今私はこの記事を書いている。お腹はいっぱいである。友人と待ち合わせていた宴会が突如中止とな

り、さて、金曜日の夜に一人でどうしたものかと考えたのだが、良いアイディアが浮かばない。何軒か店

に電話してみたのだが、金曜の夜はどの店も満卓である。三連休前の金曜日である、こんな日に空いてい

る店は開店したばかりの店か、あまりおいしいとはいえない店か。さんざん迷ったあげく、紹興酒を飲む

ことに決め、近所にある点心の安い店に入った。秋の風を感じて、暖かい酒が飲みたくなったのだ。かめ

出しの紹興酒に燗をつけてもらい、せいろで熱々に蒸された点心をたくさんオーダーした。羊肉の蒸し餃

子、海老と肉の蒸し餃子、小龍包、牛肉とセロリの蒸し餃子、海老とイカの春巻き、にんにくの芽と豚肉

の蒸し餃子...舌をやけどしないように注意しながら、ハフハフしながら食う。一口食べるとスープが

あふれてくる小龍包、強烈な香りが食欲をさそう羊肉の餃子、パリパリに揚がった春巻き、全く期待して

いなかったのに、一番おいしかったかもしれない牛肉とセロリの餃子。せいろはどんどん空いてゆき、大

徳利の紹興酒も空になった。熱々の点心はいい。どんなものでも、口に入れると幸せになる。すっかりい

い気分で帰路についた。家に帰りジャスミンの茶を入れて一息つく。 BGM は何にしようか考えて、まっ

たりとドゥー・アップにする。コーラスとボーカルのハーモニーがすばらしい。現代の音楽もいいのだ

が、たまには人の声じたいをたっぷりと楽しむのもいい。人の声はすばらしい楽器だ。記事を書き始める

と、猫が邪魔しに来る。今日一日一人で留守番していたので空腹なのだ。キャットフードは朝にその日一

日分を継ぎ足してやるのだが、人が帰ってくるまであまり食べようとはしない。きっと寂しいのだろう。

誰だって一人の食事が毎日続くのは寂しい。机に向かっている私に対して、さかんに鳴く。頭をなでなが

らも、無視して記事を書いていると、立ち上がって、私の腰のあたりをカリカリとひっかく。不意を突か

れると、驚いて飛び上がってしまう。仕方ないので餌場に付き合うと、一身不乱に食べている。今のこの

子にとっては、私がすべてなのだと思うとたまらなくいとおしくなる。しかし、記事を書いている途中

だ。そっと餌場を離れて記事の続きを書いていると、いつのまにか机の下に戻り、又おねだりする。猫は

ひたすらキャットフードだけを食べているので、今日は何を食べようかかと悩む心配がない。かわいそう

な反面、ちょっとうらやましくもある。私達日本人はは、ありとあらゆる物を食べることができるように

なった。豊かな時代に感謝なのだが、反面不幸でもあると思う。今更で恐縮だが、実は、冒頭に書いた餃

子はあまりおいしくなかった。食べているその時はおいしいのだが、ちょっと冷めるととたんに馬脚を表

わす。そんな餃子だった。さんざん迷ったあげく、そんな餃子で満腹になってしまった。毎日キャットフ

ードを食べたいとは思わないが、他の食べ物を全く知らないというのも、幸せなのではないかと思った夜

であった。