12月に開催された千里メディカルラリー

それぞれのステーションのシナリオからお勉強しています。

シナリオステーション(ST)は全部で8ステージあります。


前回のST3はコチラから

下矢印




ST4の概要


    

20歳男性が、木材破砕機に両下肢を鼠径靭帯レベルまで巻き込まれて受傷したもの。
ドクターカー覚知同時要請。
不全断裂状態であるが、機械を分解することはできないため、両下肢をを切断して救助し、その後大動脈遮断を行って搬送する。




チームへの事前説明


    

消防からのドクターカー要請。
『工場で怪我をした男性がいるようだ。
その他詳細不明』との内容。
覚知同時要請。

行ってみると、傷病者は1名。
20歳男性が木材破砕機に両下肢を巻き込まれて動けなくなっている。
救急隊(救命士なし)はほんの少しだけ先着。
バイタル測定だけしかまだできていない状況。

チームをドクターカー4名(医師1名➕看護師1名➕特定行為の可能な病院救命士2名)と、ドクターヘリチーム2名(医師1名➕看護師1名に分けよ。

ドクターヘリほ覚知情報のみしか把握していない。要請継続かキャンセルかは
(実は同時要請されており、先着したドクターカーチームの判断で継続がキャンセルかが決まる)





現場は大阪市浪速区の通天閣近くにある工場。

「芦河木材工業」

搬送先の選択肢:直近3次救命救急センター(自施設)へ30分。

通天閣近くの工場なら本当は近くに救命センターがいくつもありますが、今回はナシ。


ドクターカー1台➕救急車1台➕ドクターヘリ1機



通天閣の側の工場の中にある木材破砕機の中に、両下肢を巻き込まれた20歳男性が未救出のままでいる。


両下肢はズボンごと両鼠径部付近まで巻き込まれている。

下肢はまだ不全断裂の状態だが一部の皮膚と皮下組織のみでしか繋がっていない。


救急隊はほんのちょっとだけ先着。

救命士がいない隊であり、バイタル測定と酸素投与しかできていない。

レスキュー隊は現場救急隊が要請済みだが、渋滞に巻き込まれ90分近くかかる(シナリオ中には来ない)


ドクターヘリは要請したら3分で来る。(実は同時要請されており、先着したドクターカーチームの判断で継続かキャンセルかが決まる)



救急隊が機械の分解などを工場長に頼んだが、強固な機械であり騒音あり。

工場長に作業中止を依頼すれば5分後に騒音が止む。

機械に挟まれたままの状態では狭隘過ぎて挿管も開胸もREBOAも不可能。

酸素投与とルート確保と下肢切断のみ可能。


※REBOA(レボア)はResuscitative endovascular balloon occlusion of the aortaの略

外傷により動脈が損傷を受けて出血性ショックに至る状態といった緊急時や、手術の際に大量出血に至る可能性がある状態に使用されることが多い。

血管内でバルーンを膨らませることで一時的に血液の流れを遮断し予想外の出血を予防することや、遮断している間に出血部位の治療が行えます。



工場長は患者の父親。

工場長や工場員(〝横山きよし〟さんと〝西川やすし〟さん)が右往左往し、『なんとかしてください』『怒るでしかし』『小さなことからコツコツと』と泣きすがる。

工場長・工場員には、切断後に機械から外に出す際に協力を依頼することは可能。



機械の中で不全切断状態の両下肢を切断して迅速に機械から救出し、なんらかの手段で大動脈遮断を行って出血をコントロールして搬送する。



大動脈遮断以外に断端からの出血コントロールする術はない。

ターニケットはかけられない。

大腿動静脈結紮➕創部圧迫でも不可。

挿管や大動脈遮断は救助後しかできない。

迅速に切断して救助するしかないが、機械的に行うのではなく、患者の心情にも配慮が必要。

救助後、切迫心停止と判断して速やかにドクターカー内に収容し、車内開胸してもOK。

院内へのtrauma team activationなども採点対象。

何らかの手段による大動脈遮断をシナリオ終了までに開始しなかった場合、9:55のところで心停止になる。


同行する院内救命士を効率よく活動させられているか、チームワークはどうか、といったところも採点対象になります。




 具体的な採点基準



【状況評価と初期診療】

scene size up

現場安全評価

傷病者数確認

指揮命令系統を確立

ドクターヘリ要請を継続する

レスキュー隊要請の確認


個人装備

ゴーグル

ヘルメット

ヘッドライト


primary survey

診察手技がちゃんとできているか

FASTしたら10点、実施なしなら0点

ルート2本確保なら20点、ルート1本以下なら0点


挿管

挿管の成功

挿管の確認をちゃんと行ったか


TXA

1g投与したら20点




切断前の患者に対する心理的配慮とIC

切断前のIC

患者や家族の心情に配慮し、かつ冗長でない説明ができているか

あくまで本人に説明することが重要

意識があるのに工場長(父親)だけに説明するのは0点


励ましの声かけ

患者の気持ちに配慮した、おざなりでない声かけができているか


キーパーソンの確認

キーパーソンは工場長(父親)


加湿・加温

加温輸液

保温(毛布など)


鎮静

鎮静効果のある鎮痛薬(例:モルヒネ、ケタミンなど)でも可

フェンタニルやNSAIDsは不可



【下肢切断】

切断前後の鎮痛薬

切断前後に何らかの鎮痛薬投与があれば50点


切断完了時刻

シナリオ開始〜4:30

4:30〜5:00

5:00〜5:30

5:30〜6:00

6:00〜7:00

(両下肢切断の宣言から切断完了は1分。手技を口頭で説明しながら実施。手技の正確さは問われず。手技が途中であっても、口頭で手技がちゃんとしていればOK)


【大腿動脈遮断】

開胸の場合

ターニケット

ターニケットをかけるという標準的な発想ができているということで50点


手技

左第4-5肋間で前方側方開胸をメスで切開

開胸機を掛ける

左下肺靭帯を切離する

大動脈周囲の側壁胸膜を剥離する

鉗子で大動脈を遮断する


遮断開始時刻の記録

遮断開始時刻をチームの誰かが記録する


※いずれも手技開始から2分で遮断完了とする

※何も持参していないチームには開胸セットを貸与するが手技各項目の満点が12点ずつとなる(配点24点)



REBOAの場合

ターニケット

ターニケットをかけるという標準的な発想ができているということで50点


手技

先端をどこに留置するのかを予め計画している(ZONE1or3)

先端の位置決めを体表面からの推定もしくはエコーで行っている

留置後、バルーンをinflateする前に、スタイレットを挿入している

Inflate後、止血が得られたことを確認している

シースを大腿動脈に固定している


遮断開始時刻の記録

遮断開始時刻をチームの誰かが記録する



【Trauma activation】

搬送先への連絡

搬送先(自施設)への情報提供が迅速に行われているか


Trauma team activaion

trauma team集合のスイッチが押されているか


MTPオーダー

MTPオーダーがなされているか

必ずしもMTPという言葉がなくても、輸血指示が出ていればOK


手術準備の指示

搬入後、速やかに手術に移れるように指示ができているか



【チーム連携/その他】

ドクターヘリチームとの情報共有

簡潔かつ過不足なく情報共有し、活動方針を共有できているか


プライバシー保護

ブルーシートで囲う、毛布を被せるなど可能な範囲でできているか

人払いや、動画撮影させないように注意しているか


救命士によるルート確保

タスクシフトの観点から追加されています


ルート本数・輸液速度の確認や報告のタイミング

ルートの本数や輸液速度を医師に確認しているか

ルート確保や薬剤投与、保温などを行った場合、速やかに医師に実施したことを伝えているか


連絡先の確認や私物の確認・準備依頼

連絡先は工場長の電話番号


工場長との協力・説明

工場長に作業中止を依頼した

工場長を蔑ろにせず、今後の予定や見込みを簡潔に伝えたか




ポイント

機械に巻き込まれてすぐには救出できそうにない出血性ショックが遷延し切迫心停止状態の患者を、どうやって迅速に救助し、心停止を防ぐか




緊急の対応が求められる中、両下肢切断を行わないといけない本人・家族への配慮も求められます。




次のST5はこちら

    下矢印