ごみを平気で出す人が知らない埋立地の残り年数最終処分場「残余年数」首都圏30.1年、近畿圏19.6年

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2023/04/26 9:00



大阪湾広域臨海環境整備センターの神戸沖埋立処分場(写真:大阪湾広域臨海環境整備センターHP)
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決められた時間・場所にごみを出しておけば、いつの間にか収集されている。これは、私たちにとって当たり前な日常の1シーンである。この日常が成り立っているのは、収集してくれる人がいるからであるが、もう少し広く捉えると、ごみの最終処分場が存在するからだ。

この「最終処分場」がもしもなくなったらどうなるのだろうか?


東京ドーム79.4杯分しか余裕がない!

清掃事業は、①収集・運搬、②清掃工場での中間処理、③埋め立てなどによる最終処分、という体系で成立している。この①②③が一貫して、統一的かつ一体的に機能したときに、清掃事業が成立しごみ収集サービスが提供される。

これらのインフラ施設のうち、清掃工場は煙突がランドマークでもあるためよく目にするが、その先にある最終処分場は山の中や海上といった人目につかない場所にあるため、住民から遠い存在となっている。本稿では、私たちにとっては見えにくく少し遠いところにあるが、ごみ排出に密接に関係している最終処分場について取り上げる。


日本の最終処分場の現状は、環境省がまとめた「一般廃棄物の排出及び処理状況等(令和3年度)について」に記載されている。それによると、2022年3月現在、一般廃棄物の最終処分場は全国に1572施設(新設15、稼働前8を含む)存在する。

残余容量は、9844万8000㎥である。と言われてもわかりにくいので、これを東京ドームの容積(124万㎥)で除算してみると、79.4杯分しか全国で発生するごみや灰を埋め立てられる余裕がない。

また、自らの自治体内に最終処分場を有しておらず、民間の最終処分場に埋め立てを依頼している市町村は299(全市区町村数1741の17.2%)存在するとされている。

ただし、大阪湾フェニックス計画(近畿2府4県169市町村から発生する廃棄物を大阪湾の4つの海面処分場に埋め立てる計画)対象地域や、ほかの市町村・公社などの公共処分場に埋め立てしている場合は最終処分場を有しているとして計算されている。


最終処分場を見たことはありますか?

東京都の海面処分場を利用する東京23区や、東京たま広域資源循環組合のように組合を結成して、多摩地区26自治体が共同の埋め立て地を利用するケースや、埼玉県の環境整備センターのように県営の最終処分場を利用する埼玉県下の市町村のようなケースもある。

そのため、多くの住民にとって最終処分場は身近でない遠い存在であり、ごみの行く先を把握しづらく、ごみの排出と最終処分をつなげて考えるのが難しい状況にある。


■東京たま広域資源循環組合の二ツ塚処分場

東京たま広域資源循環組合の二ツ塚処分場は日の出町にある(出所:東京たま広域資源循環組合のHP)


一方、都道府県外の施設に最終処分を目的として搬出された一般廃棄物の合計は、22万t(最終処分量全体の6.4%)である。当該地方内で十分な最終処分先が確保できていない関東・中部地方(千葉県、埼玉県、神奈川県、栃木県、茨城県、新潟県および長野県)の7県からの搬出だけで17万tにも上り、全体の78%を占める。これらの県のごみは、北海道・東北などへも運ばれている。


■関東圏の一般廃棄物の広域移動状況

(出所:環境省「一般廃棄物処理事業実態調査の結果(令和3年度)について)


最終処分場は無限ではない

最終処分場には当然ながら限りがある。いつまでも無限に廃棄物を埋め立てられるわけではない。


最終処分場の残余年数(新規の最終処分場が整備されず、当該年度の最終処分量により埋め立てが行われた場合に、埋め立て処分が可能な期間(年))は、全国平均で23.5年である。

首都圏(茨城県・栃木県・群馬県・埼玉県・千葉県・東京都・神奈川県・山梨県)では30.1年、近畿圏(三重県・滋賀県・京都府・大阪府・兵庫県・奈良県・和歌山県)では19.6年となっている。


これらの年数分はごみを処分できると思うかもしれないが、地震や水害などの突発的な自然災害に見舞われた際に生じる災害廃棄物の処分も見込んでおく必要があるため、残余年数は現状の年数よりも短くなると見立てておくほうがよい。

よって、新規の最終処分場の整備に取り掛かっていかなければ、約20年後には清掃行政は機能しなくなり、ごみ収集サービスの提供は行いたくてもできない状況になってしまう。


東京湾はこれ以上埋め立てができない

なお、筆者が3月まで居住していた東京都板橋区の場合は、23区内で発生する廃棄物の処理残渣を処分する東京港内の中央防波堤外側埋立処分場と新海面処分場に埋め立てている。

廃棄物等のさらなる減量化や有効利用に積極的に努めることで、今後50年以上の埋め立てが可能と推計されている。しかし、東京港内にはこれ以上埋め立てスペースが確保できないため、新海面処分場が最後の処分場となっている。


東京都の最終処分場(出所:東京都港湾局港湾整備部計画課発行のパンフレット「新海面処分場」、2022年)


最終処分場の設置の難しさ

残余年数を増やすために新たに最終処分場を建設しようにも、迷惑施設のひとつとも言われる最終処分場は簡単には作れない。

第1は、土地や水面の確保である。埋め立て期間約15年を想定した十分な広さが求められるが、これを見つけるのは難しい。とりわけ都心部の自治体は自らの管轄区域に最終処分地を用意できない。ビルが建ち並ぶ東京都千代田区を見れば一目瞭然である。

第2は、仮に適切な土地が見つかったとしても、その周辺住人との合意を形成するのは難しい。焼却残渣等の搬入のために、多くの車両が行き来して静かな生活が台無しになるケースが予測されるため反対運動が起こりやすい。そうなれば最終処分場の建設は見合わされる場合もある。

第3は、環境への影響である。埋め立て地に降った雨は廃棄物の有害成分を溶出した浸出水となる。これを垂れ流しにしてしまうと地下水や河川や生態系に影響が生じ、私たちの飲み水や食物に影響が及んでしまう。よって環境への影響が少なく、しっかりとコントロールできる場所を見つける必要がある。


このような制約から、新たに最終処分場を建設するのは難しい。最終処分場の展望はまったくと言っていいほど明るくはない。

新たな最終処分場が確保できないのであれば、それを延命化させていくしかない。その方策は当たり前であるが、最終処分場内の受け入れ容量を増やすか、残渣の搬入量を減らすしかない。とりわけ残渣の搬入量を減らす方策として採られているのが、可燃ごみの焼却残渣(灰)の資源化である。これには次の3つの方法がある。


第1はセメントの原料化である。清掃工場で生まれる焼却灰をセメント工場に運搬し、原料の1つである粘土の代替原料として資源化していく。これについては、東京都の多摩地域の25市1町の自治体で構成されている東京たま広域資源循環組合の二ツ塚最終処分場内にエコセメント化施設を設置し、受け入れた灰をもとにエコセメントの製造を行っている事例がある。


二ツ塚最終処分場内のエコセメント化施設(写真:東京たま広域資源循環組合のHP)



2つ目、3つ目の方法は?

2006年の施設稼働時より、埋め立ての約8割を占めていた焼却灰を全量エコセメント化している。毎年約8万t程度がエコセメント化され、処分場の延命化に多大に貢献している。エコセメントは普通のセメントと同等の品質を持つため、道路舗装や公園などのコンクリート2次製品に加工され、多摩地区を中心に公共工事などに使用されている。


第2は徐冷スラグ化である。焼却灰を民間の資源化施設へ運搬し、1200℃以上の高温で溶融処理した後にゆっくりと冷却(徐冷)させ、石状のスラグを作る。強度や外観も天然石と類似する組成となるため、地盤改良材、道路・コンクリート用骨材等で使用される。


■徐冷スラグ化

徐冷スラグ化(出所:東京二十三区清掃一部事務組合のHPより、東京二十三区清掃一部事務組合提供・協力)



第3は焼成砂化である。焼却灰を民間の資源化施設へ運搬し、約1000℃で焼成処理して有害物質を除去して無害化した後、粉砕・造粒して人工砂を作る。焼成砂は、路盤材、ブロック資材等に利用されている。


■焼成砂化

焼成砂化(出所:東京二十三区清掃一部事務組合のHPより、東京二十三区清掃一部事務組合提供・協力)


このように最終処分場の延命化に向けた方策が採られているが、焼却灰の資源化には埋め立てに比べてコストがかかってしまう。筆者の試算では、通常の埋め立てに比べ約4倍もの費用がかかっていた。それは、製造コストに加え、遠隔にある資源化施設まで鉄道・船舶・車両によって運搬する費用もかかるからである。


焼却灰を輸送する鉄道貨物用コンテナ(出所:東京エコサービスのHP)


延命化を意識したごみ減量の必要性

2021年度のごみ総排出量は4095万t、1人1日当たりのごみ排出量は890gで、ごみ総排出量は2013年度以降減少傾向であるが、最終処分場を延命化させていくために、自治体による延命化策や可燃ごみの焼却残渣の資源化加え、私たち全員が「限りなくごみを減らす」生活を送っていく策が有効になる。


近年、SDGsに関連して3R(Reduce、Reuse、Recycle)という言葉をよく聞くようになった。しかし、Reduce、Reuse、Recycleというそれぞれの用語の意味は理解できても、なぜ3Rを行う必要があるのかへの包括的な理解は進んでいないようである。

というのは、「限りある資源を大切に使うため」という意味ばかりが強調されてしまい、「最終処分場がなくなるから」という意味は陰に隠れているからである。最終処分場が利用できないということは、清掃事業が成り立たず、ごみ収集サービスが提供されなくなることを意味する。その結果、当たり前な日常となっている衛生的な生活はできず、ごみがあふれかえる中での生活になかもしれない。

よって私たちは、最終処分場の残余年数を意識して、ごみの減量に積極的に取り組む必要がある。私たちの子どもや孫の世代にも現在のような衛生的な生活を引き渡していけるよう、わがごととして危機意識を持って、ごみの減量に積極的に参加していく必要がある。