2018年が始まりました。今年はみなさまにとって、どんな年でしょうか?私はピアノ好きとしてドビュッシー没後100周年、オペラ好きとしてロッシーニ没後150周年も非常に大事ですが、今年は何と言ってもレナード・バーンスタイン生誕100周年です!その開幕を告げる広上淳一さんとN響のコンサートがあったので聴きに行きました。
NHK交響楽団第1876回定期演奏会Cpro.
(NHKホール)
指揮:広上 淳一
ヴァイオリン/五嶋 龍
- バーンスタイン生誕100年 -
バーンスタイン/スラヴァ!(政治的序曲)
バーンスタイン/セレナード(プラトンの『饗宴』による)
ショスタコーヴィチ/交響曲第5番ニ短調
レナード・バーンスタイン!大いなる憧れを持って口にしたいこの名前。最も好きな指揮者で、持っているCDもダントツで多いです。マーラーはもちろんのこと、ベートーベン、ブラームス、シューマン、シューベルト、モーツァルト、ハイドン、チャイコフスキー、シベリウス、ショスタコーヴィチ、アメリカの作曲家などなど、ほとんどがその曲の愛聴盤となっています。また、躍動感溢れる指揮姿の映像もすこぶる感動的!
そして作曲家としても凄い!代表作のウエスト・サイド・ストーリーやキャンディードはもちろんのこと、交響曲3曲、オペラ、バレエ、合唱曲など、名曲をいろいろ残しています。昨年は生誕100周年の記念のワールドツアーとして以下の公演もありました。
(参考)2017.7.15 ミュージカル/ウエスト・サイド・ストーリー(1回目)
https://ameblo.jp/franz2013/entry-12293132657.html
(参考)2017.7.23 ミュージカル/ウエスト・サイド・ストーリー(2回目)
https://ameblo.jp/franz2013/entry-12295878369.html
さらに実はピアニストとしても凄いんです!ガーシュウィンのラプソディ・イン・ブルーはレニーのスウィングしまくっている雰囲気たっぷりのピアノを聴いてしまったので、未だに実演でなかなか満足できません…。ウィーン・フィルがレニーの弾くモーツァルトやラヴェルのピアノ協奏曲にメロメロになったという逸話も、さもありなん、と思います。
指揮者、作曲家、ピアニストの3つの分野で超一流。この方の才能は一体どうなっているんでしょう?それなのに(それだから?、笑)、お酒に結構だらしなかったり(笑)、人間味に溢れる逸話には事欠かず、本当に魅力的なアーティストかつ人間。この世で最も尊敬する人物は、私の場合、レナード・バーンスタインなのです。
ということで、今年はレナード・バーンスタインの生誕100周年、大いに盛り上がって楽しみたいと思います!その開幕を告げる広上淳一さんとN響のコンサートを聴きに行きました。
1曲目はバーンスタイン/スラヴァ!盟友のチェリスト、ムスティスラフ・ロストロポーヴィチさんのワシントン・ナショナル交響楽団の音楽監督就任を祝って作られた曲です。この2人は本当に仲が良く、レニーの70歳記念コンサートにもロストロポーヴィチさんが客演してチェロを弾き、抱き合ってお祝いしていました。音楽はウエスト・サイド・ストーリーのクラプキー巡査のような賑やかでユーモアのある内容。複雑な和声やリズム、音声のテープやオケの掛け声も入った重層的な音楽に、ユーモアを交えた楽しい音楽はレニーの真骨頂です。4分と短い曲ですが、心の底から楽しめる演奏でした!
2曲目はバーンスタイン/セレナーデ。いわばレニーのヴァイオリン協奏曲の位置づけとなる曲です。レニーがプラトンの「饗宴」を再読し、賢人たちが愛の諸相について対話する内容から着想を得た曲です。ここ、さらっと読み流してしまいそうですが、プラトンの「饗宴」を「再読」ですよ「再読」!レニーは天性の才能で、まるで全く感性だけで指揮したり、作曲したりしているように思われていますが、読書も含め、超一流の知識人なのです。
冒頭の五嶋龍さんによるヴァイオリンの優しく真摯な旋律が心地良い第1楽章。ヴァイオリンが短いパッセージを刻んでいくのが印象的な第2楽章、急ぎ足の旋律に移行する第3楽章、最も情熱的で聴き応えのある第4楽章。第5楽章は打楽器的要素も強くなり、めくるめく展開。最後は五嶋龍さんの冴え渡るヴァイオリンに鐘の連呼、広上さんの指揮もピタピタッと決まり、盛り上がって終わりました!
この曲は五嶋龍さんのお姉さんの五嶋みどりさんが14歳の時にレニーと共演した際、弦を2回切りながらも、最後まで見事に弾き切った、いわゆるタングルウッドの奇蹟で有名です(アメリカの教科書にも載った伝説の演奏)。その五嶋みどりさんの弟の龍くんがバーンスタイン生誕100周年で同じ曲を弾くこの偶然と感動!その逸話も含め、非常に感慨深い演奏でした。
後半はショスタコーヴィチの革命。私にはこの選曲は広上さんのレニーへのオマージュにしか思えません。もちろん、バーンスタイン/ニューヨーク・フィルの名盤が残されているからです。
第1楽章。冒頭から緊迫感があり、ダイナミックレンジの広い演奏です。しばらく聴いていてハッと思ったのは、演奏が非常に馴染みのある、懐かしい感じがしたのです。途中のクライマックスの前の盛り上がりでたっぷり溜める感じなど既聴感が。そう、この演奏はバーンスタイン/ニューヨーク・フィルの演奏を彷彿とさせます。フルートがカルメンのハバネラの旋律を奏でますが、同じフルートが最後に亡霊のような何とも言えないフレーズを奏でるこの天国と地獄。
第2楽章。冒頭はザクザクした低弦の響き、ハッキリクッキリ音を刻みます。ユーモラスなフレーズも明快に強調して、とても聴き応えのある第2楽章。第3楽章は弱音の中でピーンと張り詰めた緊張感がたまらない。金縛りにあったようになり、息をするのも一苦労、という感じです。最後のチェレスタの寂しい音色はこれぞショスタコーヴィチ、という感じ。この傑作の第3楽章を3日間で書いたショスタコーヴィチ、どんだけ天才なのでしょう?それを見事に表現する広上さんとN響!
そして第4楽章。私、第3楽章まで聴いてきて、かなりの確信を持っていました。この演奏はレニーに敬意を表し、バーンスタイン/ニューヨーク・フィルの名演を再現しているのだ、と。もちろん、細かい部分の違いも見られますが、骨格は同じです。そのバーンスタイン/ニューヨーク・フィルの最も特徴的なのは第4楽章の冒頭を最初から走る点。広上/N響も、ロシアの指揮者のずっしりとした歩みでゆっくり始める冒頭ではなく、かなり速めに始めました。レニーほど速くなかったのは、本家への配慮か(笑)。でも、速めに入って、多段階で加速していく前半は本当に聴き応えがありました!
そして、いよいよラストのシーン。広上さんの革命、以前聴いた時は、最後の大太鼓の連打を最速で駆け抜けて会場を唖然とさせた怪演でした。ここを今日も駆け抜けるのか、それともレニーと同様に溜めるのか。注目しましたが、結果は、豪快に溜めて終わりました!やっぱり、今日の演奏はレニーに敬意を表した演奏なんだと思いました!
前半にバーンスタインの曲、後半はレニーの十八番の曲をレニーの名演を思い起こさせるような演奏!広上さん、どんだけレニーへの想いがあるのでしょうか?バーンスタイン生誕100周年の開幕を告げるコンサート、大いなる感動を持って聴かせていただきました!
ほぼ満員の会場も非常に盛り上がっていましたね。帰りに女子高生のグループとすれ違いましたが、みな興奮してキラキラとした笑顔で演奏を語っていたのが印象的でした。今年はレニーの曲の実演を聴く機会がめじろ押し。たっぷり楽しんで行こうと思います!
(写真)ウィーンでも愛されたバーンスタイン。ウィーンのコンツェルトハウスに掲げられたプレート。