京都文学的放浪記京都の夕暮れと言えば、祇園や嵐山より、鴨川デルタ。一人佇んで哀愁にふけたいのです。まるで海を進む舳先に立つようにして、樋口師匠はデルタの突先に立った。そして葉巻を吹かした。右からやってくる加茂川と、左後ろからやってくる高野川が、目の前で混じり合って鴨川となり、どうどうと激しい勢いで南へ流れてゆく。師匠は葉巻を吸いながら「どこか遠くに行きたいな」と言った。「珍しいですね」私の知るかぎり、師匠は半日以上四畳半を空けたことがないのである。 森見登美彦「四畳半神話大系」