広上淳一さんがN響に客演して、オール・アメリカ・プロを振るので聴きに行きました。バッハ・コレギウム・ジャパンの雄、鈴木優人さんのオルガンも非常に楽しみです!

 

 

NHK交響楽団第1899回定期演奏会Apro.

(NHKホール)

 

指揮:広上淳一

オルガン:鈴木優人

 

バーバー/シェリーによる一場面のための音楽

コープランド/オルガンと管弦楽のための交響曲

アイヴズ/交響曲第2番

 

 

 

このコンサートはバーバー、コープランド、アイヴズと全てアメリカの作曲家の曲です。

 

広上さんのレナード・バーンスタインへのオマージュ・コンサートきた~!

 

と、N響の新しいシーズンのラインナップが出た時に狂喜乱舞しました。なぜなら、全てアメリカの作曲家かつアイヴズの2番はレニーが初演を行って、特別な愛情を持っていた曲だからです。レニーを敬愛する広上さんがバーンスタイン生誕100周年に取り上げるに、相応しい曲でしょう。

 

 

 

1曲目はバーバー。ロマン派の詩人シェリーの「鎖を説かれたプロメテウス」の、プロメテウスの恋人・美の象徴エイシャが、自身を讃える天の声を耳にする場面に関係する音楽、ということです

 

冒頭はレスピーギかホルストか、という神秘的な弦。不協和音も挟みつつ、だんだん高まっていきます。そして頂上で明るく転換し、その後はめくるめく音楽!トランペットの見事なソロに、広上さん、弦のトレモロを強調!ゾクゾクする素晴らしい展開で、非常に聴き応えあり。最後は神の雷のようなティンパニの後、余韻を持たせて終わりました。
 

 

2曲目はコープランド。藝大のバーンスタイン特集のコンサートでも解説があったように、レニーはコープランドと非常に親しい間柄でした。そのコープランドは第1次世界大戦の後、フランスのナディア・ブーランジェに師事しました。初演もナディア・ブーランジェのオルガン独奏によって行われた曲です。

 

第1楽章はフランスのオルガン曲にあるような、悲しげな、諧謔的な印象の音楽です。第2楽章。オケがコープランド特有のアンドリュー・ワイエスの絵を思わせるような明るく寂しげな和声。息の長い金管も聴かれますが、これもコープランドならでは。フランス民謡から、と解説にありましたが、オルガンが印象的な旋律を奏でます。後には足による低音部で、重厚に出てきました。

 

第3楽章。解説にもあったようにショスタコーヴィチを思わせる不安な音楽が支配的。そして、実演で聴くと、ほとんど神を思わせるような強烈なオルガン!不安の渦巻く、対決の音楽、まるで最後の審判の場面のような印象です。私はそこに、終わったばかりの第一次世界大戦の暗い影を感じました。

 

そして最後の圧倒的なオルガン!最後の最後でごくごく短く解決の長調になるところが何とも言えないエンディング。答えはその後の人類に委ねられたかのような印象です。いや~、凄い演奏を聴きました!オルガンもオケも素晴らしい!
 

 

オルガンのアンコールはバッハ/コラール「目を覚ませと呼ぶ声が聞こえ」。厳しい響きのコープランドの後に、このチャーミングなバッハを聴くと、心の底からホッします。人間性を取り戻して、第1次世界大戦以前の世界に帰ってきた印象。素晴らしい組み合わせのアンコール!

 

私はコープランドの実演を聴いて、フランスのオルガン交響曲の伝統の上に書かれた曲、という印象を持ちましたが、バッハに造形が深いだけでなく、作曲もされる鈴木優人さんのこと。さらにこの曲にバッハとの繋がりや息吹を感じるのでしょう。「バッハは人生の良きパートナー」とバッハを音楽の基本としていた、初演のナディア・ブーランジェさんへの敬意もあったのかも知れません。素晴らしいバッハでした!

 

 

 

後半はアイヴズの交響曲2番。レニーが初演で振ったこともありますが、そもそもアメリカの作曲家の交響曲の中でも大好きな曲。古き良きアメリカ、おもちゃ箱のように楽しい曲です。久しぶりに実演を聴けるのは本当に嬉しい限り。

 

第1楽章。冒頭からしっとりした弦がいい感じ。ホルンの《コロンビア 大洋の宝》が始まると、アイヴズを聴く喜びを感じます。広上さんは第1主題が帰ってくる手前で変化をつけ、終わりはごく弱音にして雰囲気出していました。
 

第2楽章。冒頭の木管による、オクラホマ・ミキサーかカウボーイかという軽快な旋律が楽しい!第2主題はオーボエとフルートにより、たっぷりしんみりと奏でられて、とても雰囲気が出ていました。この辺り、めくるめく音楽が本当に素晴らしい。最後は大いに盛り上げた後に、軽やかに終わるのが何とも言えない味わい。

 

第3楽章。しっとりとした弦の旋律は、昨日聴いたばかりということもあり、どこかロメオとジュリエットを思わせます。チェロのソロがいい味出していました。アメリカの大農園の夕暮れ、という趣き。その後のアメリカの大渓谷に響くようなホルンの素晴らしい音色!大いに魅了されました。

 

第1楽章の主題が短く繰り返される第4楽章の後、第5楽章。明るく弾ける音楽に!きた~!これですよ、これ!さながらアメリカの懐かしい音楽の見本市のような、底抜けに明るくて楽しい展開!古き良きアメリカを大いに感じ、魅了されます。もろびと~、こぞ~り~て~♪

 

(参考)アイヴズ/交響曲第2番第5楽章

https://www.youtube.com/watch?v=jmdicqiOA_w (10分)

※NOVA filharmonijaの公式動画より。スロヴェニアの若手のオケの演奏。アメリカがお好きな方はぜひご覧ください!時間のない場合は9:00くらいから。最後ビックリすること請け合いです(笑)。

 

そして、ラスト1分くらいから、さらにヒートアップ!N響が明らかにギアを上げたのを感じます!そしてトドメは、ラストの大太鼓。広上さんの「イケ~!」の合図に、強烈なドンドンドンドンドン♪ 広上さん、あなたはラザレフさんですか?(笑) そして、最後はレニーと同じように、ちゃんと3秒くらい大不協和音で締めてくれました!広上さん、会心のアイヴズ!N響も素晴らしい!

 

 

さて、私のアイヴズの愛聴盤はレニーの1987年のニューヨーク・フィルとのライヴ演奏ですが、CDの解説にレニーのメッセージがあったので一部ご紹介します。

 

◯(アイヴズの交響曲が長く演奏されなかったのは)最も大きな理由としては、(指揮者も含めて)演奏家がアイヴズのメッセージを理解できなかったためである-それは非常に才能に恵まれた素朴な人間のメッセージなのである。

◯アイヴズが心の中で聴いていた音楽は、ドイツ音楽の伝統に沿う偉大な作品たち-バッハ、ベートーベン、ブラームス、ワーグナー-の組み合わせ、プラス、彼が生活の場で触れた田舎の音楽-讃美歌、民謡、愛国歌、行進曲、救世軍のバンドの音、カレッジ・ソングなど-だった。こういうものはすべて第2交響曲に見いだされよう-ベートーベンの第5から《ワラの中の七面鳥》のフィドリングに至るまで。

◯アイヴズはアメリカ的な雑多なものをヨーロッパのスープ鍋の中へ詰め込んだのであり、そこから全く新しい交響曲が醸造されたのである。しかも、ごたまぜのスープではなく、オリジナルでエクセントリック、ナイーヴで、レースに飾られたクリスマス・カードのように魅力たっぷりな本物の作品が生まれた。

◯アイヴズの第2番はいまなおアメリカ人によって書かれた最もビューティフルな交響曲のひとつだと見なす人が大勢いる。おそらく、それは、無関心で冷淡な世間にもかかわらずアメリカ音楽を書こうとして、アメリカ人であろうとするアイヴズの堅忍不抜の決意から生まれたものなのであろう。

 

 

私はアイヴズの2番の実演を聴くのは久しぶりでしたが、このレニーのメッセージだけ読み返して臨みました。N響の演奏を聴いてみると、アイヴズの音楽を極めて的確に捉えていて、さすがレニーだなと改めて感心したところです。

 

 

広上淳一さんと鈴木優人さんとN響のアメリカの作曲家のコンサート、素晴らしい演奏でした!今年はレニーの生誕100周年ということで、それにちなんだいろいろなコンサートを楽しんできましたが、思えばそのスタートは広上淳一さんとN響の1月のコンサート。2回も楽しませていただけて、広上さんには大いなる感謝の気持ちを持ちました。本当にありがとうございました!

 

(参考)2018.1.12 広上淳一/五嶋龍/N響のバーンスタイン&ショスタコーヴィチ

https://ameblo.jp/franz2013/entry-12344103814.html

 

 

 

 

(写真)アイヴズ/交響曲第2番の愛聴盤、レナード・バーンスタイン/ニューヨーク・フィルの新盤。何度聴いたか覚えてないくらいに大好きなCDです。

 

 

 

(追伸)広上淳一さんとN響の素晴らしいアイヴズを聴いて、お酒飲まない訳にはいかなくなってしまいました(笑)。ただし、今日は日曜ということで、自宅で軽く、テネシー州のジャック・ダニエルを。そして聴くは上記のレニーのアイヴズ2番。この組み合わせ、めっちゃ雰囲気出ていい感じ!