この3月はシルヴァン・カンブルランさんの常任指揮者として最後の客演による、読売日本交響楽団の素晴らしいコンサートが続いていますが、今日はアンサンブル・シリーズの特別演奏会、オール現代音楽のコンサートです!

 

 

読響アンサンブル・シリーズ 特別演奏会

カンブルラン指揮「果てなき音楽の旅」

(紀尾井ホール)

 

指揮:シルヴァン・カンブルラン

ピアノ:ピエール=ロラン・エマール

 

ヴァレーズ/オクタンドル

メシアン/7つの俳諧

シェルシ/4つの小品

グリゼー/<音響空間>から”パルシエル”

 

 

 

私は必ずしも現代音楽のコンサートに熱心に行っている訳ではありませんが(忙しくて時間の限られる中、調性音楽の方が優先順位が高いため)、今回はシルヴァン・カンブルランさんによる特別な演奏会。行くならこれでしょ!ということで迷わず紀尾井ホールのチケットを取りました。

 

 

まずはヴァレーズ/オクタンドル。第1楽章は木管と金管が素っ頓狂な音を奏でて、どことなく春の祭典のよう。第2楽章は同じような音型を何度も反復することから「凍った音楽」とも呼ばれるようですが、同じ場所でのたうち回っているような印象を持ちます。

 

第3楽章はファ→上のミ~の連呼が聴こえて、ワーグナー/トリスタンとイゾルデの第3幕で牧人がイゾルデの船を見つけた時の音楽のよう。不協和音の中から、何か喜びの感情が聴こえてきました!

 

この曲は初演(1924年)時には「下品な騒音の爆発」と評されたそうですが、現代音楽が多く聴かれるようになった現代では、ほとんど古典のようにすら聴こえました。

 

 

続いてメシアン/7つの俳諧。メシアンが1962年の新婚旅行での日本来日をきっかけに書いた曲です。この曲はピエール=ロラン・エマールさんがピアノを務める贅沢な布陣。エマールさんのメシアンと言えば、何と言っても、一昨年に聴いた2時間の大曲「幼子イエスにそそぐ20のまなざし」が素晴らしかった思い出があります。

 

(参考)2017.12.6 ピエール=ロラン・エマールさんのメシアン/幼子イエスにそそぐ20のまなざし

https://ameblo.jp/franz2013/entry-12334342317.html

 

第1曲「導入部」。インドのリズムで、メシアン/トゥーランガリラ交響曲の第8楽章の冒頭から、おどろおどろしさを抜いたような音楽です。第2曲「奈良公演と石灯籠」。シロフォンとマリンバが奈良の鹿を表わしているかのよう。第3曲「山中湖~カデンツァ」。小鳥が賑やかに歌って、アッシジの聖フランチェスコの第6景「鳥たちへの説教」の音楽を思い出します。

 

(参考)2017.11.19 シルヴァン・カンブルラン/読響のメシアン/アッシジの聖フランチェスコ

https://ameblo.jp/franz2013/entry-12329807449.html

 

第4曲「雅楽」。笙の音は弦に持たせてなかなかの雰囲気。篳篥(ひちりき)はオーソドックスにはオーボエだと思いますが、トランペットに持たせていたのが斬新。メシアンが来日時に皇居で雅楽を聴いたことから書いた音楽ですが、私も過去に、皇居で天皇皇后両陛下ご隣席のもとで雅楽を聴いたことがあります。その大いなる感動を思い出しました。

 

第5曲「宮島と海中の鳥居」。メシアンはこの曲に青い海と赤い鳥居、そして「灰色、金色、オレンジ色、薄紫色、銀色」を加えた、と述べているそうですが、う~ん、頑張ってそのうち5色くらいを何とか思い浮かべました(笑)。

 

第6曲「軽井沢の鳥たち」。鳥たちの賑やかな歌ですが、多くの鳥たちの鳴き声の洪水の中でも、よく聴こえたのはウグイス。ウグイスの「ホーホケキョ!」の破壊力!(笑) 第7曲「コーダ」。最後は第1曲に対比するかのように、穏やかに終わりました。

 

カンブルランさんとエマールさんと読響による素晴らしいメシアン!やはりカンブルランさんのメシアンは特別でした!

 

 

 

後半はシェルシ/4つの小品。この曲はもの凄い曲で、4曲のそれぞれが一つの音のみで演奏されます!つまり、第1曲はファだけ、第2曲はシだけ、第3曲はラだけ、第4曲はシ♭だけ、でできた音楽なんです。(プログラムには第3曲ラ♭、第4曲ラとありましたが、演奏を聴いた限りでは違ったような?)

 

第1曲は確かにファの音が基本。ただ、4度くらい揺れる場面もあり、強弱やヴィブラートがかかるので、変化があります。何かが始動するような印象の音楽。第2曲は太鼓が入ってアフリカの鼓動のような音楽。第3曲は何か蜃気楼を思わせるような、悲劇の前兆のような音楽。そして第4曲は終息の音楽。限られた音ですが、最後はあたかも解決したかのような印象を持ちました。

 

シェルシ/4つの小品、非常にユニークな曲でした!この曲を聴いて、私は神尾真由子さんのヴァイオリンを連想しました。神尾真由子さんのヴァイオリンと言えば、豊かなヴィブラートで情感が大いに込められた表現力、大好きなヴァイオリンですが、シェルシの曲が音程を動かさず単音でもヴィブラートにより聴かせてしまうのであれば、音程にヴィブラートが加われば、さらに大きな表現が可能となる訳です。なるほど!と思いました。

 

 

最後はグリゼー/<音響空間>から”パルシエル”。これも倍音を意図的に演奏する面白い音楽!特に倍音の音楽の後、単音がいろいろな楽器で弱→強→弱で次々と明滅する場面は非常に聴き応えがありました。

 

だんだん音がバラバラになり、ホワイトノイズになり、消えていく場面は何かが朽ちていくシーンのよう。そしてラストはシンバルにスポットライトが当たり、シンバルを叩くポーズをしてライトが消え終わりました。ユニークなラスト!

 

 

カンブルランさんとエマールさんと読響のコンサート、オール現代曲を見事に聴かせる素晴らしいコンサートでした!難しい現代曲でしたが読響のアンサンブルのみなさまによる抜群の演奏。聴衆も湧きに湧いて、いわゆる一般参賀になりました。カンブルランさんは祈るようなポーズで丁寧に応えられていましたね。特別な演奏会に参加できた喜びを感じました!

 

 

ところで、今日の曲目ですが、オクタンドル(8)→7つの俳諧(7)→4つの小品(4)→パルシエル(第3曲で3または倍音で2)と進んで、最後、音が消え入って(0)からシンバルが叩くポーズをして終わりました。

 

これはカンブルランさん自らの常任指揮者としての任期のカウントダウンとエンディング、そして次のシーズンへの期待をプログラム構成に込めたのではないでしょうか?そうだとすれば、何とも粋なプログラム!こういうのは本当に好き!

 

 

 

 (写真)オール現代曲の難しいプログラムのコンサートでも紀尾井ホールは満席でした。写真はこの日に配られていた読響のチラシの一部。以前に読響の来シーズンのプログラムが攻めていて凄い!という記事を書きましたが、読響の意欲的な取組に反応されて、年間会員になられている方々が多くいるようですね。本当に頼もしい限りです。私も定期会員になったので、しっかり聴きに行ければと思います!

 

(参考)2018.10.16 ジョヴァンニ・アントニーニ/ヴィクトリア・ムローヴァ/読響のハイドン&ベートーベン(後ろの方に読響の来シーズンに関する記載)

https://ameblo.jp/franz2013/entry-12412413770.html