製作・監督:スタンリー・キューブリック

脚本:スタンリー・キューブリック、ダイアン・ジョンソン

出演:ジャック・ニコルソン、シェリー・デュヴァル、スキャットマン・クローザース、ダニー・ロイド

 

●ソール・バスによるイメージポスター

 

この映画、観たことがない人でもジャック・ニコルソンが叩き割ったドアの間から壮絶な顔を出すビジュアルはご存じだと思う。そう、あの映画。ジャンルとしては幽霊屋敷ものホラーとも呼べる、原作はモダンホラーの帝王、スティーヴン・キング。

日本では1980年12月にロードショー公開された、この「シャイニング」。実は二つの公開バージョンがある(厳密には三つ ※後述)。数年前まで日本では一つのバージョンが主流になっていた。

 

●ワーナーが最終決定した宣伝用ポスター

 

それは世界市場で公開された119分の【コンチネンタル版】と、本国の北米で公開された143分の【北米公開版】があるから。当然だが日本では国際版に相当する119分の「コンチネンタル版」が公開されDVDやBlue-Lay、配信サイトもそれが主流だった。

今や、世界の映画界でスタンリー・キューブリック監督の一作一作は各ジャンルのマスターピースとして扱われ、フィルム時代の映画作家の中でも、改めて高く再評価されている。

作品が次々と4Kリマスター化され、劇場公開されたり、UHDディスクとして販売されている。

そして、この作品は2022年にようやく4Kリマスタリングされて劇場公開された(午前十時の映画祭)。

 

常に映画のすべての面でコントロールする権利を有し、当然「制作」に関する権利も有するスタンリーがなぜ、【コンチネンタル版】(世界公開版119分)と国内版(北米版143分)という二つのバージョンの存在を許したのか?

昔から、さまざまな書籍やスタンリー発言も調べているが真相は分からない。スタンリーは元々、自分の作品を語ることを一切しない映画監督だから、二つのバージョンについては、一切ノーコメント。

 

 ●いないはずの双子の少女

 

 ●ハロランとダニー

 

ただ、前作「バリー・リンドン」(1975年)が4年もの歳月をかけた大作ながら、世界中の映画批評家や製作者らには絶賛されたが一般興行的には、完全に失敗に終わってしまった。二作続けて世界的なヒットが出せないことを資金提供元のワーナーが許さなかったと推測する。つまり興行成績のために2バージョンという策をくんだと考える(多くの人がそう考えているらしい)。

この点はワーナー側とスタンリー側での協議のうえで、二つのバージョンが存在する経緯だと思う。だから日本では長年、劇場公開されなかった【北米公開版】。ただ、レンタルビデオ時代から「シャイニング 完全版」という形でVHSビデオやレーザーディスクが販売され、僕もこの時にレンタルビデオで初めて北米公開版を観て、レーザーディスクで北米公開版を購入した。DVD時代に入ってから、初期のDVDで北米公開版が「シャイニング」として販売されていた経緯はある(143分・画面比率1:1.37版)。しかし、スタンリーの死後、ワーナーは、この作品に限らずスタンリーの作品のアスペクト比を彼の指示をすべて無視して1:1.85のビスタサイズに置き換えて販売した。そして、「シャイニング」はDVDからブルーレイに至るまで、すべてがコンチネンタル版に置き換えられた(画面比率は1:1.85)。

 

●大いなる前兆

 

大まかなストーリー。

売れない作家で中学教師のジャック・トランスが新しい小説を執筆するために冬の間、閉鎖されるコロラド州のホテルに管理人として逗留する間に起こるホラー映画だ。妻のウェンディとシャイニング(超能力)を持つダニーとともに赴く。秋から冬と季節が移ろいながら寒くなるうちにジャックは、だんだんと精神のバランスがおかしくなる、あるいは、ホテルに巣食う亡霊たちの仕業が見え始め、家族の目からは、おかしくなっていくのが分かる。同時に妻のウェンディもいるはずのない人間や、血の洪水などの幻覚を見る。ダニーは父親の殺意の予知を観て逃げる。

ジャックは孤独の中で狂ったのか、あるいはホテルに巣食う亡霊たちに取り込まれたのか、わからないが明らかに異常をきたす。そして家族を殺害しようとする。

原作とは、かなり違うシャイニングだが、ゆっくりしたペースで人が狂う(憑りつかれる)様やウェンディが目撃するもの、ダニーが観るもの、感じるものが徐々に判明してゆく過程を観客はオブザーバーのように観せられる。この感覚がゾッとする、寒気がするというのが重なり、通常のホラーではない精神の奥底が不安になる恐怖が沸き上がる。

 

●ジャックが殺意で襲う

 

だから2022年に午前十時の映画祭で「シャイニング・北米公開版」が劇場公開されたとき本当に感謝した。大画面で、このバージョンが観ることができたのは、うれしい限り。しかも4Kデジタルリマスター版。多くのファンがDVDやブルーレイでしか鑑賞できなかった作品が劇場で鑑賞できるのは感無量だった。

この「シャイニング/北米公開版」の恐さは、観客は常に対象を捉えるカメラの後ろから連れていかれるような感覚を覚える。その一番の効果は当時、出始めたばかりの「ステディカム」を移動撮影に全面使用している点、移動するカメラが一切手ぶれもなく、揺れない画面。三輪車で走るダニーの後ろをカメラは追いかけるが全く揺れない、この揺れない画面は観客の視点になっている。観るものは、揺れないブレない映像に、言い知れぬ不安感を覚える。その映像は、意図的な視線になるからだ。

ジャックのお酒の問題か、ホテルに巣くう亡霊の仕業かはじめはわからないが、徐々にジャックはおかしくなり始める。妻のウェンディはそれに戸惑いながらもなんとか息子と楽しく過ごそうとする。しかしダニーの中の「口の中に住むトニー」を通じて予知的な恐ろしいビジュアルを観て、ここにいたら、どうなるかを知りはじめる。

 

●メイズに逃げるダニー

 

今回、北米公開版を初めて劇場の大画面で観て、「シャイニング」が時代を超えた普遍的なホラー映画の頂点を成す作品だと改めて実感した。40年以上前のこの作品が今も古びることなく、今も多くのホラー映画の頂点に立つマスターピースだと感じた。

この北米公開版のすごさに圧倒された。ジャックが狂っていく様、ウェンディにそれが気付かれてゆく様、ダニーが心に住む「トニー」と話してホテルで起こる数々の恐ろしい怪奇現象を見せられ父親の狂気に気づく様。すべては計算された時間配分で観客は三人の間に立たされる。観客席は一人で恐がるというよりも登場人物とともに恐怖を味わう。カメラの後ろに立たされる、だから余計恐い。

ジャックは迷路で凍死し、ウェンディとダニーはハロランが乗ってきた雪上車で逃げる。

映画のラスト、オーヴァールックホテルに飾られている一枚の写真。―1921年7月4日開催された舞踏会―の集合写真に、ジャックと瓜二つの男が写っている事がウエイターとして映っている。ホテルに巣食う亡霊になったということを示唆するとも受け取れる。

 

※三つ目のバージョン=幻のバージョンといわれるのはプレミア上映版(146分)。これには今、だれも観ることができないシーンがある。それはホテルから生きて生還したウェンディとダニーが入院しているところを支配人アルマンが見舞いしたシーン。アルマンはダニーに黄色いボール投げてよこすシーンがある。ダニーが絨毯の廊下で遊んでいた時と同じボール。このシーンがあると支配人は、ホテルで起きたことを知っていることを示唆する意味が生まれる。スタンリーはプレミア上映後に、このシーンを削除、おまけに廃棄(捨てなくてもいいのにと思うが)した。

北米公開版は、やはり劇場の大画面で観ると40年の歳月を経ても、恐ろしさで寒気がした。これこそホラー映画の頂点だと改めて感じた。このなかなか観ることができなかった「北米公開版」、一部の配信サイトやUHD+Blue-Layでも販売している。

 

●「北米公開版」鑑賞できる配信サイト(有料)

FOD

U-NEXT

TELASA

Applen TV

※You Tube、Amazonプライムなど一部の配信サイトではコンチネンタル版を配信しているサイトもあります。

 

●シャイニング 4K ULTRA HD & HD  北米公開版 (2枚組) [UHD Disk+Blu-ray]

シャイニング 4K ULTRA HD & HD北米公開版 (¥3,684)