大学1年生の春


大学の春休みはとにかく長い。2ヶ月である。友達もそんなに多くない私はただただ暇を弄んでいた。どうせ暇してるくらいなら、「金を稼ごう」と警備員のバイトを始めた。


1週間ほどの研修を受け、現場に配属された。

研修で学んだ内容は一切役に立たなかった。これまで、研修という名のつくもので役に立ったものはあるのだろうか。私は無いと思う。バイト内容は深夜にぼーと立ち、「足下にお気をつけてください」というだけである。壊れたラジオのようにこのセリフを繰り返した。たまに「アスィもとに気をつけてくだサァッイ」と深夜のコンビニ店員の真似をしてみたりと若干壊れていた。


話は変わるが、皆さんは吉祥寺に行ったことがあるだろうか。住みたい街ランキングでは毎回上位であり、若者の街としてオシャレな人も大勢いる。近くには井の頭公園という緑豊か場所もある。人気があるのも納得な街である。


話は戻るが、私の現場は吉祥寺が主であった。深夜のあの街で、京王井の頭線出口にずっと私はいた。6時間ほど立っていた。邪魔である。


しかし、貴重な経験もできた。あの駅ビル。ヒカリエの中で働いていたのである。完全なお登りさんの私は「出来る前のビルってこうなってるんだ!!」と興奮していた。(地元にビルはない)実際は休憩所として利用していただけである。何度も言うが、私の仕事は外で、壊れたラジオのように同じ文言を呟くだけである。


休憩中は暇なので、作業員のふりをしてまだ内装もできていないフロアを見て回ったりした。作業着姿の男性が汗水垂らしながら、働いていた。水面に浮かぶ白鳥は一見優雅に見えるが、水面下では足をバタつかせている。一瞬で理解できた。地下のある一角で白鳥達が休憩していた。薄暗い場所で羽を休め、死体のようになりながら、タバコを吸っていた。「東京の白鳥はタバコを吸うのかぁ」アホなことが頭に浮かんでいた。


今やオシャレな人たちがまるで「自分たちがこの世界の主役だ」みたいな顔でヒカリエを歩いている。私はこの場所を作ったのは、タバコを吸う白鳥だと言うことを知っている。警備員の友達(たぶん50代)が言っていた。「こんなとこで働くのはだいたい借金あるやつ」と。彼らの借金や暗い事情が、オシャレな方々の明るい人生を作っている。私はまた1つ大人になれたような気がした。