この10月は鈴木優人さんと読響のメシアンの大曲のコンサート、鈴木雅明さんとN響のコンサート3連発と、鈴木親子による素晴らしい公演を楽しんできましたが、そのラストを飾るオペラ公演、バッハ・コレギウム・ジャパンによるヘンデル/リナルドを観に行きました。大好きな森麻季さんのアルミレーナも楽しみです!

 

 

バッハ・コレギウム・ジャパン

(神奈川県立音楽堂)

 

ヘンデル/リナルド

(セミ・ステージ形式)

 

指揮・チェンバロ:鈴木 優人

演出:砂川 真緒

 

リナルド:藤木 大地

アルミレーナ:森 麻季

アルミーダ:中江 早希

ゴッフレード:久保 法之

エウスタツィオ:青木 洋也

魔法使い:波多野 睦美

アルガンテ:加藤 宏隆

使者:谷口 洋介

セイレーン(人魚たち):松井 亜希、澤江 衣里

 

管弦楽:バッハ・コレギウム・ジャパン

 

 

(写真)会場に沢山貼られていたチラシ。これは一体?

 

 

 

この鈴木優人/バッハ・コレギウム・ジャパン(BCJ)によるオペラ・プロジェクトでは、2017年に観たモンテヴェルディ/ポッペアの戴冠の公演が圧倒的に素晴らしかった思い出があります。日本にいながら、世界最高峰の古楽のオペラを観ることができる、非常に貴重な機会。神奈川県立音楽堂はびっしり満席でした!観客のみなさま、よく分っていらっしゃいますね。

 

(参考)2017.11.23 モンテヴェルディ/ポッペアの戴冠(バッハ・コレギウム・ジャパン)

https://ameblo.jp/franz2013/entry-12330862739.html

 

 

 

(以後は詳しい感想です。11月3日に東京オペラシティコンサートホールで同じ公演がありますが、観に行かれる方は読まない方が無難だと思います。)

 

 

 

第1幕。序曲が始まりました。舞台の中央に小さな部屋があり、現代の服装のゲーム好きの青年がいます。郵便物で届いたゲームの登場人物のフィギュアで遊び喜ぶ青年。そして、森麻季さんたちがそのフィギュアと同じ昔の衣裳、人形のような仕草で登場してきました!

 

登場の後、森麻季さん扮するアルミレーナを、十字軍とイスラム教徒で奪い合う演技が付きました。森麻季さんはこういうコミカルな演技も本当に上手い!だって、オッフェンバック/ホフマン物語の楽しいオランピアでお手のものですからね。

 

森麻季さんがリナルドの勝利を祈る歌。いつものクリスタル・ヴォイス、アジリタや超絶技巧もビシバシ決まって、めちゃめちゃ素晴らしい!もう一点の曇りのない見事な歌ですが、その上で機械的でなく、温かみを感じるところが本当にいいですね。

 

何と先ほどのゲーム好きの青年がリナルドでした!ゲームにのめり込んで、リナルドの十字軍の世界に入り込んだ設定のようです。アルミレーナの歌の途中、こっそり隠し持っていた森麻季さんの写真集を取り出して、アルミレーナへの想いを伝えます。観客に受けていました(笑)。

 

その後の青木洋也さんエウスタツィオの「運命の歯車」の歌は、両手をグルグル回した演技が印象的。加藤宏隆さんのアルガンテの歌はBCJのトランペット、中江早希さんのアルミーダの歌はオーボエとの掛け合いが見事で素敵な聴くもの。

 

森麻季さんの小鳥の歌は、舞台に小鳥が沢山登場して、美しいシーン。しかし、アルミレーナはアルミーダたちにさらわれてしまいます…。愛する人をさらわれたリナルドの悲嘆の歌、そして希望の歌は、先日の新国立劇場でのオベロンも見事だった藤木大地さんがしっかりと締めました!

 

 

 

第2幕。シレーヌのシーンは松井亜希さんと澤江衣里さんによるシレーヌが強力!この2人の素晴らしい歌手が出番の短いシレーヌだけの登場だなんて、BCJの公演ってどれだけ贅沢なんでしょう!ゴッフレードとエウスタツィオが諫めたにも関わらず、思慮の足りないリナルドはアルミードの罠にかかってしまいました…。

 

魔法の庭では、アルガンテがアルミレーナに迫ります。ここで有名なアルミレーナのアリア「涙の流れるままに」。森麻季さんの「涙の流れるままに」はリサイタルで聴いたことがありますが、遂にオペラの流れの中で聴けた喜び!今日も最高の歌でしたが、間奏や歌い終わった後の涙の演技が本当に素晴らしい!森麻季さんと同じ時代に生まれて良かったことを噛みしめる瞬間。

 

一方、アルミーダは捕まえたリナルドのイケ面っぷりに、敵なのに虜になってしまいます(笑)。そのアルミーダとリナルドの掛け合いが楽しい!アルミーダのしっとり涙の歌も中江早希さんがいい味出していましたが、大きな見せ場は、恋人であるアルガンテがアルミレーナ(森麻季さん)の写真を隠し持っていて、裏切りに激怒した時!

 

鈴木優人さんの強調を入れたチェンバロの導入から始まり、中江早希さんの激しい怒りのアリアがもう凄いのなんの!その森麻季さんの写真をビリビリに破くは、リナルドの人形にロウソクを垂らすは(笑)。果ては、プロンプターの方から差し出された日本酒を一気飲みして、怒りを大爆発させました!(笑) もう最高の歌と演出!バロック・オペラって、めっちゃ楽しい!観客も大受けでした!

 

 

いや~、アルミーダの第2幕ラストの怒りのシーンはもの凄かった!お酒を使う演出はペーター・コンヴィチュニーさんの演出でよく出てきますが、まさかここで出逢えるとは!また、日本酒は横浜のご当地の日本酒?あるいは中江早希さんの好きな銘柄?今回はセミ・ステージ形式の上演ですが、人形など小道具を上手く使って、創意工夫が随所にあって、演出も本当に良かったです。

 

 

 

第3幕。魔法使いのシーンは、ゴッフレードが伝説の剣を頭上にかざすシーンが感動的。いよいよアルミーダがアルミレーナを殺してしまおうとするシーンでは、以下のやりとりが。

 

リナルド:(アルミレーナの)何が罪?

アルミーダ:その美しさだ!

 

確かに!(笑) しかし、ゴッフリードとエウスタツィオの活躍により、アルミーダは打ち破られ、アルミレーナとリナルドは助かりました。魔法使いのセリフには「魔法の杖」のセリフもありましたが、私には純粋に剣と槍によってアルミーダに打ち勝ったと見えました。

 

お互いを裏切ったアルミーダとアルガンテが仲直りするシーンは、敵方ですがちょっといいシーン。このオペラ、実はヒロインのアルミレーナよりもアルミーダの方が心情の描写が難しく、歌手も演じ甲斐があるのではないか?と思いました。中江早希さん、いい味出していました。

 

救われた森麻季さんは、最後は赤字に金色の刺繍の衣裳で登場。もう、「ほぉ~!」とため息しか出ません。美し過ぎて、本当に王侯貴族のよう!最後のリナルドの歌は藤木大地さんによるさすがの歌。リナルドは最後ゲーム好きの青年に戻り、変わったオチは付けずに素直に終わりました。

 

 

 

鈴木優人さんとBCJのヘンデル/リナルド、素晴らしい演奏に素晴らしい歌手のみなさん、気の利いた演出と、最高の公演でした!鈴木優人さんとBCJは相変わらずの上質なクオリティ。今回は楽器がソロで歌と掛け合うシーンが多かったですが、さすがBCJ!という見事なものでした。

 

歌手では森麻季さんはいつもながらですが最高の一言!森麻季さんの透明な歌をたっぷり聴けて大いに幸せを感じました。中江早希さんは歌も演技も素晴らしく、こんな凄い方がいたんだ、と驚きました。カウンターテナー3人が昔の物語の雰囲気をよく出していて、加藤宏隆さんはおそらく急な代役だったと思いますが、立派な歌でした。

 

 

そして演出!リナルドをゲーム好きの青年に置き換えた演出は本当に慧眼だと思いました。というのも、このオペラはリナルドがタイトルロールですが、実はリナルドはアルミレーナを奪われるは、自身も思慮がなくてアルミーダの魔力にまんまと引っかかるはで、正直、英雄にしてはあまりいいところがありません(笑)。

 

十字軍を勝利へと導いたのは、ゴッフレードとエウスタツィオ。伝説の勇者ロトに似た衣裳に身を包み、希望の歌を歌い、絶えず周りに注意を払い、リアリティを持って前に進み、困難を乗り越えたこの2人こそ、真の勇者だと思いました。そのことをゲームの世界にいて頭の中はお花畑(笑)のリナルドとの対比で(しかもゲームの世界だとやり直しできることも示唆)、あざやかに印象付けた砂川真緒さんの見事な演出でした!

 

 

 

(追伸)今日はイタリア語のオペラだったので、終演後はイタリア料理を食べに行こうかと考えていて、持ち込むイタリアワインも準備していましたが…、

 

神奈川県立音楽堂の最寄り駅、桜木町の駅で見かけた崎陽軒のシウマイ弁当があまりにも美味しそうだったので(笑)、ついつい横浜のご当地ものに流れました。エビスビールと美味しい夕食になりました。(なお、食いしん坊のフランツがシウマイ5つで終わる訳がなく、写真に写らないところにシウマイ15個が待機しています、笑)