だから日本食は世界の人々に愛される…海外でジワジワ広がる「アレンジしすぎた日本食」のすごい実態

寿司にはマンゴーソースをかけるのが定番に

 

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  日本の感覚とはちょっと違うけれど…

 

健康ブームに乗る形で日本食が世界的にも再評価されている――というのはよく聞く話だが、私たち日本人の想像を超えた利用法で独自の進化を遂げた「和食」が海外で登場しているようだ。

 

東京のすし屋で大将が握った寿司

写真=iStock.com/RichLegg

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日本人としてはなんとも微妙な表情が浮かんでしまうものから、言われてみれば納得の取り合わせまで、さまざまなメニューやレシピが続々と開発されている。

 

日本の感覚とはちょっと違うけれど、どこか斬新で興味深い。そんな新手の「日本食」の事例を、アメリカ、カナダ、イタリア、メキシコ、そしてオーストラリアなど、世界各地のレストランや食卓から見てみよう。

 

 

 

  巻いてしまえば、何でも寿司になる

 

予想を裏切る日本食のなかでも、とくに寿司はバリエーションが豊富だ。巻いてしまえば何でも巻き寿司として成立する懐の深さゆえとも言えるだろう。

 

米フロリダ州のウォルト・ディズニー・ワールド(WDW)では、クリスマスカラーの寿司が登場している。WDWにある4つのパークのうち、世界各国のパビリオンが集う「エプコット」内の日本館にて、昨年12月30日までの期間限定で「シワス・ホリデー・キッチン」が開催された。

 

特別に用意されたパークフードの数々なかでも、特に目を引くのが「寿司ツリー」だ。カニ肉とクリームチーズを具材とした巻き寿司に、天ぷら、イクラ、ピリ辛マヨネーズを添えたものだ。赤と緑の粉がまぶされており、プレートを上から見たならば、まるでイクラを装飾にまとったツリーのようだ。

 

値段は1皿7.50ドル(約1030円)。

 

パーク関連のニュースを報じるWDWニュース・トゥデイは、実際に食べた感想をリポートしている。

 

「これはおいしかった! ツリーの形でとてもクリスマスらしい感じがする」「(イクラの)粒から醤油味を感じると同時に、クリームチースが寿司全体の味を整えている。(イクラは)口の中ではじける」
「とてもよくある巻き寿司だが、スパイシーなマヨによって昇華されており、見た目もかわいらしい。この一品が優勝だ」

 

 

ほかにもベーシックな天ぷらそばなどが振る舞われるなか、実食した同サイト記者は、寿司をクリスマスアイテムに仕立てた寿司ツリーを一番気に入ったようだ。ホリデーシーズンでにぎわうパークで、食の面から新鮮な驚きを放った。

 

 

 

  イタリアのピザ専門店は「ピザ寿司」を考案

 

このように寿司を各国の食文化と融合させたものは「フュージョン寿司」と呼ばれ、驚くほどさまざまなバリエーションが考案されている。

 

イタリアでは、とある伝統あるピザ専門店が「寿司ピザ」を振る舞うようになり話題を集めている。料理名からは味の想像もつかないが、米メディアのヴァイスは、「聞いた印象よりもおいしい」との感想を取り上げている。

 

 

ピザを手にほほ笑む少女

写真=iStock.com/Imgorthand

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記事によると、トスカーナ州の小さな街でピッツェリアを受け継いだピザ職人のマイオラーノ氏は、「伝統的なピザを豊富に用意しながらも、イノベーティブかつ現代的な料理で店のメニューに新鮮味を加えたい」と考えたという。

 

くしくも同時期、パンデミックによって主にフードデリバリー経由での販売となったことから、時間が経ってもおいしく食べられるピザの開発が求められた。こうして誕生したのが寿司ピザだ。

 

フォカッチャを軍艦巻のような楕円形に丸めたものに、メインとなる具材をのせ、カラフルなソースでデコレーションしている。ピザというよりはフォカッチャだが、同店はピザのバリエーションと位置づけているようだ。

 

中心となる具材は4種類からチョイスでき、サーモンとチーズ、漬けマグロとワカメ、粗く刻んだ牛肉とオニオンフライ、エビの天ぷらと甘辛ソースが用意されている。開発したマイオラーノ氏はヴァイスに対し、寿司を再現することではなく、まったく新しい体験を追い求めたと説明している。

 

「ピザやマルゲリータを注文すれば、それで終わりです。(寿司ピザは)むしろ、旅路のようなものなのです。一品目がサーブされ、味わい、同伴者と料理についての話が弾む。いつもの夕べとは違った雰囲気が訪れることでしょう」

 

 

フエゴ・ロールは、スナック菓子のチートスを使ったユニークな発想で爆発的人気を得ているようだ。チートスと、激辛スナックで有名なタキスを混ぜて粉になるまで潰し、この粉を巻き寿司の表面にたっぷりとまぶす。唐辛子ペーストとライムを練り込んだメキシコ流マヨネーズをかけ、刻みネギを散らして完成だ。

 

巻いてあることを除いて寿司とはほど遠いが、赤や黄色のカラフルな寿司はインスタ映えすることから、若い世代に特に人気となっているようだ。行列ができるほどの人気だとKENSのニュース番組は報じている。

 

若い創業者のフランシスコ・ガルシア氏は、毎朝早くからキッチンカーを開け、購入者の声に応えているという。ガルシア氏は「これはヤバい、あんたのフードはとても良いね!」との反応に励まされているようだ。

 

別メニューとして、甘いマンゴーソースをかけた巻き寿司も用意しており、こちらも人気だという。メキシコ本国でも、マンゴーソースを使った寿司は寿司店で振る舞われている。寿司とマンゴーの取り合わせは意外にマッチしているのかもしれない。

 

 

 

  人気メニューになった「天ぷらタコス」

 

寿司以外にも、日本料理を巧みにアレンジしたメニューが次々と開発されている。

 

ウェブ上でレシピを公開し、対応する食材セットを通販で出荷している米ブルーエプロンは、「天ぷらタコス」の調理セットを紹介している。

 

配送されるキットに含まれている冬カボチャを天ぷらにし、同じく配送される生野菜と一緒にトルティーヤで巻くようだ。フライパンで焼き上げれば、ライムとパクチーがポイントの天ぷらタコスが完成する。

 

ユーザーからは、「このタコスを作ってみた……おいしかった! レシピを教えてくれてありがとう」などの声が寄せられている。

また、男性向けカルチャーサイトの米マニュアルは、白身魚の天ぷらをトルティーヤで巻いた「とっても秋らしいタコス」を紹介している。ほかにも天ぷらタコスはかなりメジャーなメニューとなっているようで、さまざまなメディアに登場する。

 

 

 

  味噌、醤油、ワサビ…日本の調味料にも熱視線が向けられる

 

調味料にも視野を広げれば、日本料理に欠かせない醤油や味噌などのさまざまなアイテムが、海外の食文化と融合を果たしている。

 

 

米料理雑誌のフード&ワイン誌は、感謝祭でおなじみのターキー(七面鳥)の丸焼きに、醤油とはちみつで照りを出すテクニックを伝えている。醤油、ごま、はちみつ、生姜を加えることで、風味もいっそう良くなるとのことだ。

 

試した読者からは、手間の割に味が変わらないとの不満が聞かれる一方、気に入ってもう2年もこの手法を続けているという声も上がっている。

 

ニューヨーク・タイムズ紙も、味噌の変わった使い方に注目している。味噌とメープルシロップを混ぜれば、野菜やスナックに付けて楽しめるパーティーディップになるという。ちょうどハニーマスタードのように、塩気と甘みが互いを引き立て合うようだ。

 

味噌も醤油もこれぞ和風といった調味料だが、感謝祭のディナーやパーティーなど、海外の大切なシーンを陰で支えている。

 

 

地元の寿司店で寿司を楽しむ若いカップル

写真=iStock.com/Geber86

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かなり主張の強い醤油だが、デザートの隠し味としても大活躍している。オーストラリアの著名料理研究家は、ブラウニーを作る際の隠し味として醤油を勧めている。

 

不思議なことに、アイスとも相性が良いようだ。インド・キッコーマンはプレスリリースを通じ、バニラアイスに醤油を垂らして風味を引き立てる使い方をさりげなく案内している。

 

 

【図表】世界で使われているキッコーマンしょうゆを使った人気レシピ

 

 

 

 

  白味噌は「トロピカルフルーツのような香り」

 

近年では社交の場を彩る各種のカクテルにも、日本でよく見る調味料が取り入れられるようになった。

 

ニューヨークでは、味噌を使ったカクテルが誕生した。旅行ジャーナリストのダイアナ・ハッベル氏は、米旅行・フード情報サイトのアトラス・オブスキュラに寄稿し、ニューヨークで「スラムダンク・ディスコ」という名のカクテルを味わった経験をつづっている。

 

「南国のバケーションで飲んだホワイト・ネグローニのような味わいでした。バナナとあんずの香りですが、捉えどころのないファンキーな何かを根本に感じるのです」

 

正体は白味噌だった。このカクテルを開発し、ニューヨークのバーで飲料ディレクターを務めているウィル・クレポップ氏は、白味噌にはよく熟れたトロピカルフルーツのような香りがあると表現している。

 

「白味噌は本当にクールなアクセントになり、塩気が効いて風味を良くし、そしてほんの少し首をかしげるような感覚をもたらしてくれると考えました」

 

 

カクテルに味噌を入れているのは、このバーに限らない。米カリフォルニア州の情報サイト「モントレー・カントリー・ウイークリー」は、新しい世代のバーテンダーたちが味噌や海藻などをウォッシュ(フレーバーと口当たりを変化させること)に使う方法を学んでいると報じている。

 

味噌のほか、わさびもカクテルに取り入れられているようだ。英ガーディアン紙は、モスコミュールならぬ「ワサビミュール」のレシピを掲載している。

 

しその葉でしそシロップを作り、ウオッカにこのシロップと小さじ2分の1杯ほどのチューブわさびなど各種素材を混ぜ、シェイカーで振るというものだ。ピリッとした風味がカクテルの味わいを引き締めてくれそうだ。

 

 

 

  各地の食文化と融合する「日本食」の懐の広さ

 

このように海外のさまざまな地域において、独創的な一皿が楽しまれているようだ。海外の文化と日本の食材がフュージョンしたフードは、私たちの感覚とはかけ離れていて斬新にも感じられる。

 

もはや日本食とは別物とも言えそうだが、創意工夫を凝らしたメニューが続々と開発されているのは、それだけ日本食が海外で興味を持って受け入れられている証しでもあるのだろう。

 

同時に、私たちから見ると明らかに風変わりなこうしたメニューは、もしかすると現地の人々には「日本ではごくごく王道の和食」と勘違いされているかもしれない。そんな思いを馳せてみるのもまた楽しい。

 

筆者は先日、海外の友人から、日本では寿司にマンゴーソースやストロベリーソースをかけるかと訊ねられた。この友人は海外現地の高級な日本料理店でこうした巻き寿司を振る舞われ、それが日本の定番スタイルだと思っていたようだ。

 

明らかに不自然なコンビネーションであっても、高級な店で出されると、それが日本流なのだと納得してしまうものなのかもしれない。

 

本稿で気になる料理はあっただろうか。しばらく経てば、ためらわずに海外旅行に出ることができる日も近づくかもしれない。その際にはあえて現地の日本料理店に足を運び、大胆にアレンジされた和食に驚かされてみるのも楽しい経験となるだろう。