どうもしかばねです。
稚拙な文章から稚拙な文章まで、幅狭い分野で頑張ってます。
ギャグはいれてるつもりあんまりないんだけどねえ。
では、まあ、序章だし分かりにくいところもあるかと思いますが、よろしければお楽しみ下さい。
よろしければ、ってのはおかしいか。






 フレイヤがある地区から北に3キロ程離れた"政府の誓い"という名の像が建つ行政広場で、高官による演説が行われていた。
 それほどすばらしいというわけでもない演説に聞き入る聴衆は、総勢五百人に及ぶ。広場の周辺の国民ほとんど全員がここに来ていることになる。
 別に強制参加というわけではない。ただ、政府の大規模な魔法による効果によって、演説による聴衆への「洗脳」が進んでいるのである。政府が開発した"潜在意識への干渉"による洗脳がなければ、今頃政府に町を統制する力は無かっただろう。
 演説者の周りには一見誰も護衛がいないように見える。しかし、聴衆の中、演説者に近づくほどに私服警備員が多く潜んでいた。
 そんな中、演説に聞き入る様子もなく、言い争う二人がいた。
「任務中なんだから離れろってっ」
 その声に顔を向ける者は誰もいない。それほどまでに洗脳は進んでいるようだ。近くにいる警備員は、「ハァ……」と、小さくため息をつく。
「やーだー、私いっつも君と一緒にいるって決めたんだもん」
 抑揚のない声で話す少女の声。それは聴衆の最後列から聞こえてくる。
 彼ら二人は、聴衆ではなく政府の警備員だ。しかし、今の状態では、遠くから見るとただ場所をわきまえないバカップルにしか見えない。しかし、周りにいる警備員はいつものこと、と諦め顔である。
「お前なあ……」
「あ」
「は?」
 少年が若干切れかかっていた時、唐突に少女がその後ろの民家に目を向ける。
「民家が爆発するよ。備えてー」
「は?」
「3、2、1」
 空間が一瞬歪んだ。次の瞬間、すさまじい爆風が民衆を襲う。
「やっぱり来たか……くそっ!」
 少年は右手を爆風の方へ向け、意識を集中させる。
 彼の周りの空気が乾燥し始めた。
 それは、彼の魔法の効果である。周りの水素を収束、増大させ、魔力を行使して、半ば無理矢理氷を作り出す。今回の場合は、彼はかなりの無理をして氷の壁を作り出したのだ。
「っ……」
「大丈夫?」
 彼にしがみつくようにしている彼女は、間延びしたあまり深刻そうではない声を出しながらわずかに神経を集中させ、彼に魔力を送り込む。
 彼は生まれつき魔法を使える体質である。それ故に、魔力が一定量無い空間では生きることができない。さっき一人で魔力を大量消費した彼の周りの空間には魔力がほとんど無い状態だ。つまり、彼は少しまずい状況にあったわけである。
「ああ、サンキュな、キユ」
「問題ないよー、いつものことだしー」
 洗脳の効果が切れてしまったのか、徐々に民衆が危険だと自覚しだす。とたんにパニック状態に陥った民衆は四方八方へ我先にと走り出す。
「まずっ」
 彼は氷の壁を四方に作り、自分たちの周りを囲む。
「はぁ……」
 彼は自分が作った氷の壁にもたれ掛かる。
「で、外はどうなってる?」
 外から悲鳴や怒声が聞こえてくる中、だいたいの状況を把握しながらも彼はキユに問いかける。
「マルチなタスクはむいてないのー」
 そういいながら、彼女はこめかみに右手の人差し指を当てて、
「周りの警備員は押されたりしてあんまりうまく動けてないみたい。防御魔法で演説者は無事。爆破テロはやっぱりギルドねー。あの過激さは多分、バレットさんとこねー」
 バレット、というのは数ある中で最も過激で残酷な仕事を引き受けるギルドである。最近のリーダーの交代で、ギルドとはもはや名ばかりのテロ集団と成り果てていた。
「またかよ……」
 彼は舌打ちをして、続きを促す。
「それでそれでー、えとー、そーだね。ここら一帯はパニック状態。それによるけが人たーくさん。それで最も旬なのがー……」
「旬なのが、なんだよ?」
 彼の眉間に皺が寄る。彼女の言う旬、というのはあまりいい意味で使われることはないらしい。
「この氷をぐるりと一周分、テロりんがいっぱいいるーってことね」
「はぁっ!?先言えよっ」
「そろそろ衝撃来るよー」
「ちょっと待っ」
 と、キユの体が光を放つ。
 彼女の持つ属性は光である。
「目を一生使えなくする程度には光っちゃうからー、目、つむった上に腕をぴったりくっつけといてねー」
 さりげなく恐ろしいことを言う彼女に従いながら、もう片方の手で、政府支給の拳銃に手をやる。
「さーん、にーい、いーち」
 氷の割れる音と同時に、腕で目を塞いでいてもわかるほどの光が放出される。
 目くらましというには残酷すぎる一撃だった。一瞬にして囲んでいたバレットのギルド員たちの目は使いものにならなくなる。
 気を失った者もいるようだ。
 周りにはさっきまでいた聴衆は一人もいなかった。当然ながら演説者ももういない。彼女が周りを考慮してから放ったのかどうかは微妙だが、とりあえずはギルド員以外に光による被害者はいないらしい。
 が、しかし、異常な発光に気づいた別のギルド員たちが駆け寄ってくる。
「やばっ逃げるぞっ」
「もう一回光ろうか?」
「無用な傷害は避けるのが信条だっ」
 叫びながら彼は政府の基地へと急ぐ。
 彼女はその後ろについて、相変わらずのんきな表情で走っていく。
 二人の手は、自然につながれていた。



「ぜぇ……ぜぇ……」
 彼は追っ手がいないか確認すると、壁にもたれ掛かる。
「しつけぇな、あいつらも」
「だねー。あ、追っ手はもう諦めたみたいだよー。遠ざかって行ってる」
 彼女は空を見上げてそんなことを言う。
 彼は最初は「適当なこと言いやがって……」と信じていなかったのだが、回数を重ねてもそれがはずれることはなかった。
 彼女が未来予知のようなことをできるのは、主に魔力の変容が関係している。
 彼女の周りには常に"彼女の性質となった"魔力が散布される。その魔力が何者かの力の行使によって変容すると、彼女が"感覚として"理解する。それを彼女が"考える"ことにより、脳が理解する。さらに"彼女のやる気"によって言葉として発せられると、ようやくレーダーのような機能を発揮する。
 彼女曰く、"人間が"覚悟を決めたり、気合いを入れる瞬間だったり、とにかく力を使う行為をしたときは自然と魔力が放出される、ということだが、"人間側"の研究では、今のところその事実は確認されていない。そのため研究者は、彼女の言う魔力はこちらの定義とは別、という見解が進んでいる。
「さってと……本部へ戻るか」
 想像以上にギルド員がしつこかったのか、彼らは本部への道とは大幅に逸れていた。彼は嘆息しながら、元の道に戻ろうと歩き出す。
「ねえいっくん」
 キユが彼に呼びかける。いっくんというのは彼女が彼を呼ぶときのニックネームだ。本名は一ノ瀬 秋(いちのせ しゅう)という。
「なんだよ」
 彼は面倒そうに立ち止まり、ゆったりと振り返る。
「手ー、つなごーよ」
「嫌だ」
 彼はそのまま正面に向き直り、歩きだそうとする。
「さっきはつないでくれたのにー?」
「さっきは非常事態だ。今はそうじゃないだろ?」
 彼はそれだけ言うと、そのまま歩きだしてしまった。
「冷たいなー。いつもどーりだけど」
 彼女は小走りで彼の横につく。
「暑苦しいぞ」
 彼は一歩分離れる。
「だいじょーぶ、私魔力の固まりだもん」
 彼女はそれを追いつめるように一歩近づく。
「気持ちの問題でアウトだ」
 彼は腕をブンブン振って振り払う。
「あら、それ程までに私は魅力的ー?」
 彼女はそれでも、離れない。
「残念ながら逆だ」
 彼はそういいながらも諦めたのか、空を見上げて嘆息する。
「えー」
 彼女は嬉しそうに、腕を絡める。
「後三十秒な」
「やだ」
「即答かよ……」
 結局本部に戻っても彼の腕から彼女が離れることはなかったのだった。


「おまえも大変だな……」
 本部に戻ってくるなり、いきなり秋に声をかけてきたのは秋の数少ない友人である荒井 亮平(あらい りょうへい)だ。
「わかってくれるか、亮平……」
「ああ、今すぐ殴りとばしたい気持ちでいっぱいだ」
「魔物に懐かれてるののどこがいいんだよ畜生っ」
「魔物でもかわいい女の子だ畜生がっ、俺にもその幸せが訪れてほしいっ、しかし訪れないっ! これ鉄則!」
 秋は早々に諦めたのか、自虐ネタを披露して密かに俺独り身ですよアピールをする亮平を無視して、政府本部の休憩室に入る。
「何か指令入ってないのー?」
 魔物と言われてあまり気にすることは無いようだ。それは、実際彼女が"魔物"であることを自覚した上で、そんなことはどうでもいいと思っているからこそなのだろうか。
 はっきりと言うと、彼女は魔物だ。魔物の定義は、まず大まかに分けると、魔力によって生成されてしまった体であること、または魔力が原生生物を媒体として凶暴、巨大化してしまうことの二つだ。彼女の場合は前者で(政府の推測ではそうなっている)、なおかつ魔物としては特異な言語能力まで備えている。この時点でもうすでに政府の研究対象となり得るのだが、それだけでなく、彼女は人型で、その上恋愛感情まで備わっている。なのになぜ研究ばっかりの毎日じゃないのかというと、その恋愛感情が問題だった。その恋愛感情は、秋に向けられている。そして、彼女の覚悟はすさまじかった。つけねらう政府に向かって一言「私といっくんを離ればなれにしちゃったら自ら魔力全部放出しちゃって自滅するよー?もっちろん、いっくんと一緒に」と、言い放ったのである。その言葉にいっくんこと秋はいつも以上にげんなりとしていたそうだ。
それはともかく、上記の理由で彼女は悠々と生存している。
「(あー、めんどくせえな……)」
 彼は無言で休憩室の指令板を操作する。指令板というのは自分の指令番号とアルファベットランダム十五文字のパスワードを入力することによって指令があるかを確認できる端末である。政府本部の地下に蓄積している魔力を使用しているため、できるだけ短時間での使用を心がけるようにとの注意書きが毎回表示される。
「ん……?」
 一つ、指令が入っている。
「なんだ?『クラーケン排除及び周辺湖の凍結処理』……?」
「(政府が無償でこんなことをするとは思えない……だとしたら、阻止するべきか……?)」
 秋は考えを巡らせる。
「(あの湖を凍結処理って、なにするつもりなんだよ……。えーっと、凍結処理したら……魚がとれなくなる。俺、魚食う機会減る。それは、ダメ。よし、おっけー、阻止だ)」
 秋はさらに考えを巡らせる。
「(阻止するためにはどうする?政府が大義名分としているのはクラーケンの駆除だ。とすれば先に誰かがクラーケンを殺してくれりゃいい。ってことでそこの村人からギルドに依頼を出してもらうしかねえ……かな?)」
 秋は静かに立ち上がり、休憩室を出る。
「(決行日は八日後。なら今日のうちにここを出て頼み込めばまあ……なんとかなるか)」
「ちょっとー、いっくん?」
「後で話す」
 秋がそれだけ話すと、それっきりキユは何も言わなくなった。



「たのむっ。このままじゃ湖の魚ががとれなくなっちまうんだってっ」
 秋はここの村長と顔なじみだった。一度任務で来たときに、できるだけ親しくしておいたのである。
「んー、まあ、この前の依頼でたすけてもらったし……まあ、いいだろ、明日にでも若いのギルドに送るよ。んで、そのクラーケンってのはうまいのかい?」
「ん?ああ……元々がタコだかイカだかそんなのだし、焼けばおいしいんじゃねーの?」
 実は、村人でさえ「最近魚の量ちょっと少ないなー」くらいにしか感じず、クラーケンのクの字すら知らなかったらしい。
「それと……一芝居打つように頼んでくれたら嬉しいんだけど……」
 村長はため息をひとつついて、
「注文が多いね……なんだい?」
「依頼しに行く奴には『政府にお願いしても動いてくれなかった』っていう旨を伝えておいてもらう。そんでもって、この騒動が収まるまでの間は、村の誰も外出しないようにしてほしい」
「っ、そんな、漁はどうするんだっ!?」
「大丈夫だって。クラーケン、焼けばおいしくいただけるだろ?」



 秋が外にでるなり、キユはため息をついた。
「あんな嘘ついてよかったのー?」
「んあ?」
「クラーケン、魔力ででかくなったんだからー、せいぜい元の大きさのめっちゃめちゃなのが残るだけだよ?」
 避難するような目で見るキユに、秋は悪びれた様子もなく言う。
「これからずっと漁ができなくなるよりかはマシだろ」
「そーだけどー」
「ま、そうじゃなけりゃ、俺の首が吹っ飛ぶかなんかするだけだよ」
 秋が冗談混じりに放った言葉に、キユは敏感に反応した。
「冗談でもそんなこと言うなっこのバカ」
 キユが秋の頬をつねる。
 秋はそれを強引に振り払い、歩き出す。
「本気で怒ってるんだからー」
 キユは秋の腕をつかんで、歩みを止めさせる。
「わ、悪かったよ」
 いつもには見られない剣幕に少し引き気味な秋。
「ほーらー、手つなぐよ」
「は、はい……ってそれとこれとは別だ」
 秋は差し出しかけた手をあわてて引っ込めるとそのまま再び歩き出す。
「かしこまったいっくん、かっわいー」
 秋は、その言葉にため息だけで返した。
「あ、怒らせちゃったー?」
 それを境に、秋はしばらく口を利かなかったようだ。



 指令決行日。氷属性の魔法が使える者を主として編成された少数精鋭の政府軍は村へ向かって歩いていた。
 その政府軍の中に、秋達はいる。
「あつーい……いっくん、氷出してー」
「おまえ魔力の固まりだから大丈夫だろ、おとなしくしとけよ」
「とけちゃうー」
「おまえは氷じゃねーだろ……」
 非常に切れの無いつっこみで会話が途切れる。
 それは"政府にとっての"緊急事態が唐突に訪れたからだ。
「おい、クラーケンがもう殺りあってるぞ!」
 その報告と同時、思わず秋達の顔がにやけたことを知る者は、誰もいない。

どうも、色々あって出張ってまいりました、笹原です。


別でブログやっているけれどこの話を書き始めるにあたって不都合(働かない)が発生したため、全員の戒めのためにブログを作ることと相成りました。


別に堅苦しい文章が好きとか、そういうわけではないんですが、どうにも堅くなります。


……別に引っ張っても特に何もないのでササッと本編入ります。

一応第一話ですが、取っつきにくいところは勘弁してください。


ちなみに、私自身はあまりシリアス書くのは得意ではなかったり。





 カランカラン
 出入り口の扉につけられたベルが鳴り、酒場の中へ人の入場を知らせる。
 カードゲームをしていた数人が、フードをかぶった入場者を向く。
「こんちわー。おっちゃんたち、元気ー?」
 入ってきた人物はフードを取り、周囲を見回しながら声をかけた。途端、中の空気が柔らかくなった。
「よぉ、イナミか。今回は無事だったのか」
「マルガスのおっちゃん、帰ってきたばっかの女の子に、それはないんじゃないかなぁ」
 真っ先に話しかけてきたオヤジに、イナミと呼ばれた少女は苦笑いを浮かべる。
 そこへもう一人、少女よりいくらか大人びた少年が寄ってきた。
「やあ、カヤちゃん。今日も一段とカワイイね。今回の依頼は大丈夫だったかい?」
「あぁ、ハイアの兄ちゃん。相変わらず言動一つ一つがキモいね。私は全く問題ないよ」
「そ、そうか。それは良かった。ところで、次に予定は入っているのかな? もし良かったら、僕と――」
「え? あー……イヤ。なんか変な事されそうだし」
 少年を一蹴して、少女は酒場の奥へ入っていく。
 カウンターを抜け、通路を通り、割り振られた自分の部屋へ入ろうと鍵を取り出そうとしたとき、聞きなれない声に気付いた。
「んー? そこ、誰か居るの?」
 接客室と書かれたプレートの下がる、実質的には仮眠室としてしか機能していない部屋の扉を、少女は無断で無遠慮に開ける。
「だから、そういう類の依頼は政府に当たってくれ。ギルドだけでは動きかねる」
「政府にはもう見捨てられたんです! 頼みの綱はココだけなんです、お願いします!」
 そこには、頭を下げて懇願する男性と、それを冷徹に追い返そうとする、少女にとっては見知った顔が居た。
「あれ、チーフ? 何やってんの?」
「ん……ああ、伊波か。どうした、もう依頼から帰ったのか」
「まぁね。あ、はい、報奨金。約束どおり、半分は私の里に送ってよ」
「ああ、分かっている」
 頭を下げる男性をそっちのけで行われる会話に、男性は戸惑いを見せるしかない。
「あの……そちらの女性は? ひょっとして娘さんですか?」
「違う。俺が子持ちに見えるか?」
「い、いえ……」
 何の気なしに口から出た男性の言葉は、手加減無く両断された。
「そんで、チーフ。何の話してたの?」
「こいつが依頼申請に来たんだが、ギルドの管轄外でな。引き取り願ってるところだ」
「へー。依頼ってどんな?」
「こいつの住んでいる地域に、野獣が出現したらしい」
「何だ、そのくらい引き受けてあげれば良いじゃん」
 少女の一言に、チーフは面倒くさそうに溜息をついた。
「出てきたのが、クラーケンなんだとよ」
「え…………」
 クラーケンといえば、『外海の王』とも呼ばれる化けイカだ。その大きさは、小さいものでも優に七十メートルを超えるといわれている。
「な? 俺達ギルドの管轄外だろ?」
 このように、非常に危険度の高い野獣の駆除等の大きな仕事は基本的に、政府がその被害を受けている地域から依頼を受けて駆除することになっている。ギルドというものは、本来はもっと小さな野獣や遺跡探索を主とする集団だ。クラーケン退治なんてやっていられない。
「そこを何とか! 報酬は弾みますから!」
「そんな危険な仕事に、ギルドメンバーを向かわせることはできない。政府が動かないなら、何か理由もあるんだろう。諦めるか、他を当たってくれ」
「ねえ、報酬ってどれぐらい?」
 チーフが無情な言葉を投げかけたと同時に、少女が呟いた。チーフが少女を「お前まさか……」といでも言いたげな目で見ている。
「村人全員から寄付で集めました。私たちが出せるのはコレだけです」
 ゴトリ、と音を立てて男性が置いたのは、パンパンに膨れた金貨袋だった。中身は想像を絶するほどの金貨銀貨。
「チーフ!」
「ダメだ」
 口を開いた少女の言葉を最後まで聞ききることなく、チーフは打ち切った。
「えー! いいじゃん、私個人で引き受けるんだもん!」
「そう言うと思ったからこそ、ダメだ。いくらお前と相性がいいとはいえ、相手はあのクラーケンだ。最悪、命を落とすこともある」
「大丈夫だって。私、そんなに頼りない?」
「ああ、頼りない」
 バッサリ。
「チーフ酷いー! 私だってもう子供じゃないんだよ?」
「いくら法で成人扱いになっているといえ、お前はまだ十五だ。ギルド・フレイヤの中で一番幼い。無茶をしたいのは分かるが、自粛しろ」
「むっ! 無茶じゃないもん! 見てなさいよ。私、意地でもこれを一人で解決してやるんだから! 来て、おじさん」
 逆上して、少女は男性の手を引いて部屋から出て行ってしまった。唯一接客室に残されたチーフは、溜息をつく。
「……全く。どうしてこう、言うことを聞かないんだろうな」
『聖の言い方が悪いんじゃないかしら?』
「俺は何か間違ったことを言ったか?」
『年頃の女の子は、難しいものなのよ』
「そんなものか……」
 どこからか響く声と会話するチーフ・笹川 聖は、いつも不思議で溢れていると、ギルドメンバーは語る。


「それで、その依頼の報酬は本当にそれだけ貰えるんだよね?」
 机の対面に座る男性へ、少女は詰め寄る。
「は、はい。一応、これの半分を手付金としてお渡ししようと思っているのですが……」
「うん! いいわよ、いいわよ。ばっちこーい!」
「は、はぁ……」
 目の前の少女の小ささと言動の幼さに、男性は若干、本当に依頼してよかったのだろうかと思い始めていた。しかし、せっかく引き受けてもらえたのを無下にするワケにもいかず、茅の気が変わらないように応対する。
「あ、そうそう。言い忘れてたけど、私の名前は伊波 茅ね。好きに呼んでくれていいよ」
「あ、ご丁寧にどうも。私は……」
「ああ、別に言わなくてもいいよ。私は『依頼主さん』って呼ぶから。名前を教えてもらっても」
「はぁ……そうですか」
 やはり、本当にこの茅と言うらしい少女に依頼してよかったのか、男性は疑問が拭いきれない。
「それで、いつ行ったらいいのかな?」
「できたら早い内がいいのですが」
「分かった。それじゃあ、明日にしよう。依頼主さんは……ハイアの兄ちゃんの所に泊めてもらおうか」
 あまりにも軽く言う茅の言葉とトントン拍子で進む事態に、男性は戸惑いを禁じえない。
「え、そんな簡単に決めてしまってもいいんですか?」
「まあ、大丈夫だよ。なんでか、ハイアの兄ちゃんは、私の頼みだけは無駄に良く聞くから」
「はぁ……」
 それは何か違うのではないかと、少しだけ男性は思ったが、本人が気付いてないことを無理に教えることもないかとも思った。
「それじゃあ、ハイアの兄ちゃんには今から話しに行くから、依頼主さんはちょっと待ってて」
 それだけ言い残して、茅は部屋から出て、ハイアのいる酒場へ戻っていく。
「ハイアの兄ちゃん、いるー?」
 適当に声をかけると、瞬間移動でもしたのではないかと思うほどの速度で現れた。
「やあ。呼んだかい、茅ちゃん?」
「うん。ちょっと頼みがあるんだけど、いいかな?」
「ああ、いいよ。茅ちゃんの頼みなら何でも聞こう!」
「相変わらずなんかキモいけど、ありがと。それじゃ今晩、一人だけ泊めてもらってもいいかな?」
「お安い御用さ。茅ちゃんのためなら、たとえ火の中水の中!」
「うん。とってもキモいけど、ありがと。それじゃあ、明日は暇?」
「ああ、もちろんだよ」
「それじゃあ、私の依頼に少し付き合ってくれない?」
「もちろんさ。僕が断るはず無いだろう?」
「凄くキモいけど、ありがと。それじゃあ、今晩と明日、よろしくね」
「ああ、任せてくれたまえ」
 あっという間に約束を取り付け、茅は意気揚々と自室へ戻って行った。


 午後十時。
「……」
「……あ、その、お邪魔します……」
「なんでだぁっ! 茅ちゃぁぁん!」
 ギルド・フレイヤに、ハイアの魂の叫びが轟いた。


 翌朝。ギルド・フレイヤの集会所であり本拠地でもある酒場の前に、ハイアはいた。
 昨夜、茅に頼まれて依頼の手伝いを引き受けたのはいいが、依頼主を部屋に押し付けられたりもした。それはまあ、朝に茅から貰った労いの言葉で帳消しにしようとしても、お釣りはザラザラ出てくる。
 しかし、たった一人で酒場の前に待たされるのは少々癪だった。
 ギルド・フレイヤは、もともとは過去に起こった、当時の文明を滅ばしてしまうまでの大異変の際に、一般人達を異変と野獣から助けるために設立した組織だと聞く。
 その『フレイヤ』という名の通り、『最前線で、どこへでも助けを求める者のために』が信条だった。
 ところが、政府の成立と共に様々のギルドへの依頼内容は縮小の一途を辿り、ギルド・フレイヤも例外ではなかった。
 依頼数が激減し、依頼内容も段々と薄いものとなっていく。当時のあらゆるギルドのチーフは、その時の民が本当に必要とするもの、ギルドの存在意義と価値について思いを巡らせたという。
 しかし、いかに政府が成立しようとも、一部の者は己の利益のみを考え、今回のように大きな依頼を聞きもせずに門前払いするという話も聞く。
 やはり、政府も人間が生み出したもの。天才の集まりが、凡人の集まりを理解できないことと同じなのだろう。井の中の蛙、大会を知らずというやつだ。
 徐々に己の利益を考える者しか集まらなくなりゆく政府と、最初こそは慈善事業だったが、今では依頼料をとるようになってしまったギルド。今を生きる者は、統治国家と便利屋のどちらを必要としているのだろうか。
 ただ、ギルド・フレイヤが金を取るのは依頼の手付金のためではない。改装費を集めるためだ。
 ギルド・フレイヤは、人里を少しそれた位置にある砂漠に存在する。かつてはそこも緑も多かったのだが、大異変の影響で他の地と同じように気候が変わり、砂漠化したらしい。
 だが、ギルド・フレイヤには最初は慈善事業だったせいで、改装や移転をするような金が無かった。仕方なく依頼を受けて金を貰うことにしているのだが、立地条件が悪くて依頼者があまり来ない。おかげで、茅のように少々、金に貪欲になってしまう者も居るが、ハイアやチーフは本来のギルド・フレイヤを誇りに思っている。
「それにしても、遅いなぁ……茅ちゃん」
 建物の影に居るために砂嵐の心配の無いハイアは、羽織っていたマントのフードを外した。いくら日陰とはいえ、砂漠で羽織、おまけにフードまでかぶると暑い。
 外で待たされて、もう二十分ほど経とうとしていた。流石に、中に入って呼びに行こうかと思った矢先に、扉が開いく。
「ゴメン、ハイアの兄ちゃん。ちょっと遅れた」
 中から出てきたのは、地面に擦りそうなほどの丈のローブを着た茅と、粗末な布を巻かれた依頼主の男性だった。
「茅ちゃん……まだそのローブ使ってるんだ」
「いいじゃない、別に。新しく買うのが面倒なんだし」
 茅が今着ているローブは、ハイアが幼い頃に着ていたものだ。
 自分の使っていたものを、自分が気に入っている人物に大切にしてもらえるのは嬉しい。それと同時に、渡した二年前と比べてほとんど変わらないローブの擦り具合を見ると、どこか切ないものを感じる。
「まあ、そんなことはどうでもいいんだよ。依頼主さん、村はどこ?」
「あ、あちらの方です」
 男性は、ギルドから北東の方を指差す。
 かつての大異変のせいで、気候をはじめ、様々な自然環境が変わってしまったため、現在では地図はほぼ無意味に等しい。現在の詳細な地形を知っているのは政府くらいのものだろう。
「おっけー。急ぐ?」
「そうですね、できれば早い方がいいです」
「よしきた。ハイアの兄ちゃん、依頼主さんをよろしくね」
 意気込んだ茅は、ローブの下に隠された二振りの小太刀を少し抜く。すると、茅の足元に雷が集まり始めた。
「それじゃ、お先に!」
 駆ける。
 雷のように走り出した茅の姿は、瞬く間に見えなくなった。
「……凄いですね、伊波さんの魔法」
「ん? ああ、あれのことか。茅ちゃんは、魔法使いじゃないよ」
「え?」
 さも当然のように語ったハイアの言葉に、男性は聞き返すしかできなかった。
「で、でも、さっき足元に電気が……」
「あれは茅ちゃんが持ってる刀の力だよ。魔力鉱石って知ってるでしょ?」
「あぁ……」
 その言葉に、男性も納得したようだ。
 基本的に、魔法使いは大気中に漂う魔力を、呼吸と共に体内へ取り込むことで蓄積した魔力を用いて魔法を使う。それと同じような性質を持った石や木ができることも、ごく稀にある。それらは魔力鉱石や魔法樹と呼ばれ、その希少価値から高値で取引される。
 茅の持つ二振りの刀はこの魔力鉱石で打たれたものだ。そのおかげで、本来は魔法を使えない茅も魔法を使うことができる。
「茅ちゃんの持つ刀は雷の魔法が使えるから、茅ちゃんは高速移動とか雷撃が使えたりするワケ」
「でも、魔法は刀のものなんですよね? それじゃあ、もし刀を落としたりしたら伊波さんが危ないんじゃ……」
「そうならないように、茅ちゃんは布で巻いて落とさないようにしてるんだよ」
「そうなんですか……」
「それでも、茅ちゃんが危険なのには変わりないからね。僕たちも急ぐよ。しっかりつかまって」
「え?」
 男性を背中に背負うと、ハイアは先程の茅と同じように、高速でギルドを後にした。
 そして二十分後。男性が来るために費やした時間の半分以下の速さで、茅とハイアは男性の示した村に着いた。
「へぇ。中々いいところじゃない」
「そうだね」
 そこは、中心に存在する大きな湖を囲うように家が乱立する、小さな集落だった。元は活気があったのだろう。出店のあとが残っているが、クラーケン騒動で村人たちは家へ引きこもってしまっているのだろう。
「それにしてもさぁ、ハイアの兄ちゃん」
「ん? なんだい、茅ちゃん?」
「クラーケンって『外海の王』でしょ? こんな湖に居るものなの?」
 確かに、茅の持った疑問はもっともなものだ。外海にしかいないはずの化けイカが、こんな湖に居るとはどうも思えない。
 そんな疑問に、あまりの速度に酔った男性が答えた。
「ああ……その湖は、海底洞窟で外海で繋がっているんですよ。そのため、海の魚が取れたりもしますが、基本的に湖の水は飲めません。ですから、厳密には塩湖です」
「ふーん……。ねぇ、ハイアの兄ちゃん」
 男性の言葉に、腕を組んで考え込んでいた茅は、右の小太刀を抜いた。
「この湖にさ、私の刀投げ込んだら、クラーケン出てくるかな?」
「え……」
 ヒュンヒュンと柄尻から垂れる布を掴んで小太刀を振り回す茅に、ハイアはイヤな予感から冷や汗をたらす。
「そ、それはまずいんじゃ…………」
「うん、大丈夫だよね」
 全く話を聞いていない茅を見て、ハイアは男性を抱えてできる限り後ろへ下がった。
「きっと出てくるよね。うん。出てくるだけだよ。……よし。そぉい!」
 何が『よし』なのかは誰にも分からないが、茅は右手で弄ぶ刀を、そのまま勢いよく湖に投げ入れた。
 トプン……バチッ
 沈んだかと思うと、一瞬で高圧電流を小太刀は湖に流し込んだ。その雷撃は近くに水のあった場所全てに通電し、先程男性が垂らした汗も一瞬で蒸発した。
「……よしっ」
「――――――――――!」
 小さく茅がガッツポーズをした瞬間、湖から慟哭が響き、巨大なイカが姿を現した。