(夏の旅行記の続き)国内旅行や英語の記事で少し空きましたが、夏の旅行記の続き、旅行6日目です。この日から旅行の舞台はバイロイトに移ります。夕方からの観劇の演目はトリスタンとイゾルデ、とても楽しみです!

 

 

 

BAYREUTHER FESTSPIELE

WARGNER

TRISTAN UND ISOLDE

 

Conductor: Markus Poschner

Director: Roland Schwab

Stage design: Piero Vinciguerra

Costumes: Gabriele Rupprecht

Dramaturgy: Christian Schröder

Lighting: Nicol Hungsberg

Video: Luis August Krawen

 

Tristan:Clay Hilley

Marke: Georg Zeppenfeld

Isolde: Catherine Foster

Kurwenal: Markus Eiche

Melot: Olafur Sigurdarson

Brangäne: Christa Mayer

Ein Hirt: Jorge Rodríguez-Norton

Ein Steuermann: Raimund Nolte

Junger Seemann: Siyabonga Maqungo

 

Das Festspielorchester

Der Festspielchor

 

 

(写真)トリスタンとイゾルデの公演パンフレット。シンプルですが、光と闇を駆使した本舞台にぴったりのデザインです。

 

 

 

 

 

その前にザルツブルク→バイロイトの道中と、観劇前のバイロイト観光について。

 

移動はザルツブルク → ミュンヘン → ニュルンベルク → バイロイトと列車を2回乗り換えて5時間のコースですが、今回はさらにニュルンベルク → (列車) → ペグニッツ → (バス) →バイロイトとバスまで加わりました。長~い移動です。

 

なお、ミュンヘンは縦横に長いホーム。昨年は列車が遅れて、大型リュックを背負って5分間全力ダッシュをした記憶が新しい。今年は列車が定刻で余裕でしたが、それでも9番ホームから22番ホームが長い長い!

 

 

 

(写真)この日の観光はバイロイト辺境伯歌劇場

 

 

そして、時間が限られるので、観光は昨年初めて中に入って大いに感動した世界遺産のバイロイト辺境伯歌劇場を再訪しました。昨年と同様に英語のツアーを申し込みましたが、30分で映像→説明→自由見学だった昨年とは異なり、1時間くらいじっくり案内してもらえる形に変わっていました。しかもツアー参加は3人のみ。かなり贅沢な時間!

 

先に来ていたお2人がバロックやロココについてかなり詳しいご夫妻(おそらくアメリカの方)なので、私は控えて付いていく形を取りましたが、何と!昨年は行かなかったヴィルヘルミーネ(ブランデンブルク=バイロイト辺境伯フリードリヒ3世の妃・この歌劇場を造った)が座ったオペラハウスの貴賓席と舞台に上がることができました!うわ~!大いなる感動!!!

 

 

(写真)バイロイト辺境伯歌劇場の客席と舞台。この眺めが私が楽しめた貴賓席からの眺めです。何とゴージャスで、美しく豊かな空間!

※バイロイト辺境伯歌劇場で購入した絵葉書より

 

 

特に2階の貴賓席からの舞台や周りの座席を見渡せる素晴らしい眺め、そして舞台から見た眩いばかりの劇場のきらめきが本当に素晴らしい!しばし、王侯貴族や出演歌手の心境を味わうことができました!

 

 

(なお、この記事は会社のお昼休みに書きましたが、仕事が忙しく、この日のお昼ご飯はウィダーインゼリーのみ。上記との凄まじいギャップ!笑)

 

 

ガイドの方の説明では、ヴィルヘルミーネが亡くなってからは劇場は使われなくなっため、リニューアルされずに当時のまま残った。フェニーチェ歌劇場も当時のままだったが、残念ながら火事になって新しくなった。2012年から2018年に修復を行ったが、リング席の装飾は1週間で手の平くらいの面積しか進まない重要な仕事だった、ということでした。

 

 

「ワーグナーは何もないまちに音楽祭に作ったが、実は最高の歌劇場があった。」

 

 

というガイドさんの一言がとても印象的でした。そうなんです。バイロイトには、ワーグナーの殿堂であるオペラハウスのバイロイト祝祭劇場に加えて、オペラハウス単体で世界遺産になっているこのバイロイト辺境伯歌劇場があるんです!最高のオペラハウスが2つも!しかも徒歩20分くらいの距離に!バイロイトって本当に凄い!!!

 

 

さらには、昨年はなかったミュージアムが併設されていました。時間が限られたのでざっと見ましたが、特に1747年のヴィルヘルミーネの娘の結婚式は何と13日間に渡って開かれ、毎日何らかのプログラムがあったという予定表が圧巻でした!イタリア・オペラが2回、フレンチ・コメディが5回と、オペラよりもコメディの方が上演回数が多かったのが興味深かったです。

 

 

 

 

 

さて、前置きが長くなりましたが、観光の後、ホテルにチェックインして仮眠を少し取り、いよいよバイロイト音楽祭に向かいます。

 

 

(写真)バイロイト祝祭劇場。この光景を見ると、一体どんな素晴らしい舞台、新しいワーグナーを楽しめるんだろう?と、心の底からワクワクします!

 

 

 

第1幕。若いカップル(黙り役)が寄り添うシーンで始まります。前奏曲の繊細な響き、そして後半は迫力の音のうねり!これです、これ!バイロイトでワーグナーを聴く喜び!この後は演出の話が中心となりますが、マルクス・ポシュナー/バイロイト祝祭管弦楽団の演奏は抑揚やメリハリを大きく付けて、めちゃめちゃ素晴らしかったです!

 

トリスタンのクレイ・ヒリーさん、イゾルデのキャサリン・フォスターさん(私が2014年にバイロイト音楽祭で観たニーベルングの指輪のブリュンヒルデ)、両者ともバリバリ!クレイ・ヒリーさんは確かアンドレアス・シャーガーさんがパルジファルを歌うことになったため、急きょトリスタンを歌うことになったと記憶していますが、とても良かったです!

 

舞台は船の中。上に甲板(以下、2階)があり、舞台(以下、1階)の真ん中には船の中のプールがありますが、そのプールの色が場面に応じて、青→赤→緑と変わっていきます。そして、最後2人が薬を飲むとグルグルと渦を巻きます。まるで媚薬の魔力には誰も抗えないような、非常に勢いを感じる映像!最後は凄まじい超高速のグルグルの渦の勢いが音楽に良く合う!

 

 

 

(写真)幕間はおなじみスイーツ。長丁場の観劇となるワーグナー。エネルギーをしっかり補給。

 

 

 

第2幕。先ほどと同じ構造、1階と2階の舞台ですが、1階は逢い引きの場所となり、暗い中、周りに4台のサーチライトがあって光を照らします。

 

トリスタンを待つイゾルデの歌が高揚して、「愛の女神!」と絶叫する場面では、その勢いに4台のサーチライトが壊れてしまって、クルクル回るユニークな演出!イゾルデの高揚感に加えて、ユーモアも感じさせ(まるで生き物のよう!)、本当に小粋で素敵な舞台です。

 

 

トリスタンの入りでは入口の明かりがパチパチ。どうやら、この第2幕は闇の中の光で心情を表わすようです。いよいよトリスタンとイゾルデがゆっくり陶酔の歌を歌い始めると、舞台上の天空で星々がゆっくり流れていく映像となり、めちゃめちゃロマンティック!

 

そしてひとしきり盛り上がった後、その2人に対して、ブランゲーネが警告の歌を歌いますが、暗い中、2階をクリスタ・マイヤーさんの白いお顔だけが浮かび上がり、左から右に少しずつ動きながら歌う様子が、ほとんど星のよう!とても官能的、陶酔的で、まるで2人を見守る愛の女神のようです!このブランゲーネのシーンには圧倒的な感銘を受けました!

 

 

そして、マルケ王たちが入ってくる直前の2回目のトリスタンとイゾルデの頂点の盛り上がりのシーン。何と、床に写し出された星があちこちの方向に盛大に動き回って、トリスタンとイゾルデも2人で抱き合うのではなく、10mくらい離れて正面を向き、2人して、もう興奮して居ても立ってもいられない!弾けそうだ!という熱い演技!

 

正に音楽と舞台が見事に一致した究極のトリスタンとイゾルデ!ワーグナーの高揚して頂点に達する音楽を200%視覚化したと言える、ほとんど決定版とも言うべき演出、めちゃめちゃ感動しました!

 

 

 

(なお、私がこの音楽と融合した素晴らしい舞台を観て思い出したのが、6年前に観に行ったスイスの表現主義の画家オットー・ネーベル展。音楽にちなんだ抽象的な作品をいくつか観ましたが、その描き方と今回の星の挙動にどこか通底するものを感じました。)

 

 

(写真)オットー・ネーベル/ドッピオ・モヴィメント(二倍の速さで)

 

(参考)2017.12.1 オットー・ネーベル展 シャガール、カンディンスキー、クレーの時代(2回目)

https://ameblo.jp/franz2013/entry-12333004252.html

 

 

 

マルケ王とメロートが入ってくると、舞台の星の明かりは消えました…。ゲオルグ・ツェッペンフェルトさんのマルケ王がまた立派な歌!最後は天井から降りてきた光がトリスタンに刺さる演出が付いて終わりました。ワーグナーの書いた「光と闇」の歌詞に全くマッチした素晴らしい舞台!ほとんど究極のトリスタンとイゾルデ!

 

 

 

(写真)再び幕間のスイーツ。スイーツの種類が毎年変わるのもまた楽しい。

 

 

 

第3幕。舞台は同じ造りですが、柳のような大きな木の枝と葉が2階から1階に垂れ下がっているのが特徴的。この幕はトリスタンがイゾルデを待つシーンが続きますが、遂に船が見えてトリスタンが「船だ!」と歓喜に湧くシーンでは、第2幕同様に舞台は星がグルグル状態となり、トリスタンの心の高まりをよく表わします。

 

そして、遂にイゾルデが登場して抱擁を交わしますが、トリスタンはそこで事切れてしまいます…。その瞬間、舞台の星は消え、まるで星が爆破したような灰色のチリになってしまいました…。第1幕&第2幕から続く、本当に印象的な演出。

 

 

この流れからすると、最後のイゾルデの「愛の死」は一体どうなるんだろう?もしかすると、満天の星空を背景に、トリスタンとイゾルデが天に昇っていって、星座になるのではないか?と薄々予測していましたが、イゾルデの「愛の死」が始まったらビックリ!何と、舞台奥から老夫妻と思われる2人の男女が出てきました???

 

この2人はイゾルデの「愛の死」の間、舞台を左右に別れて前に進み、最後は舞台の一番前中央で手を合せ、抱擁しました。イゾルデが歌い終わるとそのまま幕。ええっー!これまで散々見せてきた星はどこに行ってしまったの~!?期待させるだけ期待させておいて、ラストはかなり斜め上からの演出で終わりました!これは一体どういうことなんでしょう???

 

 

 

カーテンコールでは、真っ先にその老夫妻が出てきましたが、何と!舞台に一度も出て来なかった、子供2人を間に挟んで出てきました!そうか!そういうことなのか!このシーンを見て、ようやく最後の謎が解けました。

 

それは、イゾルデがラストに歌った「愛の死」つまりは「至高の愛」とは、瞬間的に燃え上がって、燃え尽きてしまうような愛情だけでなく、ずっと寄り添って添い遂げる愛も「至高の愛」なんだ、ということ。

 

 

つまり、本舞台の黙り役の2人のように、どこにでもある、若い恋人が結婚して子供を産んで老夫婦となるまで添い遂げる。それも「至高の愛」なんだ。そのことを伝えていたと感じました。「光と闇」の対比、トリスタンとイゾルデが随所で同じポーズを取っていた演出、そして、実はワーグナー自身が、そのような趣旨の言葉を残していることがそう思わせます。

 

第2幕でトリスタンとイゾルデの高まりは星がグルグルになるほどのエネルギーと高揚感で、第3幕のトリスタンの死で星は爆破してチリになりますが、最後チリになるような破滅的な愛だけでなく、穏やかなでもちゃんと繋いでいくことも真の愛、究極の愛だ。それをを伝えていた演出なのではないか?と感じたしだいです。

 

 

 

今回の演出には本当に驚かされました!3幕とも同じ骨格の舞台で難しいことはせず、やっていることは実はシンプル。しかし、トリスタンとイゾルデの音楽に非常によく合う、とてもセンスの良い演出。実はこの演出のトリスタンとイゾルデは、2022年と2023年の2年間だけの時限的な上演だったので(通常は5年間)、タイミング良く観ることができ、本当にラッキーでした!

 

特に、第2幕のトリスタンとイゾルデの最後の盛り上がりの星グルグル、イゾルデの「愛の女神」のサーチライトのクルクル、そして、何と言ってもブランゲーネが愛の女神の星のようにゆっくり動いたブランゲーネの警告!私にとってクリスタ・マイヤーさんは永遠のブランゲーネとなりました。

 

 

 

オーケストラの演奏がまた凄いのなんの!例えば、トリスタンとイゾルデの2回目の盛り上がりの前に4回フォルテでくさびを入れますが、その衝撃的な音、振幅の大きさに圧倒されました!指揮者のマルクス・ポシュナーさんは、まだ聴いたことのない謎の指揮者でしたが、めちゃめちゃ凄かった!カーテンコールでも大喝采を浴びていました!

 

私は2017年のバイロイト音楽祭でクリスティアン・ティーレマンさんのトリスタンとイゾルデを聴いていて、これは最高の演奏でしたが、マルクス・ポシュナーさんのトリスタンとイゾルデも甲乙付けがたいほどの素晴らしさ!とにかく大きく抑揚を付けて、曲の魅力を120%伝える素晴らしい指揮!今後、要注目です。

 

 

 

ということで初日から大いに盛り上がりましたが、今年のバイロイト音楽祭も盛り沢山。この後、新しいテクノロジーを駆使して大きな話題となった公演も出てきます。乞うご期待!(続く)

 

 

 

 

 

(写真)終演後はお約束で大好きなマイゼルス・ヴァイス(バイロイト地元のヴァイツェン)寒かったウィーンで体調が微妙になりましたが、回復しました!