今日は味噌汁の話を書こうと思う。最近はもっぱら蜆の味噌汁である。もちろんおいしいからというの

もあるが、肝臓対策でもある。後は、回転寿司で出す味噌汁が蜆だからか。中国製と思われる、非常に小

さな身の蜆が沢山入っており、汁の味は悪くないが、身の味はうまくはない。ほとんどだしに出てしまっ

ている感じだ。今年の春から夏にかけては、蜆の味噌汁をよく作った。近所のスーパーマーケットで、島

根県産のふっくらとした蜆が容易に手に入ったので、しょっちゅう味噌汁にしていた。けちらずに大量に

買い、大量に入れる。汁よりも、貝の方が圧倒的に多いと感じる位に入れる。蜆の口が開いたらすぐに火

を止める。よく煮た方が蜆のだしが汁に出るとは思うのだが、汁がにごるのと、蜆じたいが硬くなってし

まうので、あまり火は通さない。味噌もあまり濃い目にはせずに、蜆の旨みを薄い味噌スープで味わう感

じだ。味噌汁の話しなのに、味噌が脇役になっている味噌汁だ。

 こういった邪道な味噌汁もいいが、やはり、がつんと濃い目の味噌汁もおいしい。特に、二日酔いの朝

などは濃い目の味噌汁がいい。若い頃、私の周りで「命の味噌汁」と呼ばれていた味噌汁があった。会社

の近くの生簀料理屋のランチについてくる味噌汁で、大ぶりの椀に魚が具の濃い味の噌汁だった。酷い二

日酔いの時もそこの味噌汁を飲むと、不思議と元気になってくる。夕方位になるとほとんど回復して、仕

事の後は又懲りずに飲みに行くといった具合であった。あっさりとした胃にやさしい食事と、濃い目の塩

分が体内の水分の入れ替えに役立ったのだと思う。今でも魚の味噌汁はうれしい。逆にうれしくないが、

南瓜やじゃがいもの味噌汁だ。それぞれ単独で食べるとおいしいのに、なぜ味噌汁にいれなければならな

いのか、全くもって理解に苦しむ。どちらも煮崩れしやすい野菜で、具材の表面が汁に溶け出して、汁の

食感が悪くなる。子供の頃、ジャガイモとワカメの味噌汁がよく食卓に上った。作りたてはまだよいのだ

が、時間が立って幾度が暖め直しをすると、ワカメはのびてでろでろになり、ジャガイモはとけて半分位

の大きさになってしまう。そうなると汁は最悪である。私はこの取り合わせの味噌汁が大嫌いであった。

ところが偶然、全く同じく溶けたジャガイモとワカメの味噌汁を飲んでいたという人と話したことがあ

り、その人はあの味噌汁が好きだったと言ったのには驚いた。汁がうまくないではないかというと、あの

具の溶けて、しかも多少煮詰まってしょっぱくなった汁がいいのだと言っていた。世の中はいろいろな人

がいるものだと、関心した覚えがある。

 小学校の頃の親友は、お母さんが小料理屋のおかみだった。その小料理屋で時折ご飯をご馳走になるの

だが、なによりも印象に残っているのが味噌汁だ。おかみさんが片手間に作るのではなく、私ら子供たち

の食事を、プロの板前が作ってくれるのである。板さんの作る味噌汁は、家の味噌汁とは全く違った。家

の味噌汁は煮干だしだったが、板さんはかつおだしを使っていたし、暖め直しなどはあるはずがなく、で

きたてをすぐによそってくれる。おそらくは味噌を併せていたのか、白味噌の良く言えばやさしい甘さ、

悪くいえばちよっとピンボケの味ではなく、引き締まった、ちょっとだけ濃い目の味噌汁だった。味が一

本ピーンと張り詰めた、まさに料理屋の味噌汁だった。子供ながらにもその味が忘れられず母に一生懸命

説明したのだが、我が家の味噌汁はいっこうに改善されなかった。まあ、料理屋の味は料理屋の味で、家

庭の味は家庭の味といったところなのだろうと、今は納得している。