AAに通い始め、自分が酒を飲まない日々が積みか去って行くと僕は時折、自分がアルコール依存症者であるという自覚を忘れることがある。

理由は飲んでいないからだ。

 

それに気づくのは、些細なことで人を恨んだり、自己嫌悪が持ち上がったりというネガティブな感情に自分が支配されているときが多い。僕独特の性格上の欠点で心が溺死しそうな時に気づく。

 

僕は1990年11月6日にアルコール専門外来の医者から「あなたはアルコール依存症です」と診断された瞬間から僕は精神医学上、アルコール依存症者となった。

 

当時の僕にとって、これはショックどころの話ではない。酒が止まらなくて苦しいから病院に来たので、それを「治してもらえる」と思っていたら、すべての希望が絶たれた。

 

医者から、以下の事を口頭で言われた。

・あなたはアルコール依存症であり、この病気は治らない病気だから一生、正常な飲酒ができない。

・もし酒を飲み続ければ飲酒が原因で確実に死ぬことになる(当時のアルコール依存症者の平均寿命は52歳)。

・アルコール依存症は肉体の病気だけではなく精神の病気でもある。だから、自分一人で酒を止め続けることはできない。

 

死んでしまいたい気持ちになった。

 

あれから28年になる。

ならば僕は、これまで一滴のお酒も飲んでいないのに、まだアルコール依存症なのか?

 

残念ながら答えはイエスだ。

 

僕が治療を受けたアルコール専門外来に、28年前のカルテが残っているかは知らない。

そして、そういう問題ではない。

 

今、体に酒が入ればどうなるのかは、AA(アルコホーリクス・アノニマス)プログラムの実践とミーティング、そしてメンバーシップのおかげで、痛いほどわかっているし、もうお酒を飲みたいとも思わない。

 

僕はAAの12ステッププログラムで飲酒の問題を解決したからだ。

 

もし僕が、次にお酒を飲めば、回復のチャンスが訪れるとは限らない。

そのまま、飲酒が止まらなくなり、入退院を繰り返しコルサコフ症候群で一生、病院暮らしか、そのまま死ぬかもしれない。

 

僕は肝臓が、ものすごく強いので、アルコールを次々とアセトアルデヒドと水分に分解し、アルコールの血中濃度は、信じられないほど高まり脳に異常をきたす。

これは28年前、医者から診断された事実だ。思い込みではない。

肉体は、あの時の状態に今もある。

 

しかし、そういうことになることを知っているから、お酒を飲まないのではない。

AAのプログラムのおかげで僕は狂った精神状態から人格変化をし、酒の要らない精神状態と生き方を今、手にしたからだ。自分の性格上の欠点と長所を知り社会の中で人とどうやって関係を作ればいいかを体感してきたからだ。その生き方にお酒は要らない。

これは、あんなに、ひどかった飲んだくれにとっては、奇跡ともいえる。

 

しかし、ミーティングにしばらく行けなかったり、AAのメンバーとの関係から遠ざかって社会の中にいると、先に書いたような、

飲んでいた頃の精神状態になることがある。27年酒を止めたらからと言って聖人にはなれないのだ。

飲まない期間が長くなれば、それなりに世の中のさまざまなことは経験し、いろんな人と接してきた。しかし他人がどうあろうと、世の中がどう変わろうと、僕が一杯の酒で、すべてを失うのは、もういい。

 

たくさんのお金や名声や地位、権力も何もないが、

あの頃の「最高」と現在の「最低」を選ぶなら、迷わず後者を選ぶ。

 

僕の「これから」に酒は、もう要らない。