BSE の問題は相変わらずいろいろとかまびすしい。もう少々前の話になってしまうが、香港でも米国産

の輸入牛から骨片が見つかったことが話題になった。なんと、日本の調査団が査察して出荷条件が守られ

ているとしとした精肉会社から輸入した商品だそうで、日本の査察とはいったい何を査察しているだろう

かと疑問を持ってしまう。もちろん、査察する際に全てにおいて完璧なチェックができるとは思っていな

い。査察団にしても、可能な限りにおいてきっちりとチェックしているのだと思う。しかしながら、現実

問題としてこのような事態が発生してしまった。農林水産省のサイトの「牛海綿状脳症(BSE)関係」と

いう項目には、今年の一月十九日付けの通知として、「米国における日本向けの牛肉認定施設の査察につ

いて」というページがある。厚生労働省と農林水産省の連名で出されている通知だが、残念ながら、査察

の細かい内容については一切記載されてはいない。又、この問題について、農林水産事務次官が記者会見

した内容が公表されているが、目新しいものは見当たらない。やはり、査察という行為じたいに限界があ

るのかもしれないと思ってしまう。一生懸命やっても、わからないことはわからないのだ。筆者は専門家

ではないので、難しい話はこれ位にして、それよりも興味を引いたのが、香港の一般市民がこの問題に対

して、あまり関心を示してはいないとの報告であった。あれだけ食文化の高い国なのに、なぜ関心がない

か不思議だったのであるが、香港の人々にとっては牛肉よりも豚肉や鶏肉が大切なので、牛肉については

あまり問題にはならないとのことであった。にわかには信じ難い話であるが、どうやらそのようだ。それ

は香港政府の対応が、今回問題があった精肉会社のみ輸入停止にするといった対応をしたことから

もうなずける。

 と言った騒ぎの中、無謀にも(?)先日、筆者は大人数であるステーキハウスに出向いた。米国産牛肉が

輸入されていないという安心感のせいか、思いの外店は混みあっており、皆牛肉が好きなのだなあと改め

て実感させられた。ここで使用している牛肉は、国産ブランド牛とオーストラリア牛で、当然のことなが

ら、国産ブランド牛の方が高級品扱いされていた。色々な種類のステーキをオーダーして皆で分け合って

食べてみたのだが、予想に反して国産ブランド牛よりも、オーストラリア産牛の方がおいしいという意見

が多かった。両者の違いは BMS(ビーフ・マーブリング・スタンダード)が国産牛の方が高く、よって国産

ブランド牛はオーストラリア牛に比べ、よく言えばジューシーでやわらかく、悪く言えば、油っぽくて歯

ごたえがないということになる。当然のことながら、店側は BMS のランクを公表している訳ではない

が、今話題の大田原牛のように、完全な霜降りという訳ではなかった。それでも当日集まったメンバーに

は十分過ぎる程の霜降り度合いだったようで、あっさりとしていながらも、肉本来の旨みが感じられるオ

ーストラリア牛に軍配を上げた訳だ。BSE 問題が明るみに出る前までは、オーストラリア牛は明らかにラ

ンクの低い肉と位置づけられていた気がする。そのオーストラリア牛が、国産霜降り牛よりおいしいと認

定されたのだ。非常に興味深い話ではないだろうか。一昔前までは、猫もしゃくしも霜降り霜降りと大騒

ぎで、BMS のランクが高ければ高いほどありがたがられた訳であるが、最近は、短角牛等の霜降りではな

い牛肉や、十勝牛等のやや歯ごたえのある牛肉も人気だ。もちろん、大田原牛のような超絶霜降り肉は相

変わらず人気であるし、吉祥寺にある松坂牛専門のレストランには、相変わらずの行列ができている。

NBA のスーパースター、コービー・ブライアントのコービーは、コウベ(神戸)ビーフの略であることは有

名であるし、米国でも神戸牛は大人気であるとも聞く。というように、皆、いろいろな種類の牛肉を食べ

ることにより、おいしさは一つだけではないということを理解してきているのだと思う。これは、とても

よいことだと思う。何事も多様性を認めなければ、それ以上は発展しない。生産者の皆様には、ますます

おいしくかつ安全な食品を生産していただきたいと願うばかりである。