分別でも「プラごみ」の多くは焼却されている現実「プラマーク」意外にも注意して見たい"表示"

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2023/06/29 9:00



プラスチックのリサイクルはいったいどのように行われているのでしょうか(筆者撮影)
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生活のあらゆるところにプラスチックが利用され、私たちは便利で快適な日々を送ることができている。それに伴い排出量も増加。2022年4月にはプラスチック資源循環促進法(プラ新法)が施行され、プラスチックの収集やリサイクルが進んでいる。

プラスチックのリサイクルにはいくつかの方法があるが、圧倒的に多いのは、焼却時に生じる「熱エネルギー」を回収し、それを再利用することで「リサイクルした」とみなすサーマルリサイクルだ。

本稿では、プラスチックの基礎知識をはじめ、その過程に携わる業者の業務内容、今後のプラスチックのリサイクルの推進への展望をご紹介する。


実はプラスチックの種類はたくさんある

プラスチックは主に炭素と水素からなる高分子化合物で、原油を蒸留・精製してできるナフサを原料とし、そこからさまざまな種類が生成されている。

身の回りのプラスチック製品には、「プラ」と書かれた識別マークが表示されており、そのマークの周辺部分に「PE」「PP」「PVC」「PS」「PET」「ABS」といったように材質が表示されている場合もある(材質表示に法的義務はない)。




身の回りにあるプラスチック

筆者の研究室にある消しゴム、ウェットティッシュ、ペンといったプラスチック製品でマークや材質を確認してみた。消しゴムには「PP」や「PVC」、ウェットティッシュには、「PP(下線有)」、ペンには「R-PP」などと表示があった。


注意して見たい識別表示

これらについて注意して見たい点が3つある。

1つ目は、識別表示の義務に該当するのは、プラスチックや紙製の容器包装などに限られる点だ。例えば、消しゴムを格納するスリーブ(ケース)は紙製であり、そのスリーブがポリプロピレン(PP)でフィルムコーティングされているため、識別マークと材質表示がなされている。

一方、消しゴム自体には識別表示義務は存在しないが、ポリ塩化ビニルを主として作られている点を消費者に伝えるため、メーカーがPVCと表記している。


消しゴムケースに記載された識別マークと材質表示(筆者撮影)

2つ目は、材質に下線が付されたケース。複合材質、複合素材については、主要な構成材料を含めて2つ以上を表記し、主要な材料に下線を付すことが推奨されている。ウェットティッシュを例に見てみると、容器包装フィルムは、ポリエチレン(PE)とポリエチレンテレフタレート(PET)を積層させた複合材質であり、ポリエチレンを主にした材質でできているという意味になる。


ウェットティッシュが入った袋に記載された識別マークと材質表示(筆者撮影)

3つ目は、樹脂表記の前に「R-」とされている点である。これはリサイクルの「R」であり、リサイクルのポリプロピレン樹脂を使用しているという意味になる。


ペンの容器に記載された材質表示(筆者撮影)

このような識別表示をつけることによって、私たち消費者の分別排出を容易にし、市町村の分別収集を促進してリサイクルを推進していくことができる。そのため、資源有効利用促進法により事業者に対して識別表示義務を定めている。


プラスチックのリサイクル方法とその割合

では、プラスチックのリサイクルはいったいどのように行われているのだろうか?

長年の技術開発により、さまざまな廃プラスチック(廃プラ)のリサイクル手法が実用化されている。これらを大きく分けると①マテリアルリサイクル、②ケミカルリサイクル、③サーマルリサイクルの3つに分類できる。


① マテリアルリサイクル

マテリアルリサイクルは、廃プラをそのまま原料にして新しい製品を作る技術である。破砕・洗浄・乾燥させてフレークにし、それを溶かして粒状のペレットにして、さらに溶かして樹脂材料として再生される。

この樹脂材料の品質基準を満たすには、異物や汚れを取り除くのはもちろん、同一種類のプラスチックを原料としなければならない。よって、排出者には品目毎に分けて排出してもらう必要がある。

この技術は1970年代に誕生し、現在では国内に数百社のメーカーがその技術を利用したビジネスを展開している。なお、マテリアルリサイクルされるのは、主に産業系の廃プラである。理由は、製品の製造過程で生じる端材、規格外品、流通過程で生じる梱包材は樹脂の種類が明確であり、汚れや異物が少なく纏まった量が排出されるためだ。


マテリアルリサイクルされた製品(写真:プラスチック循環利用協会「プラスチックリサイクルの基礎知識」)



プラスチックの多くは焼却処分されている

② ケミカルリサイクル

ケミカルリサイクルは、廃プラを化学的に分解し、製品の原料に変えて再利用するものだ。これにはいくつかの方法があり、原料に戻して再利用する手法、製鉄所でコークスの代わりに還元剤として利用する手法、ガスにして化学工業の原料にする手法などがある。ただし、大型の設備を整備する必要がある。それらの設備は既存の製鉄や石油化学コンビナートに隣接させるため、輸送コストが高くなるなど、経済的な側面が課題だ。


③ サーマルリサイクル

サーマルリサイクルは、焼却時に生じる「熱エネルギー」を回収し、それを再利用することで「リサイクルした」と“みなす方法”。清掃工場で行われている発電や、近隣の温水プールへの熱供給などが該当する。

プラスチック循環利用協会の調査によれば、2020年の廃プラ総排出量822万tのうち有効利用されるプラスチックは710万tであり、その内訳としては、マテリアルリサイクルが173万t(21%)、ケミカルリサイクルは27万t(3%)、サーマルリサイクルが509万t(62%)と、圧倒的にプラスチックは焼却処分されている。

サーマルリサイクルではプラスチックの焼却時にCO2が排出されるので、わが国が2050年までの実現を宣言する「カーボンニュートラル」のために、また資源循環のためにも、マテリアルリサイクルの割合を高めていく必要がある。


マテリアルリサイクルの現場

マテリアルリサイクルの現場はいったいどのようになっているのだろうか。非鉄金属(銅、アルミ)素材・加工品と樹脂(PP、PE、PS、PVC)の輸出入を手掛ける商社EBC社の工場を見学させてもらった。


(左)ゴムの端材 シューズ(サンダル)に生まれ変わる/(右)ペットボトルのキャップ 収納ケースに生まれ変わる(筆者撮影)

同社が展開する樹脂事業では、工場などの排出先からプラスチック端材・残材の単体樹脂を買い取り、自社工場で選別、破砕、粉砕して再ペレット化し、リサイクル材を国内のみならず、インド、中国、東南アジアに提供している。

纏まった量で安定的に排出されないなどのさまざまな事情から、引き取り手がなく焼却処分されていた廃材などを有価で譲り受け、プラスチックのリサイクルの原料としている。


(左)製造過程で生じる形成不良品 再度CDケースに生まれ変わる/(右)車のバンパーとビニールロール 車載部品とビニール袋に生まれ変わる(筆者撮影)

筆者が見学した茨城県の工場内には、排出者から買い取った端材や廃材が所狭しと並べられていた。これらは、李振全社長が自ら排出者にアプローチし、焼却処分予定だった材料を引き取ったものである。


(左)経年劣化した道路工事用の資材 パレットに生まれ変わる/(右)建築現場から出た排水管の端材 排水用パイプに生まれ変わる(筆者撮影)


リサイクルできるかを検証する現場に密着

見学当日は、パナソニック住宅設備の浴槽の製造過程から出る規格外品(工場端材)を引き取り、リサイクルできるかを検証する取り組みが行われていたので、その現場にも密着させてもらった。


パナソニックグループでの樹脂資源循環事業を推進しているパナソニックETソリューションズの担当者によると、

「規格外品が大量に継続して排出されるわけではないため、これまでは保管スペースもなく、有償引き取りできるリサイクラーがなく、産業廃棄物として排出して焼却をお願いするしかなかった。しかし、これらは貴重な資源であり、今回、製造工場の近くで操業するEBC社に有価で引き取ってもらえ、それを原料として再生樹脂に戻すことができれば、資源循環のスキームを実現できる」という。

こうした工場端材の資源循環の取り組みが実ビジネスとなれば、いっそうマテリアルリサイクルが推進されていくだろう。


試験評価に使用した浴槽や破砕した工場端材、カウンターの加工端材(写真:パナソニック住宅設備提供)

「分別して排出すれば資源にできる」

李社長は、廃材等を1kgからでも買い取るという小回りを利かせた手法で、環境負荷の軽減のためにも廃材や端材等をリサイクルルートに乗せてきた。とりわけポリ塩化ビニル(PVC)では、2021年平均月間輸出量は約1000tと業界ではトップクラスを誇り、インドやアフリカに届けられたPVC材はインフラ用の排水パイプとして生まれ変わっている。


プラスチックのリサイクルの推進に向けて

産業系の廃プラをリサイクルしているEBC社の取り組みから得られる示唆としては、「分別して排出すれば資源にできる」という点である。プラ新法の施行により、家庭系の「製品プラ」の回収が地方自治体の努力義務となり、技術的・経済的な制約をクリアできた自治体は資源収集を推進していくようになった。

この状況のなかで私たちができることは、単純だが、自治体がプラスチックの資源収集を行っていれば、廃プラをしっかりと分別して資源として排出していくことである。意識して分別していくことにより、マテリアルリサイクルの流れがより堅固になっていく。

近年、海洋プラスチックやマイクロプラスチックの問題が取り上げられ、プラスチック自体が悪いイメージで捉えられているように思える。

しかし、廃プラは確実にリサイクルできる体制が整っているため、プラスチックの利便性を享受した後は、しっかりと分別して排出していくことを心掛ければ良いと筆者は考えている。そうすれば、石油などの限りある天然資源の消費を抑制し、環境負荷を抑え、さらなる資源循環が進んでいくだろう。