(夏の旅行記の続き) 旅行8日目。この日は今年のバイロイト音楽祭のハイライト、新機軸としてARゴーグルを取り入れたパルジファルを観に行きました!

 

 

 

BAYREUTHER FESTSPIELE

RICHARD WAGNER

PARSIFAL

 

Conductor: Pablo Heras-Casado

Director: Jay Scheib

Stage design: Mimi Lien

Costumes: Meentje Nielsen

Lighting: Rainer Casper

AR and Video: Joshua Higgason

Dramaturgy: Marlene Schleicher

 

Amfortas: Derek Welton

Titurel: Tobias Kehrer

Gurnemanz: Georg Zeppenfeld

Parsifal: Andreas Schager

Klingsor: Jordan Shanahan

Kundry: Ekaterina Gubanova

1. Gralsritter: Siyabonga Maqungo

2. Gralsritter: Jens-Erik Aasbø

1. Knappe: Betsy Horne

2. Knappe: Margaret Plummer

3. Knappe: Jorge Rodríguez-Norton

4. Knappe: Garrie Davislim

Klingsors Zaubermädchen:

Evelin Novak/Camille Schnoor/Margaret Plummer/Julia Grüter/Betsy Horne/Marie Henriette Reinhold

Altsolo: Marie Henriette Reinhold

 

Das Festspielorchester

Der Festspielchor

 

 

(写真)本公演のパンフレット

 

 

 

 

 

その前に、日中の観光について。この日はバイロイトのワーグナー博物館とヴァーンフリート(ワーグナーの住居)に行きました。

 

 

(写真)まずはワーグナーのお墓にご挨拶。革新的な楽劇(オペラ)だけでなく、劇場と音楽祭まで作ってしまった、あり得ないくらいの天才に合掌。

 

(写真)ワーグナーの愛犬のお墓。2013年にあった骨のお供えものがないので、いつか上げたいと思っていますが、ドイツの法律とか抵触するかも知れないので、ここは慎重に。

 

(写真)ワーグナー博物館。通常展示に加えて、昨年とはまた異なる企画展示がありました。特に印象に残ったのは以下の通りです。

 

 

◯タンホイザーに赦しを与えるエリーザベトの絵

 

◯裸体のヴェーヌスに竪琴を奏でるタンホイザーのポストカード

 

◯ハンスリックとワーグナーの影絵(オットー・ベーラー)

 

◯1876年のニーベルングの指輪の全舞台のカラースケッチ(ヨーゼフ・ホフマン)。とてもロマンティックなもので、この舞台でぜひ上演してほしい!神々の黄昏のラストがハルマゲドンのようでスケールが非常に大きかったです!

 

 

 

(写真)ヴァーンフリート。展示内容は過去2回と同じですが、この後にパルジファルを観るということで、1882年の初演時に使われた聖杯、あざやかなクンドリと花の乙女の衣装、聖杯城と魔法の園の絵、などが印象に残りました。

 

 

(写真)ランチを取りながら、歌詞の最終確認。上演時間の長いワーグナーの作品の中でも、特に長いパルジファル。バイロイト音楽祭では字幕はないので、最後の最後まで歌詞を頭に叩き込みます。

 

 

 

 

 

さて、本題です。繰り返しですが、本公演はARゴーグルを取り入れるということで、前評判も含めて、大きな話題となった公演です。

 

 

 

あの~、ところで、そのARゴーグルって、一体なに?

 

 

はい。イメージとしては、黒のサングラスをより分厚くした感じのやや重いメガネ(ゴーグルと言っても、水泳のゴーグルのようなものではない)で、座席に備え付けの装置とコードでつながっています。

 

 

AR(Augmented Reality):現実の風景にさまざまな要素を付け加えて見せる技術

 

VR(Virtual Reality):現実ではない空間を見ることができる技術

 

 

ということで、この特殊なメガネ(ゴーグル)をかけると、舞台の光景に加えて(重ねて)、いろいろなものが見えます。舞台で歌手により歌われる内容を視覚化したり、舞台とARの映像をミックスして効果を高めたりします。

 

 

 

以下、今回の公演でARゴーグルでどんなものが見えたか?を中心に詳しい感想です。(そもそもワーグナーは1幕1幕が長いところ、さらに見える情報量が2倍になるので、どんな舞台と映像だったのか?を覚えるのも大変でしたが…、何とか記憶できた範囲で書きます。)

 

 

 

 

 

第1幕。冒頭の前奏曲。ここバイロイト祝祭劇場の響きを踏まえて書かれた音楽にうっとりします!指揮はパブロ・エラス・カサドさん。全般的にゆっくり目の演奏でした。

 

その前奏曲の間に演技が付きますが、何と、聖職者にも関わらずグルネマンツが仲間の女性と愛し合う、という驚きの展開!この女性はもしかしてクンドリ?と思いましたが、同じ黄色の民族衣装の女性なので、クンドリではなさそうです。なお、ゲオルク・ツェッペンフェルトさんのグルネマンツはとても立派でした!

 

 

噂のARゴーグルからは、本当にいろいろなものが見えてきます。鳩、樹木、フクロウ、蛇、黄色とオレンジの人間などなど。天から雹が降ってくることもありました。まるでフェルメールの絵画のように、場面場面で何かしらの寓意を持たせている印象でした。

 

パルジファル登場のシーンでは沢山の矢(パルジファルが白鳥を矢で射たため)が客席の方に飛んできて、思わず身体をよけそうになりました、笑。そして、矢が当ってしまった白鳥が血を流しながら四方八方を飛んで、血をばらまく映像が流されます。リアリティを感じさせるシーン。

 

アンフォルタスは全身包帯姿で脇腹に真っ赤な血。舞台のスクリーンでアンフォルタスの傷を延々と写していたのがとても印象的。どうやら、実際に起こっていることを生々しく伝える、強調する舞台のようです。

 

 

第1幕を観た時点では、ARゴーグルを付けると舞台上ではできない演出が可能となる反面、ゴーグルを通して観るので舞台が若干暗くなり、分かりにくくなる、という印象を受けました。また、観客全員がゴーグルをしている訳ではないので、舞台と映像でどっちつかずとなり、やや中途半端、という感想も持ちました。この後の幕はどうなるのでしょうか?

 

 

 

(写真)幕間のルーティンのスイーツ。ARゴーグルで情報量が2倍なので、脳のエネルギーの消耗が半端ないです。糖分をしっかり補給しましょう。

 

 

 

 

 

第2幕。第1幕と打って変わって、冒頭からテンポを上げるオケ。風雲急を告げている雰囲気が良く出ていました。クリングゾルの魔法の園は、映像でコウモリのオブジェが飛び交っていました。

 

 

クリングゾルとクンドリのやりとりの場面。ARゴーグルの映像では、ピンクと緑のしゃれこうべ(頭の骸骨)が出てきました。ピンクはクリングゾル、緑はクンドリが歌う時に動きます。ピンクのしゃれこうべは、クリングゾルがクンドリにやり込められる場面では小さくなるなど、時々ユニークな動きをしていて、道化のようで面白かったです。

 

延々とピンクと緑のしゃれこうべの映像が出てきて、これは一体どんな意味があるんだろう?と考えましたが、よく見るとピンクのしゃれこうべは歯並びがかなり汚く(緑は綺麗)、舞台上のクリングゾルはピンクのスーツで綺麗な身なりです。これらから、クリングゾルの上辺だけの姿や劣等感を表わしているのではないか?と感じました。

 

 

そこにパルジファルがやってきますが、舞台の上から縄で吊られて垂直に降りてきます???迎え撃つクリングゾル配下の戦士たちはパルジファルに次々打ち負かされますが、その戦士たちの血まみれの手や腕が空中を舞う生々しい映像が出てきました。第1幕の白鳥と同様、戦いの悲惨さをリアリティを持って伝えます。

 

 

花の乙女のシーンでは、ARゴーグルからは沢山の草花が見えますが、人間と花の合いの子の生き物も出てきて、ギョッとさせられます!笑 さらに舞台のスクリーンにも映像が出てきますが、①舞台の実物、②舞台のスクリーン、③ARゴーグルの映像がごっちゃになって、情報量がちょっと多すぎるのかも?花の乙女たちはよく声が出ていて大いに聴き応えがありました。

 

 

パルジファルとクンドリのシーン。アンドレアス・シャーガーさんとエカテリーナ・グバノヴァさんのやりとりは迫力があってめちゃめちゃ良かったです!さらに、クンドリがパルジファルの子供の頃を歌うシーンでは、ARゴーグルの映像でヘルツェライデ(パルジファルの母親)を視覚化して、子供のパルジファルが剣でできたブランコで遊ぶ映像が出てきたり、とても象徴的で素晴らしい映像でした!

 

 

最後のクリングゾルがパルジファルを聖なる槍で襲う場面では、巨大な槍の映像が登場。パルジファルがクリングゾルから槍を奪うシーンは槍をあっさり取り上げられて、あまりのショボさに観客から失笑が漏れました!笑 やはりクリングゾルはへなちょこ・ダメダメな立ち位置で、だからこそ劣等感を紛らわすために争いを仕掛けた、権力者の器の小ささ、ということなのかな?と思いました。

 

ラストはARゴーグルでは鳩が火を付けて燃える映像、音楽が終わると舞台が崩れ落ちる映像が出てきて、とても迫力がありました!第2幕は第1幕に比べて、ARゴーグルをより効果的に使っていた、という印象です。

 

 

 

(写真)再び幕間のスイーツ。この日は果物系のスイーツのラインナップ。

 

 

 

 

 

第3幕。舞台は一面の雪で、その中で人々が凍えながらやり過ごしている光景。舞台右には大きな掘削機が置かれています。第2幕でパルジファルが垂直に降りていったことから、どうやらアンフォルタス側とクリングゾル側の地下の鉱物資源を巡る争いのようです。

 

この幕のARゴーグルの映像では、沢山のプラスチックのゴミ袋が、ず~っと画面上を漂流しています。おそらく、資源の枯渇や環境問題への警鐘を鳴らす意図だと感じました。

 

 

聖金曜日の音楽のシーン。前回、2017年にバイロイト音楽祭でパルジファルを観た時は、舞台に巨大な植物が出てきて、そこに全身裸の女性も含めて自然体の人びとが理想郷のように集う、ウヴェ・エリック・ラウフェンベルクさん演出の極めて感動的な舞台でしたが、今回は舞台上では大きな変化はありません。

 

(参考)2017.8.14 ワーグナー/パルジファル(バイロイト音楽祭)

https://ameblo.jp/franz2013/entry-12309926460.html

 

 

しかし、ARゴーグルの映像では、観客席一面が沢山の草木で覆われて、草木が萌えるイメージを見事に表わしていました!そして、何やら草木が盛んに動いています?これは草木に命があること、加えて生存競争や生態系を表しているのではないか?と感じました。キツネも出てきて、草木の中をグルグル動き回ってなかなか可愛い。

 

 

パルジファルが登場してアンフォルタスの傷を治すラストシーンでは、舞台では黄色の光が輝き、ARゴーグルでは鉱物から湧き出てきた青い流れが起こり、舞台とARゴーグルの映像を重ねると、まるでウクライナの国旗のような光景が登場しました!!!ウクライナ・カラーでいっぱいになったバイロイト祝祭劇場!!!これはめちゃめちゃ感動しました!!!

 

しかし、最後の最後で何と!パルジファルが青の鉱物でできた聖杯を、舞台に落として壊してしまいました!そして、ラストはパルジファルとクンドリ、グルネマンツと冒頭の女性の2組のカップルができて幕となりました。驚きのパルジファル!!!

 

 

 

ウクライナ・カラーの光景は大いに感動しましたが、最後のパルジファルの聖杯を壊した行為と2組のカップル。これには一体どんな意味があるのでしょうか?

 

 

私が感じたのは、素直に受け取って、戦争や人の幸せから逸脱した宗教はもう辞めようというメッセージ。途中、白鳥が血を流すシーンやパルジファルを迎え撃った戦士たちの手足、アンフォルタスの血だらけの包帯など、今回の演出ではグロテスクとも思える血の映像を沢山出して、戦争や過剰な宗教行為のリアリティを強調していました。

 

そういうことではなく、聖金曜日の音楽のシーンでの伸び伸びとした草木のように、人間も自然の一部として、自然体であるべきだ。自然の摂理に委ねて、愛する人と一緒になって幸せになろう。鉱物資源を巡る不毛な戦いは終わりにして、非人道的な宗教もやめて、人間性を取り戻そう。そんなメッセージを感じました。

 

 

 

 

 

バイロイト音楽祭のパルジファル、新機軸のARゴーグルに加えて、驚きの内容の演出、大いに堪能しました!ARゴーグルを取り入れたことについての感想をまとめると、以下の通りです。

 

 

◯バイロイト音楽祭ならではの、新しいことにチャレンジをした革新的な舞台!その最初の年の舞台を観ることができて感無量!

 

◯楽劇(オペラ)にARゴーグルを取り入れる意義や今後の可能性を大いに感じた舞台!その一方で、舞台と映像が重なったり、効果的な活用についてはまだまだこれから改善の余地ありという印象。

 

◯今年は予算上の都合により、観客全員にARゴーグルが行き渡たらなかったもよう。このため、ARゴーグルなしで舞台を観ても演出が完結するように、①舞台だけの演出、②舞台にARゴーグルを重ねた演出、の両方で成り立つような折衷や妥協の舞台づくりとなった可能性あり。特にARゴーグルで観る映像は、今後改良がなされるのではないか?と推察&期待。

 

 

 

結論としては、新機軸のARゴーグルの舞台には大いに可能性を感じて、今後、改良が加えられて進化すると思われるので、また観に行かなければ!笑 (チケットが取れるかどうかですが)将来、ぜひリピートしたいと思います!

 

 

 

 

 

(写真)上演6時間+ARゴーグルでヘトヘトになったパルジファル観劇でしたが、だからこそ終演後のマイゼルス・ヴァイス(バイロイトの白ビール)、達成感を大いに感じながらの一杯は最高でした!