日が暮れるのが、ずいぶんと遅くなってきた。ちょっと前なら、17時にはもう真っ暗だったのに、最近

は18時を過ぎてもまだ明るい。

 落日とか落陽といった言葉がある。なんとなく、寂しさを感じる言葉だ。やるせないと言ってもいいか

もしれない。そんな時間帯が好きだ。一言に落日といっても、季節によってずいぶんと感じは異なる。真

冬の時期はそんな感傷的な気分を通り越して、ひたすらに寒さが先に立ってしまうのだが、秋の夕暮れな

らその寂しさにひたることができる。少々肌寒くなってきた空気を感じながら、野外に一人、ぽつんと佇

んでゆっくりと日暮れを待つ。春の時期はまたちょっと違う。序々に傾いて行く陽を眺めながらも、なん

となく心は明るい。秋に感じた漠然とした寂寥感とは全く違う。日が翳ってきたせいか、ずいぶんと空気

が冷えてきた。それでも気持ちには余裕がある。どこかで猫の鳴き声が聞こえる。近くにのら猫がいるら

しい。周囲を見渡してみるが、姿は見えない。行ってしまったのであろう。もう家に帰った方がいいと、

警告してくれたのだろうか。目の前の道を子供達が歩いて行く。急いでいる様子はない。何か大きな声で

話しながら、ダラダラと歩いている。家に帰りたくないのかもしれない。家に帰ったら、ごはんを食べ

て、宿題をやらなくてはならない。そんなところだろうか。ふと自分が子供の頃を思い出してみる。やは

りこの時間になると、家に帰りたくなかったかもしれない。遊び盛りだった子供にとっては、一日が終わ

ってしまうことが受け入れ難いのだ。

 日もとっぷりと暮れ、そろそろ本格的に寒くなってきた。ゆっくりと歩き出す。宛てもないまま、駅前

の商店街を歩いてみる。買い物帰りの主婦、会社帰りのサラリーマン、宅配便の運転手。様々な人々が行

き交う。いつも群れているのは、女子高生達だ。手にはアイスクリームを持っている。寒くないのだろう

かとつい余計なことを考えてしまう。カレースタンドでは、みな無言で一身にカレーに向かっている。侘

しくはないのだろうか。恐らくは余計なお世話だ。大手ハンバーガーチェーンの店は、相変わらず若い世

代の行列が多い。

 私も一軒の店に入る。やや控えめな声で、「いらっしゃい」と挨拶してくれる。これからは、おとなの

時間だ。なにもあせることはない。ゆっくりと、ゆるゆるやる。20年前までは、おとなにはなりたくない

と真剣に思っていた。しかし最近は時々思う。おとなも悪くないと。