日中にクロムニェジーシュをたっぶり楽しんだ後はオストラヴァに戻り、夜は4日連続でスメタナのオペラを観に行きました。そのオペラとは「二人のやもめ」。初めての観劇、とても楽しみです!
National Moravian-Silesian Theatre
Bedřich Smetana
THE TWO WIDOWS
(Antonín Dvořák Theatre)
Conductor: Marek Šedivý
Stage director: Rocc
Set designer: Rocc
Costume designer: Belinda Radulović
Motion cooperation: Anna Knollová
Chorus master: Jurij Galatenko
Dramaturg: Juraj Bajús
Karolina, a widow: Lada Bočková
Anežka, a widow: Lívia Obručník Vénosová
Ladislav Podhajský: Martin Javorský
Mumlal, a gamekeeper: Martin Gurbaľ
Toník: Rudolf Medňanský
Lidka: Ivana Ambrúsová
Priest: Petr Urbánek
National Moravian-Silesian Theatre’s opera chorus & orchestra and ballet
(写真)本公演のパンフレット。カロリーナ(右)とアネシュカ、2人の女性の性格や心情を表す印象的な衣装。
(写真)モラヴィア・シレジア国立劇場
二人のやもめ!クラシック音楽をよく聴かれる方でも、おそらくご存知の方はほとんどいないと思われる、スメタナのとても珍しいオペラです。
「二人のやもめ」のあらすじをごく簡単に。カロリーナと従姉妹のアネシュカはいずれも若くして夫に先立たれた2人。カロリーナは男友達と楽しんでいますが、アネシュカは未だに喪に服していて好対照。そこにかつてアネシュカに恋をしていたラディスラフが密猟者として迷い込みます。
カロリーナの森番のムムラウに捕えられるラディスラフ。カロリーナはここで一計を案じて、ラディスラフとアネシュカをくっつけるために、アネシュカの亡き夫の部屋で半日過ごさなければいけない、という罰をラディスラフに与えます。果たして、アネシュカとラディスラフ、そしてカロリーナの関係はどうなるのでしょうか?
※なお、「やもめ」という言葉ですが、夫を亡くした女性のことで、「家を守る(やもり)」「屋守女(やもめ)」が語源ということです。「未亡人」の方が分かりやすいかな?と思ったら、「未亡人」は今では差別用語に該当するようです。以前からこの和訳が使われていることもあり、オペラのタイトルは「二人のやもめ」としました。
第1幕。軽快で楽しい序曲。最初の疾走する音楽は快活なカロリーナと森に迷ったラディスラフ、途中に差し込む古い印象を与えるフーガの音楽は、新しい恋に踏み出せないアネシュカの心境を表しているのかな?と思いました。
冒頭の収穫祭のシーンが賑やかで楽しい!そして、このオペラの最初のアリア、カロリーナの歌はアクティブで自分の事業に邁進するカロリーナの性格を良く表わしていて素晴らしい!
ムムラウが自分の森番の境遇をカロリーナとアネシュカとともに歌う3重唱は、「ハハハ」という笑いのセリフのコミカルさと黄昏感がとてもいい!ここの音楽の雰囲気は、何となくヴェルディ/ファルスタッフの重唱を思わせますね。
ラディスラフが森に登場してのムムラウとのやりとりは、モーツァルト/魔笛でのパパゲーノとモノスタトスのちぐはぐなやりとりのようで楽しい!ムムラウに捕まって何故か喜ぶラディスラフ?実はそうすればカロリーナに会えるからでした笑。
(写真)第1幕でラディスラフが館に登場するシーン。左から、カロリーナ、ムムラウ、アネシュカ、ラディスラフ。
※モラヴィア・シレジア国立劇場の絵葉書より
密猟者のラディスラフを裁くために、余興で裁判を始めるカロリーナ!笑 ラディスラフを認めて心動かされるアネシュカの歌い出しから始まる4重唱が美しくて切なくて泣ける…。
アネシュカとカロリーナがやもめの心情を歌ってラディスラフも絡むロッシー二ばりの早口言葉の3重唱、そしてラディスラフに大袈裟に判決を下すカロリーナが楽しい!
そして、冒頭の収穫祭のシーンに戻りますが、庭師のトニークと婚約者のリドカの若い恋人2人を中心とした愛の合唱が感動的!素晴らしい第1幕!
第2幕。序曲はファルスタッフ第1幕第2場のアリーチェやメグたちの重唱の音楽に似ていてとても楽しげ。ラディスラフの春と恋を愛でる美しい歌は劇場の2階席から朗々と歌われていました。
序曲の音楽に合わせて、ラディスラフについてどう思うか、恋話に花を咲かせるカロリーナとアネシュカ。女性2人で何だか楽しそう!笑 「あの人が私のものになるなんてありえない、でも、あなたのものになるのも変」という揺れる女心のアネシュカが可愛いらしい!
そしていよいよラディスラフからもらった手紙を開けるようとするアネシュカ。その時、ラディスラフが部屋に入ってきてアネシュカに想いを伝えます。アネシュカとラディスラフ(ここは語り)の手紙の詩を挟んだやりとりが美しい!
ラディスラフとアネシュカの切ない思いを表わす、R.シュトラウス/カプリッチョを思わせるような音楽がめちゃめちゃ素晴らしい!特に絶妙な転調にゾクゾクします。スメタナって天才!その後のアネシュカの独白のアリアもとても印象的。
ムムラウの文句の歌や若い恋人たちのキスの歌に続いて、カロリーナとラディスラフが仲良くしている現場に遭遇して驚くアネシュカ!ショック療法が功を奏してか、いよいよアネシュカはラディスラフに心を開きます。
上手く行ったわ!とカロリーナがしてやってりの表情のところ、純情な男心をもて遊ばれたと感じたのか、ト書き(ラディスラフとアネシュカが結ばれる)とは異なり、ラディスラフが何と怒って舞台から去ってしまいました!ラディスラフの「最高の女性だ」というセリフは、皮肉としてカロリーナに向けられ…。
そして、最後の場面はトニークとリドカの若い恋人の婚礼の場面。リドカがブーケを投げるシーンで投げるフリのフェイントを入れたり、受け取った女性が大袈裟に喜んだりして楽しい!
ラストは舞台の奥にて、そんな民衆たちを見守りながら、カロリーナとアネシュカのやもめ2人が、若い恋人たちに「人生を楽しんで!」と言っているような表情でグラスを掲げて終わりました!
まるで、女2人の方が気楽で楽しいわ!、と言っているかのよう!あるいは私たちに釣り合う男って、なかなかいないわね!ということなのかも?何だかとてもリアリティのあるエンディングでした!
いや~、二人のやもめ、とても楽しい舞台でした!昨日に観たスメタナ/ダリボールはかなり劇的でドラマティックなオペラで、それを盛り上げるだけ盛り上げるスメタナの音楽に痺れましたが、この日の二人のやもめも素晴らしい!
(参考)2024.5.6 スメタナ/ダリボール(モラヴィア・シレジア国立劇場)
https://ameblo.jp/franz2013/entry-12856511628.html
コミック・オペラで軽やかな物語ですが、スメタナが何と素敵な音楽を書いていることか!ヴェルディは最後のファルスタッフでようやく喜劇のオペラで成功を納めましたが、本作はスメタナの5作品目です。シリアスからコミカルまで自由自在の作曲の妙。スメタナ、恐るべし!!!
(写真)終演後のクールダウンはチェコのビール、クルショヴィツェ。これっ、甘さと旨味が絶妙!もしかして今回のチェコ旅行での、ビールで一番の発見かも知れません!