清掃業者が語る「汚部屋」の惨状、若い女性からの清掃依頼が急増する背景

 

問い合わせの7割が女性、部屋はゴミで埋まりセルフネグレクト状態に陥る人も

 

https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/79370

 

 

2024.3.8(金)

 

 

 

部屋の清掃を業者に依頼する女性が増えている(写真はイメージ)

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JBpressで掲載した人気記事から、もう一度読みたい記事を選びました。(初出:2022年11月20日)※内容は掲載当時のものです。

 

 

 コロナ禍で増えた仕事の一つに、「ゴミ屋敷」や「ゴミ部屋」の清掃依頼がある。巣ごもりにより、家で過ごす時間が長くなって散らかる部屋と、宅配やテイクアウトの食事、通販の活用などゴミが増える生活スタイルが需要を押し上げたようだ。

 

 テレビのワイドショーで取り上げられるような、屋敷の外までゴミや収集物が散らばったゴミ屋敷とまでは至らないものの、部屋の中はゴミだらけというゴミ部屋が水面下で増えていたのだ。

 

 

 

  ゴミに埋もれ「体育座り」で清掃員を待っていた20代女性

 

 確かに清掃依頼が増加していると語るのは、首都圏を対象に特殊清掃や遺品整理・残置物処理などの業務を行うA社に勤務する高橋実さん(30代男性・仮名)。具体的な事例を聞いた。

 

 記憶に強く残っているのは激務とされる職業の公務員20代女性からの依頼だという。

 

「1DKの部屋は膝の高さぐらいまでゴミが積まれ、部屋の隅にかろうじて人ひとりが座れるほどのスペースがあり、そこで体育座りをして我々を待っていた姿が印象的でしたね。

 部屋には半分残された食べかけのカツ丼、飲みかけのペットボトルなど食事をしてそのままのゴミが多く、ベッドの隅には腐ったぶどうが隠れていました。浴室のバスタブはゴミ袋で埋まっていて、かろうじてシャワーが使えるといった状況でした。部屋に入ってきたものを何も捨てていない、そんな印象を受けましたね」(高橋さん・以下同)

 街中で見かければ、とても汚部屋の住人とは思えないような、小綺麗で可愛らしい女性だったという。これ以上はもう“普通を装うにも支障がでる”との判断から依頼してきたのだろう。

 この日の作業代は、キッチン、風呂、トイレのクリーニングも込みで20万円ほど。丸1日がかりの作業で、2トン車1台と、1トン車1台分のゴミが出たという。

「部屋がきれいになってすっきりしたのか、女性の表情も明るくなって、『スペースもできたので、テーブルやチェストを買って、これからはきれいな部屋を楽しみます!』と言ってくださってとても嬉しかったです」



 ところが、半年も経たないうちに彼女から再度依頼が入る。

「訪れてみると、部屋の状況はまさかの元通り。家具を買ったのはいいものの、届くころには置くスペースがなくなってしまっていて、それで困って再びの依頼となったようです。清掃終了後は家具の組み立てまで手伝いました」

 同社ではこうしたゴミ部屋の清掃依頼は若い女性が圧倒的に多いのだという。

「HPからの問い合わせにLINEを追加したこともあって、問い合わせの7割ほどが若い女性です。『明日来客があるので、それまでになんとかなりませんか?』『明後日までに片付けなければいけない』といった、片付けなければいけない何らかの事情が迫ってからの依頼が目立ちます」



 女性のゴミ部屋にはいくつか共通点があるようだ。

「一般的なゴミ以外では、収納以上の大量の衣類、着用済みの衣類がソファなどのいたるところに積まれていたり、買ったままの服や新品未開封の商品が放置してあったりすることが多いですね。生理で汚れたまま放置された下着も毎回のように見かけます」

 

 

 

  掃除道具を持たずゴミを「捨てる」選択肢のない人たち

 

 忘れられない依頼がもう一つある。ワンルームの社員寮に住み込みの期間工20代男性からの「ゴミ部屋を掃除して書類を探してほしい」という依頼だ。ドアを開けると、床が見えない、まさに足の踏み場もないほどのゴミの山だった。

 

「会社に提出しなければいけない書類を自分でも探してみたけど見つからず、ゴミも多いのでこれを機に一掃して見つけ出したい、とのことでした。

 

 地方出身の方で、ずっと言い訳と謝罪を訛りながら繰り返していたのを覚えています。『こっちにきたばかりで環境にも仕事にも慣れなくて部屋が汚れてしまった。自炊する気力もなくできなくて、どんどんゴミが溜まってしまった』そんな内容でした。現状が後ろめたかったのか、『すみません、すみません』って謝りながら手伝おうとするのを制止しながらの作業でした。我々は仕事ですから、何も気にすることなく依頼してほしいなと思います」

 

 出たゴミは70リットルのゴミ袋30袋分。作業時間は2時間ほどで約5万円だった。ロフト部分で生活をして、出たゴミをそのまま下のフロアに投げ捨てるというような生活だったようで、ペットボトルのゴミが大半を占めた。

 

 

 話の内容から、依頼者は根が真面目な青年なのだろうということがうかがえた。そんな若者が慣れない環境と仕事によって、徐々に精神的に追い詰められていったのであろう様子が目に浮かぶようで胸が痛くなった。

「書類も無事見つかり、安堵されていました。どうせなら徹底的にきれいにしたいと、クリーニングも追加で依頼されたのですが、時間の都合上受けることができず、掃除の仕方とまずは掃除機を買ったほうがいいことをアドバイスさせていただきました」



 高橋さんによれば、掃除や片付けの方法がわからないという人は意外に多いという。「片付けや掃除の仕方を教えてほしい」という依頼もあるそうだ。

「依頼者の中には、そもそも掃除機などの掃除道具を持ってないという方も少なくありません。物を捨てられず、ジャムの空きビンや包装紙、何かが入っていた箱なども「いつか使うかも」と大事にため込んでしまいます。清掃時に要不要の判断を仰いでも、ずっと悩んでしまって、“捨てる”ということを選べないんですよね・・・」

 

 

 

  セルフネグレクトと無関係ではない「孤独死」

 

 ゴミ部屋の住人になってしまう人は、そうした物をため込むタイプや、元来のズボラな性格であるということ以外に、生活環境や健康状態を維持する能力・気力を失い、健康や安全を損なう、いわゆる“セルフネグレクト”の状態に陥ってしまっている人もいる。

 

セルフネグレクト状態に陥ってしまっている人も(写真はイメージ)

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 セルフネグレクトの要因は、経済的困窮、身体機能の低下、社会的孤立、判断力低下などさまざまあり、孤独死の原因の一つともされる。

 

 お年寄りに多いと思われがちだが、非正規雇用やワーキングプアの増加による生活苦、将来への不安、コミュニケーション不足などといったストレス要因により、最近では若者にも増えているという。

 

 依頼者たちを一概にセルフネグレクトであると軽々に論じることはできないが、それに近いような、あるいは一歩手前の状態の人も多いのではないかと感じた。

 

 

 セルフネグレクトは、生活環境や健康状態が悪化しても、他人や行政など周囲に助けを求められない状態だとされている。その実態を詳細に把握するのは難しいだろう。

「ゴミ部屋を片付けていると、ふと孤独死してしまった方々のことを考えてしまうことがあります。セルフネグレクトは、生活環境や健康状態が悪化しても、他人や行政など周囲に助けを求められない状態だと聞きます。行政等が把握しているより、実際はもっと数字が多いのだと思います。



 セルフネグレクトと孤独死は決して無関係ではありません。ゴミ部屋の住人=孤独死ではないですが、孤独死をしてしまった人はゴミ部屋の住人が多いのは事実です。冬場は、すぐに臭気や蛆が発生する夏場と違って、異変に気づきにくい危険な季節です。きれいごととはわかっていますが、声がけ一つで変わる何かもあるのかな、と思います」

 助けを求めることもできない人には、こちらから声をかける必要がある。そのために一歩踏み出すことは、相手だけでなく自分の支えにもなるのかもしれない。