平日に不意の休暇を取った。二度寝して、昼前に起きる。ぼーっとしている頭のままシャワーを浴びる

と、ずいぶんとすっきりする。いくつかのこなさなくてはいけない簡単な用事を済ませるうちに、本格的

に体が目覚めてくる。胃も動きだして、空腹を感じる。朝食兼昼食は何しようか迷った。空腹なので、い

きなりガツンと九州ラーメンと思ったが、やはり重過ぎる。パスタはどうか。なんとなく気分ではない。

北京ダックで有名な某中国料理屋のランチと思ったが、最近幾度も行っているので、たまには違う店にし

たい。そうこうしているうちに、どんどん時間がたってしまう。休日は時間がたつのが早い。迷った末

に、フレンチのランチにした。いつも週末はいっぱいで、当日予約はほとんど絶望的な店だが、平日の昼

なら空いている。予約をして店に向った。

 店は空いており、先客は一名だけだった。ビールを飲みながら、ゆっくりとメニューを眺める。平日の

ランチであってもプリフィクスなので、しっかりと選択しなくてはならない。前回の帆立はうまかったな

などと考えながら、ビールをくびりとやる。これから供されるであろうプレートを想像しながら飲ビール

は格別である。これ以上の幸せはどこにあろうか。まったくもって、平日の休みはやめられない。そうこ

うしているうちに、前菜が運ばれてくる。様々な野菜を使ったテリーヌである。本当に色々な野菜が入っ

ている。野菜の周囲を覆っているハムの塩味が、ほどよいアクセントを付けている。主菜、デザートと食

べ終わり、エスプレッソコーヒーを飲みながら、ぼーっとしていると、笑顔でシェフが声をかけてくる。

「今日は寂しいですね。」。確かに私は一人だった。先客も帰ってしまっていた。いつも一緒に来る連れ

もいない。しかし私は、全く寂しくなどなかった。強がりを言っているのではない。平日の昼の、客のい

ない静かなレストランで、そこだけ時間が止まったような感覚を十分に楽しんでいた。「いや、そんなこ

とはないですよ。」、それだけで、会話は終わってしまった。そしてまた静寂が訪れた。何も考えずに、

ただただぼーっとしていた。

 しばらくして店を出た。夏の照りつける太陽と蝉たちのざわめきが、一挙に私を取り囲む。ゆっくりと

歩いて坂を登った。歩きながら、今日はこれから何をしようか考えた。すぐに、たまっているいくつかの

些細な仕事が頭をよぎった。私ははっきりと声に出して言ってみた。「今日は何もしない、だって休みな

んだから。」。