カフェバー「きいろい種」
【カフェバー「きいろい種」】
~ホステスから農家へ 新里さん、南幌に菜園 札幌で提供店も 「生きづらい人 受け入れる場に」~
札幌・ススキノのホステスだった新里香乃さん(26)が昨年4月、農家に転身し、10月には自ら育てた野菜を提供するカフェバー「きいろい種」(札幌市中央区南8西13)を開いた。起業したのは、かつての自分のように生きづらさを抱えた人を農業の現場で受け入れたいと思ったからだ。
「農作業に行く前は日焼けするし、面倒くさいなと思っていても、1日が終わると心が洗われたような気がする。大嫌いな虫も畑でなら平気。不思議ですね」
空知管内南幌町で農地を借り、長さ約50メートルのハウス7棟を建て、昨年は西洋野菜を中心に約100種を栽培した。収穫したズッキーニやトマトなどは、札幌市内のイベントで売ったり、店でカレーやサラダの材料に使ったりしている。
転身の原体験は、古里・十勝で食べた野菜の味だ。
札幌で生まれ、十勝管内音更町で育った。母子家庭で、中高大と女子校だった母は、娘を札幌の私立女子高に行かせたがった。中3で札幌の親戚に預けられ、部屋で独り、深夜まで勉強するのはつらかった。
合格したものの、ため込んだストレスで自家中毒を患った。「学校を辞めたい。その代わり自立する」。高1の秋、意を決して母に告げた。
バイトを掛け持ち、高卒認定試験にも合格したが、将来を考えると不安だった。やりたいことが見つかった時の資金をつくろうと、18歳でホステスに。メンタルは不安定なままだったが、接客中は意外と落ち着いた。「指名してくれる人は私を嫌いじゃないと思えたから」。2017年のさっぽろ雪まつりをPRする「氷の女王」にも選ばれた。
心を押しつぶされまいと、がむしゃらに働く中、苦しかった受験生時代に食べた野菜がみずみずしくなかったことを思い出した。古里の野菜のおいしさが鮮明によみがえった。「食は人を幸せにできる。農園なら一般的な職場で働くのが難しい人も受け入れられる」。本当にやりたいことは、自分と同じような人を救うことだと気づいた。
野菜ソムリエの資格を取り、貯金を元手に資本金500万円で会社を立ち上げた。パートを含む従業員11人と汗をかく中、農地を広げて障害者就労支援事業所の利用者を雇いたい、カフェバーを拠点に農業の魅力や農業と福祉の融合についても発信したい―と夢が膨らんだ。