先日久しぶりにチャーハンを作ってみて愕然とした。全くうまくゆかないのである。油がべとべとで香

りも良くはないし、なんとなくモチモチした感じがする。実は、チャーハン作りには少々自信があった。

学生時代に、一ヶ月以上毎日チャーハンを炒めたた経験があったからである。

 一番最初最初に作った時も、今回と同様にひどい代物だった。難しさに気付いた私は、翌日も作ってみ

た。昨日同様、全くうまくゆかない。ご飯がくっついてしまい、パラリとしないのである。後日、ご飯が

くっつく対策を考えてみた。炒める前のご飯を食べると、モチモチとしたねばりがあり、とてもおいし

い。しかしご存知のとおり、このタイプのご飯はチャーハンには合わない。仕方ないので、ご飯を洗って

みることにした。ざるにご飯を取り、水で洗ってしまう。あっという間にご飯はばらけ、サラサラにな

る。これならいけそうだ。よく水を切り、炒めてみた。昨日よりはずいぶんいい感じだ。ご飯が固まるこ

とがない。しかし、油がやけに跳ね回り、手が熱くて仕方が無い。水切りが甘かったのである。味の方は

というと、ごはんはパラパラなのだが、どうにも油っぽい。最初からパラパラなので油断して、炒め方が

甘かったのである。次の日、やはりご飯を水洗いし、昨日の倍くらい念入りに水を切った。炒めてみる

と、非常にいい感じだ。今日で完成だと、内心ほくそえんだ。ご飯はパラパラだし、油ぎってもいない。

ところがだ、食べてみるとパラリというよりは、バサバサした感じがする。当時、長粒米など食べたこと

が無かった私には、本当にパラパラしたチャーハンは、あまりおいしく感じられなかった。気を取り直し

てリトライする。ご飯を水洗いするところまではいい。きっちりと水を切れば、炒めてもご飯がまとまる

ことはない。しかし、バサバサしすぎてしまう。翌日は、油を少々多くしてみた。ご飯がより多く油を吸

えば、バサバサ感が中和されるのではないかと思った。しかし全くの大失敗だった。ご飯はパラパラなの

だが、油を吸いすぎて為、重い食感のチャーハンになってしまった。油の量を調整してみたのだが、どう

もいま一つしっくりこない。そんなことを考えていると、ある日、店では暖かいご飯を炒めていることに

気付いた。早速やってみることにした。ご飯を洗った後、電子レンジに入れてみたのである。これは、大

正解であった。いったんパラパラになったご飯であるが、温められることにより、ほどよいしっとり感が

戻るのである。すぐに炒めてみた。今までのどのパターンよりもうまくいった。食べてみると、パラパラ

感とほどよいしっとりさ加減が絶妙にバランスしている。これは成功である。しかし、どうにも手間がか

かる。ここまで何度も作っていた為、少々炒めに自信を持った私は、次のパターンにチャレンジしてみ

た。原点に戻り、ご飯を水洗いせずに炒めるのである。今ではあたりまえに知っていることであるが、炒

めるということは、鍋の温度と油の加減が大切であることが、自然とわかってきたのである。そこさえま

うくやったら、水洗いしなくてもパラパラのチャーハンができるかもしれないと思ったのである。しかし

それは、若輩者の思い上がりであったことを嫌というほど知らされた。たかが一月程度鍋を振ったからと

いって、火と油の奥義を体得できるほど甘くはない。直ぐに最初のモチモチとしたチャーハンに戻ってし

まった。問題は油にあった。油は無ければ困るし、ありすぎても困るのである。悩んだあげく、ご飯が油

をダイレクトに吸わなければよいのではないかと考えた。今から思うと笑い話のようであるが、当時私が

作っていたチャーハンは、純粋にご飯と油と調味料だけのチャーハンだったのである。卵を入れることす

ら知らなかった。無意識に最も難しいタイプのチャーハン作りを、素人の学生が目指していたのである。

更に考えてみると、チキンライスには玉葱が入っていることに気付いた(長葱ではなく玉葱である。ここ

でもポイントがずれている。)。ご飯を炒める前に、玉ねぎを炒めてみた。玉葱は極端ではないにしろ、

ゆっくりと油を吸ってくれて、しっとりとなった。そしていよいよご飯を投入である。鍋を激しく振る

と、ご飯がばらけてゆくのがわかった。調味料で味を調えて完成である。食べてみると、十分に合格点で

あった。完成である。

 そんな経験があったので、20年以上の時を隔てた今でも、チャーハンに限っては元のように作れると、

無意識に根拠のない思い込みをしていたのである。しかしそんな訳はなかった。当時、最終的にうまく作

ることができたのは、グルメ漫画の主人公のような、日々の絶え間ない工夫の積み重ねと、一月以上鍋を

振り続けることにより、なんとか掴みかけた、火と油とご飯のバランス感覚があったからである。そんな

ものは、とっくに忘れていた。どうも歳を取ると、都合のよいことだけ覚えているようである。こうして

記事を書いてみると、細かいポイントをすべて思い出すことができるのではあるが。それにしてもくやし

いかな、惨敗である。だが、今更毎日チャーハンを炒める気力はない。大人なのだから、たかがチャーハ

ンに熱くなるのも恥ずかしいではないか。ここは一つクールに決めて、店にうまいチャーハンを食べに行

こうと思う(言い訳バレバレ...)。