話題のテオドール・クルレンツィス/ムジカエテルナの初来日公演を聴きに行きました。パトリツィア・コパチンスカヤさんのヴァイオリンもめっちゃ楽しみです!

 

 

ムジカエテルナ

(すみだトリフォニーホール)

 

指揮:テオドール・クルレンツィス

ヴァイオリン:パトリツィア・コパチンスカヤ

 

チャイコフスキー/ヴァイオリン協奏曲ニ長調

 

(アンコール)

ミヨー/ヴァイオリン、クラリネット、ピアノのための組曲作品157b第2曲
リゲティ/バラードとダンス(2つのヴァイオリン編)よりアンダンテ
ホルヘ・サンチェス・チョン/「クリン」1996コパチンスカヤに捧げる

 

チャイコフスキー/交響曲第4番ヘ短調

 

(アンコール)

チャイコフスキー/幻想序曲「ロメオとジュリエット」

 

 

 

テオドール・クルレンツィス/ムジカ・エテルナは初来日ですが、私はこのコンビを既に一度聴いています。2017年のザルツブルク音楽祭、モーツァルト/皇帝ティートの慈悲の公演の指揮者&オケでした。スリリングな演奏でしたが、そこまで強烈な印象はなく。

 

というのも、この公演では、ティートの快方を祈る音楽として、オペラの間に何とモーツァルト/ミサ曲ハ短調のキリエを入れてしまったり、フェルゼンライトシューレの横に広い舞台を利用したピーター・セラーズさんの演出が卓抜だったり、他の観どころ聴きどころが盛り沢山だったからです。今日はテオドール・クルレンツィス/ムジカ・エテルナそのものを集中して聴くいい機会です。

 

(参考)2017.8.17 モーツァルト/皇帝ティートの慈悲(ザルツブルク音楽祭)

https://ameblo.jp/franz2013/entry-12317282550.html

 

 

 

前半はチャイコフスキー/ヴァイオリン協奏曲。パトリツィア・コパチンスカヤさんは1月の都響とのシェーンベルク/ヴァイオリン協奏曲での素晴らしいヴァイオリンが記憶に新しいところ。今日はどうでしょうか?

 

(参考)2019.1.10 大野和士/パトリツィア・コパチンスカヤ/都響のシェーンベルク&ブルックナー

https://ameblo.jp/franz2013/entry-12432104173.html

 

 

第1楽章。コパチンスカヤさんのヴァイオリンの入りはごく弱音。まるで部屋の隅で寂しさに震える、孤独な少女のようなヴァイオリンです。美しい旋律も切れ切れに奏でられ、あたかも明るいニ長調を拒否するかのよう。第2主題の前に速くなる場面は、まるで何かに急き立てられているかのようなヴァイオリン。コパチンスカヤさんのニュアンス満載のヴァイオリンに、のっけから思いっきり魅了されます!

 

オケは勇壮な旋律の場面で直線的で剛胆な演奏。その後にその旋律を受け継ぐヴァイオリン・ソロのピィツィカートを伴った演奏は弱々しく、やはり肯定感が感じられません。オケと対照的なヴァイオリンです。カデンツァも目一杯に弱音を利かせて、弾く(はじく)ような捻るような、いろいろな音も出して、葛藤、悲嘆、嘲笑など、あらゆる表現を感じさせるもの凄い表現力!

 

カデンツァの最後のトリルをギリギリの最弱音にした時は、もはや天才だけが許される表現に背筋がゾーっとしました!そして、その最弱音のヴァイオリンのトリルを優しく受け入れるフルートの人間的な温かみ!今日はここで涙…。最後はスピードアップしてだんだん熱がこもるものの、まだ解放されない印象で終わりました。凄まじいヴァイオリン!第1楽章の時点でブラーヴァ!

 

 

第2楽章。ここも弱音を主体にして、悲しみや諦めの境地を伝える見事なヴァイオリン。第1主題の再現部では、音が聴こえるか聴こえないかくらいの最弱音となり、さらにほとんど止まりそうにすらなりました!命がこと切れる瞬間を目撃してしまうのか?とドキドキしたスリリングな瞬間!

 

 

そして第3楽章。オケの盛大な一発の後、コパチンスカヤさんのヴァイオリンは、逡巡するような、もったいぶった表現から、一転して爆発的に加速!しかし、他の演奏で聴かれるような、喜びの音楽には聴こえません。まるで苦しみから逃れるために、逃走しはじめたかのような音楽!

 

途中、追っ手から腕を振り払うシーンだったり(コパチンスカヤさんの身振りもそんな様子)、追っ手に捕まりそうになる場面で、神妙に捕まるフェイクを入れて、次の瞬間にまたダッと逃げ出しすシーンだったり、その喜びの疾走とは思えないヴァイオリンからいろいろな情景が目に浮かびました。

 

最後の方ではだんだんと喜びの表情も感じ取れ、ラストは遂に解放されたように聴こえました。とにかくもの凄いものを聴いた演奏!終わった瞬間に会場から爆発的にブラボーがかかったのがとても印象的でした!息を潜めて聴いて聴いて、最後、うわ~、すげ~!という感じの爆発!観客のみなさま、よく分っていますね!

 

 

 

アンコールは1曲目は何とクルレンツィスさんによるクラリネットとの共演で、民族的な音楽でノリノリの演奏。2曲目はコンマスとの共演、リゲティをしっとりと奏でていました。

 

そして3曲目はベネズエラの作曲家の曲で、コパチンスカヤさんの言葉も入ります。弦と言葉のコラボがとても楽しい曲!コパチンスカヤさんはボウイングでいろいろな表現を魅せ、まるでヴァイオリンの表現の見本市のよう。カデンツァなどでの突出した表現力は、きっとこういう曲を弾いていることもプラスになるのでしょう。

 

 

1月の都響とのシェーンベルクでも大いに魅了されましたが、チャイコフスキーを聴いて、圧倒的な感銘を受けました!この方、天才です!かつてジュリアン・ラクリンさん(チャイコフスキー)、ペッカ・クーシストさん(シベリウス)を初めて聴いた時の衝撃再び。コパチンスカヤさん、ぜひまた近い将来に聴いてみたいです!(またフラグっぽい発言が!笑)

 

 

 

後半はチャイコフスキー/交響曲第4番。これはテオドール・クルレンツィス/ムジカ・エテルナによる、構築感のある堂々とした響き、曲の素晴らしさを伝える充実の演奏でした!

 

ただし、何か特別なことをしていた演奏には思いませんでした。気になったのは、第1楽章の木管がタララランと下降和音を奏でていくところでクラリネットがごく弱音になったところ、第2楽章の途中高まる場面でファゴットの入りをごくごく抑えめにして、その後に弦がウワッと強く広がり高まったところ。

 

そして、第3楽章の後で第4楽章にアタッカしなかったこと、第4楽章のラストのティンパニを強調していたところ、くらい。ザルツブルク音楽祭で聴いた皇帝ティートの慈悲の方が、よほど強烈な強調を入れていた印象です。

 

これはどういうことなのかな?と思いましたが、ヴァイオリン協奏曲で苦しみや葛藤、逃走を描いた上で、交響曲第4番では肯定的な感情のもと晴れやかに、チャイコフスキーの音楽をてらいなく堂々と描いていたもの、と感じました。その流れで聴くと、第4楽章には人間賛歌を強く思います。プログラムの妙を大いに感じました。

 

 

アンコールはロミジュリやらないかな?と念じたところ、何と的中!N響の12月定期(スクリャービン)といい、最近、アンコールの的中率が高いかも?(笑) そのロメオとジュリエットは、短調の場面の木管の三連符の刻みでブワンと大きくクレシェンドしたり、弦を印象的に強調したり、交響曲よりも動きのある演奏に魅了されます。

 

そして、長調になって愛の主題。ごく弱音から入りますが、これは前半のヴァイオリン協奏曲のおびえる弱音ではありません。恋のためらいや期待感を伝える喜びの弱音!そして、その後は天翔る愛の主題をたっぷり高めて感動的!素晴らしいアンコールでした!

 

 

 

「奇才」という触れ込みもあったテオドール・クルレンツィスさんですが、私は今回のコンサートからは、普通に表現力の豊かな素晴らしい指揮者、という印象を持ちました。ムジカ・エテルナも普通に実力派の素晴らしいオケ。度を超した宣伝やそれに乗っかってるだけの人たちはほっといて、自分の耳で聴いて確かめるのが肝要だな、と改めて思ったしだいです。

 

 

ところで、私の席の近くに大学生と思われる可愛らしいカップルが聴きに来ていたのを見かけ、とても微笑ましく思いました。仲良くカップルで聴いたアンコールのロミジュリの愛の主題は、大いに実感を持って聴くことができ、二人の一生の思い出になるでしょう。

 

彼氏くん、大学生でデートで海外オケとはやりますね!彼女さんをいつまでも大切に!

 

 

 

 

 

 

(写真)魅了されまくった天才パトリツィア・コパチンスカヤさんはモルドヴァのご出身。ということでモルドヴァの首都キシニョウの風景をいくつか。上から、大聖堂、プーシキンの家博物館、青空市場、モルドヴァのお酒たち。

 

コパチンスカヤさんのヴァイオリンに魅せられる理由の一つとして、ご両親がモルドヴァの民族音楽のアーティストで、幼い頃から周りに民族音楽が溢れていたことが非常に大きいと思います。

 

旅行先としてあまり一般的とは言えないモルドヴァに、ルーマニアから陸路で行った時は、自分でもよくぞ行った!と感心しましたが、あれから時が経ち、こうして素晴らしいアーティストをより身近に感じられるのは、なかなかいいものです。