池袋暴走事故公判 遺族が被告人質問実施へ

 

https://www.sankei.com/article/20210621-TJTEJ7VLH5O7NCEUTEBCTBLEBU/ 

 

 

 

 

 

 2021/6/21 13:38

 

 

 

東京・池袋で平成31年4月、乗用車が暴走して通行人を次々とはね、松永真菜(まな)さん=当時(31)=と長女、莉子(りこ)ちゃん=同(3)=が死亡した事故で、自動車運転処罰法違反(過失致死傷)の罪に問われた旧通産省工業技術院の元院長、飯塚幸三被告(90)の公判が21日、東京地裁(下津健司裁判長)で始まった。

 

この日は真菜さんの夫、拓也さん(34)が被害者参加制度を利用して被告人質問を実施する。これまで無罪主張を続けてきた飯塚被告に対し、遺族がどのような質問をぶつけるのか注目される。

 

 

飯塚被告は昨年10月の初公判で「心からおわび申し上げる」と遺族に謝罪したものの、一貫して車の故障を訴え無罪を主張している。

 

今年4月に行われた前回の被告人質問では、検察官が事故車両のドライブレコーダーの映像と飯塚被告の供述との間で齟齬(そご)があり、事故直前の走行状況など複数の点で記憶違いがあると指摘。検察官から改めてアクセルとブレーキを踏み間違えた可能性について問いただされたが、飯塚被告は「踏み間違えたという記憶は一切ない」と強い口調で答えていた。

 

 

 

(1)「妻と娘の名前言えますか」 遺族の被告人質問始まる

 

《東京・池袋で平成31年4月、乗用車が暴走して通行人を次々とはね、松永真菜(まな)さん=当時(31)=と長女、莉子(りこ)ちゃん=同(3)=が死亡した事故で、自動車運転処罰法違反(過失致死傷)の罪に問われた旧通産省工業技術院の元院長、飯塚幸三被告(90)の公判が21日、東京地裁(下津健司裁判長)で始まった。この日は真菜さんの夫、拓也さん(34)ら遺族が被害者参加制度を利用して被告人質問を実施する》

 

 

《午後1時半ごろ、飯塚被告が弁護人に車いすを押され、軽く一礼しながら入廷した。松永さんはすでに検察官席に着席している。裁判長はきょうの公判で松永さんら3人が質問することを確認。傍聴席から「声が小さくて聞こえない」との声が上がり、裁判長が改めて説明し直す。飯塚被告が車いすを押されて証言台に向かうと、松永さんが質問事項を書いた紙を手に立ち上がった》

 

 

松永さん「被害者参加人の松永拓也から質問します。妻と娘の名前を言えますか」

飯塚被告「はい。真菜さんと莉子さんです」

松永さん「名前を漢字で書くことができますか」

 

飯塚被告「『真』という字に…記憶が定かでないですが、菜の花の『菜』だと思います。莉子さんは難しい字なので、ちょっと書いてみることができないと思います。申し訳ありません」

 

《松永さんは手元の紙と飯塚被告の顔を交互に見ながら、冷静な口調で質問を重ねていく》

 

松永さん「あなたは裁判で一度も2人の名前を言っていませんね」

飯塚被告「ええ…。今までちょっとそういう機会がなかったと思っています」

松永さん「証拠の中にあった2人の写真を見ていますか」

飯塚被告「はい、拝見しました」

松永さん「どんな写真でしたか」

飯塚被告「家族でご一緒に、楽しそうな写真だったと思います」

松永さん「具体的には」

飯塚被告「例えばクリスマスのときに、莉子さんがお菓子を片手に持って、手をあげているような写真でした」

松永さん「写真を見てどう思いましたか」

飯塚被告「かわいい方を亡くしてしまって、本当に申し訳ないと思っております」

松永さん「他に覚えている写真はありますか」

飯塚被告「はい、3人で撮られた、遊園地だったかプールだったか、楽しそうな写真を拝見したと思っております」

 

《5分間ほど真菜さんと莉子さんのことについて飯塚被告に確認した松永さん。質問内容は前回の被告人質問で、飯塚被告が「記憶違いがあった」と述べた部分へと進んでいく》

 

 

(2)遺族の質問に飯塚被告「心苦しいが、過失はないものと思います」

 

《東京・池袋で平成31年4月、乗用車が暴走して通行人を次々とはね、松永真菜(まな)さん=当時(31)=と長女、莉子(りこ)ちゃん=同(3)=が死亡した事故で、自動車運転処罰法違反(過失致死傷)の罪に問われた旧通産省工業技術院の元院長、飯塚幸三被告(90)の公判は真菜さんの夫、拓也さん(34)による被告人質問が続いている》

 

松永拓也さん「前回の被告人質問で、事故当時の記憶とドライブレコーダーとの違いが4つありました。何だったか言えますか」

 

飯塚被告「左側の車線に入るタイミングが思ったよりも早かったです。左側に入ってから先行する車は自転車と思っていたのがバイクでした。それから、1番目の現場のところで何かに接触した気がしましたが、(ごみ清掃車の)男性と衝突していました。最後に、2番目の交差点では(ぶつかったのは)乳母車と思っていましたが、真菜さんと後ろに莉子さんを乗せた自転車だったと思います」

 

《飯塚被告は言葉に詰まることなく、すらすらと答えていく》

 

 

松永さん「前回の公判後、ドライブレコーダーを見ましたか」

飯塚被告「2、3回見ました」

松永さん「記憶違いの4つの点は、ドラレコの映像と違っていませんでしたか」

飯塚被告「表現は正確でなかったが、大筋は違っていないと思います」

 

《松永さんは落ち着いた声を保ったまま、飯塚被告の主張する事故状況がいかに可能性が低いものであるかを追及する》

 

 

松永さん「あなたは、ブレーキを踏んだ記憶は絶対に正しい、という認識ですか」

飯塚被告「はい」

松永さん「警察の車両検査で不具合が見つかっていないことは知っていますか」

飯塚被告「そのような報告が出て、証言されたことは覚えています」

松永さん「(飯塚被告の主張は)電子系統でアクセルとブレーキが同時に壊れたから事故が発生した、という理解でいいですか」

飯塚被告「電子制御だと、再現不能なことが起きます。私どももよく経験しますが、電源を切って再起動すると何事もなかったかのように正常な機能を果たします。そのような事例だと思っています」

 

松永さん「たまたま記録装置も記録できない不具合があったという主張ですか」

飯塚被告「記録装置とは何のことでしょうか」

松永さん「故障診断装置などですね」

飯塚被告「EDR(イベントデータレコーダー)でしょうか。EDRは一瞬のデータしか残っていなかったと思います」

松永さん「故障コードはEDRとは別ですよね」

飯塚被告「はい」

松永さん「警察の機能検査では(故障を)再現しなかった」

飯塚被告「はい」

 

《あくまで車両の不具合を主張する飯塚被告に対し、松永さんはメーカー側に対して訴訟を起こすのかと問いただす》

 

 

松永さん「事故の瞬間だけ故障されたということで、(飯塚被告が車両メーカーに対して)訴訟活動をする予定は」

飯塚被告「私どもは素人なので、十分な証拠をそろえる訴訟は難しいと思います。可能性がないことはないが、難しいと思います」

松永さん「警察や専門家の分析、目撃者の証言はいずれも間違いですか」

飯塚被告「全部が間違いとは思っていませんが、必ずしも正解ではなかった」

松永さん「ブレーキを踏み込んでいたのなら、油圧系統による制動は作用するのではないですか」

 

飯塚被告「そう思って踏んでいましたが、減速しませんでした」

 

松永さん「ブレーキを踏んだのなら加速はしませんよね」

 

《ここで飯塚被告の代理人弁護士が「質問ではなく意見に当たる」として異議を申し立てる。松永さんはいったん次の質問に移ろうとするが、裁判長が「記憶をただしたい趣旨だと思いますので、聞いていただいて構いません」と異議を却下。松永さんは改めて同じ質問を読み上げる》

 

飯塚被告「私の記憶では、ますます加速しておったと。油圧ブレーキが作動していなかったと思います。油圧が作動していれば減速します」

松永さん「電子(制御)と油圧(制御)が同時に壊れたということですか」

飯塚被告「それは分かりません」

松永さん「ドラレコを見ると、縁石に衝突してから加速している」

飯塚被告「衝突前に加速したと思います」

松永さん「どこで加速していたとしても、ブレーキを踏んだと100%確信があるんですか」

飯塚被告「はい。スピードが出ていれば(ブレーキを)踏んでいるので」

 

《松永さんは質問の方向を変え、飯塚被告の「本心」を聞き出そうとする》

 

松永さん「あなたは無罪を主張していますね」

飯塚被告「心苦しいと思っていますが、記憶では踏み間違いはしていません。過失はないものと思います」

松永さん「本心では、ご自身の主張に無理があると思っていませんか」

飯塚被告「冒頭に申しましたが、暴走を止められなかったことを悔やんでいます」

松永さん「公判が進んでも気持ちは揺るぎませんか」

飯塚被告「はい。同じ思いでおります」

松永さん「あなたが入院中、息子さんに『ブレーキとアクセルを踏み間違えた』と発言しませんでしたか」

飯塚被告「覚えていませんが」

松永さん「息子さんはそう話したと警察の供述調書にありますが」

 

飯塚被告「息子がそのような印象を最初に持っていたことは覚えています」

松永さん「最初の実況見分で、あなたが『踏み間違いをしたかもしれない』と言っている」

飯塚被告「はい、申しました」

松永さん「時間がたつほど踏み間違えていないという気持ちが強くなっているのでは」

飯塚被告「強くなっているとは思いません」

 

 

《飯塚被告は松永さんからの度重なる質問にも、決して自身の過失を認めることはなかった》

 

 

(3)「私たち遺族が強い怒りがあるということは伝わっていますか」

 

《東京・池袋で平成31年4月、乗用車が暴走して通行人を次々とはね、松永真菜さん=当時(31)=と長女、莉子ちゃん=同(3)=が死亡した事故で、自動車運転処罰法違反(過失運転致死傷)の罪に問われた旧通産省工業技術院の元院長、飯塚幸三被告(90)の公判は遺族の松永拓也さん(34)による被告人質問が続く》

 

 

《一つ一つの質問を丁寧に、はっきりとした口調で投げかけていく松永さんに対し、飯塚被告が時折、数秒間沈黙する場面もあった。「悔やんでいる」。飯塚被告は現在の心境を明かす》

 

 

松永さん「暴走する車を制御できなかったということに贖罪(しょくざい)の念があるということですか」

飯塚被告「悔やんでいます」

松永さん「責任を感じているということですか」

飯塚被告「…。責任という言葉は非常にあいまいだが、悔やんでいるというのは車で当日出かけなければ、事故は当日起きなかったと悔やんでいます」

松永さん「道義的にも、法律的にも責任を感じていますか」

飯塚被告「2人を亡くならせたことについては…非常に申し訳なく思っています。法律上か、ということにはお答えしかねます」

 

 

《ここで、松永さんは飯塚被告の運転能力に問題はなかったか、ということに焦点を当て質問を続ける。飯塚被告を直視し、はっきりとした口調で質問を読み上げる》

 

 

松永さん「周囲の人々はあなたに運転をやめるよういったことはありますか」

 

飯塚被告「日常会話の中で歳だからやめれば、といわれることはあったが、自立した生活のために車は必要でした。(周囲も)理解していたと思います」

松永さん「80歳以降、あなたは5回、バンパーを修理していますね」

飯塚被告「…。回数は覚えていません」

松永さん「どんな状況だったかは覚えていますか」

飯塚被告「…。1度は大変狭いところに車を入れてしまってバックで戻らなければならないときにこすってしまった。それ以外は覚えていません」

 

 

《池袋で事故を起こした当時、飯塚被告は一貫してアクセルの状態を確認したと主張している。松永さんが「(確認するのは)不可能ではないか」と質問するも、飯塚被告はそれを否定する。また、日常生活でつえをついていた飯塚被告に、松永さんが運転に不安はなかったかと問うと、飯塚被告ははっきりとした口調で「腰かけている状態では支障がない」と言い切る。松永さんは事故時の真菜さん、莉子ちゃんに関する質問を投げかける》

 

 

松永さん「真菜、莉子が亡くなったと知ったのはいつですか」

飯塚被告「(事故)当日の夜に初めて知りました」

松永さん「(真菜さん、莉子ちゃんを)はねた場面のドライブレコーダーの映像は見ましたか」

飯塚被告「…。はい」

松永さん「衝突の直後、莉子はあなたの車の方を見ていますよね」

飯塚被告「…。多分、見ていたと思います」

松永さん「莉子はどんな気持ちだったかと思いますか」

飯塚被告「…。多分、恐ろしかったのではないかと思うが、わかりません。申し訳ありません」

 

 

《「強い怒りがある」。松永さんは遺族の気持ちを質問に乗せ、飯塚被告に投げかける》

 

 

松永さん「私たち遺族が強い怒りがあるということは伝わっていますか」

飯塚被告「はい。(松永さんの)ブログも新聞記事も読んでフォローしているので十分理解しているつもりです」

 

松永さん「(事故が)故意でないことを(私たちが)理解していても(被告を)許せない理由はなんだと思いますか」

飯塚被告「…。被害者が加害者を許せないのは…」

 

 

《飯塚被告は少し間を空けて、理由を言い直す》

 

 

飯塚被告「理由はどうであろうと亡くなった事実は変わらないので、致し方ないと…」

 

 

(4) 遺族「あなたは人間の心を持っていない」 飯塚被告は沈黙多く

 

《東京・池袋で平成31年4月、乗用車が暴走して通行人を次々とはね、松永真菜(まな)さん=当時(31)=と長女、莉子(りこ)ちゃん=同(3)=が死亡した事故で、自動車運転処罰法違反(過失致死傷)の罪に問われた旧通産省工業技術院の元院長、飯塚幸三被告(90)の21日の公判は開始から40分が経過しても、真菜さんの夫、拓也さん(34)による質問が続いた》

 

 

松永さん「事故を起こしたという自覚はありますか」

飯塚被告「自分の車のために2人が亡くなったことは十分認識しているし、多くの人がけがをしたことも認識しており、重く受け止めています」

 

松永さん「今までの言動を聞いて、遺族の思いに向き合っていないと思う。その理由は何だと思いますか」

 

 

《飯塚被告はしばし、沈黙してから答えた》

 

 

飯塚被告「最愛の2人を亡くした松永さんの思いを私は語ることはできませんが、本当に悩まれて悲しまれて、苦しまれたという風に想像している。大変申し訳なく思っています」

松永さん「2人の無念と向き合っていないといわれても、仕方ないとは思いませんか」

 

 

《飯塚被告は、再度沈黙した。少し言いよどんでから続けた言葉は、若干震えているようにも聞こえた》

 

 

飯塚被告「あの、向き合っていないという意味はどういう意味か分かりませんけれども、私としては心を痛め、重く受け止めているつもりです」

 

《その言葉を聞いた松永さんは「ああ…」と、嘆息ともつかない声を漏らした》

 

松永さん「私は(あなたに)刑務所に入ってほしいと思う。その覚悟はありますか」

 

飯塚被告「はい。あります」

 

 

松永さん「刑務所に入ってほしい理由は何だと思いますか」

 

 

《飯塚被告は「最愛の2人を亡くされた苦しみと悲しみを…」と、言いかけたところで沈黙した。言葉がもつれているようで、はっきりとした返答とはならなかった》

 

 

松永さん「有罪のとき控訴をするか」

飯塚被告「分かりませんが、なるべくしないようにと思っています」

 

《松永さんは疲れたように「私からは以上です」と言って、質問を終わらせた》

 

 

 

《その後、被告人質問は亡くなった真菜さんの父、上原義教さん(63)に代わった。上原さんは時折声を詰まらせながら、飯塚被告に語り掛けるように質問を始めた》

 

 

上原さん「いろいろと質問されて答えてきたが、あなたは人間の心を持っていないのかと。『私が悪かったです』と、過ちを認めないことに、悲しみと怒りを覚える。あなたは(これまで)立派な仕事をして、そして生きてきた。その人が自分の過ちを認めない。『自分が車に乗って殺した。私がすべて悪かったです』と、そう謝れば私たちの苦しみや悲しみはもう少しは違ったかもしれない。事故から何年たったか分かりますか」

 

飯塚被告「2年です」

 

上原さん「(その間)あなたはどう生きてきましたか」

 

《飯塚被告は自分の持病のことやそのリハビリに専念してきたこと、亡くなった2人の月命日には線香を上げていたことなどを話した》

 

 

飯塚被告「無罪を主張するのは心苦しい。決して、ご遺族の苦しみと悲しみを理解していないわけではない」

上原さん「あなたの話は全部自己中心的だと思う。あなたが私と逆の立場だったらどうか。ずっと車のせいにして、裁判を続けている。あなたなら許せるのか」

 

《上原さんは語気を強めながらこう問いかけたが、弁護側から「仮定的かつ、意見になっている。事実を聞くようにお願いします」との指摘があった。法廷は少しの間、誰も発言せず静寂が訪れた。飯塚被告もうつむき加減で言葉を発しない。裁判長が上原さんに、「お気持ちは分かるが、事実を聞くのが被告人質問の趣旨ですから」と、諭すように言った。上原さんは再び質問を始めた》

 

 

上原さん「あなたは今まで、真菜と莉子をひいて反省していない。悪いと思っていないのですか」

 

飯塚被告「前にも申しましたけども、2人が亡くなったことについては本当に悔やんでおります。車でなければ事故は起こらず、2人の命もそのまま大丈夫だったわけですから。本当にその点は申し訳なく思っています」

 

 

《飯塚被告は、ここでも車自体に問題があったかのような返答をした》

 

 

(5完)被害者父「心の底からの『ごめんなさい』を」

 

《東京・池袋で平成31年4月、乗用車が暴走して通行人を次々とはね、松永真菜(まな)さん=当時(31)=と長女、莉子(りこ)ちゃん=同(3)=が死亡した事故で、自動車運転処罰法違反(過失致死傷)の罪に問われた旧通産省工業技術院の元院長、飯塚幸三被告(90)の公判は、真菜さんの夫、拓也さん(34)に続いて、真菜さんの父、上原義教さん(63)による被告人質問が行われた》

 

 

《上原さんは飯塚被告に訴えかけるように、次々と言葉を投げかけていく。飯塚被告はうつむいたままじっと耳を傾けている》

 

 

上原さん「『申し訳ない』と繰り返しているが、そういう問題ではない。将来、(真菜さん親子が)沖縄に帰ってくるなど、いろんな楽しみを私も待っていた。あなたによって奪われた。人間は誰でも過ちを犯すことがある。車に乗っていればなおさらだ。あなたが反省しても娘は戻ってこないが、せめて謝って認めてほしい。(私は)沖縄の地から毎日、莉子と真菜の写真を見て、『今日は認めてくれたらうれしいね』と独り言を言っている」

 

 

《次第に上原さんは声を詰まらせるように。傍聴席からも、はなをすする音が聞こえ始めた》

 

 

上原さん「どうしてこんなに苦しまないといけないんでしょう。私は一生この苦しみと悲しみを背負う。飯塚さんにも家族があり、家族も苦しんでいると思う。あなたは家族のことを考えたことがないのか」

 

飯塚被告「私の家族はとても心配しています。2人の命が亡くなったこと、親御さんが悲しんでおられるだろうと申しております。私としては私の車が起こした事故で、家族になるべく影響が及ばないようにしたいと。私自身で決着したいと思っています」

上原さん「最後に一言、言わせてください。裁判が終わった後、もう一度よく考えて、自分が悪くなかったか反省していただいて、心の底からの『ごめんなさい』を聞けるのを楽しみにしています」

 

 

《飯塚被告に心からの反省を切望し、上原さんは被告人質問を終えた。すぐ横で聞いていた真菜さんの夫、松永拓也さんは静かにハンカチで目元をぬぐった》

 

 

 

《続いて事故でけがをした、ごみ清掃車の運転手の代理人弁護士が質問に立つ。飯塚被告は「誰の責任で起きた事故かはわからない」「厳罰を求める署名を重く受け止めている」などと回答。飯塚被告の弁護人からの再質問も終わり、最後に裁判官が質問を始めた》

 

 

裁判官「(きょうの公判で)警察の取り調べの際に『(アクセルとブレーキの)踏み間違えがあったと認めた方が刑が軽くなる』といわれたとの発言がありましたが、その発言をしたのはどなたですか」

 

飯塚被告「私を取り調べた人です。刑が軽くなると言ったかどうかは定かではないが、『心証が良くなる』と言われました」

 

 

 

《裁判官からの質問が終わり、飯塚被告は弁護人に車いすを押されて被告人席に戻った。その後、事故に巻き込まれて重傷を負い、今も後遺症がある被害者3人の意見陳述書を裁判長が代読した。「今からでもアクセルとブレーキを踏み間違えたと認めるべきだ」「(事故を)車のせいにせず、被害者のことをもっと受け止めて」「厳重に処罰してほしい」。被害者の声に、飯塚被告は裁判長の方を向き、じっと耳を傾けていた》

 

 

《この日の公判は、開始から1時間40分が経過した午後3時10分ごろに終了した。飯塚被告は裁判官に向かって軽く会釈をして車いすで退廷。松永さんは飯塚被告の方を見ることなく、法廷を後にした。7月15日の次回公判では、松永さんが意見陳述する予定だ》