先週のバッハ・コレギウム・ジャパンとのベートーベンが最高だった鈴木雅明さん。今度は東響に客演するコンサートを聴きに行きました。10月のメシアン/峡谷から星たちへ…、のピアノ・ソロが素晴らしかった児玉桃さんも楽しみです。

 

 

東京交響楽団第687回定期演奏会

(サントリーホール)

 

指揮:鈴木 雅明

ピアノ:児玉 桃

 

モーツァルト/ピアノ協奏曲第21番ハ長調

シューベルト/交響曲第8番ハ長調「グレイト」

 

 

 

前半はモーツァルト。これが極上のモーツァルトでした!児玉桃さんのエレガントな中にニュアンスが随所でこぼれる素晴らしいピアノ。そしてメリハリだったり、キレだったり、カデンツァの前の迫力の追い込みだったり、全く見事な鈴木雅明さんと東響!3者が絶妙に合わさった素晴らしい時間!

 

ジャズを聴くと、即興のコラボにノリノリになってトリップする瞬間ってありますよね?今日のモーツァルトは正にそうした感覚。何て素晴らしい音楽と演奏なんだろう!というのを肌身で感じながら、モーツァルトの愉悦に溢れた素敵な演奏に乗って、大いに楽しめました。

 

鈴木雅明さんの描く三位一体はバッハだけではなかった!児玉桃さんと東響との素晴らしいハーモニー!終演後、お2人が満面の笑みでお互いを讃え合っていたことが、全てを物語っていたと思います。

 

東響は、(私も何度もお世話になってきましたが)数々のモーツァルト・マチネの公演を通じて、モーツァルトが楽団の十八番であり、売りであることを見事に証明した演奏!繰り返しですが、極上のモーツァルトでした!

 

 

 

後半はシューベルト。交響曲第8番と言えば、2017年にヘルベルト・ブロムシュテット/ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団による名演を聴いたのが記憶に新しいところです。長大で繰り返しの多い曲なので、普通の指揮だと退屈してしまうリスクのある難曲。鈴木雅明さんがいかに料理するのか?興味津々です。

 

(参考)2017.11.9 ヘルベルト・ブロムシュテット/ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団のシューベルト8番

https://ameblo.jp/franz2013/entry-12327066706.html

 

 

第1楽章。冒頭から速いテンポの中にニュアンスたっぷりの指揮。この演奏にどれだけ血が通っているか、この導入のシーンだけで分かります。第1主題は意外にも金管を強調した強烈な挨拶。第2主題に入る辺りからゆっくり歌い始めて、あざやかな切り替えです。

 

ラストに向けた盛り上がりは寸分違わぬインテンポで突き進んだのが印象的。そのままインテンポで押し切るのかな?と思わせたところで、主題の回帰はガクンとテンポを落としてたっぷり!大いなる感動!圧巻のラスト!

 

 

第2楽章。冒頭のオーボエは、さすがは東響のエース「あらえり」こと荒絵里子さんの素晴らしい演奏。第2主題の場面は、旋律線でなく、副旋律の単音を浮き立たせたり、リズムを印象付けたり、まるでベートーベンを意識した音楽であることを強調させるような鈴木雅明さんの指揮に魅了されます。

 

第2楽章の山場、音楽が深淵を見せるシーンは、何と弦楽でなく、リズミカルな金管の連呼を強調してながら高まりました!R.シュトラウス/英雄の生涯と同様、心ない批評家に嗤笑されるシューベルト、という印象を持ちます。そして決めのジャンジャン!は満を持して弦楽を強調!その後のまるで慰めるように優しく立ち昇る弱音のチェロ!素晴らしい表現の連続にもうクラクラしっぱなしです。

 

 

第3楽章。ここはリズミカルな指揮で踊りの音楽を盛り上げます。東響のキッレ切れの素晴らしい演奏に魅了されっぱなし!チェロが一瞬ポルタメントを奏でて、踊りの盛り上がりの中で、お酒によろめくような(笑)楽しさを感じました。

 

中間部は懐かしい響きの長調が心地よい部分ですが、ほんのり短調になる瞬間にキュンとします。明るくポジティブなカスパー・ダーヴィト・フリードリヒの田舎の風景画と、どこか悲しさとリアリティを湛えたジョヴァンニ・セガンティーニの風景画を交互に頭の中に思い浮かべます。

 

中間部でもう一度主題に帰る場面でのルバートが絶妙!ほとんどレニー(私の尊敬するレナード・バーンスタイン)のよう(笑)。そして、第1主題に帰るシーンはリズミカルに突き進んで、中間部がまるでお酒が回っての夢のシーンで、現実に戻る瞬間のよう!また踊るんですね?(笑)

 

 

第4楽章。ここまで速いテンポで進んできましたが、第4楽章ということで、さらに勢いが増します。いよいよ、きた~!という感じ。速いテンポの中、めくるめくニュアンスにいちいち魅了される最高の時間!しかし、激情に流されることなく、しっかりコントロールされたプロの仕事。その行くところ、引くところ、出し入れの妙に魅了されます。ラストの堂々たる締めも見事でした!

 

 

 

きた~!鈴木雅明さんと東響による圧倒的な名演!

 

2017年のヘルベルト・ブロムシュテット/ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団の演奏と甲乙付けがたい、並んで讃えられるべき最高の演奏!

 

(鈴木雅明さん、もともとバッハの巨匠ですが)日本人の巨匠が降臨した瞬間!

 

 

 

鈴木雅明さんが指揮を終えた瞬間、サントリーホールは一種異様な雰囲気に包まれました。私は東京で3,000回近くのコンサートを体験してきているので、この雰囲気が何を示しているのか?経験的に感じ取れます。それはあまりにも凄すぎて、圧倒されて、拍手が思わず不揃いで出てしまったような、そんな尋常ではない雰囲気。やがて盛大な拍手が湧き起こり、オケが下がった後もその力強い拍手は続き、鈴木雅明さんが一人出て来られるまで続きました。

 

ウィーン・フィルから尊敬を集めるヘルベルト・ブロムシュテットさんに並ぶ巨匠の指揮を、日本にいながら聴ける幸せ!鈴木雅明さんは普段はバッハ・コレギウム・ジャパンを指揮して、毎回素晴らしいバッハに魅了されていましたが、このコロナ禍において、N響、東響と指揮をされて、その圧倒的な素晴らしさが世間に広く知れ渡ってしまった、という怪我の功名的な展開。バイエルン放送交響楽団やニューヨーク・フィルにも客演された実力と世界的な評価を思い知らされました!

 

 

 

そして忘れてはいけないのは、その鈴木雅明さんの棒のもと、この日も全くもって見事な演奏を繰り広げた東響に大いなる拍手を!東響と言えば、先日、2021/2022シーズンの定期演奏会の予定を発表しました。神尾真由子さんのベルク/ヴァイオリン協奏曲(ジョナサン・ノットさん指揮)やユベール・スダーンさんのフランス音楽プロなどが予定されていて、とても魅力的なプログラム!定期会員になることも考えつつ、聴きに行くのを楽しみにしています。

 

東響は今や東京を代表する実力派のオーケストラ。コロナ禍においても「映像ノット」を敢行するなど、常にチャレンジングな取り組みをしていて、心より尊敬の念を持ちます。

 

先月の広上淳一さんとのベートーベン4番も非常に素晴らしかったと聞きました。曲目がブルックナー6番から変わったことが物議を醸したそうですが、非常事態で状況が刻一刻と変化していくコロナ禍においては、平常時とは違った対応をせざるを得ないこともあるでしょう。なぜなら今は未だに「非常事態」だから。コンサートが開かれるだけ、ライブの音楽が聴けるだけ、日本はまだ恵まれていると思う。

 

こういう厳しい時期に慌てず騒がず応援してこそ、本当の、本物のクラシック音楽のファンだと、私は思います。

 

 

 

(写真)終演後はオーストリアの料理でほっこり。ウィーン風のポテトスープ。ゼンメルとの素敵なコンビ。名演の興奮のもと、ワインはボトル1本を1人で開けてしまいました、笑。

 

(写真)いつものお約束だと食後はモーツァルトトルテですが、曲目がグレイトだったので、ゴージャスにザッハートルテにしてみました。ザッハートルテも本当に美味しいですね。