(冬の旅行記の続き) 30話の長きに渡って連載してきた冬の旅行記も、これが最後の記事です。旅の最後を飾るのはウィーン国立歌劇場のJ.シュトラウスⅡ世/こうもり。めちゃめちゃ楽しみな公演です!

 

 

WIENER STAATSOPER

Johann Strauss Ⅱ

Die Fledermaus

 

Dirigent: Nicholas Carter

Regie: Otto Schenk

Bühnenbild: Günther Schneider-Siemssen

Kostüme: Milena Canonero

Chorleitung: Martin Schebesta

 

Eisenstein: Adrian Eröd

Rosalinde: Laura Aikin

Frank: Jochen Schmeckenbecher

Prinz Orlofsky: Zoryana Kushpler

Alfred: Benjamin Bruns

Dr. Falke: Clemens Unterreiner

Dr. Blind: Peter Jelosits

Adele: Daniela Fally

Ida: Valeriia Savinskaia

Frosch: Peter Simonischek

Iwan: Gerlinde Dill

 

Unter Donner und Blitz: Ensemble und Corps de ballet

Choreographie: Gerlinde Dill

 

Orchester der Wiener Staatsoper

Chor der Wiener Staatsoper

Wiener Staatsballett

Komparserie der Wiener Staatsoper

 

 

 

(写真)本公演のプログラム。写真は第2幕の舞台ですが、ウィーン国立歌劇場ならではの壮麗な舞台です。

 

 

(写真)開演前のウィーン国立歌劇場

 

 

(写真)この公演ではないですが、ウィーンの地下鉄で見かけた、こうもりの公演のポスター。まあ大人の雰囲気の楽しいオペレッタです。

 

 

 

実は旅行の企画の初期では、このこうもりの公演は大晦日に聴きに行く予定でした。ウィーン国立歌劇場の大晦日のこうもりは特別な公演だからです。

 

しかし、バーデン市立劇場のスケジュールが開いて、大晦日にスッペ/ファティニッツァの公演があることが分かりました!昨年はスッペの生誕200周年、ということで昨年の内に観ておきたいスッペを選択した、という訳です。

 

(参考)2019.12.31 フランツ・フォン・スッペ/ファティニッツァ(バーデン市立劇場)

https://ameblo.jp/franz2013/entry-12575443544.html

 

 

一度はこうもりから離れて、他の演目も検討しましたが、この1月6日のこうもりのキャストをよくよく見てみたら、何と大晦日にもアデーレを歌う、大ファンのダニエラ・ファリーさんが歌うではないですか!

 

 

これは聴きに行くしかありません!

 

 

ウィーン国立歌劇場は一昨年のGWにジョルダーノ/アンドレア・シェニエを観て以来です。すると、手元で見える字幕システムが進化していて、アンドレア・シェニエの時は6ヶ国語でしたが、8ヶ国語になっていました。なお、前回もあった日本語は3番目に位置していました。お得意さまなのでしょう。

 

 

 

第1幕。序曲はウキウキの音楽、そしてオットー・シェンク演出のきらびやかな舞台に魅了されます。舞台はアイゼンシュタインとロザリンデ夫妻の部屋。冒頭からコロラトゥーラでアデーレ登場。やはりダニエラ・ファリーさんのアデーレは素晴らしい!歌といい身のこなし見た目といい、(ご本人のウェブサイトにも書いてありますが)アデーレそのものです。特に箒の使い方が絶妙(笑)。

 

弁護したアイゼンシュタインの刑期が逆に長くなってしまって、攻められた弁護士ブリントが、私は◯◯ができる!と反論する場面。ここはドイツ語の動詞の原型が20くらい出てきて、とても勉強になる(笑)シーンですが、日本語の字幕では最初の「抗告する」「控訴する」「抗議する」の3つしか表示されず、後が「エトセトラ」になっていて受ける!(笑)

 

アデーレは叔母さんを(仮病で)病気にしてまで、夜会に行くことに執念を燃やしますが、ロザリンデがアイゼンシュタインに「アデーレの叔母さんが『また』病気なんだって」と、さらりと当てこするのが楽しい!(笑)

 

ファルケ博士とアイゼンシュタインの会話で、夜会に可愛いネズミちゃん(新人の踊り子のこと)が沢山来るかも?と二人で大盛り上がり。その後のロザリンデとのやりとりでもネズミが連呼されました。男たちってまったく!という発言ですが、今年2020年の干支なので、何だかありがたい気分に?(笑)

 

夜会に行ってもいいことになったアデーレは「タウゼント・ダンケ!(千の感謝!)」とお礼しました。フィーレン・ダンクはたまに使いますが、そんな言い方があるんですね。イタリア語のグラーツィエ・ミッレのドイツ語版のよう。アイゼンシュタインとロザリンデとアデーレの3人がヤッホ、ヤッホと踊りながら歌う三重唱は大好きな場面。

 

アルフレードが出てきてのロザリンデに対するずうずうしいやりとり、そして刑務所長のフランクが登場して、アルフレードがアイゼンシュタインの身代わりに刑務所に入れられる流れも楽しい。

 

フランクから夫婦なので(注:夫婦のふりをしている)お別れのキスを、と言われてロザリンデはびっくり。そしてアルフレードの濃厚なキスにロザリンデが手足をプルプル痺れさせるのはお約束(笑)。みな適役で素晴らしい第1幕でした!

 

 

 

第2幕。オルロフスキー公爵の夜会の舞台が豪華!オルロフスキー公爵のクープレも魅せました。オルロフスキーはメゾ・ソプラノのゾルヤナ・クシュプラーさん、若い男の子のような雰囲気のオルロフスキー公爵でした。

 

オルガ(アデーレ)を紹介されたルナール侯爵(アイゼンシュタイン)は、迂闊にも、うちの女中に似ていると発言。女中ですって?とダニエラ・ファリーさんが、私がこんなことする訳ないでしょ?のハタキのゼスチャーが、逆に様になりすぎていて受ける!(笑) その後のアデーレの歌「侯爵さま、あなたのような方は」はさすがの一言でした。

 

ルナール侯爵(アイゼンシュタイン)とシュヴァリエ・シャグラン(フランク)が、フランス人同士ならフランス語で話していいですよ、と催促されるやりとりがめっちゃ可笑しい!(注:2人とも本当はオーストリア人なのでフランス語ができない)

 

(ルナール侯爵がおっかなびっくり) 「パ、パリ?」

(周りの人たち) 「おおー!」

(シュヴァリエ・シャグラン) 「リ、リヨン?」

(周りの人たち) 「おおー!」

(二人) 「ウィ~ウィ~ウィ~!」(安堵のウィ、笑)

 

難局を乗り越えたルナール侯爵はオルガのお尻をタッチ。オルガの「キャー!」という叫び声を聞いて、「やっぱりアデーレだ!」と正体を見破ります。まったくもう!なシーンですが、どうしてそれで分るのか?を考えると笑ってしまうシーン。

 

ハンガリーの伯爵夫人(ロザリンデ)がチャールダーシュを歌うと、オルロフスキー公爵に仕えるイヴァンがどハマりして、何とコサックダンスまで始めました!(笑) 以前にバイロイト音楽祭でワーグナー/ニュルンベルクのマイスタージンガーを観た時に、第1幕のヴァルターの歌にフォーゲルゲザングが、ど心酔する演技が付いていましたが、それを彷彿とさせます。

 

ルナール侯爵(アイゼンシュタイン)が、ファルケ博士のこうもりの笑い話を披露。盛り上げておいて、最後に「こうもり博士!」と言った時のアイゼンシュタインの、アッーハッハッハッ!の全身全霊での涙目の爆笑っぷりが凄い!(笑)

 

軽快なシャンパンの歌に続いては、J.シュトラウスⅡ/雷鳴と電光。今回の旅では、ワルツやポルカを沢山聴きましたが、雷鳴と電光はここで初めて聴けたので嬉しい。ハンガリーの侯爵夫人(ロザリンデ)がルナール侯爵(アイゼンシュタイン)の頭をリズミカルに叩いて、アイゼンシュタインが飛び跳ねる踊りが付いて、とても楽しい舞台です。

 

幕の最後のファルケ博士の歌は「兄弟となれ、姉妹となれ、親しい仲となろう」という内容。ここだけシリアスな雰囲気となって、ベートーベン/第九の歓喜の歌の理念にもつながるような崇高な内容ですが、別の意味にも取れそう(笑)なのが、またウィンナオペレッタのユーモアです。

 

その後のウィンナワルツはウィーン国立歌劇場のオケが何とゴージャスなことか!最後は笑うことを忘れてしまったはずのオルロフスキー公爵が大笑いして幕を閉じました。最高の第2幕!

 

 

久しぶりに観ましたが、やっぱりこうもりは楽しいですね~!ということで、第2幕後の幕間には私もシャンパン(ローラン・ペリエ)をいただきました。オペラやコンサートの時は舞台や音楽に集中したいので、幕間や休憩にお酒を飲むことはほぼありませんが、何せウキウキのこうもりで、この後の第3幕はフロッシュの楽しいシーンですからね。

 

 

 

第3幕。舞台はフランクが所長を務める刑務所。この幕はフランクに仕える牢番のフロッシュの独壇場。仕事の時間なのにスリボヴィッツ(東欧でよく飲まれる蒸留酒)を飲んでいますが、お替りのスリボヴィッツをフランツ・ヨーゼフⅠ世の肖像画の後ろから取り出すのはお約束のギャグ(笑)。

 

アイゼンシュタインの身代わりとなったアルフレードは、ローエングリンの登場の白鳥の歌、魔笛の絵姿の歌などを歌って、牢屋に入ったのに陽気そのもの(笑)。それに合わせてフロッシュが、パパゲーノの首を吊るふりのシーンの1、2、2.5…の演技(なかなか3にならない)を付けて受けていました(笑)。

 

アデーレとイーダが登場。アデーレがフランクに女優になるため支援を求め、フランクに演技を試される歌「田舎娘に扮するときは」は、ダニエラ・ファリーさんの真骨頂。超絶技巧の歌、さらには演技力を駆使して最高!

 

夜会で徹夜のフランクが煙草を吸いながら寝てしまうシーン。火の付いた煙草が読もうとしていた新聞を貫通して、そのまま寝てしまう演技もいいですね。フランクは寝ぼけて「キスして」と呟きますが、それにフロッシュが「所長、それは職権乱用です!」と反応して場内大爆笑!(笑)

 

なかなかスムーズに動かないフロッシュにイライラするフランク。フランクの「もっと速く動けないのか!」に、フロッシュの「所長!『速い』というものは、昨日スリボヴィッツとともに死にました!」に場内また大爆笑!(笑)

 

フランクが、歌を歌っている(アルフレードのこと)のはどこの歌手か?には、フロッシュがシュターツオーパー(ドミニク・マイヤー)、フォルクスオーパー(ロベルト・マイヤー)の2人のマイヤー姓の総裁を混同するギャグで返していました。

 

もはや伝統芸能のフランクの帽子が壁に掛からずに落ちるのを繰り返し、最後に壁に掛かった奇跡に十字を切るギャグ。壁に掛かるのは今日は4回目でした。以前に観た時は3回目だったので、意外性を出すために、回数を変えているようです。

 

フロッシュは自ら間違えて洋服ダンスに入ってしまって「ヒルフェ!(助けて~!)」と叫ぶ演技にも場内大爆笑。ここまで来ると、もはやフロッシュが何をやっても観客みんな笑うモード(笑)。もうとにかく楽しい舞台です。最後は全てがシャンパンのせいにされて、丸く収まって終わりました。

 

 

カーテンコールも大盛り上がりでした!沢山ブラーヴァがかかって、やはりダニエラ・ファリーさんはウィーンで人気ありますね~。出演者はみな歌も演技も達者。ウィーン国立歌劇場のオケは万全。オットー・シェンク演出の夢の舞台。今回の旅の最後の公演、非常にハイ・レベル、そしてめっちゃ楽しい舞台でした!しかも、J.シュトラウスⅡ世のお墓まいりをした後の観劇となり、とても感慨深い。こういうことができるウィーン最高!

 

 

なお、今回も最高のアデーレだったダニエラ・ファリーさんですが、この2月のNHKラジオのドイツ語講座の応用編では、ダニエラ・ファリーさんへのインタビューがテキストになっていました。私も木曜・金曜と毎回聞きましたが、ウィーンの女性らしい人懐こい雰囲気のドイツ語で、ますますファンになりました。2011年秋のバイエルン国立歌劇場との来日公演、R.シュトラウス/ナクソス島のアリアドネのツェルビネッタもコケットで最高でしたが、ウィーンの歌姫、また他の役でも観てみたいです。

 

 

(写真)その2月のNHKラジオのドイツ語講座のテキスト。ちなみに、この1月~3月は「ウィーンの音楽家たち」というテーマで、1月はライナー・キュッヒルさん、3月はパウル・バドゥラ=スコダさんのインタビューでした。ウィンナオペレッタを十分楽しむには、ドイツ語も鍛えなければなりませぬ。

 

 

ところで、今回のウィーン国立歌劇場の観劇は最終日ということで、気合いを入れて観やすい中央のボックス席最前列にしましたが、お隣のアメリカ人の若いカップルのやりとりがまた微笑ましくて。序曲では手を取り合っていいムードも、彼女さんは音楽や物語が入っていないのでしょう。しだいに飽きてしまって彼氏くんが必死になだめて(笑)。頑張れ~!と心の中でエール。

 

しかし第3幕では一転、彼女さんがフロッシュのギャグの連発に大受け!良かった良かった!終演後に、彼氏くんに「めげずに頑張れ~!」というニュアンスで目配せして、お別れしました。

 

 

 

さあ、今回の旅の最後の観劇は素晴らしいエンディングとなりました。さあ、打ち上げでディナーに繰り出しましょう!と言いたいところですが、遅い時間なので、軒並みキッチンクローズ…。しからば、ということでバーに飲みに行きました。

 

 

 

(写真)1杯目は私の心の友、ジントニック。今回の旅行も大変充実の旅となりました。美味しいジントニックでホッと一息。まるで大きな仕事を終えたような達成感です。

 

 

(写真)2杯目は、こうもりの後はこれを飲まなきゃ!ということで、フロッシュの心の友、スリボヴィッツ(笑)。いろいろ種類がありますが、典型的なプラムのスリボヴィッツです。

 

いや~、こうもりを観た後にスリボヴィッツをいただくのは雰囲気が出ていいですね~!もう一杯飲みたくなりましたが、フロッシュに「所長!フランツは昨日スリボヴィッツとともに死にました!」と報告されないよう、止めときました(笑)。

 

 

 

さて、冬の旅行の出来事の記事は今回で終わりです。全部で31本の記事、おかげさまで今回も非常に充実した旅となりました。もう1本、いつものように旅行のまとめと振り返りなどの記事をアップして、終わりにしようと思います。