稚拙な文章から稚拙な文章まで、幅狭い分野で頑張ってます。
ギャグはいれてるつもりあんまりないんだけどねえ。
では、まあ、序章だし分かりにくいところもあるかと思いますが、よろしければお楽しみ下さい。
よろしければ、ってのはおかしいか。
フレイヤがある地区から北に3キロ程離れた"政府の誓い"という名の像が建つ行政広場で、高官による演説が行われていた。
それほどすばらしいというわけでもない演説に聞き入る聴衆は、総勢五百人に及ぶ。広場の周辺の国民ほとんど全員がここに来ていることになる。
別に強制参加というわけではない。ただ、政府の大規模な魔法による効果によって、演説による聴衆への「洗脳」が進んでいるのである。政府が開発した"潜在意識への干渉"による洗脳がなければ、今頃政府に町を統制する力は無かっただろう。
演説者の周りには一見誰も護衛がいないように見える。しかし、聴衆の中、演説者に近づくほどに私服警備員が多く潜んでいた。
そんな中、演説に聞き入る様子もなく、言い争う二人がいた。
「任務中なんだから離れろってっ」
その声に顔を向ける者は誰もいない。それほどまでに洗脳は進んでいるようだ。近くにいる警備員は、「ハァ……」と、小さくため息をつく。
「やーだー、私いっつも君と一緒にいるって決めたんだもん」
抑揚のない声で話す少女の声。それは聴衆の最後列から聞こえてくる。
彼ら二人は、聴衆ではなく政府の警備員だ。しかし、今の状態では、遠くから見るとただ場所をわきまえないバカップルにしか見えない。しかし、周りにいる警備員はいつものこと、と諦め顔である。
「お前なあ……」
「あ」
「は?」
少年が若干切れかかっていた時、唐突に少女がその後ろの民家に目を向ける。
「民家が爆発するよ。備えてー」
「は?」
「3、2、1」
空間が一瞬歪んだ。次の瞬間、すさまじい爆風が民衆を襲う。
「やっぱり来たか……くそっ!」
少年は右手を爆風の方へ向け、意識を集中させる。
彼の周りの空気が乾燥し始めた。
それは、彼の魔法の効果である。周りの水素を収束、増大させ、魔力を行使して、半ば無理矢理氷を作り出す。今回の場合は、彼はかなりの無理をして氷の壁を作り出したのだ。
「っ……」
「大丈夫?」
彼にしがみつくようにしている彼女は、間延びしたあまり深刻そうではない声を出しながらわずかに神経を集中させ、彼に魔力を送り込む。
彼は生まれつき魔法を使える体質である。それ故に、魔力が一定量無い空間では生きることができない。さっき一人で魔力を大量消費した彼の周りの空間には魔力がほとんど無い状態だ。つまり、彼は少しまずい状況にあったわけである。
「ああ、サンキュな、キユ」
「問題ないよー、いつものことだしー」
洗脳の効果が切れてしまったのか、徐々に民衆が危険だと自覚しだす。とたんにパニック状態に陥った民衆は四方八方へ我先にと走り出す。
「まずっ」
彼は氷の壁を四方に作り、自分たちの周りを囲む。
「はぁ……」
彼は自分が作った氷の壁にもたれ掛かる。
「で、外はどうなってる?」
外から悲鳴や怒声が聞こえてくる中、だいたいの状況を把握しながらも彼はキユに問いかける。
「マルチなタスクはむいてないのー」
そういいながら、彼女はこめかみに右手の人差し指を当てて、
「周りの警備員は押されたりしてあんまりうまく動けてないみたい。防御魔法で演説者は無事。爆破テロはやっぱりギルドねー。あの過激さは多分、バレットさんとこねー」
バレット、というのは数ある中で最も過激で残酷な仕事を引き受けるギルドである。最近のリーダーの交代で、ギルドとはもはや名ばかりのテロ集団と成り果てていた。
「またかよ……」
彼は舌打ちをして、続きを促す。
「それでそれでー、えとー、そーだね。ここら一帯はパニック状態。それによるけが人たーくさん。それで最も旬なのがー……」
「旬なのが、なんだよ?」
彼の眉間に皺が寄る。彼女の言う旬、というのはあまりいい意味で使われることはないらしい。
「この氷をぐるりと一周分、テロりんがいっぱいいるーってことね」
「はぁっ!?先言えよっ」
「そろそろ衝撃来るよー」
「ちょっと待っ」
と、キユの体が光を放つ。
彼女の持つ属性は光である。
「目を一生使えなくする程度には光っちゃうからー、目、つむった上に腕をぴったりくっつけといてねー」
さりげなく恐ろしいことを言う彼女に従いながら、もう片方の手で、政府支給の拳銃に手をやる。
「さーん、にーい、いーち」
氷の割れる音と同時に、腕で目を塞いでいてもわかるほどの光が放出される。
目くらましというには残酷すぎる一撃だった。一瞬にして囲んでいたバレットのギルド員たちの目は使いものにならなくなる。
気を失った者もいるようだ。
周りにはさっきまでいた聴衆は一人もいなかった。当然ながら演説者ももういない。彼女が周りを考慮してから放ったのかどうかは微妙だが、とりあえずはギルド員以外に光による被害者はいないらしい。
が、しかし、異常な発光に気づいた別のギルド員たちが駆け寄ってくる。
「やばっ逃げるぞっ」
「もう一回光ろうか?」
「無用な傷害は避けるのが信条だっ」
叫びながら彼は政府の基地へと急ぐ。
彼女はその後ろについて、相変わらずのんきな表情で走っていく。
二人の手は、自然につながれていた。
「ぜぇ……ぜぇ……」
彼は追っ手がいないか確認すると、壁にもたれ掛かる。
「しつけぇな、あいつらも」
「だねー。あ、追っ手はもう諦めたみたいだよー。遠ざかって行ってる」
彼女は空を見上げてそんなことを言う。
彼は最初は「適当なこと言いやがって……」と信じていなかったのだが、回数を重ねてもそれがはずれることはなかった。
彼女が未来予知のようなことをできるのは、主に魔力の変容が関係している。
彼女の周りには常に"彼女の性質となった"魔力が散布される。その魔力が何者かの力の行使によって変容すると、彼女が"感覚として"理解する。それを彼女が"考える"ことにより、脳が理解する。さらに"彼女のやる気"によって言葉として発せられると、ようやくレーダーのような機能を発揮する。
彼女曰く、"人間が"覚悟を決めたり、気合いを入れる瞬間だったり、とにかく力を使う行為をしたときは自然と魔力が放出される、ということだが、"人間側"の研究では、今のところその事実は確認されていない。そのため研究者は、彼女の言う魔力はこちらの定義とは別、という見解が進んでいる。
「さってと……本部へ戻るか」
想像以上にギルド員がしつこかったのか、彼らは本部への道とは大幅に逸れていた。彼は嘆息しながら、元の道に戻ろうと歩き出す。
「ねえいっくん」
キユが彼に呼びかける。いっくんというのは彼女が彼を呼ぶときのニックネームだ。本名は一ノ瀬 秋(いちのせ しゅう)という。
「なんだよ」
彼は面倒そうに立ち止まり、ゆったりと振り返る。
「手ー、つなごーよ」
「嫌だ」
彼はそのまま正面に向き直り、歩きだそうとする。
「さっきはつないでくれたのにー?」
「さっきは非常事態だ。今はそうじゃないだろ?」
彼はそれだけ言うと、そのまま歩きだしてしまった。
「冷たいなー。いつもどーりだけど」
彼女は小走りで彼の横につく。
「暑苦しいぞ」
彼は一歩分離れる。
「だいじょーぶ、私魔力の固まりだもん」
彼女はそれを追いつめるように一歩近づく。
「気持ちの問題でアウトだ」
彼は腕をブンブン振って振り払う。
「あら、それ程までに私は魅力的ー?」
彼女はそれでも、離れない。
「残念ながら逆だ」
彼はそういいながらも諦めたのか、空を見上げて嘆息する。
「えー」
彼女は嬉しそうに、腕を絡める。
「後三十秒な」
「やだ」
「即答かよ……」
結局本部に戻っても彼の腕から彼女が離れることはなかったのだった。
「おまえも大変だな……」
本部に戻ってくるなり、いきなり秋に声をかけてきたのは秋の数少ない友人である荒井 亮平(あらい りょうへい)だ。
「わかってくれるか、亮平……」
「ああ、今すぐ殴りとばしたい気持ちでいっぱいだ」
「魔物に懐かれてるののどこがいいんだよ畜生っ」
「魔物でもかわいい女の子だ畜生がっ、俺にもその幸せが訪れてほしいっ、しかし訪れないっ! これ鉄則!」
秋は早々に諦めたのか、自虐ネタを披露して密かに俺独り身ですよアピールをする亮平を無視して、政府本部の休憩室に入る。
「何か指令入ってないのー?」
魔物と言われてあまり気にすることは無いようだ。それは、実際彼女が"魔物"であることを自覚した上で、そんなことはどうでもいいと思っているからこそなのだろうか。
はっきりと言うと、彼女は魔物だ。魔物の定義は、まず大まかに分けると、魔力によって生成されてしまった体であること、または魔力が原生生物を媒体として凶暴、巨大化してしまうことの二つだ。彼女の場合は前者で(政府の推測ではそうなっている)、なおかつ魔物としては特異な言語能力まで備えている。この時点でもうすでに政府の研究対象となり得るのだが、それだけでなく、彼女は人型で、その上恋愛感情まで備わっている。なのになぜ研究ばっかりの毎日じゃないのかというと、その恋愛感情が問題だった。その恋愛感情は、秋に向けられている。そして、彼女の覚悟はすさまじかった。つけねらう政府に向かって一言「私といっくんを離ればなれにしちゃったら自ら魔力全部放出しちゃって自滅するよー?もっちろん、いっくんと一緒に」と、言い放ったのである。その言葉にいっくんこと秋はいつも以上にげんなりとしていたそうだ。
それはともかく、上記の理由で彼女は悠々と生存している。
「(あー、めんどくせえな……)」
彼は無言で休憩室の指令板を操作する。指令板というのは自分の指令番号とアルファベットランダム十五文字のパスワードを入力することによって指令があるかを確認できる端末である。政府本部の地下に蓄積している魔力を使用しているため、できるだけ短時間での使用を心がけるようにとの注意書きが毎回表示される。
「ん……?」
一つ、指令が入っている。
「なんだ?『クラーケン排除及び周辺湖の凍結処理』……?」
「(政府が無償でこんなことをするとは思えない……だとしたら、阻止するべきか……?)」
秋は考えを巡らせる。
「(あの湖を凍結処理って、なにするつもりなんだよ……。えーっと、凍結処理したら……魚がとれなくなる。俺、魚食う機会減る。それは、ダメ。よし、おっけー、阻止だ)」
秋はさらに考えを巡らせる。
「(阻止するためにはどうする?政府が大義名分としているのはクラーケンの駆除だ。とすれば先に誰かがクラーケンを殺してくれりゃいい。ってことでそこの村人からギルドに依頼を出してもらうしかねえ……かな?)」
秋は静かに立ち上がり、休憩室を出る。
「(決行日は八日後。なら今日のうちにここを出て頼み込めばまあ……なんとかなるか)」
「ちょっとー、いっくん?」
「後で話す」
秋がそれだけ話すと、それっきりキユは何も言わなくなった。
「たのむっ。このままじゃ湖の魚ががとれなくなっちまうんだってっ」
秋はここの村長と顔なじみだった。一度任務で来たときに、できるだけ親しくしておいたのである。
「んー、まあ、この前の依頼でたすけてもらったし……まあ、いいだろ、明日にでも若いのギルドに送るよ。んで、そのクラーケンってのはうまいのかい?」
「ん?ああ……元々がタコだかイカだかそんなのだし、焼けばおいしいんじゃねーの?」
実は、村人でさえ「最近魚の量ちょっと少ないなー」くらいにしか感じず、クラーケンのクの字すら知らなかったらしい。
「それと……一芝居打つように頼んでくれたら嬉しいんだけど……」
村長はため息をひとつついて、
「注文が多いね……なんだい?」
「依頼しに行く奴には『政府にお願いしても動いてくれなかった』っていう旨を伝えておいてもらう。そんでもって、この騒動が収まるまでの間は、村の誰も外出しないようにしてほしい」
「っ、そんな、漁はどうするんだっ!?」
「大丈夫だって。クラーケン、焼けばおいしくいただけるだろ?」
秋が外にでるなり、キユはため息をついた。
「あんな嘘ついてよかったのー?」
「んあ?」
「クラーケン、魔力ででかくなったんだからー、せいぜい元の大きさのめっちゃめちゃなのが残るだけだよ?」
避難するような目で見るキユに、秋は悪びれた様子もなく言う。
「これからずっと漁ができなくなるよりかはマシだろ」
「そーだけどー」
「ま、そうじゃなけりゃ、俺の首が吹っ飛ぶかなんかするだけだよ」
秋が冗談混じりに放った言葉に、キユは敏感に反応した。
「冗談でもそんなこと言うなっこのバカ」
キユが秋の頬をつねる。
秋はそれを強引に振り払い、歩き出す。
「本気で怒ってるんだからー」
キユは秋の腕をつかんで、歩みを止めさせる。
「わ、悪かったよ」
いつもには見られない剣幕に少し引き気味な秋。
「ほーらー、手つなぐよ」
「は、はい……ってそれとこれとは別だ」
秋は差し出しかけた手をあわてて引っ込めるとそのまま再び歩き出す。
「かしこまったいっくん、かっわいー」
秋は、その言葉にため息だけで返した。
「あ、怒らせちゃったー?」
それを境に、秋はしばらく口を利かなかったようだ。
指令決行日。氷属性の魔法が使える者を主として編成された少数精鋭の政府軍は村へ向かって歩いていた。
その政府軍の中に、秋達はいる。
「あつーい……いっくん、氷出してー」
「おまえ魔力の固まりだから大丈夫だろ、おとなしくしとけよ」
「とけちゃうー」
「おまえは氷じゃねーだろ……」
非常に切れの無いつっこみで会話が途切れる。
それは"政府にとっての"緊急事態が唐突に訪れたからだ。
「おい、クラーケンがもう殺りあってるぞ!」
その報告と同時、思わず秋達の顔がにやけたことを知る者は、誰もいない。