「こっちの水はおいしいよ」と言わんばかりにメリットを強調し、最近では「そうだ! マイナンバーカード取得しよう」とプリントされたTシャツを着てテレビに出演し、あの手この手で全国民に作らせようとする河野太郎デジタル大臣。
マイナンバーカード機能を搭載したスマホが全国に普及すれば、私たちは生活の中のいろいろなサービスをすべてマイナポータル上で使うことになるでしょう。
マイナポータルに隠された巨大な落とし穴
「利権だなんだと言ったって、結局社会はどんどんデジタル化していくんだから、危ない危ないと騒ぐのはバカ。マイナポータルを便利に使いこなすほうが得策」
インフルエンサーたちは声を揃えてそう言い、便利ならいいやと思っている国民も少なくありません。ただし、1つだけ、絶対に知っておかなければならないことがあります。
みなさんは、政府が運営するマイナポータルのトップ画面の一番下に、目立たない色で小さく書かれている「利用規約」を読んだことはありますか?
そう、小さな文字でごちゃごちゃ書いてあるので、普段私たちのほとんどが面倒くさくて見落としてしまう、あれです。
なかでも特に重要な4項目を簡単に見てみましょう。
(改正の7日前に公表、改正後に使った場合は自発的に新しい利用規約に同意したとみなされる)
利用規約で「押さえておきたいポイント」
ここで大事なポイントは、規約というのは契約書と違い、双方向の合意ではないことです。だから第27条のように「これは政府にも国民にもメリットになるとこちらで判断したので、ルール変更しますよ」とできるわけです。
大事なことなので私も動画や新聞の連載記事などで知らせましたが、いまだにほとんどの国民は知りません。けれどネットの一部で騒がれていることを素早く察知した河野大臣は、すかさずこんな動画をアップしました。
「ネットでそういう心配が出ていることは承知していますが、一般的なインターネットサービスの利用規約と読み比べても、特に特殊な要素はないと思っています」
普通の民間サービスと同じ規約だから大丈夫!という河野大臣。ちょっと待って、本当にそうでしょうか?
たしかに、Facebookなどのソーシャルメディアや、携帯電話サービスの規約には、ほとんどの場合「何かあったら自己責任ですよ」と書いてあります。けれど民間サービスは、自己責任である代わりに、マイナンバーカードのように強制的に全国民に義務化させることはありません。
本来保護されるべき個人情報にアクセスできる国の公的サービスと、同列にはできないのです。クレジットカードなら、盗まれたら凍結させ、新しく別の番号をもらえます。
けれどマイナンバーは原則として番号が変えられないうえに、名前と住所と家族構成、年金や税金の支払い状況や、銀行の預金に生命保険に住宅ローン、所得に不動産、株といった資産情報、学校の成績から職歴、今までに受けてきた治療と飲んでいる薬の種類、公営住宅や失業保険、児童扶養手当をはじめとする各種手当の受け取り記録、犯罪歴まで含むので、悪用されたときの被害が比になりません。
今後マイナンバーカード機能のスマホ搭載が進めば、各種ポイントカードや図書カードなど、ますます多くの民間サービスが紐づけられていくでしょう。
政府は利便性よりセキュリティの徹底を
「デジタル化は待ったなしです」と政府もメディアもインフルエンサーも、口を開けばこう言います。でも焦ることはありません。
実際は、どこの国でも仮想空間という新しい世界の中で、手探りでデジタル化を進めているからです。逆にテクノロジーの進化が高速すぎて、人間のスピードが追いつけず、怖い副作用があちこちで問題になっています。
キャッシュレスが便利だからと手首にマイクロチップを埋め込んだスウェーデン人のある男性は、しばらくすると消費も行動もすべて記録されていることが、気持ち悪くなったと話してくれました。
「だって政府がいつでも国民の味方とは限らないだろう? トルドー首相がやったことを見たかい? あれで目が覚めたよ。コントロールは残しておかなきゃ。結局チップを取り出して、今は現金とクレジットカードの半々に戻したよ」
彼がゾッとしたというカナダの事例も、やはりショック・ドクトリンでした。
ジャスティン・トルドー首相は、コロナ禍をショック・ドクトリンに使った多くの為政者の1人です。国民にワクチン接種の強制や法を逸脱した行動制限を課し、市民が憲法違反を訴えると、首相はいきなり緊急事態法を発令し、デモ参加者の個人情報を基に、彼らの銀行口座を凍結したのでした。
何もかもデジタル化するのはいいことなのか
ショックを受けた国民が預金を引き出そうと銀行に殺到したために首相は緊急事態法を終了させざるを得なくなり、凍結は解除されましたが、図らずも、いざとなったら政府が国民のデータを使ってどんなことができるのかを、世界に示した事件だったのです。
私たち日本人は特に、あなた遅れてますよ、みなさん先に行かれましたよ、と言われると弱いところがありますが、今は海外の情報がネットでもたくさん手に入る時代です。政府とメディアがメリットだけを推してくるものほど、海外の事例をチェックしておきましょう。
何もかもデジタル化することは、場所を取らずスピードも上がって便利な反面、セキュリティ面では最悪です。自然災害で、通信が遮断されてしまう状況もしょっちゅう起こります。
阪神・淡路大震災や東日本大震災、各地のゲリラ豪雨など、大きな自然災害があったとき、紙の保険証やお薬手帳がいかに大事かを忘れてはなりません。
アメリカでは「カードは持ち歩くな」
デジタル化に関して中国と熾烈な競争を繰り広げているアメリカではどうなっているでしょう?
アメリカには社会保障番号という一生変わらない個人番号があるのですが、まず絶対にカードは持ち歩きません。私が住んでいたときも、「カードは金庫の中だよ」という同僚が何人もいたのを覚えています。
社会保障番号が書かれたカード自体にも、2017年には、消費者の信用度を計算する信用調査会社大手エキファックスが大規模なハッキング攻撃に遭い、1億4500万人分の番号が個人情報とともに漏洩してしまった事件がありました。
流出したのは、名前と住所と生年月日、運転免許証番号と社会保障番号、そして20万9000件にものぼるクレジットカード番号です。一生変わらない個人番号は強固な身分証明になり高い値段がつきますから、あっという間に闇市場で売買されてしまいます。
アメリカ政府は番号が盗まれた人たちに向かって、「今後何年にもわたって犯罪被害に遭うリスクがあるので油断しないように」「1年間はエキファックスが提供する『なりすまし犯罪保険』を使い、2年目からは自腹で保険を更新しなさい」などの注意を呼びかけていました。
パンデミックのようなショックで、国民が思考停止になっているときは、こうした犯罪が起きやすくなります。コロナ禍のアメリカでも、やはり個人番号関連の犯罪は一気に増えました。
連邦取引委員会(FTC)によると、2020年、ニューヨーク州では個人情報盗難事件が急増し、IDを盗撮されたという苦情が6万7000件を超え、被害総額はなんと10年前の4倍以上。約2万5000人のニューヨーカーが個人番号を盗まれ、勝手にクレジットカードや銀行口座を作られてしまったのでした。
「利便性と引き換えに、一生変わらない個人番号がもたらす被害は大きすぎる」として、見直しを求める声が高まっているのです。