今回の旅で一番楽しみにしていたオペラ、それはフランツ・シュレーカー/はるかなる響きでした。初演のフランクフルト歌劇場で観ることのできる喜び!大いに期待して行きました!

 

 

OPER FRANKFURT

FRANZ SHREKER

DIE FERNE KLANG

 

Musikalische Leitung: Sebastian Weigle

Regie: Damiano Michieletto

Bühnenbild: Paolo Fantin

Kostüme: Klaus Bruns

Licht: Alessandro Carletti

Video: rocafilmRoland Horvath, Carmen Zimmermann

Chor: Tilman Michael

Dramaturgie: Norbert Abels

 

Grete Graumann: Jennifer Holloway

Fritz: Ian Koziara

Wirt des Gasthauses "Zum Schwan": Anthony Robin Schneider

Ein Schmierenschauspieler: Iurii Samoilov

Der alte Graumann / 2. Chorist: Magnús Baldvinsson

Seine Frau: Barbara Zechmeister

Dr. Vigelius: Dietrich Volle

Ein altes Weib: Nadine Secunde

Mizi: Julia Dawson

Milli / Die Kellnerin: Bianca Andrew

Mary: Julia Moorman

Eine Spanierin: Kelsey Lauritano

Der Graf: Gordon Bintner

Der Baron: Iain MacNeil

Der Chevalier / 1. Chorist: Theo Lebow

Rudolf: Sebastian Geyer

Ein zweifelhaftes Individuum: Hans-Jürgen Lazar

Ein Polizeimann / Ein Diener: Anatolii Suprun

Die alte Grete: Steffie Sehling

Die alte Fritz: Martin Georgi

 

Chor der Oper Frankfurt

Frankfurter Opern- und Museumsorchester

Statisterie der Oper Frankfurt

 

 

 

フランツ・シュレーカー(1878-1934)。マーラーの後、新ウィーン楽派辺りの時代の作曲家。「響きの魔術師」とも言われ、陶酔的な音楽を沢山書いた作曲家です。昨年10月には大野和士/都響でシュレーカー/室内交響曲を聴きました。

 

(参考)2018.10.24 大野和士/都響のシュレーカー&ツェムリンスキー

https://ameblo.jp/franz2013/entry-12414237231.html

 

オペラの代表作は「烙印を押された人々」と「はるかなる響き」と「宝堀り」。そのうち「烙印を押された人々」は2013年にケルンで観ることができました。「はるかなる響き」も2000年に大野和士さんのオペラ・コンチェルタンテ(演奏会形式)で聴いたことこそありますが、ずっとオペラ公演を観てみたいと悲願だった作品。遂に観ることができます!しかも1912年に初演されたフランクフルト歌劇場!

 

 

あらすじをごく簡単に。若い芸術家フリッツは有名になって戻ってくると恋人グレーテに告げ、「はるかなる響き」を求めて故郷を去ります。飲んだくれの父親に仲間との賭けの対象にされてしまったり、グレーテは将来を悲観して自殺を図りますが、不思議なおばあさんに助けられ、グレーテも故郷を後にします。

 

10年後、美しく成長して、ヴェネツィアの「仮面の館」のトップとなったグレーテ。その館に「はるかなる響き」を耳にした、としてフリッツが立ち寄り、両者は再会、お互いに惹かれます。しかし、もはやグレーテは昔の面影を残さない娼婦と悟り、フリッツはグレーテを侮辱して去って行きます。自暴自棄になるグレーテ。

 

再び時は経ち、フリッツは「竪琴」という作品を作り、その初演の日。途中までは成功だったものの、最終幕が失敗に終わり、さらにフリッツは不治の病に冒されていることが分かります。グレーテのことを後悔しながら死にゆくフリッツのもとに、最後グレーテが現れます。求めていた「はるかなる響き」が聴こえ、フリッツはグレーテに看取られながら死んでいきます。音楽と同様、とても象徴的な物語。

 

 

フランクフルト歌劇場はモダンな外観の新しい劇場。内部も青が目立つ空間に茶色の木の椅子、赤い幕、非常にモダンな雰囲気です。イメージとしては新国立劇場の中劇場を4階まで縦に伸ばした感じ。その空間でオペラを観るので、舞台に近くオケもよく響くので、非常に贅沢な空間です。

 

 

 

(写真)フランクフルト歌劇場

 

 

(写真)歌劇場の横にある噴水

 

 

 

(写真)金融のまちフランクフルト、ということで、歌劇場の目の前には欧州中央銀行があります。写真はユーロのモニュメント。

 

(写真)公演のプログラム。この紫とピンクの波は陶酔の音楽の場面で効果的に出てきました。

 

 

 

第1幕は陶酔的な序曲から。ハープが印象的な場面で弦の軋んだような音が聴かれました。フランクフルト歌劇場の音楽総監督であるセバスティアン・ヴァイグレさんは繊細なニュアンスを随所に付けていて、このオペラの曲想をよく伝える指揮。最初から最後まで、本当に素晴らしかったです。

 

フリッツがはるかなる響きのことを歌うシーンでは、ハープが舞台の上から降りてきて、スクリーンにはグレーテの歌詞の通りに紫とピンクの波。これだけでこの作品に大きく引き込まれるシーン!フリッツはグレーテに指輪を渡し、それを右手に付けて喜ぶグレーテ。その後の2重唱では、音楽の盛り上がりとともにスクリーンの紫とピンクの波が大きくなって感動的!陶酔の極致!

 

しかし、フリッツはグレーテを置いて、はるかなる響きを求めて旅立ってしまいました。その後の酒場の場面は、多くの男性陣から乱暴にもののように扱われるグレーテ。それを止めることができない母親が悲しい…。

 

間奏曲のシーンはフリッツがピアノで作曲する映像、最後にそのピアノの鍵盤に触れるフリッツの手に女性の手が重なっていたのが象徴的。これはグレーテの手なのでしょうか?それとも?この公演では、映像を効果的に使って、イメージを存分に膨らませていました。

 

第2場。グレーテの池のシーンはスクリーンに白い波で池を表しますが、第1場と同様、波が象徴的に現れます。フリッツが旅立ってしまい、家はめちゃくちゃ。悲観して池に飛び込もうとするグレーテを止めたのは、何と!ト書き通りの不思議なおばあさんではなく、第2場のためにスクリーンを引いて登場していた老フリッツ!感動の瞬間!

 

そして温かい音楽とともに、背景には高齢者や障がい者たちが老人ホームで憩うシーンが出現!昨年のGWにミュンヘンで観たアッリーゴ・ボーイト/メフィストーフェレの第4幕・エピローグの演出を思い出す極めて感動の瞬間!

 

(参考)2018.5.3 アッリーゴ・ボーイト/メフィストーフェレ(バイエルン国立歌劇場)

https://ameblo.jp/franz2013/entry-12388774855.html

 

グレーテは最後も不思議なおばあさんではなく、大人の女性に誘われて、第2幕の夜会の衣装に変わりました。感動の展開の連続の第1幕!

 

 

 

第2幕。冒頭の陶酔的なの音楽は個人的にこのオペラで最も好きな音楽です。効果的に入る女性のヴォカリーズが素晴らしい!客席の後ろからもパーカッションが聴こえました。

 

舞台にはベッドでうなされる老フリッツ。そしてスクリーンには作品の竪琴のスコアとハープを奏でる女性が登場!老フリッツは女性を求めますが、最後は女性が5人くらいに分かれました。はるかなる響きを求めて行き先の見えないフリッツを象徴しているかのよう。

 

続くヴェニスの夜会の場面。椅子が逆さまに吊り下げられて登場し、とても象徴的な舞台。そんな音楽を聴きたくないと老フリッツは拒否しますが、めくるめく官能的な音楽に魅了されるシーンです。

 

そしてグレーテ登場の瞬間で音楽は最高潮に!グレーテの歌では老フリッツが「竪琴」のスコアにペンを入れて作品の完成を模索する、印象的な演技が付きました。

 

グレーテを得るために、歌を競うこととなりました。1人目の伯爵の歌では老フリッツが破った「竪琴」のスコアをグレーテが拾いまとめて、もう一人の現フリッツに引き継ぐ演技。

 

1人目の背が高く立派な身なりの伯爵に対して、2人目の騎士は背が小さくて頭の薄い男性が登場(しかもわざわざマイクの高さを低くする演出まで)。しかし、騎士はソレントの歌を楽しく陽気に歌って人気を博します。騎士は女性にも積極的にアプローチして大いに受けていました。ここには何かしらの真実があるように感じます。

 

聴衆は騎士が勝者だとして、それまで讃えていたグレーテに、なぜ騎士を選ばない?とグレーテを乱暴に扱う演技。結局のところ、階級や場所は違えども、男性の素性は第1幕の飲んだくれの男性陣たちと変わらないことを示します。それにもめげずに、どちらにもなびかないグレーテ。

 

ここでフリッツ登場。フリッツの歌では、最高潮の場面でグレーテが老フリッツに花束を渡し、フリッツが老グレーテから花を渡される演技が付きました!大いなる感動ですが、当の現在のフリッツとグレーテはこの幕ではすれ違います。昔のグレーテではないと歌うグレーテ。グレーテを侮辱して、男爵から求められた決闘も価値がないと断るフリッツ。

 

最後、通常だとグレーテが男爵とチャールダーシュを踊るシーンになりますが、何と!男爵からも見捨てられ、一人自暴自棄になって衣装を脱ぎながら一人踊るグレーテ。ラストは老グレーテにすがりついて終わりました!とても印象的なラスト!

 

 

 

第3幕。最初のヴェゲリウスと売れない役者の会話の場面。背景では、第1幕が再現されていました!このことにより、フリッツの作品「竪琴」は、フリッツの回想のオペラ、つまりはこの「はるかなる響き」のオペラ、ということが示されます。

 

グレーテに浮浪者が付きまとう場面はその2人にさらに男性3人が加わりました。非常に複雑で聴き応えのあるシーン。グレーテが木の音を歌うシーンの音楽の素晴らしさ!

 

そしてこのオペラのハイライトとも言える間奏曲。背景は第1幕にも出てきた老人ホームで、次々と高齢者の方々のカップルができ、踊りを踊る極めて感動的なシーン!最後は第2幕でコミカルな歌を歌った騎士にもパートナーができていました!何だか嬉しいシーン。

 

しかし老フリッツにはパートナーがいません…。そうしていたら、老フリッツがハープではなく人間の女性の体を思わせるチェロに魅せられる映像。そしてチェロの他にヴァイオリンなど沢山の弦楽器が出てきて魅了される老フリッツ。

 

さらにその中からグレーテが出てきて(第1幕のグレーテのヴァイオリンの色に似ている赤茶のオレンジ色の衣装は、このシーンをイメージしていたんですね!よくできている演出!)、老フリッツと抱き合って踊る感動的なシーン!周りの沢山の弦楽器も揺れて踊りを踊っているかのよう。聴きどころの間奏曲に素晴らしい映像が付いて、非常に印象的・感動的なシーン!大いに魅了されました!

 

ヴェゲリウスとのやりとりを経て、いよいよ病床のフリッツのところにグレーテが訪れるシーン。何と!グレーテは最後にして、歌手のグレーテとしては初めて老いた姿で出てきました!老いた二人の抱擁のシーンに涙。

 

そして、はるかなる響きを歌う場面で、何と!ハープや弦楽器だけでなく、オーケストラで使われる全ての楽器が上から登場してきました!心の底から震えるような感動のシーン!!!

 

つまり、はるかなる響きとは、最初からフリッツのそばにいたグレーテだった、ということに加えて、普段身近なところで耳にするあらゆる楽器に宿ることを示しているんですね!例えば、地元のオーケストラのコンサート、無料で楽しめるアマチュアの方のリサイタル、自分で弾くピアノやヴァイオリン、リコーダーなどなど。正に「幸せは身近なところにある」。大いなる感動!観客に直球勝負で問いかけをしてくるダミアーノ・ミキエレットさんの最高の演出!

 

遠回りしたものの、遂に最後に幸せになれた二人。そしてフリッツが息絶え、悲劇的な音楽になりますが、それに合わせて周りの幕が落ちて、その最後の場面が舞台の中の出来事であったことが分りました!

 

つまりはオペラの中に出てくる初演が失敗に終わった「竪琴」が書き直され、感動の作品に生まれ変わった上で、この舞台自体がその書き直された「竪琴」の上演であったことを示したんです!オペラで劇中劇の演出はよくありますが、あざやか過ぎる演出!

 

 

 

最高に感動的だった公演!!!会場は大いに湧いて、特に主役のグレーテ役のジェニファー・ホロウェイさん、フリッツ役のイアン・コジアーラさんの2人に大きな拍手、セバスティアン・ヴァイグレさんとオケにも万雷の拍手が降り注ぎました!この大きな喝采を浴びる素晴らしい指揮者が読売日本交響楽団の新しい常任指揮者としてやってくる!東京の一人のクラシック音楽のファンとして、本当に誇らしい気持ちになりました。最高の公演でした!

 

 

(参考)本公演の紹介動画。3:47~セバスティアン・ヴァイグレさんの解説があります。この公演を象徴するシーン、私が感涙したラストの全ての楽器が出てくる感動のシーンは4:09~。

https://www.youtube.com/watch?v=hgUdz54yCKw (7分)

※フランクフルト歌劇場の公式動画より

 

 

 

いや~、悲願のフランツ・シュレーカー/はるかなる響きのオペラ公演を、素晴らしい音楽、感激の演出で観ることができ、感無量でした!「幸せは身近なところにある」「老いは決して良くないことではなく安らぎである」。分かりやすいメッセージがグイグイと心に迫った公演でした。

 

 

私はおかげさまで、今回の公演のように世界的にも傑出したオペラやコンサートを何度も何度も体験しています。今回のGWの旅行だけでも、クリスティアン・ティーレマン/ウィーン・フィルのブルックナー2番、ミュージカル/I AM FORM AUSTRIA、ロイヤル・オペラのブリテン/ビリー・バッドなどなど。一生の思い出に残る公演にこれまで多く巡り会ってきました。

 

ただし、だからと言って、普段よく聴きに行く東京のオーケストラのコンサートや新国立劇場などのオペラに対して、したり顔でケチ付けたり、ダメ出しするようなことは決してしません。そもそも東京のコンサートやオペラが世界的に見て相当にレベルの高いことももちろんありますが、それぞれのオケ、歌劇場、それらの公演にはそれぞれの独自の良さがある。アーティストの方々の日々の頭の下がる努力の成果を、それらの良さを好意的に汲み取って、身近に楽しめるもの、いま目の前にあるものを存分に楽しもう。そんなスタンスや心構えからです。

 

なので、アメブロを含めて残念ながらクラシック音楽のブログで散見される、文句ばっかり不満を垂れ流している人たちとは違って、人生や日常生活の幸せ度や充実感が極めて高いです。「幸せは身近なところにある」。普段から強く意識している「考え方」や「生き方の方向性」を、ものの見事に視覚化してくれた演出で大好きなオペラを観ることができ、大いなる感動に包まれた最高の公演でした!!!

 

 

 

 

(写真)終演後はザクセンハウゼンに行って、フランクフルト名物のリンゴ酒を飲みに行こうかと思っていましたが、「竪琴」が主題のオペラ、ハープを上手く使っていた演出、ということで、急きょ予定を変更。前日まで滞在していたアイルランドの流れもあり、アイリッシュ・パブでハープがロゴのギネスを飲むことにしました(ギネスが黒くて見えませんが(笑)、ギネスの文字の上にハープのロゴがあります)。今回の旅の後半のテーマは図らずも「ハープ」となりました。素晴らしい音楽、素晴らしいアーティストのみなさまに乾杯!