年明け以降の「ポスト岸田レース」の行方を大予想政局展開次第で「本命」「対抗」「穴」が大変動も


泉 宏 : 政治ジャーナリスト


2023/12/28 5:52


岸田文雄首相(写真:時事)

内外共に多事多難だった2023年もあとわずか。多くの国民は年末年始の準備に大わらわだ。しかし、政治の中心地・永田町は、東京地検特捜部の「巨額裏金疑惑」捜査で上を下への大騒ぎ。本来なら政治休戦となる年末年始も、有力政治家たちの右往左往ばかりが際立つ。

8月に「増税メガネ」と揶揄されて以来の「税」をめぐる迷走などで、支持率が過去最低を更新し続ける岸田文雄内閣は、裏金疑惑で「絶体絶命のピンチ」に陥り、一部メディアの先走りだけでなく、揺れ動く自民党内も「ポスト岸田」の話題で持ち切りだ。

そもそも、近年の自民党の総理・総裁交代劇は、党内の権力構図を踏まえた「予定調和での決着」(自民長老)が多かったが、今回ばかりは「展開次第で誰が浮上するかわからない出たとこ勝負」(同)との見方がもっぱら。そこで、年明け以降の「ポスト岸田」レースを占ってみると……。


岸田首相が再選を狙って総裁選出馬に踏み切るか

この「後継レース」の結末につながる最大のポイントは、岸田首相(自民党総裁)自身の「退陣」について本音と、想定されている政局展開の“ギャップ”だ。というのも、現状では「衆院解散で惨敗するか、自ら早期退陣を決断しない限り、来年9月の自民総裁選までは続投可能」(閣僚経験者)だからだ。

しかも、岸田首相が再選を狙って総裁選出馬に踏み切った場合、「後継レース」の構図も一変し、「岸田続投の可否をめぐる戦いとなって、出馬する人も限定される」(自民長老)との見方が広がる。特に、岸田首相が大胆な政治改革を打ち出して支持率回復につなげれば、「総裁再選の可能性」も捨てきれないためで、そうした実態も踏まえて、現実に即したレース展開のケーススタディは以下のようになる。


まずは、最も早い退陣のケースは「来年度予算成立直後」。経済回復のカギとなる来年度予算については「野党も年度内成立には協力せざるをえない」(国民民主幹部)とみられている。要するに「予算成立花道論」だが、すでに石破茂元幹事長がその可能性に言及して、一気に現実的選択肢として浮上してきた。

もちろん、岸田首相の退陣決断が前提だが、党則の中に「総裁が任期中に欠けた場合には、(中略)特に緊急を要するときは、党大会に代わる両院議員総会においてその後任を選任することができる」との規定があるため、所属全国会議員と都道府県連の代表各3人(141人)の投票による地方代表による「一発勝負」となるとみられている。


“予算成立花道”なら「茂木・高市・石破の“三つ巴”」に

その場合の後継レース出走が予想されるのは、茂木敏充幹事長、高市早苗経済安保相、河野太郎行革相、石破茂元幹事長、林芳正官房長官、野田聖子元総務相の6氏。

ただ、河野、石破両氏は、小泉進次郎元環境相との「小石河」連合を足場にした出走となるので、「今のところ石破氏一本化が本命」(政治アナリスト)との見方が多い。また、官房長官の林氏は出走断念の可能性大で、野田氏も推薦人確保が困難視されている。

となれば、茂木、高市、石破3氏の“三つ巴の勝負”となるが、その場合は、党内力学から「本命・茂木―対抗・高市―穴・石破」(同)との見方が一般的。というのも、茂木氏は自らの茂木派と麻生派さらには岸田派の支持が確実視され、それだけで党所属議員の4割を超える。これに対し、高市氏は安倍派を軸とする党内保守派、石破氏は菅義偉前首相ら無派閥グループがそれぞれ支持するとみられるが、いずれも「3割が限界」とみられているからだ。

ただ、勝者が次期衆院選の顔になるため、上位2人の決選投票になった場合、各種世論調査で国民的人気が低迷している茂木氏を、2位になった高市氏か石破氏が破る可能性も否定できない。


次のターニングポイントとなるのは通常国会会期末。裏金疑惑捜査への“配慮”などから召集は1月26日との見方が多いが、その場合の会期末は日曜日の6月23日で、「沖縄慰霊の日」でもあるため、実質的な会期末は6月22日となる。その場合、野党が内閣不信任決議案を提出、これを受けて岸田首相が衆院解散の踏み切ると、公選法の規定などから投開票日は7月14日か21日になる。

ただ、同7日が都知事選の投開票日であるため、「よほどのことがない限り、政治日程上は困難」(自民長老)との見方が支配的だ。さらに、国会会期の大幅延長による8月選挙も選択肢ではあるが、これについても党幹部は「可能性ゼロ」と言い切る。


9月末総裁選も岸田首相出馬なら様相一変

こうしてみると、最も可能性が高いのは2024年9月末の総裁任期満了による総裁選となる。ただ、この総裁選に岸田首相が出馬するかどうかで、レースの構図は一変する。大方の予想を裏切る形で、岸田首相が再選を狙って出馬した場合、幹事長の茂木氏や現職閣僚の高市、河野両氏は難しい対応を迫られるからだ。

特に、茂木氏はこれまで「令和の明智光秀にはなりたくない」といい続けており、出馬断念の可能性が高い。当然、林氏は岸田支持に回る。その一方で「戦わせていただく」と繰り返してきた高市氏と、石破氏か河野氏のどちらかの出馬はほぼ確実。さらに野田氏も推薦人が確保できれば出馬できる。

その場合、現状では麻生、茂木、岸田の3派閥や谷垣グループが岸田支持となる可能性が高く、総裁続投が現実味を増す。ただ、このケースでも、選ばれた総裁が次期衆院選の顔となることから、「岸田首相では戦えない」との声が噴き出す事態も想定される。


しかも、任期満了に伴う総裁選は地方党員も参加した本格総裁選となるのが一般的で、党員投票では国民的人気が高い石破氏(河野氏)や、保守派の代表となる高市氏が優位となる可能性も否定できない。そうした状況を踏まえれば、直前で岸田首相がリタイアして、急きょ茂木氏が出馬することも想定されるが、最初のケースの「予算成立花道」と異なり、本格総裁選となれば、選挙の顔として石破氏か高市氏が勝ち抜くこともあり得る。


「初の女性首相」として上川陽子外相の担ぎ出し

ただ、その場合の党内の亀裂は大きく、しかも、新総裁(首相)が解散権を握るため、党分裂の危機も招きかねない。そうした大混乱を避けるため、「話し合いでの1本化」が急浮上した場合、「初の女性首相として上川陽子外相の急浮上」(自民長老)が取り沙汰されている。

当然、上川氏が担がれた場合は、2024年10月召集と見込まれる臨時国会での首相指名・組閣の後、短時日での解散断行というケースも想定される。これは、野党陣営が一番警戒するケースで、「女性首相ブームで自公政権が勝つ」(選挙アナリスト)との見方が多い。だからこそ、現時点でも「ポスト岸田の本当の本命は上川」(自民長老)との臆測が広がるのだ。

仮に衆院選勝利で上川政権が安定軌道に乗り、2025年夏の参院選も乗り切って同年秋の総任期満了時で再選されれば、その次の総裁選はその3年後の2028年9月となる。その場合、茂木氏は73歳、石破氏71歳となり、世代交代を叫んで福田達夫氏や小泉進次郎氏が名乗りを挙げれば、「旧世代組はすべてリタイア」(岸田派若手)ともなりかねない。

もちろん、言い古された言葉だが「一寸先は闇」なのが自民党の権力闘争。深読みをする政界関係者の間では「つなぎ役として鈴木俊一財務相の担ぎ出し」説に加え、「麻生太郎副総裁の再登板」説までささやかれるが、「そのこと自体が、追い詰められた自民党の内部混乱を物語っている」(政治アナリスト)といえそうだ。