藝大フィルのオール・ルトスワフスキ・プログラムのコンサートを聴きに行きました。
藝大フィルハーモニア管弦楽団 創造の杜
(東京藝術大学奏楽堂)
指揮:ジョルト・ナジ
ソプラノ:浜田理恵
ルトスワフスキ/弦楽合奏のための「葬送音楽」(1958)
ルトスワフスキ/ソプラノと管弦楽のための「歌の花と歌物語」(1990)
ルトスワフスキ/交響曲第3番(1983)
このコンサートは全てルトスワフスキで固めた粋なプログラム。藝大が「創造の杜」というタイトルで、現代音楽に焦点を当てて催したコンサートです。
私は普段、現代音楽のコンサートにはほぼ行っていません。現代音楽は20代の頃に集中して聴いたので、苦手意識はありませんが、こういうコンセプトの音楽もあるんだ、こんな音が出せるんだ、などなど、新しい、楽しい、という感想は持ちますが、聴き込みが足りないのかも知れませんが、感動にまで至るケースが少ないからです。もういい歳なので、現代音楽は若い方々にお任せしましょう(笑)。
ただ、今回はルトスワフスキのコンサート。ヴィトルト・ルトスワフスキ(1913-1994)はポーランドの現代音楽の作曲家。以前にスタニスラフ・スクロヴァチェフスキ/N響でルトスワフスキ/管弦楽のための協奏曲を聴いて、ファンになった作曲家です。おりしも今年はポーランド独立回復100周年。大変楽しみです。
開演前に東京藝術大学音楽学部楽理科教授の福中冬子さんからプレトークがありました。プログラムのルトスワフスキの紹介では、「特定の音程を細胞(セル)として和音を生成し、そこから横の線をも紡ぎ出す『構築主義』的な創作姿勢と同居する、机上の音響に留まることのない情動的な音世界は、生涯を通じ、ルトスワフスキの作品をそれたらしめてきました。」とあります。
これだけだと、なかなかイメージが掴めないかも知れませんが、プレトークで実際に音を流しての非常に分かりやすい説明を聞くと、ルトスワフスキの作品にはどのような特徴があるのかを具体的にイメージすることができ、非常に参考になりました。特に、福中冬子さんが、ルトスワフスキの音楽が現代音楽でありながら、感情に直接訴えるのは、シマノフスキの影響と見ている、とおっしゃっていたのが印象的でした。
1曲目は弦楽合奏のための「葬送音楽」。バルトークの没後10年のために書かれた曲です。冒頭、12音音列(F-B-B♭-E-E♭-A-A♭-D-D♭-G-G♭-C)を基調とする音楽が弦により奏でられていきます。旋律を短く切ったり、ピツィカートとなる音楽、速い調子となる音楽を経て、たっぷり盛り上がる音楽を迎えます。ピントが合うように、バラバラの音が一つに収束して冒頭の音列が朗々と流される場面が感動的!頂点を迎えた後、しだいに弱くなって、最後はチェロが静かに引き取りました。
(参考)ルトスワフスキ/葬送音楽。今日の3曲の中では、この曲が一番聴き易いと思います。
https://www.youtube.com/watch?v=RomgJ0lbsQc (16分)
※12 emsembleの公式動画より
2曲目はソプラノと管弦楽のための「歌の花と歌物語」。晩年の作品で、「あたかも創作人生の終焉に向けて不要なものをひとつひとつ削り取っていった」と解説にあるように、比較的シンプルな響きの音楽です。
1曲目オシロイバナはバルトーク/弦チェレ第1楽章で、最後の方の音が小さくなる場面をチェレスタなしで演奏したかのよう。2曲目キリギリスはソプラノの飛び跳ねる歌が印象的。3曲目ヴェロニカはグリッサンドになりそうでならない弦が雰囲気を作ります。
4曲目「野バラ、サンザシ、フジ」はとても勢いのある音楽。「赤、赤、赤、白」「動け、動け、動け、バシッ!」の歌詞はフランス語だと、
Rouge, rouge, rouge, et blanc.
Bouge, Bouge, Bouge et vlan !
と韻を踏んでいて面白い。
5曲目カメは以下のセリフが。
わたしはカメよ ザトウクジラなんかじゃない
わたしはカメよ 金持ちなんかじゃない
わたしはカメよ がっかりなんかしていない
これ、何のことか、さっぱり分からないですよね?ところが、フランス語だと、
Je suis tortue et non bossue.
Je suis tortue et non cossue.
Je suis tortue et non déçue.
と言葉遊びをしているのが分かります。この曲の詩はフランス・シュールレアリスムの詩人ロベール・デスノスによるもの。シュールレアリスムと聞いたので、もっと摩訶不思議なのかなと思ったところ、かなり大人しかったですが、ところどころ、言葉遊びが出てきます。
6曲目バラはたっぷりの後奏が意味深。7曲目ワニは、通りかかった人間の子供を食べることができなかったとワニが悔やむ歌を歌いますが、その歌の前が弦がグリッサンドで次々落ちていく音楽なので、これも非常に意味深です。8曲目アンゼリカは落ち着いた感じの優しい曲。
ラスト9曲目は蝶々。冒頭にいろいろな楽器がまばゆいばかりのトレモロ!いやこれ確かに歌詞にあるように3億もの蝶々が町に群がっているかのような印象です。シャティヨン町とブイヨンの洒落も楽しい。浜田理恵さんの素敵な歌、素晴らしい演奏でした!
後半は交響曲第3番。冒頭、ダダダダ!という打楽器による入り。フルート、ホルンがつないで印象的。その後は弦のグリッサンドを中心とした不安げな音楽が続きます。木管が次々と下降していく、とても印象的な音楽。弦のピツィカートの音楽。そして、鐘が打ち鳴らされ、動的な音楽に変わります。
スクリャービン/法悦の詩のラストシーンのようなグロッケンシュピールのきらめき、メシアン/アッシジの聖フランチェスコの第6景「鳥たちへの説教」で聖フランチェスコが鳥たちにお十字を与える時のような弦の重々しい上昇など、印象的な音楽の出現にハッとさせられます。
最後はホルンの旋律から、舞台横一杯に広がった打楽器群が一段ずつ上昇していく感動的なシーン!冒頭と同じダダダダ!を今度は弦が奏でてズバッと終わりました。
(追伸)素晴らしかった藝大フィル。実はずっと気になっていたことがありました。昨年10月に藝大フィルの素晴らしいコダーイ(ガラーンタ舞曲/ハーリ・ヤーノシュ)を堪能したのですが、その後にN響のコンサートが入っていたので、泣く泣く後半のストラヴィンスキー/火の鳥をパスして、途中で抜けたのでした…。
もともとN響のチケットを取っていたので、コダーイだけでも聴くか、コンサート自体を全く諦めるかの2択だったので、どうしてもコダーイを聴きたく、致し方ない選択でしたが、コンサートを途中で抜けたのは生まれて初めてだったので、かなり心苦しさを感じていました…。その時のブログにも、「今後、何らかの形で取り返します。」と書いています。
チラシでこのコンサートを発見した時は、罪滅ぼしのチャンス到来!と、色めき立ちました!この日、素晴らしいルトスワフスキのコンサートを聴きに来れて、それを記事にできて、少しお返しをできたような気がして、ホッとしました。ぜひまた聴きに行きますね!
(参考)2017.10.14 ティハニ・ラースロー/サボー(ツィムバロム)/藝大フィルのコダーイ