【転記】池田信夫氏に見る「従軍慰安婦」強制性を否定する歴史修正主義 | 矯正知力〇.六

矯正知力〇.六

メモ的ブログ

池田信夫氏に見る「従軍慰安婦」強制性を否定する歴史修正主義/Everyone says I love you !
より転記。

-----------------------------------------------------

年末の産経新聞の安倍総理に対する単独インタビューについて、アメリカのニューヨークタイムズが1月2日の社説「日本の歴史を否定する新たな試み」で安倍総理を批判しました。

 河野談話を破棄して「未来志向」の談話を発表するとしている安倍総理総裁の歴史修正への策動については以下の記事にも書きましたし、また改めて書きたいと思います。

中曽根元首相も関与した「慰安婦」強制を安倍総裁と橋下市長が否定すべく河野談話を破棄しようとしている

 この問題について、タカ派評論家の池田氏が、同紙に公開書簡を送ったり(冒頭に「ウェブサイトでも公開するので、掲載しなくても結構です」とわざわざ書いてあるのが味わい深かったです。そんなこと書かなくても絶対に・・・)、ブログで盛んに異議申し立てをしているのですが、その内容が噴飯ものです。

 私もBLOGOSに参加していなかったら知らなかったような方で、かつ相手すると面倒くさい相手なのですが(向こうもこちらを面倒くさいと思っているらしくツイッターでブロックされてます)、放っておける問題でもないので今日は簡単にその歴史捏造ぶりだけ書いておきます。

 さて、「慰安婦問題」の確証バイアスという記事で、池田氏は以下のように書いています。

さすがにNYTは娼婦の証言だけではまずいと考えて歴史家に話を聞くのだが、それがいつも吉見義明氏だけだ。彼の『従軍慰安婦』(岩波新書)は1995年に出た本で、そのデータはすべて朝日新聞の取材を受けて彼が調べ始めたものだ。つまり最初から確証バイアスが入っているのだが、それでも事実はごまかせない。彼は1997年の「朝まで生テレビ」で「日本の植民地(朝鮮、台湾)については、強制連行を示す資料はない」と明言した。

これで歴史学的には結論が出たのだが、この発言に対する非難が殺到したためか、彼は広義の強制連行はあると話をすり替えた。橋下徹氏に対して吉見氏が出した抗議声明が、事実を率直に示している。

― 日本・朝鮮・台湾から女性たちを、略取・誘拐・人身売買により海外に連れて行くことは、当時においても犯罪でした。誘拐や人身売買も強制連行である、と私は述べています。実際に誘拐や人身売買を行った者が業者であったとしても、軍・官憲がこれら業者を選定して女性たちを集めさせたのであり、また、誘拐や人身売買であることが判明しても、軍は業者を逮捕せず、女性たちを解放しなかったから、軍には重い責任がある、と私は述べています。 ―

つまり吉見氏のいう「強制連行」とは、民間業者の「誘拐や人身売買」のことなのだ。



ところが、文中に引用のある吉見義明氏の「抗議声明」をクリックすると、池田氏が引用した文章の直前に

私は、1991年末から日本軍「慰安婦」問題の研究をはじめ、これまでに、『従軍慰安婦』(岩波書店・1995年)、『「従軍慰安婦」をめぐる30のウソと真実』(共著・大月書店・1997年)、『ここまでわかった! 日本軍「慰安婦」制度』(共著・かもがわ出版・2007年)、『日本軍「慰安婦」制度とは何か』(岩波書店・2010年)などで、日本軍「慰安婦」制度は軍が作り、維持し、拡大していった性奴隷制度であり、被害者の女性たちは強制連行され、強制使役された、と述べています。発言される前にこれらの著作を見ていれば、上記の発言が誤りであることはすぐに分かったはずです。

あなたは、軍・官憲が暴行・脅迫を用いて連行する場合(軍・官憲による略取の場合)以外は強制連行ではないとし、そのような連行はなかったと言っていますが、中国・東南アジアでは、このような連行は数多く確認されている、と私は述べています。たとえば、インドネシアで起きたスマラン事件をあなたは否認するのでしょうか。


とあるのです。吉見教授ははっきりと軍・官憲による「連行は数多く確認されている」と断言した上で、その例としてスマラン事件を上げているのです。

 そのスマラン事件とは、1944年日本軍占領中のインドネシア、ジャワ島で日本軍若手将校により抑留所にいたオランダ人女性に対して行われた強制売春・強姦事件です。日本軍の担当将校と警察・業者は、ハルマヘラ抑留所、アンバラワ抑留所、ゲダンガン抑留所から18才から28才の合計36人のオランダ人女性を強制的に集め、スマランの4つの慰安所(将校倶楽部、スマラン倶楽部、日の丸倶楽部、青雲荘)に連行しました。

 そして、この女性たちは毎日何度も日本軍兵士により強姦されたのです。

 この事件については日本の敗戦後の1948年、バタビアでの臨時軍法会議で、日本軍などの責任者はBC級戦犯として11人が強制連行、強制売春(婦女子強制売淫)、強姦の罪名で有罪となり、決着がついています。

 私は池田氏が原発問題などで偽造や問題のすり替えをしているのを読むたびに、いつもなぜすぐにばれるような嘘をつくのか不思議なのですが、たぶん、彼は読者をなめきっていて、引用してもクリックして元の文章を読むような人はいないと思っているのでしょう。もしくは、自分のブログに書かれた都合の悪いコメントは削除し、ツイッターはブロックし、今回のようなBLOGOS転載記事にはそもそもコメントできないようにしているので、逃げ切れると安心しているのでしょう。


そもそも、吉見教授が橋下市長に抗議した理由は

今年8月24日のいわゆる囲み取材において、あなたは日本軍「慰安婦」問題に言及し、「吉見さんという方ですか、あの方が強制連行の事実というところまでは認められないという発言があったりとか」と述べていますが、これは明白な事実誤認であり、私の人格を否定し、名誉を棄損するものです。この発言を撤回し、謝罪することを要求します。

というものでした。橋下市長による吉見氏の言論活動に対する捏造に対して吉見氏が抗議しているのに、池田氏がその抗議文をまた「修正」してしまうのですから、池田氏はもうジャーナリストとか評論家ではなく、単なるトンデモ歴史修正主義者としかいいようがありません。

 また、池田氏の

 つまり吉見氏のいう「強制連行」とは、民間業者の「誘拐や人身売買」のことなのだ。もちろんそれは人道的にはよくないが、70年たってから日本政府が謝罪すべき問題とは思えない。

というコメントにも心底呆れました。誘拐や人身売買はもちろん違法です。当時でさえ、国際法はもちろん、日本の国内法でも刑事罰を科される重罪です。単なる人道的・道義的問題ではもちろんないのです。

 当時の日本の「赤線」と言われた売春宿にいた公娼も、女性たちには職業選択の自由も居住・移転の自由もなく、性的な自己決定権もない。もし逃げようとすれば圧倒的な暴力で折檻されました。そんな状況でセックスを強要されていたのです。逃げられないし、セックスを拒否できない。彼女らはまさに「性奴隷」だったのです。

 そして、軍の付属施設として存在した慰安所の「慰安婦」は単なる公娼ではありません。彼女らは有形無形の軍・警察の管理を受けており、そもそも戦地にあるのですから女性が逃げ出す可能性はさらにゼロに近いもので、慰安所は歴史修正主義者が言うような「世界各地で見られた公娼」でさえなかったのです。

 軍自ら強制連行してきた場合だけではなく、たとえ民間業者が誘拐・人身売買で連れてきた場合でも、詐欺・脅迫で連れてきた場合でも、軍が組織として慰安所の存在を公認・協力し、専属させて利用しているのですから、この性奴隷制度に日本軍が力いっぱい加担していたわけです。日本軍は「従軍慰安婦」と言えば聞こえがいいこの性奴隷制度の共同正犯なのです。


歴史修正主義者はニューヨーク・タイムズやワシントン・ポストが日本の朝日や毎日に影響を受けているなどと言い訳するのですが、アメリカの両紙のほうが朝日や毎日よりはるかに調査能力もあり水準も高い新聞なのは明らかで、これもなめすぎです。国連の人権委員会も同様です。朝日の「誤報」で世界が動き続けるなんてこと、あり得ません。

 さて、池田氏は今回の文章の冒頭を

300万人以上の日本人が戦死した戦争の中で、戦場に数万人の娼婦がいたかどうかというのは、どう考えても些細な問題である。

と切り出すのですが、何万人もの性的奴隷を作っておきながら、被害者がどれだけいても自国の被害にしか目がいかない歴史修正主義者ならではの身勝手な言いぐさにも呆れます。被害者や植民地にされたり侵略されたものにとっては、加害者・侵略国である日本国の戦死者よりも自分たちの被害の方が大切でしょう。

 日本と言う国家が「従軍慰安婦」強制連行にかかわっていたということを恥ずかしく思う感覚はそれ自体正しいのです。しかし、恥だと感じたならば、真摯に謝罪し、償うのがあるべき加害者の姿です。恥ずべき歴史だからと言って自分たちが呑み込みやすいように修正=偽造・捏造してしまう行為は恥の上塗りであり、それ自体がさらに恥ずべき行為なのです。

 本当の「未来志向」とは、過去・現在を良いことも悪いこともあるがままに受け止め、これからのあり方を考えることです。

 過去を改変して言い訳をするような見苦しい生き方はやめにしたいものです。

参考資料

デジタル記念館 慰安婦問題とアジア女性基金内の慰安婦関連歴史資料

[戦争犯罪][戦時性暴力]慰安婦・慰安所に関してオンラインで閲覧できる一次史料(追記あり)


-----------------------------------------------------