9月11日は衆議院議員選挙である。みなさんも投票に行かれることと思う。争点

の一つに郵政の民営化がある。郵政は民営化した方がよいか否か、それぞれに意見が

あろうかと思う。今後どうなるのかの見通しは立たないが、首相の強い意志を見るに

つけ、やはり民営化されるのかもしれないと、漠然とではあるが思う。民営化される

と大量の失業者が出ると予想されている。この時代に失業するのは大変だ。先日、以

前勤めていた会社の同僚と酒を飲む機会があった。現在50台半ばである当時の上司が

早期退職したと聞いた。はっきり言えばリストラである。幸いにも元上司は、ライバ

ル会社に再就職することができたという。私はそこまでの年齢ではないが、人ごとで

はないと思った。

 20台の半ばに、半年間無職で生活したことがあった。最初に勤めた会社を退職し、

少々の充電期間が欲しいと思ったからである。3か月間の失業保険を貰って、毎日何を

するでもなく、だらだらと過ごした。秋から冬にかけての時期で、日を追ってどんど

ん寒くなる季節に、部屋の中でこごえながら過ごすのが辛かった。それでも、急いで

就職しようとは思わなかった。退屈すると図書館に行き、いつもきまって三島由紀夫

を借りた。翌日は朝から近所の大手フライドチキンチェーン店にいって、何時間も三

島由紀夫を読んでいた。大きなサイズの茶を飲みながら過ごす店内は、暖かくて快適

だった。店の BGM は毎日決まってフォーライフ時代の今井美紀で、ハイトーンの優し

い声が、失業中の心を癒してくれた。

 失業保険が切れてからは、懐具合が少々寂しくなった。節約することに決め、一日

千円で上げることにした。今は一月一万円で生活するテレビ番組が人気だが、当時は

そんなことは考えたこともなかった。一日千円生活は、慣れてみるとそれほどきくつ

はなかった。食事は一日に二食で、大抵は煮込んだ野菜や鶏肉だった。安売りの野菜

やブロイラーを大量に買い込み、大鍋で煮込む。最初の二日間は、塩味だけのシンプ

ルな味付けだ。これを昼夜と計4回食べる。次の二日間は少々のクリームソースを加

え、薄味のホワイトシチューにしてやはり4回食べる。最後の三日間は更にカレール

ーを入れ、カレーにしてしまう。こうすると、大鍋一つで一週間楽しめる。こつは、

最初から味を濃くしないことである。日々煮込み、ソースを加えてゆくので、最初か

ら濃いと食べられなくなってしまう。これでずいぶんと食費が浮いた。おかげで夕食

にはビールが付けられるようになった。生活費といっても、実質、食費だけのような

ものだったので、一日千円生活は辛くはなかった。

 夜になると、買いだめしてあったラムやジンで手製のカクテルを作った。朝まで生

テレビを見ながら、グビグビと飲んだ。プレッシヤーがないせいか、いくら飲んでも

二日酔いになることはなかった。酒はふんだんにあったので、夜は心細くはなかった。

 そうこうしているうちに二月になった。二月は一年で一番寒い月だ。いよいよ寒さ

が身にしみてくる。気楽な生活も、寒さには勝てなくなってきた。そろそろ潮時かと

思った。就職情報誌を読み、就職試験を受け、新しい会社に就職した。季節は春にな

っていた。