今年が創立30周年のバッハ・コレギウム・ジャパン(BCJ)。その記念となる、鈴木優人さん指揮によるバッハ/ロ短調ミサ曲を聴きに行きました。

 

 

バッハ・コレギウム・ジャパン第139回定期演奏会

(東京オペラシティ・コンサートホール)

 

指揮:鈴木 優人

ソプラノ:澤江 衣里、松井 亜希

アルト:布施 奈緒子

テノール:西村 悟

バス:加耒 徹

 

三大宗教曲を聴くⅡ

J.S.バッハ/ミサ曲ロ短調BWV232

 

合唱と管弦楽:バッハ・コレギウム・ジャパン

 

 

 

まずはキリエ。冒頭のBCJの古楽のオケによる古(いにしえ)の響き!5部合唱による、寄せては返すような大きなうねりのキリエに魅了されます。何と荘重な音楽なのでしょう!一転、長調で可愛らしく歌われるソプラノの二重唱は、澤江衣里さんと松井亜希さんによる素敵な聴きもの。それに続く、4部合唱の厳粛なキリエも素晴らしい。

 

続いてグロリア。冒頭からトランペットの入った、何と祝祭的な音楽!5部合唱や4部合唱を聴きながら、何という充実した音楽なんだろうと、その素晴らしさに、ほとんどトリップしそうになるくらい、陶然となりました。

 

ほっこりした音色のフラウト・トラヴェルソと澤江衣里さんのソプラノ&西村悟さんのテノールの二重唱、独特な悲しい音色のオーボエ・ダモーレと布施奈緒子さんのアルト、難しい旋律を見事に吹いていたコルノ・ダ・カッチャと加耒徹さんのバス。BCJが誇る古楽器と素晴らしい歌手のみなさまとの掛け合いが本当に見事でした。

 

最後のクム・サンクト・スピリトゥは、BCJのキレキレのオケと合唱の音楽による、何と晴れ晴れしい音楽!ここのワクワク感は、ロッシーニ/荘厳ミサ曲と双璧ですね。

 

 

 

休憩の後、後半はニケーア信経(クレド)から。途中、キリストの生誕から復活までが歌われます。5部合唱により厳粛に歌われる受胎告知では、以下の歌詞が聴かれます。

 

「精霊によりて処女マリアより御からだを受け、人となりたまえり」

 

この歌を聴くと、6月に国立西洋美術館で観てきたロンドン・ナショナル・ギャラリー展の目玉の作品、カルロ・クリヴェッリの受胎告知の絵画を思い出します。

 

 

(写真)カルロ・クリヴェッリ/聖エミディウスを伴う受胎告知

※ロンドン・ナショナル・ギャラリー展で購入した絵葉書より

 

(参考)2020.6.26 ロンドン・ナショナル・ギャラリー展(国立西洋美術館)

https://ameblo.jp/franz2013/entry-12607521207.html

 

 

 

続けて、4部合唱により、ゴルゴタの丘での十字架のシーンが悲しげに歌われます。

 

「ポンテオ・ピラトのもとにて、われらのために十字架につけられ、苦しみをうけ、葬られたまえり」

 

この言葉を聞くと、つい先日観たばかり、ということで、ワーグナー/タンホイザー第2幕のエリーザベトの命請いの歌を思い出します。エリーザベトはタンホイザーのことを庇いますが、その歌の最後で、「救世主もまたそのために受難せられた信仰の勇気を!」と歌うのです。

 

(参考)2020.8.23 ワーグナー/タンホイザー(METライブビューイング)

https://ameblo.jp/franz2013/entry-12620728332.html

 

 

 

そして、その受難のシーンが最後にほのかに明るい長調で終わった後、勢い良くキリストの復活が歌われる喜びの歌!メリハリや抑揚を大きく付ける鈴木優人さんのあざやかな指揮に、ぐいぐい惹き込まれます。

 

 

サンクトゥス。ここは広がり感のある華やかな音楽が素敵。通奏低音がバッハ/G線上のアリアに似たオクターブの下降旋律を奏でて、合唱とクロスして聴かせるところが堪りません。

 

 

軽快なオザンナに続いて、しっとり歌われるベネディクトゥス。ここは先週水曜にカクテルB&Bを楽しんだことから、リキュールのベネディクティン。さらには、そのリキュールを生み出したベネディクト派の修道院。そしてその創設者であるベネディクトゥスを思わずにはいられません!食文化も含め、西洋の文化と宗教は本当にいろいろなところでつながります。

 

 

アグヌス・デイはアルトの布施奈緒子さんにより、しっとり悲しみをたたえながら歌われました。最後のドナ・ノビス・パーチェムは音がだんだん積み上がっていって、ラストは壮大な音楽で終わりました!

 

 

 

いや~凄い!何というハイ・クオリティな演奏!BCJの創立30周年に相応しい、最高のロ短調ミサ曲でした!前日のすみだトリフォニーホールも、サン=サーンスとオルガンを聴いて、あたかもホールが教会のように感じましたが、今日の東京オペラシティ・コンサートホールは、最初から最後まで、温かみのある木の雰囲気の教会の中でミサ曲を聴いているような感覚を持ちました。

 

 

 

8月に同じくBCJで聴いたマタイ受難曲にもだんだん慣れてきましたが、私はミサ曲の方がより聴きやすいのかも知れません。それはおそらく、ウィーンを訪れた際には必ずと言っていいほど、ウィーン王宮礼拝堂のミサ、ウィーン少年合唱団によるミサ曲を聴いているから。ミサ曲を聴くと、ミサの厳粛な雰囲気やキリスト教徒の敬虔な祈りが思い起こされ、気持ちが高まるのです。

 

(参考)2020.1.5 ハイドン/聖ニコライミサ(ウィーン少年合唱団@ウィーン王宮礼拝堂ミサ)

https://ameblo.jp/franz2013/entry-12581922506.html

※記事の後半に、ウィーン王宮礼拝堂ミサの特徴や魅力をまとめました。おそらく永久保存版(笑)。

 

 

 

会場はSD仕様の市松模様ではありましたが、大きなホールの客席をほぼ埋めていました。終演後は盛大な拍手!そして、鳴り止まない拍手に、オケと合唱が下がった後も鈴木優人さんが出てきて、バッハのスコアを高く掲げて敬意を表されていました。こういうのは本当にいいですね~。

 

そして、引っ込むタイミングで、歌手のみなさまが遅れて出てきて、鈴木優人さんが鉢合わせてびっくりする様子がめっちゃ受けました(笑)。才能に満ちあふれて、ハンサムなのに、さらに三枚目の要素もあって(笑)、鈴木優人さん、無敵ですね!