【尖閣周辺ブイ】即時撤去要請 石垣市議会が意見書「深刻な事態」 賛成多数で可決 | birdland

    八重山日報





     尖閣諸島周辺の日本の排他的経済水域(EEZ)内に中国が設置したブイを巡り、石垣市議会(我喜屋隆次議長)は18日の最終本会議で、日本が自ら即時撤去するよう求める意見書を与党と中立の賛成多数で可決した。

     意見書ではブイ設置を「主権の侵害であり、領土、領海を守る上で看過できない深刻な事態」と指摘した。野党は「戦争につながる」などと撤去要求に反対した。


     意見書によると、昨年7月、尖閣周辺のEEZ内で中国が設置したブイが確認され、日中首脳会談で岸田文雄首相が習近平国家主席にブイの即時撤去を求めたが、中国は応じていない。さらに、今年1月にも尖閣諸島周辺北約170㌔の日本のEEZ内で、中国が設置した別のブイが確認された。


     意見書では「EEZ内のブイは障害物で、漁業の安全操業や船舶航行安全上支障があるだけでなく、海域への権益主張にもつながる行為」と指摘。中国に抗議するだけでなく、自国でブイを撤去し、領土領海を守る断固たる姿勢を示すよう求めた。宛て先は首相、外相など。与党の長山家康氏が提案した。


     野党はブイの即時撤去要求に反発。井上美智子氏は「戦争につながる道だ。外交努力に任せるしかない。市議会が政府を煽り立ててどうするのか」と非難。花谷史郎氏は、尖閣周辺で日本のEEZは確定していないとして「この意見書は時期尚早だ」と述べた。

     砥板芳行氏は「中国に対し厳重抗議すべきだが、それ以上、わが国の手でブイを撤去するという根拠や国際法が整備されていない」と主張。長浜信夫氏は「政府の対応を静観すべき。積極的な行動を起こすべきではない」と慎重論を唱えた。内原英聡氏は「(意見書が可決されると)すべて流れてきたものは、こちらで片付けなくてはならなくなる」と危惧した。


     これに対し、与党の友寄永三氏は「(同様の事例で)フィリピンは撤去した。日本も自分たちの意思を示すため撤去してほしい」と要望。仲間均氏は「石垣市の行政区域の尖閣諸島をいかに守り、戦争のない平和で豊かな生活を送るか考えないといけない」と訴えた。


     中立の箕底用一氏は「実態は、もっとブイはある」とした上で「自民党は以前からブイが確認されているのに何ら対応しなかった」と政府与党の対応を疑問視した。


     野党に対し、提案者の長山氏が「中国の(徐々に国境を侵食する)サラミ戦術にはまってしまっているのではと懸念している」と発言する場面もあった。


     採決では13人が賛成、8人が反対した。







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    中国の研究者による尖閣沖の観測ブイ「QF209」のデータを使った論文の図
    中国の研究者による尖閣沖の観測ブイ「QF209」のデータを使った論文の図


     尖閣諸島(沖縄県石垣市)周辺の日本の排他的経済水域(EEZ)内に中国が大型の観測ブイを設置している問題で、中国の研究者が、ブイの観測データを基に少なくとも4本の学術論文を発表していることが11日、分かった。ブイのデータを活用することで、尖閣周辺海域の管轄権の既成事実化も狙っているとみられる。また、ブイのデータは軍事利用されている可能性がある。

    識別番号「QF209」

     海上保安庁などによると、観測ブイは2013年に尖閣諸島の魚釣島の北西約80キロ、EEZの境界線である日中中間線付近で初めて確認された。その後、ブイが流される度に新しいブイが設置されたとみられ、2016年以降は日中中間線より日本側に入った位置で確認されている。政府は外交ルートを通じて中国側に抗議しており、岸田文雄首相は昨年11月の日中首脳会談で即時撤去を求めていた。



     産経新聞が論文検索サイトを使って調べたところ、尖閣諸島沖に設置されたブイに関連する英語の学術論文が2018年から2020年にかけて4本発表されていた。ブイは識別番号「QF209」とされ、中国の研究者がブイの観測データを使って気象予測などを論じている。ブイが日本のEEZ内にある時期に収集されたデータも含まれているとみられる。

     2019年に中国国家海洋環境予報センターの研究者が発表した論文では、QF209は24基のブイで構成された中国の観測ネットワークの一部として登場。QF209の観測期間は2013年2月以降としている。



     またQF209をめぐる4本の論文は、他の論文に引用されており、中には26本の論文に引用されたケースもあった。

     東京大学大気海洋研究所の柳本大吾助教(海洋物理学)は「日本の研究者も掲載を目指す米国の科学雑誌も含まれている。東シナ海は台風や線状降水帯の予測において重要な海域で、貴重なデータがとれている。係留型のブイは、気象庁の漂流型のものと違い、時間変化するデータを同じ場所で細かく取得することができるという利点がある」と指摘する。



    天気予報で領有権アピール

     中国国家海洋局の2014年の文書によれば、QF209は直径約10メートルで、風速、風向き、気圧、気温、水温、波浪のデータを収集し、送信する能力がある。

     中国の軍事ニュースサイト「新浪軍事」の2013年の記事では、高精度な地図の軍事転用を引き合いに出し、観測ブイも軍事と民生の両面で大きな意義があるとしている。


     また香港英字紙サウスチャイナ・モーニング・ポストの2021年1月の記事は、国家海洋局当局者の発言として、係争海域にある新型のブイが装備しているカメラやセンサーを使い、他国による侵入とみなされる行為を察知した場合、中国海軍と法執行機関に通報すると伝えている。この記事では、潜水艦の安全な航行にブイのデータが役立つとも書かれている。


     2021年には海上自衛隊が奄美大島沖で中国の潜水艦を確認しており、こうした活動にブイの観測データが活用されている可能性がある。

     元自衛艦隊司令官の香田洋二氏は「海中のデータは重要だ。水温が変わると、海中での音の伸びも変化する。地球温暖化で海水温が1度上がるだけでも、潜水艦の探知のために蓄積した過去のデータが無駄になることさえ懸念されている」と話す。

     中国は、日本が2012年9月に尖閣諸島を国有化すると同時に、中国国営中央テレビ(CCTV)で尖閣諸島の天気予報を始めており、気象をめぐる情報が領有権を示す道具として使われている。


    新型ブイは大型化、能力向上か

     QF209と同じ場所へ2023年に設置されたブイは、識別番号「QF212」とされ、さらなる能力向上が図られているとみられる。中国メディアの報道や、衛星画像を使った分析を総合すると、新しいブイは直径が約15mと大型化している可能性がある。

     昨年、中央軍事委員会の指揮下にある海警局の船舶は過去最多の352日にわたって尖閣諸島周辺の接続水域に入域し、うち42日は日本の領海に侵入した。ブイは海警局の船が出航する浙江省台州市と尖閣諸島周辺の接続水域を結ぶ航路上に位置している。




     中国のブイを巡っては、フィリピンやベトナムも同様の問題を抱えている。フィリピンは同じ海域にブイを設置して応酬したり、漁師や沿岸警備隊が浮遊障壁を撤去するなどして対抗してきた。米シンクタンクの戦略国際問題研究所(CSIS)の報告によると、ベトナムも1988年に中国のブイの設置を阻止するなど長年、中国と沿岸の領有権を争ってきた。


    「政府は初動を誤った」

     ブイが海洋警備や軍事に用いられる例は、中国以外でもみられる。米国防総省の国防高等研究計画局(DARPA)は「Oceans of Things」と称し、数千の小型フロートからなるセンサーネットワークを自国の沿岸に展開しており、搭載された高感度のマイクで水中の様子を監視している。

     国連海洋法条約はEEZを管轄する国にしか構造物設置を認めておらず、科学調査には事前の許可が必要としている。同条約は、EEZの境界が未画定の海域についても、最終的な合意に向けて当事国同士があらゆる努力を講じることとしており、中国の一連の行動はこれと相容れない。一方、撤去に関して明文化された規定がないこともあり、日本政府は10年以上にわたって対応できずにいる。



     香田氏は「政府は明らかに初動を誤った。論文は米国の雑誌にも掲載され、国際法上の既成事実を与えてしまっている」と指摘。「(侵攻に)徹底抗戦するウクライナと違い、国際社会からわが国の国際法上の権利であるEEZにおける管轄権を諦めているとみなされる。今頃撤去すれば中国は、対応策として自国の管轄権を守るためと称して軍艦を派遣する可能性もある」と厳しい認識を示した。(データアナリスト 西山諒)