大野和士さんと都響の定期演奏会、ベルクとブルックナーを2日連続で聴きに行きました。ヴェロニカ・エーベルレさんのヴァイオリンも楽しみです!

 

 

東京都交響楽団

第884回定期演奏会Aser.

(東京文化会館大ホール)

第885回定期演奏会Bser.

(サントリーホール)

 

指揮:大野和士

ヴァイオリン:ヴェロニカ・エーベルレ


【若杉弘没後10年記念】

ベルク/ヴァイオリン協奏曲《ある天使の思い出のために》

ブルックナー/交響曲第9番 ニ短調(ノヴァーク版)

 

 

 

前半はベルク/ヴァイオリン協奏曲。ヴァイオリン協奏曲の中で私が一番好きな曲です。

 

ヴェロニカ・エーベルレさんの豊かに鳴り響くヴァイオリンが素晴らしく、非常にロマンティックなベルク!第1楽章の不協和音を刻む場面や第2楽章冒頭の悲痛な叫びを始め、たっぷりな表現。大いに魅了されたヴァイオリンでした!

 

また都響の伴奏が上手いこと!クリアな音でピタピタッと決めるので、エーベルレさんのロマンティックなヴァイオリンに対して、少女を取り巻く過酷な状況をリアルに描いているかのように聴こえました。先週のリトゥン・オン・スキンといい、近現代の音楽を奏でる都響も本当に素晴らしい。

 

昨年1月に聴いたイザベル・ファウストさんのベルクが、運命に翻弄される少女を描いたベルクなら、ヴェロニカ・エーベルレさんのベルクは厳しい運命の中でも周りへの感謝や愛情を感じさせた温かみのあるベルク、という印象を持ちました。ヴァイオリン独奏やオケによって、曲の印象って本当に変わりますね。

 

(なお、上記は1日目の東京文化会館の演奏の印象ですが、2日目のサントリーホールでは、より儚さを感じた演奏でした。ホールや座席によっても違いますね~)

 

(参考)2018.1.7 ダニエル・ハーディング/イザベル・ファウスト/シュターツカペレ・ドレスデンのベルク&マーラー

https://ameblo.jp/franz2013/entry-12358384165.html

 

 

 

後半はブルックナー9番。5月に聴いたセバスティアン・ヴァイグレさんの読響常任指揮者の就任公演の演奏が印象に残っています。今回はどうでしょうか?

 

(参考)2019.5.14 セバスティアン・ヴァイグレ/読響のブルックナー9番

https://ameblo.jp/franz2013/entry-12461367225.html

 

 

第1楽章。冒頭の入りはディミヌエンドする箇所を一拍早く。そして、大きく溜めた後のたっぷりの金管!ブルックナーの世界にグイっと引き込まれます。都響の金管は元々安心して聴けますが、中間部など抜群の出来でした。

 

2回目の第2主題に入る前の弦楽の場面は引きずるようにゆっくり静まる演奏。続く第2主題はほとんど悶絶死するくらいに美しい!大野さんの意欲的な指揮、都響の見事な演奏に魅了されます。

 

そしてコーダの前のクラリネットを強奏!浮き立って聴こえた、このクラリネットの不条理な旋律を聴けば、第1楽章が何を表しているかがよく分かる大変印象的な強奏。最後のコーダもたっぷり、堂々たる演奏でした!

 

 

第2楽章。この楽章は重々しく演奏する場合もありますが、私は今回の大野さんの気持ち速めくらいのテンポがちょうど良いです。都響の金管群の充実の響きが素晴らしい!

 

ピィツィカートのリズム感もいい感じ。中間部途中のチェロの歌わせ方とか、木管の小気味良さとか、もうピタピタッとはまる理想的な演奏です。

 

 

第3楽章。冒頭の上ずり気味のヴァイオリン、深い和声の弦楽にゾクゾク来ます!金管のオーストリア・アルプスを思わせる雄大な旋律、続く弦の追い込みも見事!その前の木管の立ち上がりは弱く入ってクレシェンドを大きくして、急に視界が開けるような印象を持ちました。

 

ひとしきり盛り上がった後の静まっていく場面も落ち方に変化を付けて、あたかも死を目前にした老人が手を掲げてゆっくり降ろしていくかのようです。

 

途中の人生の森羅万象を見せるような音楽も、チェロをたっぷり利かせるなど、都響の深~い響きに魅了されます。ブルックナーがいかに素晴らしい音楽を書いたのか、ビンビン伝わってくる演奏!

 

ラス前の短調の盛り上がりもたっぷり!かつて同じくサントリーホールで聴いた、セルジュ・チェリビダッケ/ミュンヘン・フィルの演奏(第8番第4楽章)を思い出しました。最後、長調に転じての優しい弦はゆっくり進み、まるでこの世への別れを名残り惜しんでいるかのようでした。

 

 

きた~!大野和士さんと都響の渾身のブルックナー!堂々たる名演!もう圧倒的な素晴らしさ!

 

 

観客のみなさんからも大きな拍手。大いに手応えを感じていた雰囲気をひしひしと感じました。

 

 

聴きながら思いましたが、この演奏は文字通り、若杉弘さんの追悼のブルックナーですね?若杉さんのブルックナーを思わせる、格調高くしなやかな要素も持ったブルックナー。都響によるとても鳴りの良い見事な演奏からは、「若杉先生、都響はワールドクラスの素晴らしいオーケストラになりました。安心してお休みください。」という言葉が聞こえてきそうでした。

 

そして、プログラムには若杉さんを振り返るエッセイが載っていましたが、その最後には、以下の言葉がありました。

 

「『最後の10年』の実演しか知らない若い世代の音楽ファンは若杉の没後10年を機に、都響とのマーラーをはじめ、最も輝いていた時代の音源に改めて耳を傾けてほしい。」

 

私は幸運にも、クラシック音楽のコンサートに通い始めた時期に、若杉さんが音楽監督(首席指揮者兼任)だった時代の都響の定期会員(A・B両方)だったので、若杉さんが凝りに凝ったプログラム(笑)でバンバン振っていた多くの実演に接することができました。その時に「指揮者」の肩書きで都響を振っていたのが大野さんです。

 

大野さんが若杉さんの没後10年を記念するコンサート。非常に感慨深く、そして大いなる感動を胸に聴きました。両日の会場には、若い可愛らしいカップルとか、小さなお嬢ちゃんとか、聴きに来ていましたが、みなニコニコ顔だったのがとても印象的。音楽って本当に素晴らしい!

 

 


(写真)この夏のオーストリアの旅行で立ち寄った教会に掲げられていた、ブルックナーが教会のオルガンを弾いたことを記念するプレート。ブルックナーがオーストリアでいかに尊敬されているかを物語ります。

 

 

 

(追伸)なお、今回は同じ曲を2つの異なるホールで、2日連続で聴く大変貴重な機会でした。東京文化会館で聴いたブルックナーは、より大野さんの指揮によるニュアンス付けがよく分り、サントリーホールで聴いたブルックナーは、よりブレンドされた響きでブルックナー法悦を大いに感じました。

 

ウイスキーに例えると(笑)、東京文化会館がより個性を感じるシングルモルトで、サントリーホールはより円やかな口当たりのブレンデッドという印象。特にサントリーホールは、都響の精緻な演奏もあり、正にサントリー「響」を連想させるような音を感じました。よくできている!(笑)