ。簡単に言えば、失敗作かしら」
「失敗作? おい、それはどういう――」
「さてと、〝一つだけ〟答えたし、もう寝るわ。明日も早いし。そうそう、同行するって言ったけど、具体的には、一足早く先に湖に着いて、待ち伏せるっていうことだから。じゃあ、お休み、アル」
そういって、またモコモコの中に潜っていく雅澄。というか、あの中で寝るつもりなのだろうか?
こうなってしまうと、雅澄は朝まで起きない。アルフィはすることが無くなり、自分の部屋に戻って布団に潜り込んだ。
「やっぱり、アズミはそんな卑劣な奴じゃないよな」
そうしてアルフィは安堵したような声を呟き、眠りについたのだった。
☆ ☆ ☆
翌朝。雅澄達一行は村に向けて〝飛んでいた。〟
彼女らが乗っているのは、大人五人ほどが余裕で乗れるほど大きな管狐である。これは運送に適した管狐で、普段はこのように乗り物として雅澄などを乗せて飛び回っている。
「うわぁ! すごいですね、この子! アズミさんが操っているんですよね?」
「えぇ、そうよ。私のもう一つの能力なの」
「へぇ~、野獣を操るなんて、凄いです!」
「いや、この子は神獣なんだけどね……」
やれやれ、朝から元気なこった、あとアルフィは欠伸を漏らしながら思う。
湖まであと小一時間。
ザザン……
湖は、本当に野獣が潜んでいるのかを疑うほど静かだった。普段は活気があるのだろうと思われる村も、ひっそりと静まり返っている。人々は家の中へ引き篭もっているようだ。
「ここに、私のお父さんが……?」
「え、えぇ、そうよ。きっとここに現れるわ」
「でも、ここは私の村ですよ?」
「だ、大丈夫よ! 信じなさい!」
若干無理やり気味に答える雅澄。もしこれで現れなかったら、どう言い訳をするつもりなのだろう?
アルフィはサラを見た。その顔は若干曇っている。……村人達に酷い目にあわされたことを思い返しているのだろうか。
「……大丈夫だ、サラ。今は俺たちがいる。だから、安心しろ」
一瞬何を言われたのか分からず、キョトンとするサラ。しかし、すぐに納得したような表情になって頷く。
「……ありがとう、アル」
その時、雅澄がいきなり二人の手を取って、岩陰の方へ走り出した。
「おい、アズミ、いったいどうした――」
「誰かがこっちに来る。魔法使いのようだけど……政府が来るには早すぎる」
冷たい声で雅澄は答えた。こうなった雅澄は仕事モードに完全に切り替わり、うかうかと私語もできない。
ザッ――
砂が舞う音がして、雅澄達が元々いた場所に三人の人間が現れた。
「! お、お父さ――」
ガバッ
素早くサラの口を塞ぐ雅澄。サラはびっくりして体を縮こませる。
(静かに! 今すぐ出ていくわけにはいかないわ)
(で、でも……)
(安心して、ちゃんと会わせてあげるから)
そうして、岩陰から三人を覗き込む雅澄。まるでこちら側がスパイのようである。
見たところ、サラの父親と一緒にいる男女の二人組みは、ギルドのようである。
――アズミの予感、的中じゃねえか。
アルフィは感嘆の声を漏らす。
突然、ギルドの男性の方が、サラの父親を抱えて湖と反対方向へ走り出した。
ん? 一体何が――
バチバチバチバチッ!!
湖に電撃が走った。
(あっ、あいつ、何てことを!)
雅澄は苦虫を噛み潰したような顔になって女のギルドを睨みつけていた。
そんな雅澄の気も知らず、湖の前でガッツポーズを決める女のギルド。そして、湖から慟哭が響き、例のクラーケンが姿を現した。
雅澄が二人の方を見て、口早にそれぞれに指示を出す。
「サラっ、ここを動かないで! アル、行くわよ!」
「何ぃ?! 作戦が違――」
「かまわないわ! あのクラーケンがギルドに倒されることの方が政府にとってはマズいことなの!」
そういって、雅澄は岩陰から飛び出していった。
「……やれやれだな、本当によぉ!!」
続けて岩陰から飛び出していくアルフィ。
――戦闘が始まった。